ワートリの世界で天翼種   作:ふわりと漂う猫の香り

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2話目

N月t日

 

 出発から一週間が経過した。なんでも次の近界に辿り着くのは後二週間はかかるらしく、俺はずっと暇な時間を過ごしていた。

 

 ここ一週間の日記も、初日こそは日本の食事とゲームや漫画等の娯楽に対する熱意や気持ちだけで1ページ潰せたものの、それからはずっと『今日は何もありませんでした』で埋め尽くされている。

 

 俺、よく考えれば食事も睡眠も風呂もトイレも必要ないんだよな。何もすることがなくて当然だ。

 

 加えて少女も、最初は喜んでいたものの、少し経ったら警戒心を思い出したのか、今では壁を作っている。こちらを様子見することはあれど深入りはしてこないようだ。会話しようにも怯える子猫みたいな少女では会話する気も起きないので船の中には静寂しか残っていない。

 

 暇すぎてしょうがないので、今ではトリオンで生み出したトランプでタワーを建てては壊してを繰り返している。なんか壊す度に心の中に澱んだ闇が立ち込めてくる気がするが、もしかしなくてもコレって拷問でよくある穴を掘って埋めさせてを繰り返させる奴と同じ感じなのではないだろうか。しかもこの身体非常に器用なので、特に何の苦労もなく、すっすっす、とトランプタワーを建てては壊すの繰り返し。こんなんじゃ頭おかしくなっちゃうよ。

 

 

 

N月y日

 

 今日はジェンガを建てて過ごした。

 

 

 

N月u日

 

 もぅまぢ無理。耐えられない。

 

 そもそもこの船何もなさすぎ。作戦会議室、トリオン兵保管場所、保存食量保管場所、寝室の四つしか部屋がないってどういう事やねん。他はトイレと廊下しかない。マジ無理ぽ。こんなの耐えられない。

 

 少女が何をしているのかのぞき見してみたら、次の近界への航路の算出や自分のトリガーの点検をして過ごしているらしい。携帯トリガー調整器を持ってきているらしく、ソレに繋ぎながら、たまに背中から機械の腕を生やしたり、かと思えば頭と尻から犬の耳としっぽを生やしたりと面白生物と化していた。

 

 ずるい…ですよね。一人だけやることがあるのって。という訳でついに切れた俺はこの船の大改造ビフォーアフターを始めることにした。殺風景なのはもう嫌じゃ。ユートピアを目指してやってやるぞい頑張るぞい。

 

 資材はトリオンさえあれば十分だ。まず無用の長物である作戦会議室やトリオン兵保管場所をまっ平にして空間を広げた。トリオンは空間に作用する使い方もある為、俺の機能さえあれば簡単に広げることが可能だ。

 

 後は部屋の中の間取りや家具をどう配置するかという問題が残るのみ。とりあえず人が過ごしやすい場所を目指すつもりだ。あの少女は日本人とか名乗っていたので、とりあえず和風建築で言いだろう。そういう訳で二階建てで床は畳、縁側(外は映像で青空とか宇宙に代わる)も作って襖も作ってこたつを設置。床の間には雅な掛け軸と壷と生け花を用意し風情ある感じに。二階には寝室と図書室も作り出し、記憶にある蔵書をありったけ中に詰め込んでおいた。

 

 トリオン兵保管室は、入っていたトリオン兵を俺の異次元ポケットにぽいぽいと放り込んで巨大な風呂へと変えてみた。源泉かけ流しの和風風呂である。サウナとマッサージルームもあるよ。

 

 さらに食料保管場所はキッチンに大改造。IHヒーターを使った最先端キッチンを目指してみた。冷蔵庫や食器、食洗器も完備。試しに保存食を使って料理を作ってみると確かにおいしいのができた。

 

 完成した部屋を早速少女に使ってもらおうと呼び出してみると、少女は目を丸くしていた。驚いたり作った料理をおいしそうに食べたりしていたけど、最後には訝しげな眼でこちらを見てきたのは一体何なのだろうか。

 

 それにしても自分の作ったものが人の役に立つところを見ると、脳汁が出るくらい気持ちがいい。お風呂に浸かってとてもうれしそうにしている少女を見ていると、はあ、はあ…と何故か息が荒くなる。

 

 これは明らかに異常だ。一体俺はどうしてしまったのだろうか…。

 

 …まあいっか(脳死)。悪い事じゃないしネ! 俺も一緒にお風呂入ろう。

 

 

 

N月I日

 

 

 昨日から少女に話しかけられる機会が増えた。

 

 少女の名前は一ノ瀬いずなというらしい。なんかどっかで聞いたことあるような気がしないでもないけど、とりあえず名前を教えてくれたのは嬉しい。一歩前進と言ったところか。

 

 彼女は日本は三門市に住んでいたらしいが、小学5年生の時にトリオン兵に誘拐されアヴァントヘイムに連れてこられたらしい。幸いにもトリオン量が多少多かったいずなは、戦争奴隷として扱われることになった。今も小学生並みの体躯だが、それもその時させられた戦闘に特化した身体にする為の人体手術を受けさせられた所為なんだと。こういう話ばかりだなあの国。

 

 苦労したんだろうなと思って肩を揉んであげると、手を叩かれた。いやん。

 

 ちなみに俺のことも聞かれたけど、俺は件のプログラムの所為で人に嘘は付けない様になっている。もちろんアヴァントヘイムの人間以外に尋ねられれば嘘を吐く事はできるのだが、いずなは一応アヴァントヘイムの兵士だ。嘘は付けないのである。

 

 何故生まれてきたのかとか、どういうことができるのかとか、何故日本を目指しているのかとかをほいほいと答えていると、転生の事を話した時点で物凄く怪訝な目でこちらを見てきた。こっちは正直に話してるのにどうしてそんな目で見る必要があるんですか?

 

 ちなみに今日は謎の生物のミートパスタを作ってみた。いずなはトリオン体のまま食事をしていた。どうやらそっちの方が栄養が効率よく摂れてエコなんだと。

 

 俺?俺は味は分かるけど腹が満たされる感覚がない為、一口食べられれば満足だ。俺も又エコなのである。

 

 

 

N月w日。

 

 ゲームをトリオンで作り出していると、いずなが物凄い勢いで食いついて来たので一緒にやることに。というか今日は日がな一日ゲームしてた気がする。インドアでゲームが好きだったらしいので、いずなは目を輝かせていた。

 

 喜んでくれたなら作った甲斐もあったというものだ。こちらも何故かいずなが喜ぶとはあはあできる為ウィンウィンな状況である。ゲームに疲れて休憩しているタイミングなら肩も揉ませてくれるし、いいことづくめだな!

 

 ちなみに、どうやら明日か明後日には次の近界に着くらしい。通信もできたらしく、入国審査も通過したのだという。なんでも近くの近界の近況や情報は価値があるらしく、それを渡すことを言うとすんなりと入国許可が下りたのだと。

 

 という訳で近いうちに新しい世界へゴーだ。どこを観光する?って聞いたら物凄い冷めた目で見られた。ち、畜生…だが我々の業界ではご褒美です。とりあえず映像は永久保存しておきました、まる。




・ビースト
 奴隷用トリガー。他のトリガーと併用可能。動物の耳としっぽが生え、トリオン体の身体能力と聴覚の能力が大きく向上する。更には奥の手でトリオンを消費し続けて身体能力をさらに爆発的に上げる血壊と呼ばれる能力も備える。
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