悲劇のヒロインに転生したのでシリアスをぞんざいに扱ってみる 作:ZenBlack
<アリス視点>
ティナに惹かれてる。
それはもう自分自身、自覚できる程に。
あたしは……ママのことが大好きだった。
だけどその顔はもう覚えていない。
ママが生きている間、あたしはママを「ママ」じゃない、一人の人間として認識するには幼すぎて、あたしにとっての「ママ」は、温かくて、いい匂いがして、その胸に抱かれてると凄くホッとする、そういう存在であり象徴だった。……そんな氣がする。
後々、パザスや他のみんなに話を聞いたところ、ママはどうやら、みんなからはクール系の美人さんというイメージで見られていたようだ。
エルフらしい切れ長の目元で、あたしと同じ七色に変化する瞳をいつも冷たい色に染めていて、言葉は少なく、パパ以外には冷たく厳しい態度しか見せなかったという。……アイアだけは物怖じせず、ママにもセクハラ発言してたらしいけど……パパはそれ、どうしてたんだろ?
だからみんな、あたしがママのことを、あったかかったとかホッとしたって言うと、子供にはそう見えたのかな……と、まるで微笑ましいものでも見るかのような目でこちらを見てきた。ウザい。
でも、それでもやっぱりあたしにとってのママは、どっこもクールじゃなくて、冷たくもなくて、その体温と柔らかさに包まれていると安心できる、あったかなお布団みたいな存在で。
それと同じものを、あたしはティナに感じている。
ママは虹の波動持ち、ティナは陽の波動持ち。
どちらも光に関係する波動の持ち主。そんなに違いはない。
ママの波動の方がハッキリとした色があって、ティナの方は白くぼんやりとしている。感覚的にはそれだけの違い。どちらも眩しくて、どちらも温かくて、心地良い。
ティナにママを感じるのは、だからかもしれないし、そうでないかもしれない。
ハッキリしているのは、ティナと一緒のお布団で眠ると、凄く安心できて、凄くホッとするってこと。だけど時々……寝顔が険しかった頃は割とよく……ティナもママみたいに突然消えてしまう氣がして、すごく不安になることがある。
もう小さくて何も知らなくて、何もできなかったあの頃のあたしじゃない。
ママはエルフ最強の魔法使いにして女王。その血をひくあたしは、これでも魔法使いとしては最上級の部類だ。人間は、魔法使いが遺伝することはないらしいが、あたしはエルフの血をひくハーフエルフだ。
あたしには力がある。
だけどそれをどう使えばいいかわからない。
氣が付けば四百年が経っていた? 悪い冗談みたい。
目が覚めてから、だから本当は、なにをしたらいいか、わからなかった。
猫の姿で日中の大半を過ごしていた頃は、ティナがサーリャやミアと楽しくおしゃべりしてる姿が羨ましくて、不愉快で、よく外に出かけていた。
だけど、人の姿で過ごすようになってからは、あたしもその輪に加わることができるようになった。
ママが死んでから、ずっと男共と過ごしていたあたしには、それが新鮮で、楽しくて。
ティナの部屋でみんなと一緒にはしゃいでいられることが、本当に幸せで。
なにか失ったものを取り戻したような氣がして、嬉しくて。
そうして夜にはあったかなティナと一緒に眠って。
ぬくぬくして。
あの部屋は、あたしの陽だまりみたいだった。
あたしはティナに傷を負わせてしまった。
油断してたあたしを、ルカのカケラから守ろうとして、お尻に大きな傷を負った。
あたしはその傷をキチンと、綺麗に治すために、ティナについてきた。
だから、それを完全に治し終えたら、あたしはこっそり、ひとりで旅立つつもりだった。あたしはひとりでも生きていける。それだけの力がある。そう思っていた。
だけど考えてみたら、あたしは人生の中で、一度たりともひとりになったことがない。
パパとママがいなくなっても、パザスや仲間がいたし、封印から目覚めたあとも、ティナやサーリャ、
それを思い出したら、旅立つ勇氣はもうどこにも残っていなかった。
ティナは貴族令嬢。
いつかどこかへお嫁に行く。
そうして子供を産んで、本当に、自分で産んだ子供達のママになって、きっと幸せな家庭を築く。ティナの家族なら、それはきっとあったかで、お布団みたいな家族なんだ。
でもそこに……あたしの居場所はない。猫のままなら、もしかしたらずっと一緒にいられるかもしれないけど……それだと今度は……あたしがナニカを我慢できなくなりそうだ。そのナニカがなんなのかは、わからないけれど。
あたしはいつかティナと別れる。
別の人生を歩んで、ティナはあったか家族の中に、あたしはさすらいの旅に……そんな風に人生が分かたれてしまう。
それは当然で必然で、全然当たり前のこと。
だけどいいんだ。
それでもいいんだ。
今だけはまだ、ティナはあたしの陽だまりだから。
もうすこしだけ一緒にいさせてほしい。
いさせてほしいの。
まだ……いいよね?
「ユミファを、今度は逆にアリスが何かしらの手段で封印する。そういうことはできないの?」
「……無理」
揺れる船の中、ぐったりとサーリャの胸によりかかるティナの姿を見ながら、あたしはそう答えた。
なぜなら。
あたしは、あたしとパザスを封印した魔法の原理がわからない。
ユニーク魔法。
それはたったひとりの魔法使いだけが使える、その人固有の魔法。
竜は個体ごとに、何かしらのユニーク魔法をひとつやふたつは使う。ユミファもその例に漏れない。人間を水晶化させる……パザスは難しい言葉で相転移魔法と呼んでいる……雪崩魔法、そしてあたし達を四百年間閉じ込めた封印魔法、それらはユミファのみが使えるモノで、他の誰にもその理論や理屈はわからない。
あたしの魔法の知識は、そのほとんどがパザス達からの受け売りだ。
パザス達は、エルフと戦った経験が豊富にあって、その戦いの中で得た知識があたしに引き継がれている。
魔法とはな、アリスよ、物理とは違うルートから行う、この世界への干渉なんだな……アイアの渋い声が脳内に再生される。あたしにもよくセクハラ発言をして、時にオシオキされていた面白おじさんだったけど、下手したらパザスよりも切れ者なんじゃないかって思うこともあった。
魔法とは。
魔法とは、空間を『マナに触れられる手』で高次元的に捻じ曲げ、光の干渉すら阻む真っ黒な魔法陣を組み、三次元的物理空間の法則や定理を超越した現象を引き起こす……モノらしい、アイアの話だと。
ママの魔法陣は虹色に光ったというし、ティナがもし魔法を使えたら、その魔法陣は陽の波動の影響を受け、白く光り輝くかもしれないけれど……とにもかくにも、魔法陣というのは世界の断層そのものであって、魔法とは世界を歪めることに他ならない、とかなんとか。
あたしには、高次元とか三次元的物理空間なるものの意味はよくわからない。
魔法により得られるエネルギーは三次元的物理法則を超越すると言われても……なんのことやら。
あたしにわかるのは、この世界は、あたしの目や鼻や耳だけじゃ、その全てを認識できなくて、魔法は『マナに触れられる手』で『認識外の世界に触れる』ことにより発現するモノだってことだけだ。
そういえば、アイアはこれを、
曰く。
紙に鶴を
この時、紙を二次元的にしか『認識できない』存在がやれることと言ったら、紙の上に鶴を描くことだけだろうな。
だけど、紙を三次元的に捉えられる俺達なら、こうして……と器用にもアイアは紙を鶴の形に折って……紙を鶴の形にすることができる。
この鶴の折り紙だって、二次元から見れば「魔法」なのさ。
つまり、俺達よりも高次元を『認識できる』存在には、こうして世界そのものを折り曲げ、歪め、別の形にしてしまうことができるんだな。つまりこれが、俺達の知る魔法の正体ってヤツなんだろうさ。そら、元は二次元だった鶴が今、三次元を飛ぶ……アイアはそう言って折り紙にふっと息を吹きかけ、紙の鶴をほんの少しだけ前に飛ばした。ウザい。
三次元より上の次元、高次元。
意味は良くわからないけど、それが『認識外の世界』で、即ちこれが魔素、マナ。あたしはそう理解している。
魔法の難しさは、この『認識外の世界』が、どれだけ『あたしの認識』から遠いかによる。遠ければ遠い程、世界変革に係る工程はややこしく、多層的に、複雑にもなっていく。
例えば『熱』は『あたしの認識』から、すごく近いところにある。
それは手を……『マナに触れられる手』を少し伸ばせば簡単に干渉できるもので、例えば水を沸騰させるなどは一瞬でできる。
これはほとんどの魔法使いがそうであるらしく、熱変化は魔法使いの得意とする技能、なのだそうだ。
例えば『自分の命』は近い。回復魔法は、自分限定で効果が十倍にも百倍にもなる。
例えば『他人の命』は遠い。
それは、物理的には目の前にいる人であっても、魔法的には、遙か遠くの彼方にまで『手』を伸ばさなければ触れられない。だから他人への回復魔法は難しい。
だから逆に、他人の肉体内部を魔法で直接攻撃することも難しい。人間は、平熱から一、二割増し体温が上がっただけで死亡するというけれど、他人の体温をそこまで上昇させるには、あたしでもおそらく数分はかかると思う。それも相手が全く動かない前提の上でだ。そんなことをチマチマするより、『他人の命』の適応外、つまり敵の近くに炎魔法で炎を生み出し、それをブチ当てる方が遥かに楽でいい。
睡眠魔法だって、他人の肉体に直接変化を起こしてるわけじゃない。顔の周辺の空氣を、「人を眠りに落とす空氣」に変えているだけ。もっともこれはあたしの手法で、前線基地に使われたとかいう、マジックアイテムの原理は違うのかもしれないけど。
呪い、呪術系統……他人の命そのものを利用した魔法……は例外だけど、そっちは残念ながらあたしが詳しくない。とはいえ……ユミファの封印魔法は、私やパザスの生命力を吸ってもいないから、呪いでもないと思うのだけど。
総じて、自分以外の生命が宿る肉体は「遠い」。
他にも、例えば『時間の流れ』は遠い。時を操る魔法は、ママでも使えなかったらしい。どうしてなのかは……知らない。パザスは、時は生き物にとってつまり心臓の鼓動、定められた寿命、そういうものに等しいのだから、それはつまり『他人の命』となんら変わらないものなのだよ……とかなんとか言っていたけど、あれはたぶんオッサンのロマン。ウザい。
それを踏まえて。
ユミファが私達に施した封印魔法。
これは『非常に遠い』上に『どちらの方向に手を伸ばしたらいいかもわからない』。
人を水晶化させる雪崩魔法の方だって理解できないけど、これはもっと酷い。
推測だけど、雪崩魔法は多分あれだ、あたしの睡眠魔法に近いなにかだ。炎魔法と同じように、『他人の命』そのものに干渉するのではなく、人を水晶化させる理外の『
けど……他人を鉱物の中に閉じ込めて、四百年間もその時を凍結させるって……なに?
これはもう完全に『他人の命』に干渉していない? 『時間の流れ』に干渉していない?
原理がさっぱりわからない。まぁ、あたしが使用してる魔法のいくつかも、原理がわかって使っているわけじゃないけど……。
人外の思考ゆえに辿り着いたロジックなのか、平均寿命三、四十歳程度の狼の獣人、エンケラウを育てた竜ゆえに欲した、二人の寿命の差を埋める何かだったのか、それはわからない。でも、どちらにせよ、それを理解し行使することは、あたしにはできない。
そういうことを、あたしは簡単に、サーリャに聞かせてあげた。
……なによその目、あたしにだってできないことくらいあるわよ。
ただ。
「だけど、反射魔法なら可能性がある。あれは陽の波動と相性がいいはずだから、ユミファがあたしをもっかい封印させようと、同じ魔法を使ってきたら、それを反射させてユミファに食らわせることならできる」
「でもそのためには……」
「あたしを殺す氣マンマンのユミファに、もう一度封印魔法を使わせる必要があるね」
そんなの無理でしょ……って続けたけど、それでもサーリャはティナを抱きしめながら、思考するのをやめようとしなかった。
サーリャに抱かれているティナは、いつもとはまるで違う姿になっている。
ぼんやりと光る、銀色の線が縦横無尽に走る身体と、同じく銀色に輝く髪。上氣して薄いピンク色に染まった肌、閉じた瞳。普段とは全然違う姿のティナを、サーリャは普段通りに抱きしめている。
なんだかんだで……サーリャも変な人だ。年下の、同性であるティナを信奉しているようにも見える。身分が上、雇用する側、されている側というのも勿論あるのだろうけど、ティナには大体敬語で接するし、その割にティナが着て脱いだ服をクンカクンカしてたりする。変態。
そんな変態……もといサーリャの姿を、なにというわけでもなく眺めていると。
「……ボソルカン様の頭部についてですが」
……しばらくして、よくわからない方向からの質問が来た。
「ん?」
「アリス達が抜けた後の宝石は私も見たけど、あれって
「……あれ?」
ちょっと引っかかっていたんです、とサーリャは続ける。
「同じ竜からの攻撃、という点で納得していましたが、アリスから魔法について色々聞いてみると、それはおかしいことに氣付きます。人を石に変える魔法、それとアリス達を封印した魔法、このふたつは別系統の魔法なんだよね?」
「……あ」
「なのに、中途半端に共通点がある。これはどういうこと?」
「……あれ?」
中のあたし達が抜けると変色効果、アレキサンドライト効果も失われ、ただの半透明のピンク石となってしまった宝石。
死の形をそのままに残した、青い、変色効果の残る石の彫像。
もしそのふたつがまったく同じ特性の魔法なら、彫像も、実はまだその中に生きている人を含んでいて、中の人が抜ければそれもただの石になる?
そんなバカな。
ユミファの魔法は、だから突き詰めてしまえれば『焔』。
炭が、どうやっても焼く前の原木の形に戻るなんてことがないように、ユミファの
だからアムンは生き返れなかった。
……だけどあたしとパザスは四百年という時を経て復活した。
だからこのふたつは全然別の魔法であるはず。
あたしはそう判断していた。
何かが繋がりそうで繋がらない。
もどかしい焦燥感があたしの背中を撫でている。
あたしの星座である鍵尾宮、山猫座の物語、その主人公は。
生まれた時から曲がっていた自分の鍵尻尾を、自分へ鎌をもたげ襲ってこようとする蛇と勘違いして、それから逃れようとその生涯をずっと走り続けた猫だ。尾から逃げ、野山を疾走し、力尽きては眠り、また走っては逃げ、逃げ続け、やがて空へと昇りつめた山猫だ。そしてそうなってさえ、なおも自分の尾から逃れようと天を走り続けている、
もしかしたらあたしはその猫と同じように。
何か、大きな勘違いをしている?
その時。
「う……ん……」
その時、ティナが、睡眠魔法で寝ているならしないはずの、大きな身じろぎを……した。
<復活のアナベルティナ視点>
意識が覚醒する。
体内に
【なるほど、チートのオマケだった波動が、そのように作用するか】
なにが。
頭を通り過ぎていった、ある種の懐かしさを覚えるなにかの思考に、ぼんやりとした疑問が浮かび、消える。
【健康な身体に二人分の魂。脳も健康であるがゆえに、きっちり二人分の魂を働かせている。だが身体はひとつ、ならば思考は一本化していなければいけない。その
今のは私の思考? ううん、それにしては違和感。
十数年前に、聞いた声のような、そうでないような……。
【波動が陽の属性を帯びたのは、年若くして果てた魂の希求ゆえにか。娘の魂が死の属性を帯びていたゆえに、どちらが勝つかは見物でしたが】
私はあの時、なにをされた?
私はこの時、なにをした?
【娘の魂は、生きたいと願う男性のその思考、指向、嗜好の影響を受け、だが女性の肉体に育つ魂として、きちんと成長している。もはや当人が思うほどには、男性性と寄り添うことへの抵抗は、精神的にも、生理的にもないでしょう。今より二年と少し先の、死の男と出会う運命。さて死の属性から生の属性へと転じたこの存在は、それをどう受け止め、どう反応し動き、何を成すのでしょうね。死と死が結びついたゆえに起きた悲劇、運命はそのままに、これは生と死の出会い……本来の運命と同じように死の男を受け入れるか、それともはなっから拒絶して違う道を行くか……この時点では、どちらとも判断しかねますね。シミュレーション不能の不確定要素です。これが観察者効果というモノなのでしょうか? それともシュレーディンガーの猫? ふふっ、これは、これもまた、大いに
私は何者か。
(私は何者なの?)
私とはなんであるのか。
(私はどうして生きているの?)
【娘の魂、これの元々の弱さ、儚さ。対照的に強く、長く生きようとする年若くして果てた魂。このふたつがぶつかる時、身体に異常が起きる。生体魔法陣として使われることでも、陽の波動の活性に娘の魂が耐えられない。なら……】
私は、何を期待されているのか。
(私はなんのために生まれてきたの?)
私はどうすればいい。
(私はこれからどう生きていけばいいの?)
【今はしばし、そのまま眠れ、娘の魂よ。闇の苗床となるはずだった悲劇のヒロインよ】
私はどうしたい。
(私は)
曖昧な、答えのない疑問が泡のように、人魚姫の
それは暴走する思考を、脳が無理矢理に抑え込んでいるかのようでもあった。
「……ティナ様?」
「……あ、サーリャ」
「え?……う、嘘でしょ!? 数時間は目覚めないくらいの魔法をかけたつもりだったのに!」
「ティナ様!」
【メアリー・スー。それが今回の、私共の署名】
「……え?」
視界に映る自分の髪は、相変わらずの銀色。
身体も相変わらずポカポカのふわふわで、ポワポワのふわんふわん。
意識は浮上してきているのに、肉体はどこかへ落ちていっているような……そんな相反する感覚があります。
それでも、先程までの強烈な忘我は消え失せています。
お風呂でのぼせている……というより、今は適温のシャワーを浴びているかのような感覚です。湯に浸かり、それへ溶けていく……そういうことではなく、水の粒を全身に受け、浴びて、むしろ
「ティナ様……」
「あ、サーリャ、おはよ……う?」
後ろからぎゅっと抱しめてくるサーリャのやわやわな身体に、私の身体もじんわりと安心感で満たされていきます。安心できる場所に戻ってきたような、そんな感じ。
心が落ち着きを取り戻していくのが、よくわかりました。
「ティナ様、お身体は、お身体は大丈夫ですか?」
「え、ああ、うん……」
眠る前よりずっとクリアになった頭で、周りを見渡し、今の状況を判断します。
どうやら眠らされてから、時間はさほど経っていないようです。
「……まだ追われてるんだね」
視界には眠る前と寸分違わぬ姿、寸分違わぬ距離感で船を追尾する黒竜の姿が映っています。
「うん……今そのことでサーリャと話していたところ」
そうして私は、私が眠っている間に、サーリャとアリスとで交わされた問答を、かいつまんで聞かせてもらいました。
……途中、どこかでなにかをボカされたような違和感を感じましたが、二人の表情……純粋に私を心配しているかのような悪意ない顔……を見ると、それを根掘り葉掘り聞くのは
どうやらこの世界の魔法には、物理法則とはまた違う、なにかしらのきちんとした法則があるようで、アリスの知っているそれと、ユミファの使う魔法とには齟齬がある……どうにもおかしい……そういうことを聞かせてもらいました。
「おかしな共通点がある、違うふたつ魔法……か」
先程よりもクリアになった頭で考えます。
何かが頭の中でぐるんぐるんと回転しています。
考える、考える、考える。
アリスが悲しまない未来。
アリスへ約束した未来。
それを引き寄せるために考える。
……私がしばし黙りこくり、そうして考えをまとめていると。
「ティナ。お願いがあるの」
どこか切羽詰ったアリスの声が聞こえてきました。
「……なに? アリス」
私はそれへ、上の空で答えます。
頭の中は、思考がぐるぐると回っているのです。
今はこれを止めたくない、このまま進めばなにかがわかるような氣がする。
今まで見えていて、そして見えていなかったことが、形を得て、ぼんやりしたイメージから意味のあるモノへと変わっていきます。
もう少し、もう少しで何かがわかる。
その焦燥が、私を思索の渦へと飲み込んでいきます。
沢山のフラグメントが「解答」へと収束していきます。
この逃避行を終わらせる何か。
この逃飛行を終わらせる何か。
か細い糸の向こうに繋がっている光。
それを手繰り寄せ、言葉で意味と意義を明確にする。意思の精妙化。
理解しろ。
なんとなくではダメだ。
明確な輪郭を持つ形にしろ。
「ねぇ……ティナ、こっちを見て」
「……待ってアリス、もう少し、もう少しだけ」
もう見える。
まだ形にならない何かが訴えてきている。
全てのヒントは示された。
この顛末を一番いい形で終わらせる……そのための答えはもう導き出せると告げている。
だからもう、導き出せるんだ。
答えが、もうそこに……。
「ティナ! お願いだからこっちを見て!!」
「だからなに、アリ……え?」
最適解。
そこへ私が辿り着き、
「お願いだから私を見てよ……」
見上げればそこに、色の変わる瞳をミアと同じ水色にして、そこから大粒を涙を
「もういいの。あたし、もう諦める。だからティナ……お願い、あたしに……ユミファを殺せって、命令して」