今日から僕は夜雀(偽物)です   作:清水岩マミズオ

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霊夢紅霧五里ム中

 

 

 

 

 

 太陽が沈み、妖怪の活動時間がやってきた。この時間帯は配信業のゴールデンタイム……書き入れ時である。

 配信開始まで後一分。待機人数は過去最高の数値を記録しており、リスナーたちの期待値が、かなり高まっているのを感じる。

 カメラOK、マイクOK、体調もバッチリOKだ。準備は万端と瞬時に判断。今日も順次に開始する算段。

 時計の長針が真上を指すと同時に、私は配信を開始する。

 

 

「はい皆さんこんTNTN~。早速顔出し配信始めるよ。本日の内容は──」

 

『!?』

『!!!!????』

『こんTN……待て待て待て待て』

『ファッ!? 美少女!?』

『えぇ……かわヨ(困惑)』

『雑ゥ!!!』

 

 思ったよりもコメ欄が騒がしくなってしまった。それを見て私は、喋るのを思わず止めてしまった。

 

「あら、どうしたの?」

 

『なんでもう顔出してるの……?』

『もっとこう……タメとか……』

『唐突すぎてテンションの上げ方がわからん……』

『全てにおいて雑なんじゃ!!!』

 

「えー、顔出し配信するって呟いてたじゃん」

 

『エンタメを分かってない……』

『焦らしが足りない』

『もっと引っ張れ!!』

『古参からしたらビッグイベントやぞ』

『配信の中盤まで引っ張っても良かったやろ……』

 

「まだ数える程しか配信してないんだから、古参もなにもないと思うんだけど……。だから大層に引っ張る価値は無いでしょ」

 

『そりゃそうなんやけど……』

『急速に人増えてるし、初期勢は古参でええやろ』

『ワイは立派な古参やで。初配信から2、3年くらいは経ってるやろ?』

『↑まだ1ヶ月経ってないやろ……』

『↑それは触れたらアカン……』

『その顔面は引っ張る価値があった(確信)』

 

「……んー、まあそう言うなら……ちょっと待ってて……」

 

 良い考えを思い付いた私は、あるものを探しに離席することにした。

 

───ガサゴソ……たしかこの辺にあったよなぁ……

 

『お……?』

『なんやなんや?』

 

 準備が出来たので配信に再び姿を露す。

 

「みんなーこんばんTNTNー! 今日は顔出し配信するよー」

 

 私は頭に視界確保用の穴を開けた紙袋を被り、改めて挨拶をした。ちなみに紙袋には大きく罪と書いてある。

 

『いやいやいやいや』

『無理がある』

『アホかwww』

『草』

『リカバリー出来てねぇwww』

『絶望くんかな?』

『変則罪袋で草生えるわw』

 

 まぁこれから配信を見始める人もいるだろうし、そちらには効果があるだろう。多分。

 

「と い う こ と で ! なんと今回は、東方紅魔郷をやろうと思いまーす。いえーい」

 

『強引で草』

『近年まれに見るパワープレイやで』

『紙袋はつけたままなのか……(困惑)』

『残念美人の極みやで』

『原作プレイか、許諾取れたんか?』

 

「はい、という訳で今回は収益化してません。許諾を取ってないのでプレーンな気持ちでプレイしまーす」

 

『そ、そんな!? 投げ銭が出来ない……だと……?』

『貢がせろー!』

『せっかく収益化したのに、そんなにもやしが好きなのか?』

『今日の為に俺はもやし生活して金を貯めたのに……!』

『↑肩代わりしようとすな。呪符かよ』

『↑呪符ニキはもっと自分を労って……』

『↑呪符ニキは草』

 

「投げ銭は生活に支障がでない程度にしてね」

 

 そう言いながら私はゲームを起動する。

 

『紅魔郷はプレイしたことあるんか?』

 

「うん。永夜抄までの三部作はちゃんとクリアまでやってるよ」

 

『はえーすっごい』

『どうせイージーでしょ』

『↑イージーだとラスボスまで行けないんだよなぁ……』

『じゃあノーマルでしょ』

『↑ノーマルでも結構難しいんやで』

 

「キャラは霊夢でいっか。難易度は……ルナティックで」

 

『ルナティック!?』

『その先は地獄や』

『無理すんな』

 

 私はそんなコメントを尻目に、早速プレイを開始した。

 

「いくぞー」

 

『デッデッデデデデ』

『カーン! が入ってない-8901016点』

『まぁほどほどにがんばれー』

 

 

 紅霧異変……紅い霧が幻想郷中を覆った。楽園の素敵な巫女……博麗霊夢は、異変調査へと乗り出す。ゲームスタートだ。

 やはりルナティックだけあって、序盤から妖精たちの猛攻が降りかかる。私はそれをコメントを読みつつ避ける。

 

「~♪」

 

 ああ、やはり東方の曲は良い。一面道中からすでに神曲だ。私は曲に合わせて、アドリブで歌を歌い始める。

 そして一面ボス……ルーミアまで来た。

 

『うわ上手え……歌も避けるのも……』

『やっぱりミスティアの歌はいいわね』

『まさかのルナシューターとは予想外』

『紙袋で見えづらい中ようやるわ……』

『すみません。投げ銭はどこで投げれるんですか?』

『↑それは分かりませんが……なぜか皆さんあちらの枠に向かわれますよ』

『↑三店方式すな』

 

「ゲーム後の枠を取るつもりはないよ。不誠実なことはしないからね」

 

 ルーミアのスペルカードを避けながら、コメントを返す。

 みすちーになる前の私なら、きっとこんな事は出来なかっただろう。

 昔の私でも、ルナティックをクリアする事は出来た。しかし、何回もチャレンジしてギリギリクリア出来る程度の腕前だったのだ。

 久しぶりに起動する為、この配信の前に動作確認がてら一面だけプレイしてみたのだ。そうすると、明らかに昔よりも上手くなっていたのだ。

 妖怪ボディだからなのか、弾幕シューティング出身キャラだからなのか……まあ、どちらにせよ、みすちーになったことの恩恵はこんなところにもあった……ということだ。

 

『コメント読みながらやってんの!?』

『えぇ……紙袋被りながら歌ってコメ返ししてんの……?』

『バケモノかな?』

 

 コメントが加速する。私はほどほどにコメ返しをしつつステージを進めていった。霧の中を駆け抜けて、紅い屋敷の中へと進む。次々に曲が変わり、私もそれに合わせて歌を変える。

 私は東方の曲が好きだ。どことなく不安感を感じさせる雰囲気の中、特徴的なメロディーが楽曲を際立たせる。聞いていて爽快感を感じる旋律は、私の気持ちを高揚させる。

 最近の東方は追えてなかったのだが、このゲームをしていると再び熱が高まってきた。後から曲だけでも、新しいものを聞いてみよう。

 

 ……なんて事を考えていると、すぐに紅霧異変の首謀者……レミリア・スカーレットとの戦いだ。

 

「~♪ ッ! やっぱりノーボムはキツかったか……」

 

 レミリアのスペルカードで凡ミスをしてしまい、弾幕に当たりそうになってしまった。私はそこで初めてのボムを使用する。

 

 しかしなんとかノーミスで乗りきることが出来た。

 

 スコアボードを見て、一息吐く。最高記録を出せたことに満足しながら画面を隠す。

 

「エンディングは規約があるんでここまでです」

 

『おめでとー!!』

『888888888』

『ナイスぅ!!!』

『いにしえの文化ね』

 

「フー、久しぶりだから、なんとかクリアできて良かったよ」

 

『まさか本当にクリアするとは』

『あまりにも上手すぎる』

『随分と腕を上げたわね』

『上質なコスプレにこのプレイの腕前……主は相当な東方オタクと見た』

 

「私はにわかだよ。東方は嗜む程度しか知らないし」

 

『ルナシューターがなにか言ってらぁ』

『最高難易度ノーミスクリア出切るのは東方ファンでも上澄みやぞ……』

 

「本当の事だよ。私は原作を三作しかやったことがないし、輝針城以降はどんな作品が出てるのかも知らないんだ」

 

 私の東方知識は輝針城までしかない。小学生高学年から高校始め辺りまで、その期間が私が東方を楽しんでいた全盛期だ。それ以降は忙しくなって、東方から疎遠になってしまっていた。精々有名どころの曲を少し聞くくらいで、本当に嗜む程度でしかなかった。

 

『そこらのファンよりファンしてるよ』

『貴方ほど東方に夢中になってる人はなかなかいないわよ』

 

「はは、ありがとね。ま、と言うことで、今回の顔出し配信はどうだった?」

 

『どこが顔出し配信じゃ!』 

『いつまで紙袋被っとんねん』

『顔出してたの最初だけじゃん』

『お前の顔は紙袋か!』

『途中から見てたんだけどなんで紙袋なん?』

『もう一回顔見せろー!』

『これは罪だわ』

『エクストラ行って顔をだせー!』

 

「おー、ちょっと引っ張りすぎたか?」

 

 私は紙袋に手を掛け、一気に破り捨てた。

 

「どーよ。美少女だよー」

 

『わぁ! 美少女だぁ!』

『あらまあ美人さん』

『初見です。チャンネル登録しました』

『うーんこれは無罪』

『は? 可愛すぎるんだが? 反省しろ!』

『そんな事で許せるか! 許す!!』

 

 やっぱり顔が良いってお得だね。

 みんな手のひらグルグルギガドリルブレイク状態だ。

 

「しょうがないからエクストラステージいくぞー」

 

『おおおおお!!』

『待ってましたー!』

『キタ─(゚∀゚)─!!!』

『楽しそうで何よりだわ』

 

 

 

 

 

 

 

 ♪♪♪ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エクストラはルナティックよりもいくらか優しめだ。だが妹様の弾幕はそれでも激しく私を攻め立てた。

 私はノーミスではあったものの、またもやボムを使ってしまった。……本当はノーミスノーボムフルスペカを狙っていたのだが、やはりそう簡単には行かなかったようだ。

 何はともあれ、今回の配信も大成功。顔を露にした効果が着実に出てるようで、登録者数はうなぎ登りだ。改めて、二次元美少女の顔面の破壊力を思い知らされる。

 

 今回、東方原作をプレイするというのは、直前に思い付いたことだ。

 顔出しというネタもあるのだし、普通に歌配信をするだけでもいいと思っていた。……そもそも収益化したのだからそっちの方が正解だったんだけど。

 それでも私は東方をやりたいと思った。なぜかと言うと、今日、私はずっと、東方が頭にちらついていたのだ。何故だか分からないが、モヤモヤしたものが頭に残っていて仕方なかった。ずっと霧の中をさまよっているような焦燥感に駆られていたのだ。……日向ぼっこで紛らわせようとしたが、それが何故か逆効果だった。

 

 

 私が東方を知ったキッカケはなんだったか。

 

 原作をプレイしたキッカケはなんだったか。

 

 まるで頭の中で霧がかかったかのように、思い出そうとしても全くもってダメなのだ。

 これだけプレイしている筈なのに、いつから原作のディスクを持っているのかすら分からない。

 ……私は気持ちを晴らすため、配信で紅魔郷をプレイする事にしたのだ。……お陰で少しは収まったようだ。

 

 今日は体調がいい筈なのに、言い知れない焦燥感に振り回された一日だったな。

 

 ……配信が終わって気が抜けたのか、なんだかとても眠くなってしまった。

 

 

 ──身体の動きが鈍くなる──

 

 

 こんな早い時間帯に眠くなるなんて珍しい。

 

 

 ──瞼が重くなる──

 

 

 ……あ、ダメだ、もうオチる。せめて一日の締めに……ダ……ジャレ……だけで……も───

 

 

 ──意識が暗闇に溶けていった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♪♪♪ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ねぇ、貴方は東方って知ってるかしら?』

 

 

 そういってお姉さんは、どこからともなくノートパソコンを取り出した。僕は不思議に思いながら、まじまじとそのノートパソコンを見つめていた。

 "東方"という単語が何を指し示しているモノなのか分からない。たしかロボットアニメでそんなフレーズを聞いたことがある気がするが、それ単体を知っているか聞かれるのはオカシイだろう。

 僕が言い淀んでいると、お姉さんはそれを察したのか先に口を開いた。

 

『東方projectっていうゲームに関連する作品群の事よ』

 

「いや、知らない……かな」

 

『フフ……やってみる?』

 

 お姉さんの膝の上でパソコンが開かれる。既にゲームは立ち上がっており、どこか懐かしさを感じる音楽と共に、"東方永夜抄"というタイトルが画面に映し出されていた。

 

 僕はその音楽に少し興味が湧き、首を縦に振った。

 

 キャラ選択は適当に一番最初に出てきたチームに決めた。幻想の結界チーム……博麗霊夢&八雲紫というキャラらしい。

 難易度はとりあえずノーマルだ。

 

『イージーじゃなくていいのかしら?』

 

「まあ、とりあえずね」

 

 さて、ゲームスタートだ。

 

 

 ……

 

 

 

 …………

 

 

 

 ………………。

 

 

「く、全然先に進めない……」

 

 スタートしてから数時間が経った。いまだに僕は二面のボスから先に進めていない。僕は意固地になって、イージーに変えたくなくなっていた。

 ミスティア・ローレライ……彼女のスペルカードが突破できない。なんでこのゲームはこんなに難しいの?

 オープニングからここまでの曲が良いだけあって、次の面も気になる。だけどもう時間がない。

 

 いつの間にか斜陽が差し、空は茜色に染まっていた。

 

 僕はそれに気付いて、諦めてゲームを閉じた。

 

『あら、やめるの?』

 

「……もうすぐ門限なんだ。そろそろやめるよ」

 

 家の門限は厳しいという訳ではないが、僕は約束を破る気概がないもやしっこなので、決まりごとはきっちり守りたいのだ。

 

『あらそう、それなら……これあげるわ』

 

 そう言ってお姉さんは、これまたどこからともなくディスクケースを三つ取り出した。一つは空っぽで、多分永夜抄のディスクケースなのだろう。

 

『この二つは紅魔郷と妖々夢。今やった永夜抄の前作よ』

 

「そんな……悪いよ」

 

『気にしないで。これは布教用だから。……その代わり、全部クリアしてね』

 

「……全部?」

 

『今回はノーマルだったけど、最高難易度……ルナティックで、その三つのゲームをクリアしなさい。約束ね』

 

……約束なんて言われたら、守るしかなくなっちゃうじゃないか。

 

「そ、そんなぁ……ノーマルでもあんなに難しかったのに」

 

『今度会う時までに、ちゃんと腕を磨いておいてね』

 

「でも僕、飽き性だから……」

 

『クリア出来なくて悔しいって思ったでしょ? 飽きた、諦めた……は無しよ。ちゃんと最後までやり通してみなさい。忍耐力がつけば、貴方も物事に夢中になれるようになるかもしれないわね』

 

忍耐力(にんたいりょく)つけるとか堪(にん)……体力(たいりょく)ないんだよ」

 

『……プッ……クフフ』

 

 !!!???!?!!???!!!!?? 

 え、ダジャレ……で? 今僕が言ったのってただのダジャレだよな!? 初めてウケた……(困惑)え……僕が気付かなかっただけで、なにか深い意味も含まれてた? 

 

 

 

『アハハ! ダジャレが出るのはもうおじさんの域よ! フフフ、あーおかしい!』

 

 

 

 ……どうやら内容が受けた訳じゃないようだ。

 

 

 

 

 

 

 ♪♪♪ 

 

 

 

 

 

 

 ……そうだ、東方を知ったキッカケを作ってくれたのは、五里霧中(むちゅう)をさまよう思いで探していた"夢中(むちゅう)"を与えてくれたのは、あのお姉さんだ。

 これが、瑠璃色の記憶の正体だったんだ……。何で忘れてたんだろう。

 

 ……嫌だなぁ。きっと夢が覚めたら、この記憶はまた薄れて、消えて、忘れてしまうのだろう。

 

 嫌な思いをするなら、このままずっと、思い出さない方が……

 

 

 

 

 

『可哀想に……強く生きて……』

 

 

 

 

 え……

 

 

 誰……? 

 

 

 

『おっと……もう私の事認識できるんだね』

 

 

 夢は意味のない色彩へと霧散し、やがて暗闇になっていた。

 その暗闇の向こうから聞こえた声は、憐れみの声色であった。

 その声の主を探すが、ただの暗闇が広がるのみ。……これもただの夢なのだろうか。

 

『……だんだん馴染んできてるみたいだけど、まだここまでみたいね。今日は眠りなさい。また今度会いましょう』

 

 

 

 

 

 ──意識が再び、暗闇へと溶けていった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




初コロナ
思考力が
低下する
時間あるのに
書けぬ作品   まみずお
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