悲劇のヒロインに転生したのでシリアスをぞんざいに扱ってみる 作:ZenBlack
そんなわけで私はお屋敷に、日常へ戻ってきました。生きてるって素晴らしい。
帰ってすぐ、まったくもって無事だったミアとサーリャに泣きながら抱き付かれました。生きているってとてもとっても素晴らしい。
私の誘拐騒ぎがあってから、また一ヶ月と一週間くらいが過ぎました。まぁこの世界の一ヶ月は大体二十六日くらいなので、地球でいう一ヶ月丁度くらいって言った方が正確かもしれませんね。
戻ってからのあれやこれやは省略。だってすぐに外出禁止になったし、ずっと部屋にこもっていたし、たまにミアといちゃいちゃしてただけだし。ていうか部屋にいてさらわれたのに外出禁止ってこれ
なおジレオード子爵は事情聴取のため、王都へと召喚されたようです。頑張って!
そんなこんなで、あれから一ヶ月以上経った今、お屋敷にはとうとう中央からの、竜の討伐隊がやってきました。もうここにはいないのにねー。今どこにいるのかなー。海の向こうじゃないかなー。
「みゃぁあん」
「ねこにゃん、ねこにゃん、ねこにゃんにゃん」
「はぁ疲れた……」
「お疲れ様です、お嬢様」
そんなわけで、今日は
事情聴取ってやつですね。私への。
つい先程まで私は、討伐隊を率いてる隊長さんと、あとなんか偉い人の集団に質問攻めにされてました。隊長さん、背は低いけど正に視線だけで人を殺せるって感じで、めっちゃ怖かった。
まぁ終わったので、また再びの私の部屋です。ひきこもるーむです。
お庭に出ることすらいい顔されないので、室内のあちこちにある花瓶には、サーリャが毎日お花を挿してくれています。カサブランカの時期は終わってしまったようなので、今は様々な色のグラジオラスや、クロッサンドラなどが飾られていますね。
ちなみに誘拐された時にいた三階の部屋は、修繕されたけど、もうそこにいてはダメということで一ヶ月前とは別の部屋です。具体的に言うとお屋敷の二階の、ミアの部屋の隣です。ちょっと狭くなりましたが私は満足です。災い転じて福と為す。
「うにゃぁぁん」
「ねーこねーこ、こーねこねこー。ねこにゃんにゃおーん」
「んみゃぁぁぁ!」
あとミアさんミアさん、その鳴き声は少し嫌がってる系ですよ。普通の猫ならそろそろ猫パンチが飛んできますよ。下手したらバリッ、ですよ。
「んにゃぁ……」
そんなわけで普通の猫でないところのアリスにゃん……ではなくアリスは現在こうして新しくなったマイルームにいます。半居候状態です。ここでいう現在は本当に現在のナウで、「半」居候というのも文字通りです。一日の半分は猫の姿のまま、お屋敷の外へ出かけているようなので。
彼女の正体が(人類史の闇を背負った)ハーフエルフであることは私しか知りません。
正体がハーフエルフの猫を半居候状態にしてるとか、バレたら人間社会に属するものとしては非常にまずい氣がするのですが、「へーきへーき、バレたら
貴女様は人間世界を見たいから、猫に変身したのではなかったのですか。
アナタ、結構反対したパザスさんにそう言って、押し切って、ここへきましたよね?
私の意見とか聞かずに。
あと、事情を知らなかっただろうジレオード子爵も、結局は王都へと呼び出しをくらってますが、そこんとこもどうなのですか。
……とはいえ、実は私も、さほど本氣で追い出したいとは、思っていなかったりします。
なにせ魔法です。変身魔法を使えるハーフエルフの魔法使い様です。
色々あって、諦めて十三年間を生きてきましたが、異世界で使いたいものと言えばやはり魔法。しかも変身魔法の実演をこの目で見てしまった私としては、男性に戻れる可能性があるそれを、その手がかりを、自分から遠ざけたいとは思えないのです。
そんなわけで、これに関しては積極的諦め、といった具合に甘受していますにゃん。
「ミア様、あまり構うと引っかかれますよ」
「みゃぁん」
「あっ、ねこにゃん」
ぴょん、とミアの手から逃げ、サーリャの胸に飛び乗るアリス。
小さい猫くらいなら乗せられるサイズって凄いね。何がとは言わないけど。
「んー? アリス~、ブラッシングして欲しいの~?」
「ななぅーにゃん」
なんとなく「おねがいにゃん」と(この世界の言葉で)言ってる氣がする鳴き声で、サーリャの頬におひげをこすりつけるアリス。おいそこ代われや猫。
「そうかそうかー。やっぱり女の子は綺麗綺麗してないとだよねー」
そういえば、猫に話しかけるようになってから氣付いたけど、敬語を使わないサーリャは街娘風の喋りでした。私ともそっちで話そうよ。ねー?
「ん~ふふっふふ~」
「にゃー」
「あうぅ……ねこにゃん……」
「よしよし、ミア、おいで」
ソファの、ミアの横に座り、その小さな身体を抱き寄せる。
「ほらーミアにゃんもかわいー」
「んゅ……えへへ」
頭を包むように抱き寄せると、子供特有の細い髪が、首の辺りを撫ぜる。
ミアの髪はさらさらでいい匂い。
あ、ちなみにシャンプーもリンスもトリートメントも、貴族社会には既に存在しています。美容チートは始まる前から断たれていた。だがしかし私はなにもなんにも惜しくないです。全然、これっぽっちも。この至福の時間にはそんなもんゴミですよゴミ。うへぇ~。
「なぁぁぁぁん」
「ふふっ、ご機嫌ですね~。ここがいいのかっ、ここがいいのかっ」「うにゃ~」
「んゅー。おねえちゃま、いい匂い」
「そう? ミアもね」
はー、極楽極楽。
百分間耐久ミアを猫可愛がりの動画とか作りたい。
数十秒のをループ再生じゃなくて、本当に百分収録したやつで。耐久の意味が違う。
「あ、猫の毛ついてる。もー」
「ふゅ?」
「仕方ありませんよ。ミア様も後で綺麗綺麗しましょ」
「うにゃぁぁぁん」
「ううん、私がする。いいよね、ミア」
「おねえちゃまがしてくぇゅの? するー」
「そうですか? ではお任せしますね」
さて。
この一ヶ月、魔法を使えるアリスとパジャマパーティして、わかったことがいくつかあります。
……その前にパジャマパーティってなにかって?
アリスは、夜だけはいつもこの部屋に帰ってきて、変身を解いて少し私とおしゃべり(猫のままだと喋れないので)するの。それから、ここのベッドが大きくてお姫様みたいだから~……って、なぜかいつも一緒に寝てんの。そういえばサーリャの乱入防止にたまに魔法も使ってる~……みたいなことを言っていたけど……冗談だよね?
朝は、サーリャがくる前にどこかへ行っちゃってるけど、豪胆すぎて少し怖いです。騎士団の人? に甘やかされて育ったんだろうなー……って思う。
……
ピロートーク休題。違う。
ともあれ、そんなこんなでわかったこと。
魔法を使えるか否かは、空間に満ちている
そしてこの、「触れられるかどうか」は、ほぼほぼ先天的に決まってしまい、後天的に、努力したり、自然とそうなるなどして魔法が使えるようになるケースは、まず無いとのこと。絶対に無いは悪魔の証明だけど、アリスもパザスさんも聞いたことが無いらしい。
その上で、私に「マナに触れられる手」は無いとのこと。
陽の波動云々は生命だか生命力だかの話で、魔法を使えるか否かの話とは、直接的な関連は無いとのこと。残念。
念話とは、魔法を使えるもの同士でパスを繋ぐと、どんなに遠くにいても声を使わずに会話ができる能力らしい。つまり魔法使い同士限定の携帯電話のようなもの。便利でいいな。欲しい。魔法使いたい。
アリスが私の所へ、ひいては人間社会へ、来ることにパザスさんが(最終的に)承諾したことには、これの存在が大きかったらしい。定期的に自分と連絡を取るならば許そうという話ですね。娘の寮生活に葛藤する父親かな?
そんなわけで、アリスは時々パザスさんと念話で連絡を取り合っているらしいです。
ちなみにその、パザスさんは、今は辺境をあちこち飛び回っているらしいです。フーテンの竜さんかな?
実は、アリスの術式は、変身ではなく幻覚に近いらしい。イデアより映る影を捻じ曲げてるとかなんとか。よくわかんない。アリスは今そこで本物の猫みたいにブラッシングされちゃってますけど、喉をゴロゴロいわせてご機嫌ですけど、あれが幻覚なのですかね?
まぁ、つまるところ、変身中は常に術式を展開してる格好になるので、アリスのいるところでなら、一時的に変身のようなことは可能かもしれないけど、アリスから離れるとすぐにその術式は解除されてしまうとのこと。無念。
ただ……呪い系統の術式なら、「ティナの生命力ならもしかしたら、寿命数十年分で効果が永続する変身が可能かも」とも言われた。数十年……正直二十年くらいまでなら払ってもいい氣はします。通常の寿命が七十年として人生五十年……
アリスが「面倒だから」と言って、なかなか話したがらないので詳細は不明だけど、人類VSエルフの戦争後、生まれたばかりだったアリスを育ててくれたのは、生き残った九星の騎士団のメンバー、その数人だったようです。何人かはルカのようにアリス達と対立してしまったのだとか。
ただ……伝わる話だとリーンは戦争で、カイズも戦争後すぐに、この世を去ったといわれているが、どうもアリスに話を聞くと、それは違うようで、戦争後も、カイズとリーンは少しの間……アリスが物心付くくらいまで?……生きていたらしい。
流石に親の死を語れとは言いにくいので、この辺りは聞けていない。
九星の騎士団、
彼は謎の多い人物で、実は人間の魔法使いでもあったらしい。
彼はそれを騎士団の仲間にも秘密にしていたが、リーンとカイズが結ばれたため、リーンに指摘されてしまったらしい。
ただ、発覚する以前も、騎士団の誰もが「あんな神懸り的な回避と探知が氣を読むだけでできるかよ。あれは魔法だって」と思っていたらしく、誰もそれを意外とは思わなかったのだそうな。人類史の闇っ。
ティアがしかし、それまで魔法使いであることを皆に確信させなかったのは……彼が魔法を使うには必須であるところの魔方陣(あの黒い鳥篭みたいなヤツ)を、一度も、皆に見せたことが無かったからなんじゃないかな……とはアリスの推測。
そんなことできるの?……と聞いたところ、やり方はいくらでもあるのだそうだ。簡単な魔法なら最小の魔方陣で済むので、治癒魔法の時にアリスがそうしたように、服の中で発現(してたらしい。私のワンピースのスカート中で。おぃぃ)させればいいし、パザスさんがエアコン魔法でそうしてたように、見えないほど頭上に展開(してたらしい。この場合は、身長というか体長の問題で自然とそうなっただけなんだけど)させるという手もあるのだとか。
高等魔法であっても、現在アリスが常時展開中の変身魔法でそうしているように、最初に編み上げた後はそのまま異空間に収納? してしまうこともできるんだとか。理解不能。
猫『魔法使いにはバレるけどね。魔素の動きがわかれば、それは一目瞭然だから』
みー『ほほう』
猫『ママはティアが魔法使いであることを見抜いたでしょ? そういうこと』
みー『あれ? でもティアってエルフの魔法使いと戦ったんだよね? 相手の魔法使いには見破られなかったの?』
猫『だって戦ったのってエルフとでしょ? エルフにとっては魔法を使えることが常識なんだよ。人間の魔法使いは珍しいけどいないわけじゃないし、別に疑問も感じなかったんじゃないかな。戦闘中に指摘したり
……とかなんとか。まぁ、もう四百年も昔の、だから他界しちゃってるハズの人間が魔法使いかどうかなんて、どうでもいいか。
敵同士だったのは確かなんだよね?
それへ、アリスの答えはこう、『愛し合ったからに決まってるじゃん。……二人の最後は誰もあたしに教えてくれなかったから知らないもん』。
えーと、なんちゅーかごめんなさい。
まぁ竜にさらわれて無事帰ってきた女の子だからね。幸運の象徴的な扱いなんだとか。
……さらわれた時点で幸運じゃなくね?
極一部ではティナ様ハァハァとか言われているんだとか。知りたくない。でもミア様ハァハァ言ってるド畜生がいやがったらそのクサレ外道の名前はこっそり教えて。
……見なかったことにしておやり。メイドの職分かもしれないし。
でも下着に手を出し始めたらそれもこっそり教えて。
「おねえちゃま?」
「……ん」
おっと、手が止まっていた。ごめんごめん。
そういえば、竜がどこから現れ、私をさらったのかという話ですが、これはもう素直にサムシングレッド、ジレオード子爵の贈り物に封じられていたようです……と話してしまいました。
「ねー、ミア」
「んゅ?」
だってそうじゃないと、私が魔法かなんかで召喚したんじゃないかって話になるし。
「おねーちゃんのこと、おねーみゃんって言ってみて?」
「おねーみゃん?」
「んー……ふはぁっ!」
実際、取調べでもその辺りかなりきつく絞られましたからね。おっかない隊長さんに。
「どぉしたのー? おねーみゃん」
「のほぉっ!?」
「ティナ様、あまりふざけすぎないように」
「こ、これはかいしんのいちげきのこうかはばつぐんだぜぃ……」
幸い、魔法使いというのは、先の
「ごめんね、ちょっとした悪ふざけ」
「んー? へんなのぉ」
それで、色んな意味で証拠の品となる宝石ですが、これは竜に持っていかれたことにしました。というか実際に持っていってもらいました。なんとなれば、淡いピンクで半透明の、水晶のような石に変わってしまっていたからです。
「うんごめん、やっぱりおねーちゃま、でいいよ。そっちも可愛いし」
宝石から出てきたのは竜一匹、そういう話になっていますので、万が一の処置です。
人間社会は魔法を排斥していますが、その研究までされていないわけではないのです。
王族であるとか、おそらく侯爵家以上の貴族社会には、魔法に関するなんらかの研究が蓄積されているはずです。私はその辺りを恐れました。
「ゅ……おねーちゃま、って、そぅゅーの、かゎぃー?」
「可愛い可愛い、そう呼ばれると、抱きしめたくなる」
「みゅ……」
竜といえば金銀財宝を収集するという伝説もある生き物、宝石を壊してしまったのは、事実パザスさん達ですから、ここは罪を被ってもらうことにしました。まぁ私をお屋敷まで無事送り届けてくれたお礼にあげた……という話にはなっていますが。
「おねーちゃ、ま……」
「はぅぅぅん」
これも手がかりになるかも知れぬでな、かまわんぞ……とのことなので遠慮無く。
血相を変えて飛んできた、王都召喚前のジレオード子爵には直接謝りました。面倒くさくなりそうなあちら側の謝罪を封じる意味でも先制して。
「ねーサーリャん……おねーちゃまが、とけてゅ?」
「ああそれはそれで大丈夫ですよ、そっとしてあげてください。十秒位したら戻ります」
なおこの際、私の攻撃力を上げるため、そこは服とかお化粧でめいいっぱいおめかししたことをここに告白しておきます。屈辱! でもサーリャさんは大変に幸せそうでした。よかったね、だからお尻の傷について口を閉ざす私を、ことあるごとにどうにかして喋らせようとするのはやめておくれ。十日くらいで完全に消えたからいいじゃない。
「ゅ~……」
「はっ!?……ミアニウム風呂で幸せがメ●トスコーラ!?」
「サーリャん……」
「だ、大丈夫だと思います、それもきっと」
それにしても、チートがぱねぇ(自分が可愛くなる服とかお化粧を、生まれつきなんとなく判ってるっぽい?)だったのか、それともサーリャの
まぁここのところは、そんな感じ。いい夢を見たぜ。話入った?
「ねー、サーリャ」
「いかがされました? お嬢様」
「討伐隊の人達を招いてのパーティとかってあるの?」
あったら面倒だなぁ。
「……討伐隊の方に何か言われましたか?」
「……言われたというか、鼻で笑われたと言うか」
「……は?」
まぁ正常な男性であれば、私めの平らな胸部になど興味はありませんよね。ぶっちゃけアリスの方がまだ膨らんでいましたよ。
私を十と少しくらいの年齢から
大丈夫、言ったりしない、
「ティナお嬢様の魅力に氣付かないとは、なんて不遜な」
「いや氣付かれても困るけど……じゃあもうあの人達とは会わなくてもいいかな?」
「と、思いますが……何とも言えませんね。次は私が付き添えたらいいのですが」
事情聴取はひとりひとりで、ということで、サーリャへの事情聴取は私の前に済んでいました。私の時は男爵家の執事さん(名前はセバスチャンではありません)が付き添ってくれただけでした。なお彼は聴取の際、一言も話しませんでした。まぁ昔っからアレはそんな人間です。
「ちなみにサーリャの時はどうだったの?」
「何がですか?」
「鼻で笑われたりは……しないか、しないよね、うんない」
「……答える前に自己完結されちゃいました」
「うにゃん。うにゃん。うにゃん」
私とサーリャが話してると、アリスが暇なのか、下から猫パンチしやがってますね……うん、たゆんたゆん。大きくなるたびに立体縫製でその部分をサイズ直ししてる私の苦労(は、チートのおかげであんまないけど)が報われるかような揺れ方です。もはやほぼ乳袋。
「……くす」
「なんか今笑ったでしょ」
「いえいえ、大丈夫ですよ、お嬢様はこれからです」
「これからどこがどうなるかはどうでもいいけどっ、その勝者の余裕にはひとこと言いたい氣持ちが無くもないっ」
まぁでもようやっと今日も平和になりましたようで、大変に結構。
ルカさんに尻を切られてからは、気持ちが大分沈んじゃってましたが、それもミアやサーリャのおかげでここのところだいぶ、上向きになってきたと思います。
ホント、この平和が長く続けばいいなー……。
「ご心配いただき、ありがとうございます。大丈夫ですよ、慣れてますから」
「……それって遠慮無く見られたってことなんじゃ」
「さぁどうでしょう? 私の自意識過剰かもしれません」
「サーリャ、女の子は自意識過剰なくらいでいいんだよ? 私のチー……前……本能がそう言ってる。でもその氣配は男の前ではけして見せないこと。構ったと悟られたら逆に喜ばれたり、揚げ足を取られたりするからね?」
「はい」
「微笑ましいものを見る感じで笑っているけど私はマジだからね? 約束だよ?」
「くすっ……はい、お嬢様よりの
「……何語?」
私の婚約者探しも、一旦事態が落ち着いてからということで、この一ヶ月と少しはやんでいます。ミアと戯れ、サーリャにお世話され、真夜中にはアリスとおしゃべり(念話だと猫のままでも話せるみたいだけど、魔法を使えない私とはパスを繋げないので)して、このところの私の心は、だいぶ安らいでいます。
今日だけは色々あって忙しかったけど、それも
しばらくはまた心安らかでありたい。心身さえ健やかであるならば、なべて世はことも無し。
ふぅ。
……だったら良かったんだけどなー。
コンコンコン。
ミアのそれとは違う、傲慢そうなノックの音。
「入るぞ」
ガチャ。
好事魔多し。年度末は工事魔多し。
「げ……ボソ兄」
「……ボソルカン様、貴人の部屋にはノックの後、許しを得てから入室するものです」
「妹に貴人もクソもあるか。それと妹よ、今、兄を見て、げ、と言ったか?」
「にぃ、たま……」
「いえ、聞き間違いだと思いますよ」
「ふん」
あーあーあー。もうそろそろ二十歳にもなる貴族のご子息様が礼儀知らずに。
無遠慮に空けられた、レディの部屋のドアから入ってきたのは。
私が、コイツにだけは死んでも愛想良くしてやらないと心の底から思ってる、下の兄、ボソルカン・ガゥド・スカーシュゴードだった。
ちなみに上の兄は結婚して領地のあちこちを飛び回っているけど、ここらの貴族の因習的に、次男は長男が死ぬまで結婚できない。
だからこいつは