転生先はブラック鎮守府の雪風でした   作:香月燈火

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ぎりっっっぎり……
あ、今回は少し短いです(それでも3500文字くらいあるけど)


泡沫の夢(三人称side)

 とあるなんでもない日の昼下がり。

 

 

「司令! 雪風、帰ってきました!」

「ああ、お帰り。MVPは……相変わらず、雪風か。本当、雪風が出たら毎回MVPを持っていくな、お前は。いっそのこと、一回雪風を主力艦隊から外してみるか?」

「ええっ!? 司令官、それはないですよ! 私だって、頑張ったのに!」

「いや、冗談だからな? だが、そろそろ雪風も前線から戻ってきた方が……」

 

 

 敬礼の形を取り戦果報告を終える雪風に提督は呆れるように言うと、雪風がぎょっとした風に反抗する。

 この場には他にも数人艦娘が居るが、特に何かを言う様子もなく、むしろ微笑ましげに見守るだけに留めている。

 それも当然のことで、この鎮守府に所属している艦娘や人間は全員、2人の関係をよく知っているからだ。

 智略と慧眼をもって今まで深海棲艦によって侵略されてきたあらゆる海域を制圧してきた全鎮守府でも最も大きな艦隊を擁する嘉村大将。そんな彼を艦隊結成における最初期から支え続け、今なお駆逐艦でありながら数多の戦場を駆け、鎮守府内においては最強の練度を持つ雪風。

 その2人の薬指には、重厚に光沢を放つケッコンカッコカリの指輪がはめられていた。

 この2人の間には信頼すらも超越する程の確固たる絆が存在することは、少しでも2人のことを知っている人間、及び艦娘であれば誰でも知っている。よって、2人の絆の間に介入しようとするような者は、この鎮守府においては誰一人として居なかった。尤も、外部ではロリコン提督などという噂が流されていることには、智略に長けた嘉村でおっても頭を抱えていたが。

 

 

 そんな2人が変に和やかな空気でいがみ合っている中、執務室の戸を叩く音が鳴る。返事もないというのに遠慮なしに書類の束を持って部屋に入ってきたその人は、鎮守府では比較的珍しい人間の女性であり、嘉村にとっては昔馴染みの人物である鎮守府における工作部門における主任を担当している雪波小夜。その隣には工作部門の工作長の明石と、その助手である夕張も並んでいた。

 

 

「嘉村大将……って、また子供みたいな言い争いですか。いい加減、口に出したらどうですか? 俺の秘書艦としてずっと居てくれって」

「雪波……お前は一体何を言っているんだ。雪風は戦略的に必要な存在なんだ。いざという時のために、万全で居てもらった方がうちとしては安心材料になり得るんだ」

「努めて冷静そうに言ってますけど、顔は真っ赤だし声もちょっと震えてますからね? まあ、今回はそういうことにしときますが」

 

 

 提督の面子として最低限の威厳は残そうとしているのだろうが、周りから見れば普通にバレバレである。作戦行動となると常に威厳のある人なのだが、プライベートとなるといつもこうやって脇が甘くなってしまうのが、嘉村であった。そんな上官であるからこそ、艦娘たちは皆嘉村を慕っているのだが。

 雪波と呼ばれた女性に図星を指された嘉村は、む、と微かに呻き声を漏らす。

 

 

「司令。雪風は、皆を護りたいんです。だから、外さないでください」

「雪風……だが、もしお前に万が一のことがあれば……」

「大丈夫です、司令。雪風は、沈みませんから」

 

 

 真剣な目で訴える雪風に、嘉村は額を揉みながら眉間に皺を寄せるが、しょうがないとばかりに大きく溜め息を吐いて天を仰いだ。

 

 

「全く、それの何処が根拠になると言うんだ……だが、雪風の言葉であれば信頼は出来る。これからも、皆を頼むぞ」

「はい! しれえ!」

 

 

 そんな会話を興味深げに見ていた雪波だったが、会話が終わったと分かると、手に持っていた書類を実務机の上に並べた。

 

 

「茶番が終わったみたいなので、私からも報告です。まず、次の作戦に必要とされる反抗作戦における陸上基地殲滅のためのファクターとなる大発動艇、及び三式弾ですが、必要分の装備の開発には成功しました。今回は妖精さんの気まぐれもかなりいい方向に働いてくれましたね」

「おお、そうか。それなら次の作戦には雪風が居なくても……」

「司令?」

 

 

 雪波の一つ目の報告を聞いたその場の艦娘たちのうち幾人かが、おお、と感嘆の声を漏らした。夕張などは「私もやったりますよ!」と意気込んでいる。実際、ここに今居るメンバーは誰も彼もが艦隊でも精鋭の艦娘ばかりであり、中でも声をあげた艦娘は開発された上2つを装備出来るため、意気込んでいるのだろう。きっと、この場に長門が居たら「胸が熱くなるな」なんて言っていたに違いない。

 そんな報告を受けて喜色の浮かぶ表情に変わってつい言葉が漏れそうになったところで雪風から鋭い視線を受け、嘉村はすぐさま口を噤んだ。この人はやっぱり学ばない、と雪波も若干呆れながら、報告を続ける。

 

 

「第二に、数人の艦娘の改二改装の目処が立ちました。その中には、雪風も含まれています。良かったですね、嘉村大将」

「ふむ。そう、だな」

 

 

 だが今回の報告に、嘉村は喜びを示さなかった。

 

 

「珍しい。嬉しくないんですか?」

「ん? ああ、いや。嬉しいことには嬉しい。が、こうして雪風が強くなってしまえば、より一層前線への配備が増えることだろう。確かに、強くなることには強くなる。が、やはりリスクも増える」

 

 

 ただでさえ艦隊のエースである雪風が強くなってしまえば、出撃の回数は間違いなく増えることを危惧しているようだった。対潜、滞空、対地、それに対海上性能のどれが上がったとしても、要は運用方法が増えるだけで、結果的にはリスクが上がったも同然なのだ。これには、雪波も確かにと納得がいった。

 雪波にとっては、雪風はとても大切な存在だ。いや、むしろある意味では()()()()に雪風を想っているし、もし雪風に何かあれば、嘉村と同じくらいには深い喪失感を覚えるだろう。むしろ、雪風との付き合いで言うのなら嘉村よりも長いのだから。

 

 

 が、雪風がだからと言って退いてくれるわけがないのは、2人にとってもよく分かっていた。

 

 

「やった! じゃあ、雪風ももっと強く、しっかり皆を護れるようになるんですね!」

「そういう訳ではあるが……自分が改造されることに恐怖はないのか? まあ、もう改造は前にも受けてはいたし、そういう所が艦娘たる所以なんだろうが」

 

 

 すっかり変わったな、とぼやく提督に、首をかしげる雪風。

 

 

「確かに変わった自覚はありますけど、しれえ程じゃないですよね? ほら、白髪だってこんなに増えてますし」

「余計なお世話だ。というか、一体いつと較べているんだ。俺ももう、50だぞ」

「あー。確かに、嘉村大将は皺も白髪も増えましたよね。性格の方は昔と変わらず、ちょっとどころかかなり子供っぽいですけど」

「ほう? お前だって、昔はよく俺の事をお兄ちゃんだとか呼んでいたじゃないか。なあ、もう1回呼んでくれてもいいんだぞ? 小夜ちゃん?」

「セクハラを受けたと、後で本営と、同艦隊所属の艦娘たちに報告を打電しておきますね。それに、私にとっての兄は一人だけなので」

「……流石にそれは理不尽ではないか? いやまあ、それはそうだが」

 

 

 一転して少し引き気味に顔を引き攣らせる嘉村だが、周囲の艦娘からの視線はさっきと違い冷たいものになっていることに気がついていない。

 こういう時の鈍さはかつての兄に似ているな、なんて雪波は考えていた。

 

 

「……ですが、雪風の改装については次の作戦までには間に合わない試算です」

「そうか。確かに雪風の改二の力は惜しいが、仕方ない。そんなものがなくとも、次の作戦で大勝利……いつも通りの全員生還。それを目指すだけだ」

 

 

 そこで言葉を一度切った嘉村は、貫禄のある真剣な表情を浮かべて、改めてその場に居る艦娘と、雪波の顔を見る。

 

 

「次の作戦の成否によって、我々の悲願であるソロモン海域奪取作戦の今後を左右すると言っても過言ではない。分かるな?」

 

 

 そう言うと、全員が頷く。

 よし、と提督も同様に首を縦に振ると、机の上に海域図を広げた。

 

 

「まずは掻い摘んだ内容になるが、大まかな作戦要項を説明する。まずはここ、敵の前線基地となっているマライタの制圧、その後速やかにツラギ、フロリダと進出し、そして……」

 

 

 ひとつひとつ、指でなぞるように動かしていき、最後に。

 

 

「ここ、恐らく敵の大要衝となっているだろう、ガダルカナルを叩く」

 

 

 後に、過去に類を見ない程の対地侵略戦と呼ばれるまでになった、ガダルカナル侵攻作戦。

 そこで、嘉村は見事作戦に成功し、元帥へと昇格を果たすが、代わりに最も大事なものを失ってしまうことを、この時は分かっていなかった。




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