悲劇のヒロインに転生したのでシリアスをぞんざいに扱ってみる 作:ZenBlack
<???視点・二人称>
どこまで話しましたっけ?
ああ、ナハト隊長を言いくるめたら、アリスが不機嫌になっちゃったって所まででしたね。
あの後、アリスの機嫌を戻すのには少し苦労しました。だから今、今日は少し寝不足だったりします。
ご機嫌取りで寝不足とはどういう意味か、ですか?……それは
まぁ。
ナハト隊長引き込みの賭けに勝った私は、その後残る様々な問題を処理しました。
ひとつはまず、サスキア王女でしたね。
ナハト隊長と戦闘したり、諸々話してる間は、多少離れたところにいたので、こちらの会話も良く聞こえなかったと思いますが、それでもずっとオロオロオタオタしながら、こちらの様子を窺っていました。
アレ、ホントどうすればいいんだろう……今からでもアリスに睡眠魔法をやってもらって、全部夢でしたよ作戦でどうにかしますかね?……と、アフォなことを色々と考えた氣がします。
討伐隊のゴブリン化解除も、まだ道の途中でしたし、ナハト隊長の足についても、ロープで血流を無理矢理止めたままでしたから、そのままであれば壊死してしまったはずです。早期の治療が望まれました。
キルサさんが援軍を引き連れて戻る前に、やっておかなければならないことが山盛りテンコ盛りの盛り沢山でした。盛り蕎麦食べたい。海苔を大盛りにした笊蕎麦もアリ。あ、これは戯言です。氣にしないで下さい。蕎麦チート……うーん。
まぁ、ナハト隊長の説き伏せが成功した以上、キルサさんへの説明……というか誤魔化し……については、そこまで頭を捻る必要もなかったのですが、口裏を合わせる必要はありましたからね。
とりあえずは、その辺りを相談しながら、ナハト隊長の足の応急処置を……とアリスに声をかけたところ。
「ダメ、絶対、先にティナの治療」
……と、怖い顔で拒否られましたよ。
「治療?」
「忘れたの? アンタ今、ゴブリン化完了の一歩手前なんだけど」「あ」
「あ、じゃないわ! そんなになってまであたしを助けたかったんだったら、あたしに助けられて最後までちゃんとあたしを救え!」
「ごめん、何を言ってるかよくわからない」
でもそういえばそうでした。
なんだか、この時は身体の方がポカポカと氣持ちよかったので、忘れてましたね。
あのポカポカって、陽の波動だからってことなんでしょうかね。
「ティナ、べーって舌を出して」
「ん?」
「いいから早く!」
なんだかよくわかりませんでしたが、とりあえずアリスの言葉のままに、口を開け、舌をんべーっと伸ばしました。ぼくわるいカメレオンじゃないよ? お肌は絶賛変色中でしたが。
「……まだ大丈夫ね。首周りに塗った薬が効いているみたい」
「ふあひふ(くわしく)」
「ゴブリン化が頭まで回ると緑色になるから、こ、れ、が」
「ふぁお」
舌が、アリスの細い指につままれて、上下左右、グリングリン引っ張られました。
そうでしたか、んべんべ、でもいや、んべんべ、色で判るなら、んべんべ、触診する意味、んべんべ、あります? ありました?
「あ、ちがうや。ティナの場合、ゴブリン化じゃなくてゴブリンロード化ね」
「ほへ?」
「ティナ、とりあえず飲み薬飲んで。塗り薬も、ならひとり分と少しが残ってるんでしょ?」
「あー……うん。まぁ戦闘の邪魔になるからサーリャのインベントリに突っ込んできたけど」
「インベントリ?」
この時点ではまだ、サーリャは落ちたままでしたので、私は岩陰に隠してきたサーリャの元に行き、その
そんなこんなで、少しだけサーリャっぽい匂いがする抗ゴブリン化薬を服用しました。
ナハト隊長の分と思っていた錠剤がひとり分、残りましたが、それは用心のため私が翌日の朝……つまり四日前ですね……また飲めと強要されました。
そうですね、大病は治ったあとの用心が肝心ですからね。飲みましたよ。
塗り薬も、残っていた……約
一度目は、近くのナハト隊長のテントでアリスと二人、済ませました。そこには、少し前にはいなかったはずの、討伐隊副官の方……ゴドウィンさんでしたっけ……が寝台に頭までシーツをかけられ、横たえられていましたが、まぁ爆睡状態だったので、そっとシーツを戻し、氣にしないこととしました。
……ナハト隊長が囮として置いていたのでしょうね。
ってかなんでアリスもきたの? 私、身体柔らかいから背中にも手が届くよ?……と言ったら、「さっきもそう言って塗らなかったバカはどこの誰なの!?」とキレられました。ごめんなさい。
そんなわけで、そこではまたも再びの、アリスの前で全裸と相成りました。
……想像しないでくださいね?
脱ぐと肌の色がとってもアレで、おまけにあちこち黒い線も走ってて、なんだか最初の
背中に手が届くなら、あたしは前を塗ってあげようか?……と言われましたが固辞しました。全部自分で塗りました。そこもあそこもしっかりと。
……全部アリスの監視の前で。
なんかもう、まばたきを忘れたんじゃないのかって程にガン見されたので、「恥ずかしいのだけど……」と、それとなく、もうご遠慮してくれないかなー……とお伝えしたのですが、「あたしを軽んじた罰よ」と言って聞いてくれませんでした。えー。
なんですアレ、軟膏プレイ?
あのオシ●アなる製品を生み出した小林●薬ですら直接的な命名を避けた、悩める女性の味方、第二類医薬品だからドラッグストアとかで氣軽に買えるよ!……な某軟膏を使ったコレはプレイなのですかね? しくしく、もうお嫁に行けない(願望)。あ、すみません、これも戯言です。
やっぱり、私がナハト隊長を処断しなかったことについて、まだ怒っているのかなぁ……そんなことを思いながら、思わされながら、そうしてアリスに、擺脱魔法と解毒魔法のセットを使ってもらうこととなりました……裸のままで。
そしてそれに必要だからと、またあたしの生体魔法陣にしちゃうからと、大の字で動くなと厳命されちゃいました。ハードプレイ再び。……大の字がなにかって? 想像されたくないので教えません。
まぁ最初こそ、私というブースターを使えなかったので
そこからはもう一瞬でした。
銀色の自分の髪を視界に見ながら、見た目的にも氣分的にも、自分の身体がすっと清浄化されていくのがわかりました。
それでもう、見た目だけは大体、綺麗な肌に戻りましたよ。はぁスッキリ。
「……今度こそ、助けられてよかった」
呟いたアリスの言葉が、とても印象に残りました。
テントから戻ると、サーリャが目覚めていて、サスキア王女に混じってオロオロオタオタしてました。
……いや、君まで何してんのさ? って思いましたね、ええ。
「え、なにがどうしてどうなって隊長様がお味方に!? いえ元から立場上はお味方でしたけど!? ティナ様が勝った? 短剣ひとつで? えええ!?」
……短剣ひとつではなかったけどね。
物理攻撃完全耐性のゴブリンアーマーがキー……まぁこれはそんな方法を使ったと言ったら怒られそうなので言わなかったけど。アリスがすぐチクりそうとも思ったけど。
……そういえば、そこのところ、どうなったんだろう? 現状、サーリャからは、頚動脈を締めて落としたことを含めて、特に咎められたりもしていませんが……え? 女性はそういう時の方が怖い?……そうした場合の逆襲は、えてして忘れた頃、唐突にやって来るのだと?……体験談ですか?
「アリス、探索魔法を使ってくれないかな。キルサさんが近くに来てるなら、捕捉しておきたい」
「おーけぃ。全方位で?」
「んー、キルサさんがくるだろう方向だけでいいかな? そうなるとあっち」
アリスの探索魔法、その射程、効果範囲は全方位だと、前線基地全体をカバーできる程度なのだとか。つまり半径で五百メートルほどですね。ご存知でしょうけど。
ただ、これは探索する方向を狭め、限定すると、氣象条件と地形にもよるけど、倍から四倍程度に伸ばすことも可能なんだとか。最大有効範囲
……いやそこで我ならばと自慢しなくていいですよ。存じあげておりますから。
まぁ、それを、兵站ラインの下流方向へ限定して使ってもらいました。
「んー、まだ捕捉できないかも」
「そっか、ちょいちょい使ってみて。それで、次はまずナハトさんの応急処置、これは後々の面倒が減る程度でいいから、スピード重視で。それが終わったらゴブリン化対策の続き」
「待て。ゴブリン化の対策と? 既に対策があるというのか?」
そういえばナハト隊長には、そこのところの説明がまだなのでした。
そういうわけで、この説明は、アリスがナハト隊長の足の応急処置を済ませてる間に行いました。
ここでようやっと、サスキア王女を連れてきた意味がでましたね。第二王子の下のお世話以外で。一連の真実は、彼女の口からも語らせる必要がありましたからね。
「……王女殿下の様子がおかしいのはどうしたことか?」
「あー……」
まぁそれは色々とありまして。
「言っておくけど、あたしは洗脳魔法なんて使えないからね?」
「使えないんだ?」
「むっきー! だから他人に直接干渉する魔法は、大体がユニーク魔法で一般的じゃないの!」
そうでしたね、それが一般的なのは呪いの類なんでしたね。
そんな一幕はありましたが、まぁナハト隊長にも現状の共有ができたようです。
サスキア王女は隊長にめっちゃ凄い目で睨まれていました。だからといって私の背中に隠れるのは止めてほしかったのですが。
……ナハト隊長の国への忠誠心、大丈夫かな?
「……本人も反省しているようなので、とりあえずこの件に関しては、今は放置で」
してなさそうだけどなぁ、反省。まぁ正直、私はそう思いますが、被害が最小限に抑えられた以上、ある程度の罰はもう既に受けたと言えるでしょう。言えるのか?
それで、思い出しました。
「……そういえばサスキア王女の指も、完治させるとしたらどれくらいかかるの?」
「指はくっつき易いから……かかりっきりで半月程度? でも応急処置は済ませてるし、さっきも言ったけど、多少、指の動きが悪くなる可能性込みでいいなら、あとは何をしなくても、見た目綺麗に治るよ?」
う、うーん。
まあ通常、手仕事などしない、手を汚すことのないお姫様ですからね、多少手が不自由でも問題なさそうですが……。
「サスキア王女、この辺りは火山地帯なのですが……」
「はい?」
とりあえず、こちらに都合のいい方向から、提案してみることにしました。
「この辺りは火山地帯なのですが、それゆえに、もう少し男爵領に近い地域には、温泉地もあります。腰や背中に痛みがあるなどの理由をつけ、湯治ということで男爵領に長期逗留することは可能ですか?」
そうしなければ、指が不自由になるかもしれないよ……と説得。
「えっ!? えっとぉ……」
……可能とのことでした。
いずれ他国に嫁ぐ身なので……とか、母上は厳しすぎですそれに比べ父上は……とか、だいぶ余計な情報が混じりましたが、まぁそんな第三王女の話から察するに、どうも、あの王女様は、まぁどうせいずれ他国にやる娘だからと、教育もほどほどに済まされ、王は娘の我儘(勉強きらーい、教育されるの大きらーい、どうして家庭教師ごときがこの私に説教なんてしてくるの……とは本人談)を聞きまくりだったっぽいです。
おそらく強く要求すれば、父上なら許してくれるだろうとのことでした。王様ぇぇぇ。
まぁそんなこんなで、ちょっと頭のネジが飛んじゃったサスキア王女に関しては、男爵領内で経過観察中です。あの王女をどうするかは、それを見て考えましょう。
今の
「では王女殿下には、しばらく男爵領に滞在していただけるということですね」
「はい、しばらくお世話になります」
すると、アリスがそこで凄く嫌そうな顔になりました。
「……ってことは、これの面倒もあたしが見るのかぁ」
ああそうでした。
そういうわけで、パザスさん。
ワガママなお姫様のストーリーにはよくある要素です。あるんです。ええ。
「仕方無いな。じゃあ、夜眠る時、ティナの方に行っていいなら引き受ける。ティナは陽の波動だからね、あったかくていい枕なの」
とかなんとか、アリスに約束させられたせいで……ここ連日は本当に枕のようにひしとぎゅっと抱き締められてるせいで……私の方は寝不足氣味なのですが、まぁ仕方ありません。パザスさんの方からも何か言って……聞くようなら苦労しませんよね、ハイわかっていましたとも。ふわぁ。
まぁ、王女の監視は現状必須事項ですしね。髪色は魔法で変えてもらって、耳の方はボンネットで隠しています。それが自然に見える、少し野暮ったい感じのメイド服を考えるのに苦労しました。……ただの侍女風でなくメイド服にした理由? サスキア王女が、サーリャを見て、これがいいって言ったからですよ。男性にも女性にも、地球でも異世界でもメイド服は大人氣。これこそチートにしてしまっていいのではないでしょうか。あ、後半部は聞かなかったことに。
え? アリスの髪は薔薇色が自然でいい?
お父さんお父さん、娘の髪のカラーリングに文句付けちゃ、いけませんよ。嫌われちゃいますよ? 脱色で痛むから反対というならわかりますけどね。
……え? おぬしにお父さん呼ばわりされる筋合いはない? 何言ってんですかアンタ。
「それではナハト隊長の治療も、サスキア王女殿下の治療も、続きはお屋敷に戻ってからじっくりと……ですね」
「はぁ……面倒だけど仕方無いか」
「感謝する、魔法使いよ」「ティナ様のお屋敷に、お泊りできるのですか?」
「……今更だけどこの王女、なんでティナには様付けなのよ」
こんなところかな。
これで、もういいかな?
あと語る必要があること、なんかあったっけ?
……あ、ドワーフのゴーダさんですが、意識が戻らないまま保護されたので、そのまま最寄のドワーフの『穴』へと、送り届けられるそうです。はい、『穴』ってのは、ご存知でしょうがドワーフの村というか町というか、まぁ集落です。国軍の皆々様よりの「知っているのか? 聖女殿」にはガン無視でとぼけました。「わ、私は知りません、たまたまこの地に訪れていたドワーフなのではないでしょうか、意識が無いのは……黒竜に何かされたのではないでしょうか?」……こんな感じでしたかね。
そびえ立っていたミスリルの柱の方は、これも黒竜の仕業ってことにしました。もう全部押し付けちゃいました。封印竜に口無し。まぁ竜の素材は手に入りませんでしたが、代わりにミスリルが大量に手に入ったので、討伐隊の出兵は、これを戦果として成功と喧伝するっぽいです。負けられない大人の事情がそこにある。
え?
まぁ、ドワーフの秘宝の末路は、あわれそれと知られぬまま、我が国に接収された形となったということですね。わ、私のせいじゃないですからね?
ゴーダが投げ捨てたという置換のキャッツアイも、探しに行く暇はありませんでしたね。いつか発見したいものですが……箱入り娘ならぬ箱入り聖女となった私が、嫁入りまでに探しにいけるのでしょうか?
あと何があったっけ?
あ、キルサさんですが、ナハト隊長が「足を悪くしたので所属が変わる、もう今までのようには付き合えない」と伝えたところ、割とあっさりナハト隊長と別れることを受け入れてくれたそうです。男性側からの一方的な本人談ですけどね……まぁ実際は愁嘆場もあったのかもしれませんが、知りません。そんな大人な世界は、まだちょっとご遠慮したいです。キルサさんはナハト隊長を追ってはこない。それが二人の帰結点です。
……ってことをサスキア王女へ、隊長、フリーになりましたよ? とお伝えしたところ、なんだかとても複雑そうな顔になっていました。もういらないってことなんでしょうか。
まだなんかあったっけ?
黒竜の討伐隊がどうなったって?
やっぱダメ? それを語らずには終われない?
それを前提に、私、アリス、サーリャ、ナハト隊長以外の人間(サスキア王女には半分だけ嘘を伝えました)が認識した、こたびのカバーストーリーは、こうなります。
そこへパザスさん、貴方がやってきました。
睡眠魔法の魔の手からかろうじて逃れ、
求められてない? 今回の件は全てそなたが解決したようなもの?……そこでイジけられても困るのですが……。
まぁ、かつて攫い、迷惑をかけていたこともあって、赤竜は聖女の要請に応じました。応じたってことにしたんです。
で、聖女は、赤竜を伴って黒竜に戦いを挑むことにしました。いや、ですから、カバーストーリーですってば。そういうことにしたんですって話。
なお、討伐隊の隊長ナハトも、聖女と同じく眠りの魔手からなんとか逃れており、この戦いに参加します。これもしてないけど、したことになってます。
戦いの中で、ナハト隊長は足に重傷を負いますが、赤竜の活躍により、黒竜はなんとか退けられたのでした。
……とはいえ、討伐には至らず、黒竜は遠くへと逃げてしまうのですが。
そうして赤竜は、黒竜の再来に備え、男爵領の山地……ええ、ここのことです……に居を構え、聖女を守ると約束してくれたのでした。わーお。
以上、立案者……私、偽証者……ナハト隊長とサーリャと一部サスキア王女、証言者……赤竜が現場にいたのを目撃した者、すなわちキルサさんとその愉快な仲間達、でした。
……うん。
……はい。
……ええ。
大丈夫、わかっています。
すごくよーくわかっています。
これがどういう意味を持つかなんて……ねぇ?
そんな呆れたような顔しないでくださいよぉ。
しょうがないじゃない、これ以上の
パザスさんも、アリスを守るため、男爵領にいたいんでしょ?
また赤竜討伐隊なんて出されたくないでしょ?
なら、こうするしかないじゃないですか。
むしろいい案を思い付いたのなら、教えてくださいよぉ。
はい。
ええ。
うん。
まぁそういうことです。
以上、赤竜を仲間というか守護者というか庇護者に仕立てあげて、人に害を為す黒竜を撃退するに至った、凄く、えらく、とんでもなく、めちゃんこ英雄的箔のついちゃった聖女、アナベルティナ・タチアナ・スカーシュゴードがお届け致しました。
<アナベルティナ視点>
「……また、随分と波乱万丈な人生を歩んでおるの、娘よ」
そう言うない。