悲劇のヒロインに転生したのでシリアスをぞんざいに扱ってみる 作:ZenBlack
「愛しているは──月がきれいですね──とこう言います」
「ふむふむふむ」
日本語を知りたいというサーリャへ、では挨拶からと、「こんにちは」とか「こんばんは」を教え始め、「ラブい言葉が知りたいです」というのへ、ブラザーソーセキの伝説を教えていると。
『ティーナ~』
「ん?」
「アリスですか?」
「ん」
そこへ、アリスからの通信が入りました。便利ですね、念話のダイアモンド。
頭に近い部位につけていればいいとのことで、私は前髪用のヘアピンに取り付けました。
そういうちょっとした小物の加工も、裁縫チートの範囲内だったようです。もうこれ、手芸チートって言った方がいいのかもしれません。
あ、そうだ。
マーチングバンドなサーリャには、コレをバトントス。
「え?」
エンゲージリングではないよ。
ベッドの下に入れておいたエロ本、でもなくて棒状のモノだよ。
「私はアリスとちょっと通話するから、サーリャはそれをちょっとぐるぐる回してて」
「……なんですか? これ」
これはですね、
アリスとの戦闘で最終的に現れたこれは、
そもそも本来、
……なんであの隊長、アリス相手に途中まで、その状態で普通に振り回していたんですかね。アリスがモンスターにでも見えていたのでしょうか?
まぁ対大型モンスターと対人、双方に対応するための仕掛けというのは、この世界の武具には割と良くあるギミックだそうで、そういえばなんか見覚えあったなー……と男爵家の武器庫を漁ってみたところ、やっぱりありました。ヘアアイロンに不採用だった謎の棒でしたね。わっかりにくい伏線っ!
そういえばキルサさんも、同じ形状の短い槍を持っていましたね。あの時は、女性用だから短いのかなと思っていたりもしました。
「それでどしたの? アリス。なんかあった?」
『今日の、ナハナハの治療は終わったんだけど、サッスンがそっちに行きたいって言ってるんだけど、どうする?』
……とりあえず固有名詞については説明しないので、ナハナハとサッスンが誰のことを指すかについては、適当に考えてみてください。ひっかけ問題ではありません。
現在はツインテールの金髪メイドに化けているアリスが「あたしに監視を頼むってことは、なんかあったらヤっちゃっていいってことだよね?」というのへ、日々ステイを言い付ける必要が発生する二人ですよ。
「サッスンはなんて?」
『今日さ、温泉で、ティナが昔提案したっていう……バナナのオムレットだっけ? バナナと生クリームをふわふわスポンジケーキでオムレツみたいにくるんだスィーツ。それを食べたんだけどさ、あれって美味しいね』
「ああ、ま●ごとバナナ。日持ちしないのが
そんなナハナハは、まだ王国軍に所属しています。長旅に耐えられる足じゃないということで、今は男爵家にステイしてもらっていますが、ある程度回復したら足にカモフラージュの添え木でも巻いて、一度王都へ戻り、引き継ぎやら諸々の手続きをして、男爵家に戻ってくるそうです。
その際、俺が王へ告げ口をすると思うか?……と聞かれましたので、まぁ、したければしてもいいよと返したら、なんだかとても変な顔をしてました。
『それで、サッスンは美味しかったからティナにお礼が言いたいんだって。あとスィーツ談義がしたいみたい』
「礼は山崎さんに言いねぃ」
『誰よ山崎さんて』
「春になると、よくパン祭りをしているところ」
『パン祭り?』
ねぇ?
だってねぇ?
どうして魔法使いが、人間の国で排斥対象になっているのか……って話です。
決定的な断絶こそ、四百年前のリーンの暴走がきっかけなのでしょうが……。
絵本の記述にもありました。
聖女ルカが相対せしは炎の魔術士。
万の軍勢を一瞬で溶かしたとされる炎術の使い手。
武道家ティアが相対せしは風の魔術士。
万の軍勢を竜巻に飲み込ませた風術の使い手。
この記述は、おそらく誇張もあるのでしょうが、つまり魔法使いは、その氣になれば単騎で軍を蹴散らすことのできる存在なのです。
それはまるで、ライトノベルのチート主人公、そのもののようで。
下手したらひとりで世界を変革してしまう、世の中の秩序やパワーバランスを滅茶苦茶にしてしまう……魔法使いとは、そういう力を持った存在でもあるのです。
「スィーツ談義ねぇ」
「あたしも少し興味あるかも。お貴族様のスィーツ」
「……ま●ごとバナナって、めっちゃ庶民的な氣が」
そんなモノは、時の権力者や、平穏を望む人には、害悪でしかないモノです。
それが必要とされる舞台設定の上でならば……活躍を期待され、英雄ともなりえるのでしょうけど、残念ながら、この世界はそういうモノを排除する方に、舵を傾けてきたのです。
『ティナ、あのね? ふわふわのスポンジケーキも、生クリームも、普通庶民は食べないものだからね?」
「そうなの? じゃあアリスが小さい頃から親しんだスィーツって、どんなの?」
『んー。焼きリンゴとか?』
「
ねぇ?
ほらね?
占星術師ティアがもし、九星の騎士団のティア、その人であるのなら。
彼、あるいは彼女は、その身に複雑な事情を抱える人物であるのかもしれません。
ですが、それはもういいです。
『あとはアイアがたまに造ったカステラとか』
「何氣にアイアさんって多芸だね……。そしてスポンジケーキ、食ってるじゃん……」
『カステラってスポンジケーキなの? 食感、ふわふわ~、と、しっとり~って感じで別物だけど』
「あ~……」
なんにせよ、ミアを害そうとするなら、私の妹に手をかけようというなら、私、アナベルティナは……ティナはティアを殺します。もはやそこに
『まぁ色々造ってもらったし、食べてはいるよ? でもさ~、あたしって男所帯で育ってるじゃない? 綺麗な食べ物とか、可愛い食べ物とか、物珍しいっていうか、新鮮っていうか』
「あー……そういえば。ユミファさんはメスだしな~」「そそ」
アリスに、
私は、怖い。
アリスが、リーンになってしまうことが。
アリスを、リーンにしてしまうことが。
もしかすれば。
これは……おそらく違うだろうと、私の直感が語っているけれども。
ティアはもしかすれば、リーンが人類にかけた、言葉通りの『呪い』を、アリスを使って解こうとしているのかもしれません。その場合、この世界においては、そのティアこそが世界を救おうとするチート人間であり……後に英雄と呼ばれる存在であるのかもしれません。
でもそれも、その場合でも、もうどうでもいいです。
もしかすれば、それはティアではなく、ティアをも操った誰か……ひょっとしたらルカ……なのかもしれません。
でもそれも、どうでもいいのです。
『ティナん
「よくわからないけど、その勘違いは女子的にマズイ氣がする」
私は正義ではない。
人類のため、世界を変えたい、あるいは元に戻したいと執念を燃やす人……あるいはスライム……に、そのためならば、どのような犠牲を払ってもいいと考える誰かに、私の言葉は届きません。
私はもう鬼で、悪魔ですからね。英雄にならんとする者からすれば、私は目的の
「あとさ、一応言っておくと、バナナとかのトロピカルフルーツは、スカーシュゴード家が、年中そこそこ暖かい土地だから採れるのであって、お貴族様だから食べられるってモノでもないからね? ま●ごとバナナなんか出所が完全に別口だし」
『そうなの? じゃ、ティナがずっる~いんだ?』
「……そうなるの?」
ナハト隊長は、敵対する、敵対した相手にも敬意を忘れない人間であったから、私の言葉が届きました。彼は正義を信じていない。自らが正義であるとは信じていない。それでも人として正しくあろうとしているから……だから「悪」に見える他人であっても敬える……皮肉なロジックですが、他人の正義を否定してまで、
私はただ、生きたいだけで、身近な人達と幸せになりたいだけ。
だから本当に必要ならば……それが本当に必要か、最後まで悩みながら……私は私の幸せを阻害する人間を、殺します。殺せます。相手が正義で英雄であっても、それを殺します。そうします。そうすると決めました。
ティアは、もしかすれば同情すべき過去を持つ人間なのでしょう。
『どうしたの? 急に黙っちゃって』
「……アリスさ」
『うん?』
そうであったとするのならば。
「今、幸せ?」
リーンの暴走より始まった、「国を喰って」四百年を生きるという化け物の人生は、悲劇的でありシリアスであり、本当は、本来であれば、その全てにきっちりと清算をつけさせて、そうして終わらせるべき……それはとてもとても
『なに? 突然どしたの?』
でも、私はそんなこと、
ただ彼、あるいは彼女を殺します。
その向こうにあるティアの悲劇を、私は
そのシリアスを、ぞんざいに扱います。
ミアを狙うと言った以上、ティアは「敵」です。
アリスを害そうとする以上、ティアは「敵」です。
「いや忙しいとか、サッスンがウザイとか、結構、文句を言う割に楽しそうだなーって」
『文句も出るわよー。コイツ、護衛の騎士が信用できないみたいでさ、お風呂だけじゃなくて、トイレにまであたしを連れまわすのよ? してる間、スカートの裾を持ってて欲しいってさ。着替えをあまり持ってきていないので汚したくないとか、知るかっ』
「ありゃまぁ」
『まぁでもそうね、幸せかどうかはわからないけど、楽しいよ?』
「……そっか」
『うん』
アリスを
その打倒は、ティアが英雄でない今ならばこそ、大義名分をもって
ならば私は……桃太郎に打ち勝つ鬼ともなりましょう。
守るべき金銀財宝は、既にたくさん得てしまったのですから。
『パパとママ、アイアもアムンも、エンケラウも、もういない世界なんだなーって思うと、少し寂しいけど、仕方無いよ、人は死ぬから。いつか絶対死ぬから。パザスがいるし、ティナ達とも出会えたし、あたしはそこまで不幸じゃない。エンケラウがゴブリンにされちゃったみたいな、本当にどうにもならないほどの不運には、まだ
「そっかぁ……強いね、アリス」
ナハトさんは、王都に戻った際には、ティアがその地位において何をしていたか、そしてどうなったか調べてくれると言っています。その調査はどう考えても必須です。
『当然。あたし、めちゃんこ強い魔法使いなんだからね。あたし、死んだら、ママに地獄で、あたしの人生、色々あったけど、でもなかなかに
「そうだね、私も、そうしたい」
ねぇ、時の権力者である王様?
『なに言ってんの? ティナは天国行きでしょ?』
「どうかな~。人間の国の法律的には、アリスと仲良くするのだって重罪だからね。アリスが地獄行きなら、それって神の法まで人間のソレと変わらないってことだから、私も危ないかもね?」
占星術師として王国の中央に潜り込み、サスキア王女を操って国に害を与えようとした存在がいるのですよ?
『それは』「だからって、私はアリスと別れたりしないけどね」
『え』
「私は私の法に従って生きる。だからミアもアリスも守る。アリスもアリスの法律で、私と共闘することが違法じゃないというのなら、一緒に、ティアを倒そう」
彼は様々なマジックアイテムを使い、それこそ単騎で一軍を滅ぼそうとまでしていました。
『う、うん』
どうします? 彼が、より明確に、カナーベル王国へ牙を向いたとしたら。
「約束だよ?」
魔法には、魔法で対抗するのが一番だと思わない?
『うん!』
アリスは、国に反旗を翻す氣などない私の、友人だよ?
アリス自身には祖国なんて無いから、敬うべき「国」なんてモノは無いよ?
だから「国」などという大きな枠組みよりも、私という小さな存在、あるいは鬼の意志を尊重してくれるよ?
「ふふ」『あは』
「『あははははっ』」
王に告げ口をしたいなら、ついでに私がそう言っていたことも伝えてね、と……私はそうナハナハへと伝えました。まぁ……ティアの狙いが、今はほぼ確実にアリスへと絞られているだろうことは伝えていませんが……嘘はついていませんからね。可能性はあるのです。
そして、民の平穏や秩序の維持、あるいは既存の権力構造の堅持がため、それらを乱す「可能性」があるというだけで対象を排除するのが、
魔法使いが人間社会から排除されるのも、彼ら彼女らがそういう「可能性」の保持者だから……でしょう?
『んー……んふっ……ひー……っとぉ……笑い過ぎたぁ~。で、どうするの? サッスン、そっち連れて行っていい?』
「んー……」
ならば私は、為政者であるところの王様へ、「可能性」をぶつけてあげましょう。
毒をもって毒を制す……その必要があるなら、既に明確に反旗を翻した毒と、私という毒、どちらをとりますか?
……さあて、どうなるんでしょうね?
彼はこれを王に報告するでしょうか、しないでしょうか。
「まぁ、こっちで今やることは特にないし、暇だから、いいんだけど」
『よくわからないけど、それって毎日忙しいこのあたしに、喧嘩売ってる?』
「どうどう」
既に、私はゴドウィンさんやキルサさんの報告により、英雄的聖女であると喧伝されています。それがこの枕元に、きらびやかに、うず高く積まれた
なんか上は公爵家からのモノまであるんですけど……。
公爵家ってアレですよ? 王家の親族級の貴族家しかなれない、そこに嫁入りして娘を産もうものなら、その娘が国母になる可能性すらある、貴族の最高階位ですよ? 男爵家からしたら、さすがのママですら「どうしたらいいの……オロオロ」となる雲の上の殿上人ですよ?
まぁさすがに、公爵家からの、その二件は、正妻へのお招きなどではなく、第四夫人と、第六夫人へのお誘いですけどね。おめぇらどんだけ嫁欲しいねん。
さて、この状況下で、根は真っ正直なナハトさんがことの真相を王に報告したとして、カナーベル王国の最高権力者はどうするのですかね?
全てを闇に葬るなら、ナハトさんも殺されちゃいそうですね。もはや戦力として期待できない(と
まぁ、その推測も、彼には話してあります。さてその上で、彼はどう動くのでしょうか?
『はー。もうティナってば、あたしのこと全然わかってくれない。こんなに忙しいの我慢してるのだって、半分はティナの為なんだからね?』
「半分はアリス自身の為だけどね」
『言、わ、れ、な、く、て、も、わかってまーす。でも、だったらティナも私の半分くらいは忙しくしててよ~。なんであたし、割と不倶戴天の
アリスは、私がナハトさんを仲間に引き入れたことについて、いまだ納得していない感を出していますが……でもね?
この扱い、ナハトさんには、きっと殺されるよりも不本意な扱いではないでしょうか。戦場で死にたがってたし。
だって彼は、これから鉱山のカナリア役を演じるのですから。
「そりゃ、代われるなら代わってあげたいけど……」
『置換のキャッツアイ、ちょっと本氣で探してこようかな』
「人の憧れアイテムをバイトのシフトチェンジ感覚で使おうとしないで!?」
王に報告すれば結構な確率で闇に葬られる秘密を携えて、占星術師ティアの影響残るかもしれない王都に赴く……。
彼には王都へと赴く際に、この念話のダイアモンドを渡そうと思ってます。それにより定期通信を行い……それが無くなったのであれば……つまりそういうことです。
ティアか、王か……どちらにせよ、王都には危険があるということが判明しますね。
無事、帰ってくれば、彼は私の手駒です。
王に報告をして、その手駒として、私を闇に葬るため戻ってくる可能性?
ないない。アレは誇り高き武人そのものだし、忠誠も国にあるのではなく、国に忠義を尽くした恩人へあるだけです。その辺りの心境は、アリスが念話のダイアモンドで覗き、確認しました。
だから、彼についての不安要素は、もうありません。
『こんなに忙しいの、もうやだ~。ティナ~、慰めてよぉ』
「そこはほら、また夜にマッサージしてあげるから」
『それはそれでしてもらうけど、朝も昼も一緒にいたいのぉ』
「かまって乙女ちゃんっていうか、もはやただの甘えん坊さんに……」
問題は……念話のダイアモンドで心を覗いても……そのあまりのあけっぴろげ、おっぴろげ感に「もしや演技では?」と微妙な疑惑がふつふつと湧いてきて、しかしそのアーパーぶりに「ないわー」とならざるを得ない少女、だけど念話のダイアモンドの特性を良く知り尽くしてるハズだから、疑惑も拭いきれない、もうひとりの方でして……。
「アリス。いいことを教えてあげる。そのキャラがワガママルートを辿って進化していった最終形態が、転落前のサスキア王女だからね?」
「ティナ様、その一言は”ツッコミ”どころが多すぎます……」
『なんでもいいからティナに会いたいのー。会いたい会いたい、会~い~た~い~。ほらアンタもそこで指咥えてないで一緒に。会ーいーたーい~』
「いや聞こえないからね? サッスンにも言わせたんだろうけど」
「お嬢様……仮にも王女殿下をサッスンサッスン言うのは、問題があるかと」
だってぇ……アレもうホント色々面倒くさいんだもの。
「サーリャだって仮にも、とか付けてるじゃん」
「ナンノコトデショウ」
いいよこっちなら、「失望した」「スッキリしない」「討伐隊やられ損」とかなんとか言われても。実は悪い女神でも憑いてませんかね。それなら私も、今からでも処断することに
しかして、どこからどう見ても、現在……元からだったかもしれないけど……アーパー娘であるところのサスキア王女は、ナハトさんと同じで男爵家に逗留しています。メイドな金髪ツインテールのアリスがお側付きになって、どこへ行くにも二人一緒です。
あの王女、討伐軍へは、お付きの侍女などを伴わずやってきたっぽいのですよね。
なんでも「食料の得にくい土地、ならば私も不必要な贅沢はできません」云々、なんか適当な理屈をつけたそうで、更にはだから(?)ナハトさんと同じテントにしろとも要求していたそうで、さすがにそれは通らず、護衛に腕利きの女性騎士を六人、つけられたそうですが、道中、その人達との交流もまるでなかったんだそうです。
その女性騎士さんも、二名だけ男爵領に残っていますが、後は全員王都へ帰還してしまいました。
サスキア王女は現在、男爵領のお城(私達が住んでいるお屋敷とは別の建築物となります)に、急遽設けられた部屋へ滞在してもらっているのですが、その女性騎士さん達は、その部屋にも入れてもらえないようです。まぁ人には見せられない指の治療とかも、そこでするからなのですけど。
そんなこんなで今、王都からサスキア王女の「新しい」お世話係が何人か男爵領に向かっているそうですが、それはつまり、戦闘訓練などはしていない、普通の女性が中心となる一団の移動となりますからね、もうしばらくは到着しないでしょう。
つまり現在のサスキア王女はかなりフリーな身の上です。フリーダムと言ってもいいです。なんだか楽しそうですね。実際本人も、アリスがげんなりするほど楽しそうにしていると聞いてますし。
……だからといってことあるごとに、私に会いたい会いたい言ってくるのは、勘弁してほしいのですが。
「まぁ……仕方無いから、いいよ。アリスもくれば? なんなら二人まとめてマッサージしちゃるわい」
『え、いいの? いくいくいくいくいく。サッスンもなんか涎を垂らして喜んでる』
「……」
そんなこんなで、サスキア王女はなんかこう、精神が若干退行したまま、私に懐いてしまった感じです。うへぇ……。
もはやナハト隊長……討伐隊は既に解散したので隊長ではなくなりましたが……ナハナハな彼にはもうあまり興味がないようです。興味がないというか、むしろ明確に恐れている感じですね。今の状態でも、自分がやったことについて罪の意識(のようなモノ)はあるらしく、それを、口にしては責めてこないナハナハに、怯えのようなものを感じてるっぽいです。
まぁ責められた方が楽ってこともありますからね。
……連続バンジージャンプが楽なこととは思いませんけど。
『ティナ』
「うん?」
だから正直……王女がそんなことになった原因であるところの私としては、罪悪感が凄いのです。
罪悪感がどえりゃーので、あまり会いたくないのです。
『幸せかどうかはわかんないけど、あたし、この時代で目覚めて最初に出会ったのがティナで、本当によかったと思ってるよ』
「……うん」
ですが今の彼女を無下に扱うわけにはいきません。
それは私の罪悪感的にも、国賓的にも。
『一緒に、幸せになろうね』
どちらにせよ、彼女はそう遠くない未来、他国へ嫁ぐ身です。
「うん。どっちがより幸せになれるか、競争だね」
私自身も(”他国”が意味するモノの意味合い、スケール感こそ違うものの)そうですが、年齢を考えれば、先にそうなるのは彼女の方でしょう。
『ま、ティナがよく言う長生きってだけなら、圧倒的にあたしの方が有利なんだけどね』
「……いじわる」
『へへ~。くやしかったら人間の寿命ギリギリまで頑張ってね』
「言われなくても、
ならば、それまでは心穏やかに過ごしてもらいましょう。
『えへへ~』
未来に、別れは、確実にある。
だけど同じ場所で同じ時を生きる今……この今は、温度という実感すらも伴って、もっと確実に、この手の中にあるのですから。
潰さないよう、優しく握りしめていかなくちゃね。