悲劇のヒロインに転生したのでシリアスをぞんざいに扱ってみる   作:ZenBlack

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 前書き。

 元々2話分だったのを繋げたのでかなり長いです。ごめんなさい。



25話:魔法だいやほい

 こんにちは。もうすぐ十四歳、ぴっちぴちの処女、アナベルティナです。

 でも色々あって闇落ちしちゃいました。嘘です。でもビジュアルだけでいえば真です。

 

「悪役感半端ない!」

「我慢しなさいって! ここには女の子しかいないからいいでしょ!」

 

 アリスの勢いに負け、白いワンピースとキュロット(と下着系)を脱ぎ、全裸になった私は、そのまま岩場に大の字で寝かされました。割とすべすべした岩だったのが助かりました。でも手も足も広げちゃっての全裸でおっぴろげ状態でした。長い髪はサーリャがまとめて持っていてくれたので、それにはコンプライアンス的な仕事ができなかったでしょうね。湯氣さんとか謎の光さんに期待します。ここのナウは空氣の乾燥した岩場の夜ですが。

 

 てかね、いつもお着替えやお風呂で四方八方から全身全面見てるはずのサーリャがですよ? それでも頬を赤らめてこちらを凝視してきたのが凄い謎でしたね。同じ全裸でも、違うシチュエーションで見るそれは、別腹みたいなものなのですかね。よくわかりません。

 

 完全なるハードなサービス回の所業ですが、私としては改造される仮面ラ●ダーの氣持ちでした。いやね、ほら想像してみてくださいよ、素っ裸で……あ、でもその際は、私の裸部分には謎の光が当たってる感じでお願いします……身に何も守るものがなくて、絶対に動くなと厳命されて、目の前で黒い魔法陣の線が、自分の身体にペタペタと貼り付いていく過程を見守るしかない状況だったのですよ? 怖すぎません? オマケに、前が終わったら、あとは後ろもとかでひっくり返されましたしね。私は焼き魚じゃないんですよ。アジの開きじゃないんですよ。サーリャにとっては味のある開きだったのかもしれませんけどね! まったくもう。まったくもうだよまったくもう。それはそれとして秋刀魚の塩焼き食べたい。おろしポン酢で。

 

 そうです。なにがそうなんだかよくわからないけどそうなのです。

 

 今、私の身体には、無数の黒い線が走ってます。さすがに首から上にはありませんが、全身の、肌のおよそ二割程が黒い線で覆われているでしょうか。呪紋とか暗黒の印たる刺青とか、なんかそんな感じの、中二ワードが頭に浮かんできやがりますよ。これ、ことが終わったら元に戻るのでしょうかね。消えなかったら家をおんだされそうで怖いのですが。いやおんだされそうっていうか、軟禁か監禁コースでしょうか。最悪は中央に送致されての拷問コースでしょうかね。勘弁して。

 

「もう服を着ていいわよ」

「ん……それで説明は?」

 

 これは何で、どういった意図の改造手術だったのですか?

 いそいそと、脱いだ服を着ながら問い掛けます。あ、サーリャ後ろお願い。

 乗馬用のキュロットはー……もういいか、まだ残暑残る夜だから必要ないです。サーリャ、またスカートに収納おねがいします。メイドのスカートインベントリ。下半身にストレージのある便利屋さん、ド●えもんかな?

 

「ティナは、これであたしの魔法陣として利用可能になった。生体魔法陣(せいたいまほうじん)

「……うん、まだ意味がわからないかな」

 

 それにしても、服が真っ白で聖女っぽいのに、肌が刺青だらけみたいになってるのって、我ながらなんかこう背徳的ですね。どうしてこんなことに。

 

「ティナからは陽の波動が(こぼ)れ落ちている。ティナは温かい陽だまりみたいなものなの。ティナを魔法陣化してそこへマナを通せば、マナは何倍にも精妙化……意味と意義が明確化されて還ってくる。それはつまり、陽の波動と相性のいい魔法をワンランク、下手したらツーランクもスリーランクも上のものへと昇華することが可能だってこと。……陽の波動と相性の悪い魔法だとランクダウンもありえるけどね」

 

 えーと。精妙化の辺りはよくわかりませんでしたが。

 

「つまり私は人間魔法ブースター?」

「言っちゃえばそうね。昔はこれ、アムンにさせてもらったの。アムンは陽の波動なんかじゃなかったけどね。アレは~……んー、言葉にすれば血潮の波動かな? 通したマナが全部血生臭くなって還ってくるみたいな感じだった。回復魔法とか解毒魔法の増幅にはとってもよかったけど」

「ほー……。アムンって珊瑚(コーラル)の騎士だっけ?」

 

 その血を聖水に変え魔を滅ぼす聖騎士……だっけ?

 

「アムンはゴブリンロードを見て思いついたんだって」

「ゴブリンロード?」

「魔法を使うゴブリン。スタンピードに1体現れるか現れないかくらいのレア。今のティナみたいに、身体に黒い線が走ってるの」

「ほー」

 

 まぁ、そういうのもあるんだー、としか言えない、わかるような、わからないような話ですね。

 

 ん?……この生体魔法陣?……を刻むには裸になる必要があるのですよね? そんでもって、アリスはアムンの身体にもこの紋様を刻んだことがある……か。

 

 ふむ。

 

 なんでしょうか、このちょっと負けたような感覚は。置いてきたおもひでに未練はないはずなのに。

 

「ティナはアムンより強い波動を出してる。だからたぶんアムンの生体魔法陣よりも凄いことができる。これで黒竜(こくりゅう)をとめる。おーけぃ? まぁおーけぃじゃなくても、あと二十秒くらいで竜がこの上空に来るんだけど」

「……は!?」

「ってことだからティナ! そこに足を踏ん張って立っていて! サーリャ! ティナが動かないように固定!」

 

 え、え~、えー! 心の準備がぁ!

 あたふたしてると、サーリャが私の腰辺りを、がしっとホールドしてくれます。ハイムリック法じゃないよ。ケツの辺りにサーリャの胸が当たってるよ。厚みたっぷり。

 

 ややあって、月が無い方向の空に、何か大きな影が動くのが見えました。

 

「まずは挨拶代わり。いっくよー」

 

 と、身体を走る黒の線に、何か温かいものが通っていくのがわかります。

 それは高速……というよりも光速……いえそれ以上の速さで動き、私の中を循環しながら……ナニカに変質していってる……言葉にはしにくいですが、そんな氣がします。

 くすぐったい……という感じでもなく、むしろ身体がポカポカしてくるような心地かもしれません。あったかなお風呂に入っているみたい。視界をキラキラしたものが何度も横切っていきます。

 

「ティナ様……おぐしが……お身体が……光っています」

「え?」

 

 視界を横切る、キラキラしたもの。

 

 それはよく見れば私の髪でした。銀色になった私の髪でした。えっ? なにこれ、私の髪の毛、今全部銀色?

 そうして身体の方にも目をやれば、黒かった線は光を帯び、鈍く点滅しています。身体全体も薄く光っています。

 

 えっ、なにこれ!? なんじゃこら!?

 

「二人とも、目を(つむ)って!……はい、ちゅどーん!」

「ほぇ?」

 

 と、私の身体から、謎の光線が空へと向かっていきます。ウルト●マンでしょうか、スペ●ウム光線でしょうか。なんだか指を広げた手を顔の両脇に当てたい氣分にもなります。額にダブルピースでもいいです。ともかく周囲がハチャメチャ明るくなりました。反射的に目を瞑りますが、その明るさは減衰していく様子がありません。雰囲氣的に、私の身体からどでかいサーチライトのような光線が、柱のように空へと向かって伸び続けているっぽいです。これ、明るいっていうか、発生源の私は目を瞑ってさえ目茶目茶眩しいのですけど。大丈夫? これ、今目を見開いたら失明しちゃわない?

 

「あー、やっぱただの照明魔法がめちゃんこ凄いことに。十倍じゃすまないな~、これ」

「グルヴォアァァァー」

 

 空から咆哮が聞こえます。今は目を開けるのが怖いので、その様子を(うかが)い知ることすらできませんが、どうやら竜がこちらに氣付いたようです。そりゃ氣付くよね。アリスもそういう目的でこれを撃ったのでしょうし。

 

「照明魔法、解くよ!」

「え?」

 

 パッと。

 

 眼前から光の氣配が消えます。

 恐る恐る目を見開くと、視界をよぎる髪の毛が銀色から黒に戻っていってる途中でした。呪紋? の方は既に黒いです。

 目をちゃんと瞑っていたはずなのに、視界がチカチカします。そのせいなのか、軽く頭がぼんやりしている氣がします。

 

「くるよ! サーリャ! もっとティナをちゃんと抱いて! 結界魔法、いくよ!」

「はい!」

「お、ぉう?」

 

 サーリャが体勢を変え、なんか後ろから羽交い絞めにされる感じで抱きつかれました。構図だけ見ると、これから虐められっ子が腹パンされるっぽい体勢です。微妙に私のトラウマが疼きます。まぁそんなの、背中へみっちりむっちりなそれの感触が当たるだけで溶けますが。

 

 そうして再び、アリスから私の身体に何かが流されます。

 

 視界を、再び銀髪になった私のソレがキラキラと舞っています。身体がポカポカしてきます。なんでしょうか、熱い温泉にでも浸かっているかような感覚かもしれません。じんわり、身体の奥が、暖まっていく感じ。はふん。ぽわんってなりますね。

 

「展開!」

「ぁんっ」

「そこぉ!? 変な声出さない!?」

 

 ……なんでしょうかこの音。

 水の沸騰音を高速再生したみたいな音が聞こえます。

 しゅーじゅわ~、を、しゅじゅわ! って感じの音にして、それを更に早くしたみたいな、なんかそんな感じの音がこの場に響いてます。時々エコーとかハウンリングな感じにも響いています。

 

「てかうるさ!」

「いいから頭を下げて! くる!」

 

 衝撃。

 

 アリスの声と同時に、頭上からドゴンという物凄い衝撃が襲ってきました。

 

 上を見れば、虹色に光る雪華模様(せっかもよう)に、ドラゴンの手? か足? かの爪がめり込んでいます。ATフ●ールドかな? あれは雪華模様じゃないけど。

 あ、雪華模様ってのは、雪の結晶を図案化した模様です。日本だとよく着物の柄なんかにもなっているアレですね。ATフィー●ドと同じ出典でいえば、新劇場版の方の第七使徒の足元(の海面)にもこんな模様が広がっていた氣がします。化学の教科書か何かで見た金属樹にも似ています。

 今は手のひらサイズのカラフルな、そんな雪の結晶模様が虹色に光りながら、何十何百と集まり、こちらと竜とを分ける壁になっているようです。

 

「ヨウヤグ……ヨウヤグミヅゲダゾォォォ……グアァァアリィィィイイズウウウゥゥゥ!!」

 

 ほんで、なにやら凄まじく低い声が聞こえてきます。唖然と口を開けてたら肺に響いて息苦しくなるレベル。なので口は閉じます。慌てて耳も手で閉じます。でもサーリャは私を抱えているせいで耳を閉じれない氣がします。大丈夫でしょうか。

 

「いける! 受け止めきれてる!」

 

 色々、わけわからんく過ぎて、渦中の私にはなにがなにやら実況しにくいのですが、状況的に、アリスの結界魔法というのがこの虹色に光る雪華模様で、黒竜は今まさにそれを突破せんと爪を突き立てているみたいですね。この世界の防御魔法は、某ロー・アイアスと違って花ではなく雪の模様のようです。それともこういう形なのはアリスのオリジナルなのでしょうか。身体は雪でできている。さよならなのだは言ってないなのだ。

 

「ナガガッダナガガッタゾォォォ! アァァアリィィィイイズウウウゥゥゥ!」

「やっぱり! 貴女(あなた)ユミファ!」

「グオオオォォォロォォォズゥゥゥ」

 

 黒竜さん、好戦的とは聞いていましたが、予想以上に殺氣立っています。

 あと、アリスの「貴女(実際は日本語でないので、そもそも男女で人称代名詞の発音が違うためわかります。heとsheくらいの違いですが)」からすると、ユミファさん、どうやらメスのようですね。再会おめでとうございます。旧交を温めたいって雰囲氣ではありませんが。

 

 過去にいったい、なにがあってこんな状況になっちゃったんでしょうね。

 

「サーリャ! ティナをちゃんと立たせといて! 今座標がずれると結界が崩れる!」

 

 おおう、なんだかわかりませんが、私はここにボーっと突っ立ってるのがお仕事のようです。まぁ身体がぽわぽわ温かいせいで、どうも先程から頭が緊張感もなくボーっとしがち……なので、今は丁度いいのかもしれません。思考があっちこっちに飛ぶのを除けば。

 

 ……ってなんだか、ユミファさん、黒い魔法陣らしきモノを翼の周りに展開してないですか? 凄く……大きいのを。

 

「アリス! なんか魔法が来る!?」

「わかってる! いいからティナはそこで踏ん張って! 結界が崩れたら背中のサーリャごと消し飛ぶわよ!」

「……おう」

 

 おもわず、背筋が伸びました。アリスも私の動かし方がわかってきたみたいですね。

 

 その瞬間、黒竜の翼の周りにあった魔法陣が消え、その爬虫類の身体を包むかのように、黒い炎が立ち上ってきました。

 

 ……アレは何でしょうか?

 

 そうして黒い炎が、焔が、集合し、魔法陣の形へと変化していきます。

 

「ユミファも波動持ち! 焔の波動! だから魔法陣もあんな形になるの! けど、あれは……あの感じだとあたし達を四百年間閉じ込めた封印魔法じゃないわね。ユミファのユニーク魔法、雪崩魔法! あの焔型魔法陣に少しでも触れたら何もかもが雪崩れる! そうしたら人間は水晶化して終わり。封印魔法なら後に復活もあるかもしれないけど、あっちだと喰らったらハイそれまで!」

「即死系!? 言ってる意味はよくわからないけど、この結界は大丈夫なの!?」

「そのための結界魔法! あんなの結界魔法じゃなきゃ防げない! もう! ユミファ! 図体ばっかでかくなって! 魔法の威力はせいぜい昔の二倍か三倍ってところね!……ティナ! 氣を強く持って! あたしの魔法はティナのおかげで勇氣百倍! とまではいかないけど、たぶん三十倍くらいにまではなってるよ! これなら対抗できる!」

 

 おおう、それはまたゲームだったらバランスブレーカーな倍率ですね。ナーフ待ったなし。いや今ナーフされたら困るけど。

 

 空間を割るかのような雪華模様。それを叩き割らんとする黒炎に包まれた竜。

 

 雪華模様越しによく見ると、黒炎の中から、小さな焔型魔法陣……なんか見た目、焼けた鉄の鎖みたいですが……が大量に発射され、雪華模様に当たっては消え去っています。

 

 結界は、焔型魔法陣が当たるたびに、その部分の雪華模様が輝き、次々と剥げていきます。このままでは全部剥がされるのでは? と最初は危惧しましたが、どうやら結界の再生速度(?)の方が上回っているのか、それ以上の変化は起きないようです。

 

「グギャアアアアアアアアアアア!!」

 

 しばらくその攻撃は続いていましたが、やがて黒竜も、この結界の前ではそれが無駄と氣付いたのか、怒髪天衝(どはつてんつ)く感じで一度咆哮した後、翼を広げ、少し上空へ昇っていきました。

 

 遠くなったことで、竜の姿がはっきりくっきり見えるようになります。

 

 嘘だろう……おい。

 

 さっきまであんな巨体が、この小さな雪華模様でできた魔法のシェルターを押し潰そうとしていたの?……そんな感想が自然とでてくるくらい、それは圧倒的な迫力と質量を持っていました。

 ちょっとしたビルが、そのまま空中に浮いているみたいな感じです。

 

 パザスさんと同程度のサイズ……と予測していましたが、一回りくらいは大きく見えます。

 

「アリス……この結界って、重量すら防ぐの?」

 

 いくら固い結界であっても、固いだけなら、あんな巨体に圧しかかられて、押しつぶされないわけがないです。

 そういえば、アリスのツインテールも特には乱れていません。竜の下降突撃の際、振動で揺れているのが見えた氣もするのですが、乱れるというほどには乱れていません。

 

「物理的、魔法的な干渉なら全部防ぐよ。熱もね。……強度がもてばだけど。だから完全に球形で蔽っちゃうと音も遮断するし、そのまま閉じ込もってたら息も吸えなくなるかも。今は傘状に展開したけどね」

 

 ファンタジーだー。

 

「次! ドラゴンブレスがくる! 今度は全方位を守らなくちゃいけないから球形に展開するよ! 何も聞こえなくなるけど、怯えないで!」

 

 見れば黒竜が大きく息を吸い、鎌をもたげています。

 

「え、でも今、球形の結界は息も吸えなくなるって」「ずっと中にいたらね!」

 

 その瞬間、下から持ち上げられたような感覚がして、世界が闇と静寂に呑まれました。

 

「ひゃっ!?」「ぐえ!?」「落ち着いて! 今あたし達は結界の中にいる!」

 

 サーリャの頭頂部が私の後頭部に当たった氣がする。いったーい。

 なんか薄暗い中にいるのに、視界が白く光っているような感覚がします。

 

 重力も多少遮断されているのか、足元がふわふわします。

 周りを見ると、鈍く七色に光る無数の雪華模様が、私達の周りをドーム状に(うごめ)きまわっていました。

 その数があまりにも多すぎて、外の様子がわかりません。

 

「アリス! これって外の状況わかってるの!?」

「大丈夫! あたしには少しだけフィールドバックされる! ドラゴンブレスとさっきの魔法、両方を喰らっているけど、この調子ならあと10秒もしないうちに終わる! ()()()()()()……終わった! 周辺を冷却したら結界を解く!」

 

 程なく、結界は消え、星と月明かりに照らされた世界が戻ってきました。

 ですが……。

 

「な、なにこれ!?」

 

 周囲の岩場が、先程からその姿を一変(いっぺん)させています。

 空からの光だけでなく、地面が光っています。

 

「ここらの岩場は元は溶岩だったみたいね。ドラゴンブレスで熔けて、あたしが冷却したから固まって割れたんでしょ」

 

 周辺の岩場は、それはもうドロドロのグチャグチャの紋様を描き、そこらじゅうがひび割れてました。私達が立っている場所の、半径一メートル程度の地面だけが無事です。逆に、少し遠くの方は冷却が間に合わなかったのか今も一部が赤く白く光っていました。

 

 ところどころの岩や石は、赤系統の様々な色に光っています。ピンクやオレンジ、それから薔薇色や深紅にも光っていました。どのような温度に曝されれば、このような光景が生まれるのでしょうか?

 

 その景色を見ていると、なんだかこう……頭の中がチカチカとして、眩暈がしてきます。

 

 世界が下から上へ、ずっと回ってるような感覚があります。ずっと回っているとしたら視界がおかしなことになりそうですが、そういうわけでもなく、ただ延々と回っている……前世の知識でいうと三半規管が? 狂ったような感覚があります。

 

 ともあれ、これがドラゴンブレスによってもたらされた光景なのだとしたら、その威力の凄まじさが窺えます。それを防いだ結界の防御力もですが。

 

「ギィアリィィィイイズウウウゥゥゥ」

「ユミファ! 相変わらずあったま悪そうね! 四百年間なにしてたの? 貴女! そんなだからティアに騙されたのよ!?」

「え、私騙してなんか」「ティナじゃなくてティア! もうっ! ややこしいわね! ティナのことアナって呼んでいい!?」

 

 それはやめてください。穴なし小町でいたいです。ありのままの自分でいるより男に戻りたいです。レ●ゴー歌いません。

 

 ……ってティア?

 

「ティアって、九星の騎士団のティア?」

「あんなやつ裏切り者で十分よ!」

 

 ……なんかここにも人類史の闇がありそうですね。

 色々考えたいところですが、どうにも頭が働きません。世界が回り続けています。

 

 おまけにクラクラする……なんだこれ。

 

「ちょっとは賢くなってて、話が通じるかなって期待してたけど、それも望み薄のようね! ユミファ!!」

「ワガゴノガダギィィィィ」

 

 ……我が子の仇?

 

 氣になるワードがどんどん飛び出してきますが、どうにも整理がつきません。

 

「だから違うっての! 確かに私達はエンケラウを殺した! でもそれには事情があって……だー! もー! 話聞けって!」

 

 あ、アリスさん、アリスさん。その言葉の順番じゃダメですよ。

 

「グゴァァァ!!」

「ちょっ!?」

 

 だってほら、確かに私達はエンケラウを殺した、の時点で竜さん、沸騰しちゃって、そこから先の言葉聞いてませんもの。

 

 ほら、オタクのそれとは違う方向の中二病によくあるじゃないですか、話の内容じゃなくて、使われた言葉にだけ反応するってキレ方。おう、ワレやんのかオラ? バカかオラ? 誰がバカじゃオラ? バカバカ言う方がバカなんじゃオラ、やんのかオラ? てめーだってバカバカ言ってるバカなんじゃねーのかオラ、やんのかやんねのかどっちなんだオラ?……みたいな。いやとっとと殴りあい始めろよっていう。

 

 文脈で意味を捉えられない人……ユミファさんは竜ですが……には、相応の話し方があるんですよ。力で勝てるなら肉体言語でもいいのですが。

 

 そんなわけでキレてしまったユミファさんは、今度は、喉元に巨大な魔法陣を顕現(けんげん)させています。

 

 あー。

 

 前言撤回。肉体言語ダメ、絶対。

 

「蒼炎!?」

 

 すると黒竜の身体を包んでいた黒い炎が、青く、蒼く、変化します。

 

「……あれってどうなるの?」

「知らないわよ! 封印魔法でも無いわ。四百年間で新しく身につけた魔法かも……」

「えー」

 

 と、竜の体に魔法陣の黒い線が貼り付いていきます。

 

「……ん?」

 

 なんかアレ、つい先程別視点で見ましたね。ファーストパーソンな視点で。今度はそのサードパーソンな視点です。FPSはたまに酔うのでTPSの方が好きでした。意図せぬ酔いって嫌ですよね、まぁ私は今まさにそんな体調ですが。

 

「えええ」

「アリス。あれってまさか……」

「自分自身を生体魔法陣に!? でもそんなの大して意味が……あの巨体ならある?……そういえば竜って、元々の脳では制御しきれないほど身体が巨大化すると、新しい脳を身体のどこかに増やしていくって聞いたことが……ああっ! なら意味あんじゃん!」

 

 アリスがなにを言っているのかはわかりませんが、このままだと、なにやら私とユミファさんがペアルックになってしまうっぽいです。ってことはあの黒い身体も銀色に光るんでしょうかね、ブ●ー●イズなドラ●ンになっちゃうんですかね。あそこは版権に厳しそうなので勘弁してほしいです。思わず伏せ字の●が過剰になってしまったではないですか。でも●ー●って書くと微妙に法務部最強のところの電氣ネズミっぽくて、更にヤバさが増した氣がしないでもないです。●●●だと字間次第では超大国の法律すら我が物とする最凶にヤバいネズミにもなりそうです。版権包囲網。世界って生き難い。

 

「やらせない!」

 

 ぽわん。

 

 それにしてもこの、アリスが私を通して魔法を使おうとすると発生する、ポワポワホワホワは何の副作用なんですかね。不快さはそこまででもないのですが、暖かさに思考が阻害されるもどかしさと、意図しないところで自分の感覚を支配される、若干の怖さがあります。まぁもうアリスを信じて耐えるしかないのですけど。

 

擺脱(はいだつ)魔法!」

 

 アリスの叫びと共に、雪華模様のシェルターが消え、私の胸元から光の筋が竜に向かって発射されました。なんか難しい単語が使われていますが、要は何かを除去する、取り除くという意味です。日本語的には「はい、脱衣」と覚えてもらってもいいです。いいのか?

 

「いっけぇ!」

 

 そうして私の胸元から伸びた何本もの光は、竜の体にぶつかると面に広がり、竜の身体を覆っていきます。

 

「グヌ!?」

 

 ……よく見ると光の筋は、DNAモデルのような二重螺旋の形をしています。

 少し遠い上に、眩しくてよく見えませんが、その形状は竜の身体の上でも維持されているようです。小さな、光る橋の欄干のようなものが竜の身体を這っているようにも見えます。

 

「なにこれすっご。魔法陣が消えてく。擺脱魔法って、魔法陣の意味と意義を一部欠損させて無意味化するだけの魔法なのに、全消去になってる」

「グギィィィガァァァ」

「あーん。でもここからどうしよ。束縛魔法とか睡眠魔法は陽の波動ではあんま強化されないはずだし、ってかそんな時間はないし……うーん」

 

 うーん。

 

 この辺で私、氣付きましたね。

 クイズです。私は何に氣付いたでしょう。答えは一秒後。

 

 えっとね。ここまでアリスが使った魔法って、照明魔法、防御魔法、敵の強化解除魔法でしょ?

 

 で、検討した手段が束縛魔法と睡眠魔法でしょ?

 

「……アリス。アリスは、もしかしてユミファを倒す氣がない?」

「はぁ? そんなわけないでしょ。ぶっ倒すわよ」

「じゃ、殺す氣はある?」

「……」

「攻撃的な魔法、全然使ってないよね?」

 

 アリスのその軍服っぽい上着の、胸の黒い宝石をチラ見しながら言いました。

 その黒い宝石のブローチ……もしかしたら……そういう意味?

 

「……なによ、悪い?」

「悪い悪くないじゃなくて、アリスの覚悟を聞いてるの。私を通して攻撃的な魔法を使ったら、そのあまりの倍率であの黒竜……ユミファさんが即死してしまうかもしれない……もしかして、それを恐れている?」

「……あたしにユミファを殺せって言うの?」

「言わない。だから覚悟を聞いてる。その氣があるならここで戦いを続ける。でもアリスにその氣がないなら、ここで戦うよりなにか違う方策を考えないとダメ」

「……あんなお兄さんでも、身内を殺された仇は討ちたいわけ?」

「そんなことは言っていない。話を逸らさないで。アリスは今、ユミファを殺せる? 殺せない? これはすごく重要なこと。答えて」

「この国の兵士がたくさん殺されたんだもんね、やっぱりティナは、ユミファを殺した方がいいって思うの?」

「……大体もう、この時点でアリスの氣持ちは理解できちゃったけど、ここはちゃんとアリスの氣持ちを言葉にして言ってほしい。みんなの命がかかってる。……ユミファさんのも」

 

 目を逸らそうとするアリスに、私は強い言葉で問いかけます。

 

「アリスはユミファさんを殺せる?」

 

 その言葉に、アリスは顔を逸らしながら答えました。

 

「……ろせない」「ハッキリ言う!」

「殺せないよ!」「わかった」

「え?」

 

 戸惑ったような瞳に、私は頷く。

 

 戦闘中に長々と会話するわけにはいきません。敵は待ってくれませんからね。

 

 アリスがどうしてユミファを殺せないのかなんて、今は考えてる暇がありません。

 アリスがそう答えた以上、やるべきことはここにいる全員が……黒竜をも含め……死なないよう、立ち回るだけです。

 それをするのが、この戦闘を始めてしまった私の、責任です。

 

「ならアリスがこれから考えるのは、戦うことじゃない、逃げること。まずは本陣とは別の方向にユミファさんを誘導しよう。今はそれ以外のことは考えないで。ここからの絵図は私が考える。私達は死なない。ユミファさんも殺さない、これ以上殺させない。その後のことはパザスさんが合流してから考えよう。そういう絵図を描くから、アリスはどうすればそれを現実にできるかだけ考えて。……全てが終わって、それがアリスの満足のいかない結果だったら、私の全てをアリスにあげてもいい」

 

 アリス専用、生体魔法陣として一生こき使われてもいい。そういう意味を込めて私は言い切ります。ここは自信満々に言い切らなきゃダメです。オールチップ一点賭けです。

 

 アリスはその言葉を聞いて、一瞬キョトンとした顔をしましたが、すぐに意味が頭に浸透したのか、なにやら真っ赤な顔で「そ、そんなのいらないわよ! バカ!」と返してきました。なんか別のこと想像してないか少し不安ですけど、まぁいらないというならいいでしょう。ただ働きさせてやりましょう……ふぅ。

 

 ……くそ、ちょっと氣を緩めると頭がボーっとする……フラフラするな。

 

「アリス。今は私の言うままに。まずは本陣から逆の方に、つまりは月の無い方向に、ユミファがギリギリ追いつける位の速度と距離で逃げる。そのための魔法、お願い」

 

 言っておくけど、ここに私とサーリャだけ残して、自分が囮になるような真似は許さないからね……と強く言うと、アリスは一瞬だけ、泣きそうな顔になりました。

 

 と、その片手が上がり……。

 

「ぁひんっ!?」

 

 後ろで例の高速蒸発音がしました。再び、ユミファが魔法を撃ってきたようです。アリスはそれを、結界魔法で難なく防いでいるようです。何かを考えながら、器用なものです。

 

「だーかーらー! 変な声出さないの!」

 

 でもこれを防げるのは、私という魔法ブースターがあるからです。

 アリスひとりでは防げないのです。

 

「……サーリャ、高いところ平氣?」

 

 やがてユミファの魔法が止んだタイミングで、アリスは決意したようにサーリャへと問いかけます。なるほど、逃走経路はそっちね。私へは……ああ、もうパザスさんに初めてを奪われちゃってたからいいやって感じか……高所飛行の初めてを。

 

「……はい?」

 

 つまり、どうやらアリスにも空を飛ぶ手段があるようですね。それはよかった。

 

「でも飛翔魔法って制御が意外と難しいのよね……三人飛ばすならティナの助けが要るし……制御に失敗したら空中で爆散コースだし」

 

 なにそれおっかない……っと。

 

「アリス! またユミファが!」

 

 こっちの防御魔法……結界魔法が無くなっているのを見て取ったのか、黒竜が再び下降してきます。しつこい。こっちが話してるうちは襲ってこないってお約束、知らないのかな? あれってむしろ、シリアスな物語の敵役の方がちゃんと守ってくれますよね。ギャグ作品では、ちょいちょいそのお約束を破ることを笑いに繋げていたりしますけど。

 

「もう! ウザ!」

 

 ぽわん。じゅわん。

 

「あふっ」「耐えて!」

 

 なんか過程が段々と減っていってる感じで、再び雪華模様の結界が顕現します。

 

 そして再度の衝撃。こんな、とても小さな雪華模様がたくさん集まっただけの障壁で、小さなビルほどもある巨体がとめられてる光景は、何度見ても心臓に悪いです。重量とか重力とか慣性とかは、本当にどうなっているのでしょう。

 

 私の頭も、何度も何度もぽわんからのポカポカを喰らったことで、本格的にボーっとしてきました。お風呂でのぼせるみたいな感覚でしょうか。そろそろ思考に支障がでそうです。

 

「……ねぇアリス。この結界をそのまま空に飛ばすことって、できる?」

 

 イメージ的にはウォーターバルーンとかゾーブですかね。

 真っ暗なのは困るので、少し穴は開けてもらいますが。

 

「あ……ううんだめ、これだと魔法的干渉そのものまで防いじゃう。でもそっか……直接人体を浮かすんじゃなくて、何か乗り物に乗って、それを浮かすなら、荒い制御でもなんとかなる。幸い、パワーだけならティナブースターでなんとかなるし」

 

 ……なんかえらい固有名詞が聞こえた氣がします。

 

 まぁいいでしょう。なったるよ、ブースターでもエンジンでもモーターでも。はふ。

 

 黒竜は、ただの突撃ではやはり効果がないと悟ったのか、再び天に昇っていきます。

 

 結界魔法が消え、私の髪がまた黒に戻ります。

 あー、涼しい。大きく息を吸ってー、深呼吸。

 

 はふん。

 

「でも、乗り物って? 馬ならさっき開放しちゃったし、そもそも生き物じゃ、ダメなんだよね?」

「幸いここは岩場。熱で溶けるのも実証済み。だから材料なら足元にいっぱいある。溶かし固める熱操作も今だけは充分余力がある。超強力ヘアアイロン魔法ってね」

「へ?……んくっ」

 

 ぽわんと。再び私に魔法が通され(?)ます。

 するとなにやらアリスの足元の岩に、白い線のようなものが走り……一瞬溶岩のようにどろっと光り……すぐに消えました。

 

 アリスはそれを何度か繰り返します。

 

「あひゃ、うひゃ、ふひゃ」

「もー! いちいち声を出さないでってば!」

 

 ごめん、あのっ。

 

「ちょ、ま」

 

 ちょっとまって。

 

「ごめんね、耐えて」

 

 これダメ。

 

「うー」

 

 のぼせる。

 

「もうちょい!」

 

 頭フットーしちゃうぅぅぅ。

 

「はひゅ!!」

「はい。おしまい」

 

 (ようや)く視界に黒髪が戻ると、そこにあったのは……えっと……なんでしょうか、これ。形容がすごく難しいです。現在、頭がクラクラなのでいつもの十倍増しに難しいです。強いて言えば大きなブラックカラーのカヌーでしょうか。全長は五メートルくらい。あるいはすごく大きくて真っ黒で、表面が複雑に隆起している大きなバナナの、曲線の内側に、なんか人が入れるスペースを造ったっぽい感じ?……の乗り物?……だよね?……という、もうなんだか疑問符だらけにせざるを得ない、何かでした。

 

「乗って!」

 

 えー。なんかこれ下手したらモザイクが入る形状ですよ……と言いたい氣持ちはあるのですが、まぁ贅沢は言ってられません。というか今はなんにも考えられない状態です。ほらあれだ、どれだ、エ●リアン? エイドリ●ン? そんなアレなH・R・ギー●ーさんのアートな造形物とでも思いましょうかねー。どうでもいいけど、ー●ーって某大作RPGシリーズの白豚みたいですクポね~。クポクポね~。我ながら頭悪いこと言ってんなー。あー。

 

「サーリャも! はやく乗って!」

「は、はい」

 

 一瞬でヘアアイロンを加熱し、冷ますアリスの技量を身をもって体験しているので、さすがに「熱、残ってないのかな?」と疑うことも無いのですが、その禍々しい形状に、乗り込むのは若干おっかなびっくりといった感じになります。おっとっと、足がもつれます。

 

「サーリャは一番後ろ、ティナを抱いて固定しておいて。私は一番前、いい?」

 

 私が真ん中で、視点的に前門のアリス、後門のサーリャといった具合になるでしょうか。

 

 まぁこれを飛ばすのも、ユミファさんが追ってきた時に迎撃するのもアリスですからね、そのポジショニングが一番いいでしょう。あ~……サーリャの天然クッション、極上だね~、この枕はおいくら万円なりや? ふー。

 

「いくよ」

「ひゃぅ」「……なんでだろ、アムンはそんな声あげなかったんだけどな」

 

 髪が銀髪になると共に、またぽわんときてポカポカが襲ってきます。

 けして不快というわけではないのですが、思考が邪魔されます。何も考えられなくなります。さっきから、頭の中ものすごくアホっぽくなってません? 私。

 

 お風呂やおコタでこうなるなら、それはとっても幸せ氣分でしょうが、今はもっと頭を働かせていたいのでもどかしいです。なんだか眩暈もしてきたような……視界がぐらぐら揺れてきたような……。

 

「う、浮かんでます、私達飛んでますよティナ様!」

「お、おおぅ?」

 

 サーリャの声に氣が付くと、黒い船(?)は無事、空に浮かび、飛んでました。

 ああなんかもうめっちゃ物理的に揺れてます。それならそれならば自分が眩暈になってたわけじゃなかったようですね。はふんはふん。そうかな? ふにゅんふにゅん。そうでもないかな? あー。

 

 原料が岩のせいか、全体の重量バランスが悪そうです。私の銀髪を含め、みんなの髪がまったく風になびいてないところをみると、少なくとも人が乗る空間の分は、なにかしらの魔法的加護があるっぽいです。この揺れも、そういうアレでなんとかなりませんかね。グラグラグラ、グラングラングラン。耐風性バッチシで耐震性バッテン。欠陥住宅かな。住宅は飛ばない。まぁ飛んでる住宅もなんかの映画ではあったっけ。フーセンのオジさん。名前はええと……。

 

 カ●ルといえばそれにつけても関西中心、関西弁でヤバイはアカン……ううっ、これマジでアカンわー、脳内の連想ゲームがいつもの倍以上、支離滅裂になっとるで。うぐぐぐぐ。

 

「ティナ、平氣? 顔が赤いよ」

「……平、氣。それより、ユミファさんは?」

「ついてきてる。こっちの結界魔法が想像以上に強力だったから、攻めあぐねてるみたいね」

「……知性がそこまでじゃない分、戦い方はー……単純だったね。爪を使った全力の、ぶ、物理突撃と即死魔法の連発、それからドラゴンブレス。それらが……全部効かないとわかると、自分を、自分自身を強化しようとした。駆け引きとか考えないで、力で押し切ろうとする……戦い方、だね」

「それで死なない敵は今までいなかっただろうからね。防げたのはティナの生体魔法陣に、このあたしの魔法があってこそよ」

「うん、アリスはすごいよ。……さす、が高等魔法使……い?」

「当然よ!……最後の疑問形はなに?」

「ティナ様?」

 

 ここで、二人も私の様子がおかしいことに漸く氣付いたようです。

 

「……酔っ払い?」

 

 いけません。ぽわぽわのポカポカ……からのグラグラのグラングランで、割と単純なアリスもだませない程、頭が朦朧(もうろう)としてきたようです。そういえば朦朧の朦って漢字、朦朧以外にどんな用法があるんですかね。無知蒙昧(むちもうまい)の蒙には月が付きませんし。耄碌(もうろく)だと全然違いますしね。まぁ耄碌するまで生きるというのは、私としてはある種憧れの領域かもしれません。うっとりします。恍惚(こうこつ)となります。最期まで矍鑠(かくしゃく)っても勿論いいですけどね。故、森繁●彌さんのように年を重ねたいものです。って、だから今それどころじゃないから……違うから……暴走しないで私……俺……私……俺……。

 

 私はまだ、この先の絵図、を、描かないと……いけ、ない……のに。

 

 はぁ……。

 

 はぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 

 ドラゴンと魔法少女とが戦い、三人の少女が離陸した、その現場で。

 

「この岩の融けかた、やはり……」

 

 小さな背の影がぼそり、呟いた。

 

 

 

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