Mercenary Imperial Japan   作:丸亀導師

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日独英首脳会談

1996年8月また暑い日がやって来た、今年はなんと〔あーちゃん〕が泊まりに来ている。

目的は勿論海で泳ぐ事だというが、ウラジオストクだってそんなに海が温かいというわけでもなく、正直寒いのではないだろうか?

 

ま、そんなに頻繁に行くわけでもないし夏休みは2週間しか無いから、直ぐに行かなくなるし今は楽しんでいれば良いか。

 

「次のニュースです。昨日行われました連盟首脳会談は、無事終了し宇宙開発に対する合同出資条約の更新が行われました。

また、今回の出資額は英3 日3 欧3 南米2 中米1.5 となりました。また、今回の会議からスペインの欧州連合加盟に伴い、欧州連合の出資額の増額が決定されました。」

 

少しずつ世界は統一へと向かっていっている、表向きな協力関係として2000年までに月面着陸を行うこと。

そして、月面基地の建設を2010年代の目標とすること、既に中継基地の建設は終了し月着陸船を載せた機体を基地へと横付けするだけだ。

 

『おはようあーちゃん。今日も海に行くの?』

 

『勿論!あ、連盟会談?ほほぉ〜これはこれは、これでまた戦争から一歩遠ざかりましたねぇ。金を別の方向に振り向けてるって事は、自覚があるんだろうなぁ。』

 

この子は今もこんな感じなのか、安心した分少し心配でもある。

 

『そう言えば、ここで問題です。世界的出始めてラジオによる公共放送の場で公開された会談は、何時どこでどの国が行ったでしょうか。』

 

『そんなの、専行してるから簡単よ。1935年3月27日、ドイツ首都ベルリンで開かれたラジオ放送、独英日首脳会談よ。』

 

パチパチと拍手が聞こえてくる。

 

『正解正解!流石だねぇ、じゃあこんな裏話があるのも知ってる?』

 

裏話?なんの事だろうか?

 

『この首脳会談は実際は囮で、本当は軍人同士の交換が真の目的だった。て言う話、まだ仮設の段階で確証のある証拠は出て来てないけど、あり得ない話じゃない。』

 

解読を急がなくちゃな、もしかするとその事が書かれているかもしれない。

 

 

 

 

1935年3月27日20時

 

執務室のラジオから音声が聞こえてくる、その話し声は専らドイツ語で大概のものはその意味すら知らないだろうが、私は嘗ての大戦でこの言葉を覚える機会があったから、こうして聞くことができる。

 

始まった内容は、これからの国際関係や人種問題。

例えば民族自決主義、例えば日英の介入主義に対する国外から見た様子等、似たような考えを持った国だけでは解らない、そんな問題点をツラツラと上げていくのが、ドイツ首相アドルフ・ヒトラー。

 

彼の話の中には建物や絵画等に例えて物を語る、そんな事を行うと意外な事にわかりやすいのか民衆には広くその言葉が浸透する。

短くより、簡単に人への宣伝とはそうやって行われるのだろう。

 

ヒトラー及びチェンバレン彼等は民主的に選ばれたのだが、一方で我々の代表たる人物、近衛公。彼は天皇からの任命と貴族院からの選定によって生まれた。つまりは、選挙による民主的な首相ではない。直接的でもなければ間接的でもなく、天皇によるトップダウン方式だ。

失敗すれば天皇に間接的にダメージを負うのだが、それでも彼を首相にするには理由があった。

 

正直優柔不断な所が散見される彼だが、こと聞き手に回った場合において右に出るものはいないと、我々の間では評されていた。

そんな彼が、我々の国の成り立ちや国民性からそのような事があり得ていると言い、我々に民主主義は少し早いとする見解を言った。

 

そんな放送が流れている私の机の目の前には、一人の士官が直立不動の姿勢でおり休めしている。

その格好は私達の国にはあまりにも不釣り合いなほど、でありその服装は、あの戦列歩兵を連想するほどに格好の良い物だ。我々の帯青茶褐色の服とは違う、非常にスタイリッシュである反面その特徴的な灰色は少し、戦場では難がありそうに見えるが。

 

「ヴァルター・ヴェンク少佐、で良いのかな?ようこそ日本帝国陸軍へ、交換士官に自ら進んで立候補したそうだがどういう心境でそれを選んだのかね?」

 

「現在祖国の国防体制は極めて貧弱であります。それを改善したく、小官は立候補いたしました。また、ここからは個人的な話となりますが、小官は生駒閣下の先の大戦でのご活躍を知り手本としたく。かのマズリー湖の戦いにおいて貴方は、一個大隊で一個連隊を蹂躙するという離れ技をなさった。それによって祖国の勝利は遠退いた、そんな貴方から様々な事を学びたいのです。」

 

昔話だな、そんな物を話し出す彼の瞳には英雄というものを前にした子供のような目をしている。

彼は私が二十五歳の頃に産まれた、年齢を言えば長男と同じ位の年齢だろうか?

 

「そんな昔の教訓は既に様々な国で取り入れられている筈だ、私でなくとも今では誰もが可能だろう。それにだ、私が君に教えられる事はそんなに多くはない、その殆どを君は既に知っているのではないか?」

 

「だとしても、あの時あの場所であのような判断が取れる人間はそうはいない。私では崩れていたでしょう。」

 

そんな事を言う彼は、私の後を付いていくようになる。基本的に平時の将校はデスクワークが仕事となる。運動不足にならぬように自分なりに管理をするのが、前線で戦ってきたものの努めだと私は考えているが、軍政に携わる者には太り気味の者もいる。

 

基本的に週に一度下士官に混ざって訓練を受けているのだが、如何せん歳のようで最近では衰えを隠しきれない。

それでも、招き入れた客人の前で無様な姿を晒したくは無いのだから、張り切ってしまう。

 

首脳会談のあの日から数ヶ月が経ち、彼もすっかりとこの国になれていた頃、内閣の方から一つの文が届く。

機密事項の一分を協力国のものへの開示、と言う内容だ。最も、最近の兵器開発に関する部分でも、一時の内に盗めぬ物ののみというものではあったが。

 

私は、この時には彼の事を高く評価していた、何をやるにも一生懸命で色々なものを貪欲なまでに学ぼうとするその姿勢。

ただ、机上演習はお世辞にも良くは無く侵攻戦に関して言えば及第点と言ったところだ。逆に防御に周れば非常に強固で柔軟性のある対応であるから、適正と言えよう。逆襲側と言った所か?

 

そんな彼に開発中の新型戦車のお披露目をしてやろうと思ったのは、当たり前の事だったのかもしれない。

 

 

『これから行く場所だが、いつも君を連れていけなかった場所になる。くれぐれも内密に頼むぞ、これくらいなら私の裁量で片付けられるからな。』

 

『有難ウゴザイマス。戦車開発ノ現場ヲ見ラレルノ、嬉シクオモイマス。祖国デモ最近ニナリ、ヤットマトモに造レルヨウニナッタノデスガ、イロイロト問題がアリマスノデ参考ニサセテイタダキマス。』

 

今や電化が進みつつある東海道線を電車で御殿場へと向かう。スーツを着て移動するのは、一応の隠蔽の為だが背の高いオトコ二人が並んで歩む姿は、実に目立つものだったろう。

時折流れる景色には土を高く積み、形作られ始めていた新幹線が見える。

 

それを抜け、到着したるは実験場である。

ちょうどそこには95式と試作車両が並んでいた、どうやら走行試験を行っていたらしい。

 

『皆作業ご苦労、最近はあまりこちらに顔を出せなくて済まないね。』

 

『いえ、少将こそ良くこちらへ。そちらの方は?』

 

ヴェンクが前へ出る。

 

『彼はヴァルター・ヴェンク少佐。わざわざドイツからこちらへ交換士官として、こちらへ学びに来たのだ。

それで、試作車両はかなり進んでいるようだがどんな感じだね?』

 

『そうですね今日の走行試験は終わりですので、データをお見せします。』

 

事務所へと向かい統計標を出して説明を始めた。

最新の対戦車砲である57㍉口径砲の限界と今後の進歩方向を、統計から導き出された数値には実に魅力のあるものが出されていた。

 

『やはりか』

 

『数年前に出した貴方の予想通りです。やはり最低でも75㍉口径の野砲と同程度でなければ、今後戦車は急速な進歩が予想されるのです。』

 

そして、2つの装甲の数値もあった。

 

『車体の装甲はやはり圧延鋼板の方が良いんだな、鋳造ではそれ程までに金属剥離が起きるのか。』  

 

『そうですね、多少量産性は落ちますが車体はやはりそちらの方が、何より複雑な形であればある程鋳造は強度が落ちます。使えるとすれば、砲塔部位かと。』

 

試作車両

 

 

【挿絵表示】

 

 

『そうか、ありがとう。予算はこちらでなんとかしよう、引き続き開発に専念してくれ。必要なデータや機材も揃えよう。

 

さて、時間を取らせて済まないね資料庫に入っても良いかな?彼に渡しすものがその中にある、くれぐれも民間の方には流さないでくれよ?』

 

『了解しました。』

 

 

話の流れとしてはこんなものだろうか?首脳会談の裏には私の行ったような出来事が、各省庁で散見されるであろう。

もっとも、上手く隠蔽しているだろうが…この時には既に戦争が始まることは想定されていた。いつ起こるのか、正確には解っていなかったが、近い内には必ず起こると想定されていた。

だから、このような事を見つけられても我々には痛手にはならない。

 




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