悲劇のヒロインに転生したのでシリアスをぞんざいに扱ってみる   作:ZenBlack

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8話:おいでませ冒頭再現

 こんにちは、はじめましてじゃない方もこんにちはこんばんは。私はティナ、十三歳、一応男爵家の貴族令嬢です。

 

 元々は、今とは色々違う人間だったのですが、なぜだか、その辺りのことは、何日もかけて冗長を恐れず、延々と回想してきたような気がします。

 

 だから、ここまで私の回想に付き合ってくれた誰かナニカ、そういった存在が、仮に存在するのであれば、彼ら、彼女らには私がもうなんであるか、何者であるか、よーく伝わっていることでしょう。

 

 そうです。

 

 ええそうです。

 

 

 

 私は芋マニア!

 

 茹でてホクホク!

 

 煮込んでホロホロ!

 

 薄く切って揚げればパッリパリのサックサクな万能食材!

 

 そんな男爵芋の魅力に魅せられた、男爵家の芋令嬢なのです!

 

 

 

 

 

 

 

 という冗長(じょうちょう)助長(じょちょう)する情緒(じょうちょ)なき冗句(じょうく)はさておき。

 

 それはそれとして、何度見直しても、目の前に赤い竜がいます。

 

 でっかくておっかない竜さんがいます。

 

 いるんです。

 

 いるんだからしかたない。

 

 赤い鱗の、凶悪な顔の赤竜が、今そこにある危機なのです。

 

 何を言ってるかわからねーと思うが私にもわからねー。

 

 時は二次性徴にこんにちはした日から二週間くらい。今日まで平和な日々を満喫しておりました。おりましたのに。

 

 どうしてここにきて唐突に……このようなことになっているのでしょうか?

 

 でっかいおめめにぎょろんと見られてて落ち着きませんが、ここは一旦、今朝からの、自分の行動でも洗い直してみましょう。

 

 朝。

 

 サーリャに起こしてもらいました。毎日のことです普通です。

 

 着替え。

 

 家の中では大抵、楽に過ごせるゆったりとしたワンピースです。今日は首から下の大体がスカイブルーですね。これは、わたくし的にはピンクなどよりはマシ、メイドさんの審査的には少女らしい爽やかさがあるのでOK……という妥協点であり、かように、私の服装(おべべ)には空色が多いのです。ゆえにこれもいつものことです普通です。その後は、サーリャにおぐしを整えてもらってはい完成。

 

 午前中。

 

 カテキョから一般常識や礼儀作法のことなどを学びます。合間に一度ブランチ。軽食をとりながら、サーリャに髪を三つ編みにしてもらいました。女学生スタイルですね。最近ますます暑くなってまいりました。お昼はミアの部屋で昼食をとりながら栄養とミアニウムを補給。この辺はまぁ、貴族令嬢の生活としても割と普通(だと思います)です。

 

 昼過ぎ。

 

 ミアと中庭でおしゃべり。庭の樹木とかお花を見ながらのほほんとしてました。夏なので虫が心配ですが、よく手入れされた庭園は綺麗です。幾何学的に整えたそれではなく、元日本人にも馴染みやすいイングリッシュガーデン風ですね。カサブランカが見頃で見事でした。ブルーベリーが実っていたので、少し摘まんでいただいたりもしました。美味(おい)しゅうございました。ほっぺたを紫で染めるミアも可愛かったです。

 その後ママに呼ばれてお茶会へ……なので三つ編みはここで(ほど)きました。お茶会では、婚約者を決めるようチクチク言われながら、お茶とドライフルーツたっぷりの焼き菓子をいただきました。最近では週二くらいのことで、まぁ普通です。いや私の意志が大事とかいいですから、キモイのでもデブでもイケメンでも、生理的に無理なのは同じですゆえ、婚約者はもうパパとママとで決めちゃってくださいよって。

 

 今。

 

 ママのお茶会から解放されての自室。

 夕方まではまだ時間があるから、少し休憩かなって思っていたところ。

 

 赤い竜(の顔部分)と対峙しています。誰か退治してくれないかなと胎児のようにタジタジになりながら対峙しています。人生初のことです異常です。

 

 

 

 ……本当に何があった!?

 

 

 

 そもそもこの竜はどこから出てきたのか。

 

 氣が付けば窓を割って壁も割って、顔の部分だけが部屋に入っていました。

 

 ちょっとお、こういうことはちゃんと伏線をはってからにしてよぉ。いくら女優だからって、いきなりじゃ氣分なんて作れないんだからねぇ。女優じゃねぇわ。神様にお願いしたチートは優れた女になれるっぽいモノだったけど。でも違うんじゃーい。

 

「お、お、お、お嬢様、お、お、お、お下がり下さい!」

 

 サーリャさん、君はもうちょっとできるメイドだと思っていたけど……腰を抜かしてる姿も可愛いですが……流石にこれは状況的に仕方無いと思うから、その絨毯に広がるシミが何かとかは考えないでおくね? あと今度からギリギリまで我慢しようとするのはやめようね? 私、前世にも多分、そっちの趣味は無かったよ?

 

 とはいえ、サーリャには下着も洗ってもらっていますし、他にも色々とお世話になってます。見なかったことにしてあげましょう。あ、ちょっとかほりが届いた。

 

「で、なんか用? ってか喋れる?」

 

 ちなみに竜のサイズは、正面から見た顔の縦横(たてよこ)が三メートルくらい。金色に光る瞳と真っ黒な白目部分(矛盾はしてない)、そこから推し量れる眼球のサイズは人間の頭くらいかしらん。

 で、さっきから、その眼球がグリングリン動いてます。なにかのアトラクションかな。

 

「お、お嬢様、危ないですからお下がり下さい! 後生です!」

 

 やがてその目は一瞬、サーリャの方を見て、嘲るような色を見せ(見なかったことにしてあげるのが優しさだよ)た後、ぎゅるんと回って私をロックオンした。

 

 死の予感に、今までの記憶が、走馬灯のように脳裏をよぎっていきます。

 

 ……。

 

 のー。アカンイカン悪寒(オカン)、走馬灯ノー。

 

 現実を見ましょう。

 

「私はスカーシュゴード男爵家当主エーベルの娘、アナベルティナです。ここは当男爵家のお屋敷。貴方は現在、当男爵家に無断で押し入った形となっています。そのことが理解できますか?」

 

 言ってなかったけど、当男爵家では、住環境としてお城でなくお屋敷を採用しております。お城はお城で、古い砦を少し拡張工事したモノが別にあるけど、そっちは通常、騎士や兵士が詰めていて訓練とかに利用しています……多分……あまり行ったことが無いからわからないけど。武器庫に忍び込んだ時と、あと何回くらいだろうな。

 

 お屋敷は四階建て。地震の無い土地柄なので割と適当な、石と煉瓦造り。現在一部の壁紙が剥がれ、煉瓦が剥き出しになっちゃってるマイルームは三階部分に存在しています。ちなみにミアの部屋は二階。大丈夫かな……。

 

 警護兼防衛担当の兵士が詰めているのは一階。さっきから下の方が物凄く騒がしい。

 どう考えても、突如として出現した竜に現場は混乱しています。まぁその現場ってか中心地がココ、マイルームなのですが。

 

 この竜は、どこかからここまで飛んできたのか?

 

 ……それならばもっと前から騒ぎが起きているハズ。

 前触れだって、先触れだってあっていい。

 そういうモノは、一切無かった。

 

 あまりにもあんまりな程、唐突だった。

 

「おぬし」

 

 おおぅ、さすがファンタジーな世界観。ファンタジーらしいファンタジーは、十三歳にして(ようや)く人生初であるが……おおぅ、でっかい爬虫類(はちゅうるい)が人の言葉を喋ったよ。「おぬ゛じ」みたいなくぐもった声だったけど。

 

「リーンの類縁か?」

「ん?」

 

 リーン……て、昔人間と戦争したっていう、エルフの女王の名前だっけ?

 ミアに読み聞かせたご本には個人名(個エルフ名?)が出てこなかったけど、史実に残るエルフの女王、七色に光る瞳を持つとされた伝説の魔法使いは、確か名前がリーンだった筈だ。

 

 まー、赤い竜ときたら伏線としてはそっち方向なんだろうなー……とは思ったけどさ。まさかの伝説の竜さん登場? 天界追放? 黒羊座(こくようざ)(かたわ)らより出張ですか?

 

「では貴方は、騎士団長カイズ様の婚約者様……でしょうか?」

「なに?」

 

 ちなみに史実の騎士団長カイズには、婚約者なんていない。それどころか出生も、騎士団長になるまでの来歴も全くの不明という、胡散臭い人物だ。

 そうは言っても、ここにこうして人の言葉を喋る赤い竜がいるわけで、婚約者がいたってのも本当のことかもしれない。歴史とは、常に書き換えられるモノでありますがゆえに。

 

「我はパザス。カイズとは(くつわ)を並べた騎士であったが、婚約者などというものではない。そもそも我は男だ」

 

 パザス……九星の騎士団にそんな名前の騎士がいたな。

 誰だっけ? 何担当の騎士でしたっけ。

 

 ……ってやっぱりこの竜、九星の騎士団関係者なの?

 

 竜の寿命は長いから、四百年前から生きる竜がいてもおかしくないけど……なんで騎士様が(ドラゴン)してんです?

 

 まぁそれはそれとして、貴方様は男でしたかオスでしたか。それは大変失礼しました。いやいや心からお詫び申し上げます。ちょっと親近感を覚えたので握手していい? できるサイズの手か知らないけど。顔だけしか見えないけど。

 

「ここはどこだ?……あれからどうなったのだ? 他の仲間達は?」「みんなはどこ?」

 

 ……今なんか、もうひとつ女の子っぽい声が聞こえたような?

 

 サーリャの声……ではないな、サーリャなら私の横で絶賛涙目中。

 

 氣のせいかな。私もかなり混乱してるっぽい。

 

「答えたいのですが、どこから答えたらいいか、この状況をどうやって落ち着かせようかとか、屋敷は城壁で囲まれてるけど、この高さじゃ領民から丸見えだなぁ……とか、私の処理能力の及ばぬ事態が、同時多発していまして」

 

 そろそろ非常事態ゆえに、パパが兵士を連れてこの部屋に突入してきちゃうんじゃないだろうか。その前にサーリャをなんとかしてあげないと。アレが……あとソレな臭いが……むくつけき兵士の皆々様に晒されてしまうのは、十七歳の乙女の尊厳的に、かわいそ過ぎるでしょ。

 

 ……っていうかこの竜も男……オス? なんだよな? 目潰しした方がいい? していい?

 

「そうか、ならば来い」

「は?」

 

 ごっ……ごごごっと……それからめきゃぁっと。後から考えれば床と床板が破砕された音なんだろうなー、って感じの音がして、床からにゅっと竜の手が伸びてくる。ホラーかな? まだ真昼間なんだけどなぁぁぁ……ってうぉう!?

 

「お嬢様!!」

 

 ……色々アホなことを考えていたら、呆氣無くその手に捕まりましたよ。あ、この手とは握手できないですね、鋭そうな爪生えてるし。

 ちなみに人間と同じ五本指です。中国だったら皇帝御用達。全体の姿形は西洋スタイルのドラゴンだけど。

 

 ん……ちょっとアレなかほりがまた……あー……サーリャの腰の下の辺りの床も割れちゃってますね。事情を知らなければ、サーリャがヒップアタックで床を割ったような光景になってます。

 まぁでもよかった、これで多少は誤魔化しやすくなったね。

 

「お、お嬢様を放して!」

 

 まー……それはそれとしてコレ……どうしよ?

 

 なんだか自分の身体が、恐怖に痺れでもしちゃったのか、カチコチとしてて動き難いです。

 

「さ、サーリャ」

 

 これ状況的に、このままだと私、竜にさらわれてしまうみたいな展開が予想できちゃうんですけどね。目の前の鋭そうな爪を見ると、全く身体が動かせなくなります。頭の中は比較的落ち着いて見えるかもしれませんが、身体は硬直状態で大変なんですよホントに。

 

「ティナ様ぁぁぁ!!」

「さ、サーひャはお父様に伝へて。心配しなひでって」

 

 多少、たどたどしい言い付けになりましたが、ここはサーリャが腰を抜かしてて良かったですね。過保護なサーリャは、私が竜に連れ去られたら、それを追って三階の窓からアイキャンフライしかねないです。ユーキャンノットフライ。いのちをだいじに。ザ●キ禁止。

 

「ティナ様!?」

 

 だからね、お役目、与えたかんね。しかとお勤め果たせよー。

 

 よー……よぉぉぉおおお!?

 

「ぐぇ」

 

 唐突に訪れるジェットコースター感。安全(セーフティ)バーは爬虫類の五本指。どこもセーフじゃない。Gは少ないものの、まったく体に優しくない氣がします。ちょっと内臓が押されて揺れた。構造改革が求められます。このジェットコースターはできそこないだ、私は食べられないよ。

 

 竜……っていうかパザスさん?……がお屋敷の壁から頭を抜き、背中の翼をばっさばっささせて天に昇り始めました。私も赤いお星になっちゃうんでしょうか。

 

 ってか、この巨体があんなコウモリみたいな翼で飛べるってどういうことなんでしょうか。

 そういえば竜ってモンスター、つまり魔法を使える生物なんでしたっけ。そういえば翼の周辺になんか黒い線のようなものがいっぱい浮いてますね。あれはなんでしょう? 反重力物質?

 

「ティナお嬢様ぁぁぁあああ゛ぁ!!」

 

 あー。

 

 急速にお屋敷、そしてサーリャの姿が遠く、小さくなっていく。

 

 ステイ! ダメ、サーリャ、来ちゃダメ!

 抜けた腰でテケテケ這ってこようとしないのっ。

 床割れてるでしょ! 危ないよっ!

 

「すこし飛ばすぞ」「いっけー」

「サ」

 

 ぁリャと言いかけたところ、先の比でないGが横からぐおんとやってきました。

 

「ぐえええぇぇぇ」

 

 これは飛翔魔法ってことなんですかねえええぇぇぇ。

 

 角度が変わり、完全にお屋敷もサーリャも見えなくなってしまいました。

 

 

 

 そこからはもう、目を(つむ)ってひたすら横Gに耐えるお時間でした。

 

 くぅ~。

 

 なんか飛んでる気がします。

 

 お空を飛んでいる気がします。

 

 竜に全身握られちゃって命まで握られちゃっての浪漫飛行です。某ピ●チ姫の誘拐には自作自演説が有りましたが、こんなにおっかなくて、内臓にクるモノを、自分から望むことなんて、果たしてあるモノなのでしょうかね。

 

 そういえば竜を見たことで思い出しましたが、この世界には魔法を使えない人間でも魔法を扱える、マジックアイテムのようなものが存在してるみたいなんですよね。何かそういうモノがあればこの状況も打破できたかもしれません。

 ならチートは、そういうものを無から生み出せる能力、なんてのもよかったのかもしれませんね。記憶が残るのであれば。

 

 はぅ~。

 

 下手に記憶があったせいで、幼少期に自分の三倍も四倍も身長のある相手から、毎日暴行を受け続けるという地獄を、ハッキリクッキリ、それとわかる形で体験しちゃいましたけど……まぁ……それを予告されていたとしても、記憶の継承は絶対にしてたと思います。

 

 それに後悔があるかと言えば、今はもうないのですが、私の人生、もうちょっとどうにかならなかったのですかね。ならないのですかね。もうこれ、私のというか俺のというか、この魂にハードラックとダンスっちまう運命が宿っているのではないでしょうか。

 

 うー。

 

 チートの選択、今考えてもアレ以上のモノは思いつきませんが、それでもこんな状況になると、あそこでもうちょっとどうにかできなかったのかな~……という感情が浮かんでくるのを止められません。

 

「ううっ……」

 

 ……なんてことをつらつらと思いつつ、考えつつ、薄目を開けてみると、眼下に、物凄い勢いで流れていく背景があります。わー、物凄いリアルだー。高解像度だー。フレームレートも応答速度も高め。最新のゲームってここまで進んでたんだー。現代に蘇るナーシャ・ジ●リの伝説かな? いやドラゴンに乗れるのはもうひとつの超有名国産RPGだったかな? 今は乗ってるんじゃなくて現状私が握られてますけどね。被ドラゴンクローなう。なおサラマンダーよりずっとはやいは未プレイです。あれってSFC時代から一度もリメイクされないんですよね。VCでは出たけど。パンツァーだったりドラッグオンだったりなドラグーンも未プレイですが、あの辺は乗って飛べるんですかね。まぁでも乗るんだったらやっぱり馬ですよ馬。エ●ナとかア●ロに乗りたいです。こう見えて、私も乗馬は

 

「う゛?」

「ひゅっ!?」

 

 わあぁぁぁ、今なんか一瞬乱高下しましたよ!?

 

「む、むぅ?」「ん?」

 

 竜さん……パザスさん?……が、上の方で首を振ってるっぽい氣配がします。蚊柱にでもつっこんじゃったのでしょうか。そんなバカな。ここ高度いくつだ。

 

「ぐるぅ……」

「ひっ!?」

 

 竜らしい、恐ろしげな唸りに、思わず身体が(すく)みます。

 

 うくぅー、失敗したかなー。今生(こんじょう)でも早死にしちゃうのかなー。また親を哀しませちゃうかなー。せめてミアをもう一度抱きしめてから死にたかったなー。ミアの花嫁姿を見て号泣したかったなー。サーリャは無事かな乙女の尊厳を守れたかな、と……色々なことが私の脳裏を走馬灯のように流れていきます。いやそれ危険。ストップ、ランニングなホースのランプ。こう見えて乗馬は得意だけどそれには騎乗したくない。俺はまだ死にたくない。ボケステ。

 

 ぬぬー。

 

 Gが、風圧は感じないのにGだけが横からガンガンくるよ。内臓に優しくない。ってかGっていうと地球最凶の某生物みたいですね。そんなものは横からガンガンきてませんよ。想像すると凄く嫌な光景になりますね。テラシュール。それにはさすがのナ●シカもきっとげっそり。別に虫耐性が高いわけではないので、そんなものが横からきてたら、私もきっと色んな体液を垂れ流してしまいます。乙女の尊厳決壊。そんなもん最初から持ってないけど。まぁ二歳とか三歳の頃にはめっちゃ失禁してた記憶がなくもないけど~。

 

 ぐぬぉー。

 

 ……とかなんとか、またも脳内が迷走してる間に、氣が付けば周囲の(俯瞰視点の)背景は一変していました。

 ……なんか白と銀色と青いです?

 それが流れていくスピードも、先程までよりかは若干緩やかになっています。

 

 これは……雪山ですかね?

 

「落ち着いたか?」

「……どうなんでしょう。自身の直近の思考を省みるに、まだ混乱中の氣がしますが」

 

 って、氣付いたらなんか肌寒いような?

 

 えーと……。

 

 ここどこ!?

 

 なんか結構高そうな山を見下ろしているんですけど!?

 

 今は夏だから、雪で真っ白とかはないですけど、雪渓(せっけい)かな?……谷に積もった雪が溶けずに残ったヤツ……ところどころに白い筋がみえますよ……ってことは少なくとも高度千とか二千メートル以上じゃないですか!?

 

 氣圧とか酸素濃度とか大丈夫なの!? 魔法で何とかしてる系!? でも寒いよ!?

 

「降りよう、ここなら人の目も無かろう」「めいかーらんでぃんぐ!」

 

 そりゃ高山に人間が来ることはあまりないでしょうけどー!?

 

 先程までは初夏の、温暖な氣候の中にいたので、私は薄着です。

 

 ゆえに体温がドンドン奪われてってます!

 

「あの山の中腹に下りる」

 

 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやイッヤー!!

 

 なんかもう極寒ですよ! ゴッ寒ですよ!

 

 これから数年間の内には子供を産む予定がある身体に悪いだろコラー。でもその予定はキャンセルしたいぃぃぃ。深刻にそのプランニングはすっ飛ばしたいぃぃぃ。昇竜キャンセルは只今通ったようなのでそちらもどうかひとつぅぅぅ……ってだから寒みいいいぃぃぃ。

 

 これが、スカーシュゴード領の近くだとしたら、大分東か南の方ですかねぇぇぇ。

 

 西の方にはあまり高い山など無かった筈。北には山こそあれど活火山で、地熱によって雪も溶ける地域ですよぉぉぉ。

 雪の残る山とか初めてくるなぁ。スキー板かスノボのレンタルはありますか?……って、だっからさむいんじゃあああぁぁぁい。

 

「ひゃっ……」

 

 ごごーっとジェット機の緊急着陸みたいな音がして、私を捕まえたままの竜……騎士様な竜?……が、よりにもよって白い筋……雪渓のど真ん中に降り立ちました。

 

 粉雪が舞い上がったのか、ゴウという音と共に、視界が盛大にホワイトアウトしちゃってます。

 

 そしてやはりとても寒い寒い寒い寒い。

 

 アンタ平氣そうしていますけど! 爬虫類は変温動物じゃなかったでしたか!?

 

「鼻水がたれておるぞ、小娘」「かっこわるーい」

「さ……む……ぃ」

 

 なんだか前世の親父と母さんの姿が見えてきましたよ。でも、あれから十三年、いや違うわ胎児時代も入れて十四年として、それならまだ日本人の平均寿命まで時間があると思うので、俺の親、多分まだ生きてると思うんだよなー。還暦は越えちゃったと思うけど、三途の川の向こう側にはまだいってないと思うなぁ。いっててほしくないなぁ。長生きしてて欲しいなー。長生きっと……俺達には長生きが難しかったけどー……。でもまー、ここでまた死ぬってことが、二人に伝わらないのはいいかー。いいのかー。それは不幸中の幸いかー。でもやっぱりやだー。死にたくないってばー……。眠い。なんだか凄く眠いよパ●ラッシュ。てか寒いっていうか、なんかもう温かいよ。っていうか暑い? 一周回って暑くなってきた? 服脱いでいいかな? そばにいるのはドラゴンだからいいよね? 元男性らしいけど。しかして現在は爬虫類だからいいよね? 脱ぐよ? 暑いんだもん。脱ごう。暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い。

 

「ってマジで暑い!?」

「お? 氣が付いたか?」

「とりあえず女の子が簡単に服を脱ごうとするのはいただけないなー。変態さんになっちゃうよ?」

「へ?」

 

 竜っぽいくぐもった声と、その後に可愛らしい女性の声が聞こえた氣がする。もちろん自分のものじゃないし……え? ドラゴンの裏声?

 

 状況確認。

 

 周り、ドラゴンの翼っぽいものでドーム状に空間が切り取られています。

 

 足元。雪です。氷に近い雪です。室内でも靴はいてる文化で良かった。畳が恋しくなることもあるけどまぁ。

 

 目の前……ロリっこ?。

 

 亜麻色?……というよりはもっと鮮やかな……薔薇色?……の、長い髪の少女がいます。私より僅かに年下っぽい? おそらく多分、前世なら小学生の高学年っぽい……だから十一か十二歳くらい?

 

 なんか黒い、軍服みたいな服を着ています。実戦用にポッケとかがあちこちにあるタイプのモノじゃなくて、儀礼、式典用っぽいつるんとしたデザイン。

 下はタイトなスカートで、膝下と両脇のスリットからは、黒タイツっぽい質感の脚が見えます。

 

 まぁでも残念ながら絶対領域が見えるほどには、スカートが短くないです。大きく動いたら多少チラッと見えるかもしれない程度ですかね。胸のところには何個かの勲章……ではなく色とりどりのブローチっぽいものが……赤が三つと、あとは玉虫色、黄、青、黒でしょうか……なぜか、北斗七星っぽい形に飾られています。ちなみに、私が知っているこの世界の星座に、北斗七星は無いです。似た形の星座ならあるし、別半球とかにはあるのかもしれないけど、私は知らない。そもそもここ北半球? 南半球? それともまさかの天動説スタイル? 世界観がコペルニクス的転回に未展開?

 

「ドラゴンが幼女になるテンプレきちゃあ?」

「我は我だぞ」

 

 頭上から低い声。

 見ると翼ドームな天井部分に竜の顔。あ、こちゃっす。そちらさまはパズズ様でしたっけ、パパス様でしたっけ。

 

「とりあえず鼻水を拭いた方がいいかなー。女の子がしていい顔じゃなくなってるよ?」

「……どちらさま?」

 

 てかどっからでてきたの?

 なんか数十分前にも同じようなこと思った氣がするけど。

 

「ふむ。人に名を尋ねるときはまず自分から、と言いたいが……まだ混乱しているようだな。我はパザス。それはわかるか?」

「あたしはアリス」

「あ、どもっず。アナベルティナ・スカーシュゴードやっでまず」

 

 あ、ミドルネーム言い忘れた。それから鼻がづまってはづ音があやじいでず。

 

「もう。仕方無いわねぇ」

 

 アリスと名乗った女の子が近づいてきて、腰砕けで逃げられない私の顔に、その軍服の袖をこすり付けてくる。

 

「ふぇ」

「袖がテカテカになったら貴女のせいだからね」

「……なるの?」

「知らないわよっ。あと少し温度高すぎだから、下げて」

「……竜使いが荒いの」

 

 と、竜の翼ドーム、その中の温度がぎゅんと下がる。

 この感覚はあれだ、真夏に炎天下の屋外からエアコンの効いた屋内に入った時のアレ。すっずっすぃ~。

 

「っ……」

 

 と、涼しさをはふぅ~って堪能してると、なんか目の前の少女の顔が紅潮していました。

 

 ……どしたん?

 

「……風邪でもびぃてまず?」

「は?」

 

 寒暖差酷かったもんなぁ。

 

「そんなわけないでしょ! 娑婆(しゃば)の空氣うめーって思っていただけよ!」

「……えっと、よくわからないけど、わかりました」

 

 周りの風景的には、竜の翼に、今まさに囚われている最中っぽいのですが。

 えーと……。

 

「ごぐっ!……ぐる……ぐるるぅ……」

 

 ……なんか竜さんも咳みたいのしてますが、大丈夫ですか。風邪、ひいてません?

 

 ……なんでまた雪渓なんかに着陸されたのですかね。

 

「っていうか風邪でもひいてたみたいなのは貴女だったでしょ! ほら可愛くなった! 感謝しなさい!」

「あっ、ハイ」

 

 私、誘拐されてきた被害者的立ち位置じゃなかったっけかな?

 そんなことが脳裏をよぎるが、勢いに負けてありがとうと口にする私。どういたしましてと満足そうに返してくる軍服の少女。

 

 ……いやいやいや、だからおかしくね?

 

「あのー」

 

 おずおずと挙手。

 

「なんだ?」「なによ?」

 

 頭上と眼前からユニゾン。

 とりあえず竜は顔が怖いので、目の前の少女に問いかける。

 

「なんで四百年前の歴史上人物と同じ名前のドラゴンがここに? とか、アリス……さんは何処より現れましたか? とか、わたしはどこからきてどこへいくの? とか、その辺は尋ねさせていただくのもおっかな……怖ぃ……恐縮ですし、それへの答えを聞いたら聞いたで、『秘密を知ったものは死ね』されるのも嫌なので……そういうのはいらないのですが、私はなぜここへ連れて来られたのでしょう?」

 

「四百年前?」「四百年前ぇ~?」

 

 これはわかりにくかったと思うので補足しておくと、ぇ~? って付いてる方がアリスさんです。以下、同フォーマットの場合、前が竜、後ろが少女の発言です。大体同時に発声しましたよって意味で改行のない表現です。違うフォーマットで書けば「「四百年前(ぇ~)?」」みたいな感じ。わかる人だけわかれ。

 

「……九星の騎士団、騎士団長カイズとその騎士の物語は、およそ四百年前の出来事だったと聞いています」

「まさか」「まさかそんなことって……」

「童話などでは、赤い竜になったのは騎士団長カイズの婚約者であるとされることが多いのですが……」

 

 別パターンで珍しい例だと、聖女ルカが赤い竜になったりもする。

 騎士パザスは……史実だと決戦後になんらかの罪で島送りにされる人だっけ?

 ああ思い出してきた、灰礬石榴石(グロッシュラー)の騎士、パザス。鬼謀策謀(きぼうさくぼう)を縦横無尽に操る参謀軍師……だっけ? 九星の騎士団唯一の智謀キャラでしたね。

 

 え、この竜が?

 

「リーンが?」「ママが?」

「……は?」

 

「カイズの妻はリーンだ」「カイズはパパの名前だよ?」

「……はい?」

 

 なにか聞いてはいけない歴史の闇を聞いてしまった氣がするのですが。

 

 

 

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