"個性"ゴキブリ 作:ゴッキー
ウジウジ虫
かぶりが目が覚めた時には全てが終わっていた。
ヒーローは敗北し、秩序は崩壊していた。刑務所も、ただの1人も脱獄できなかった場所と、約半数は脱獄したが残りは死亡した場所の合計2箇所を除き全ての刑務所が開き
ほんの数日でがらりと変わった世間に目が覚めたばかりのかぶりはついていけなかったが、ホークスが焼けた喉の代わりに機械音声で一つ一つ説明した。
[事情が事情だ。刑務所での大量殺人は一定の温情は貰えるだろうし、俺も根回しはする。だから……。]
「……ありがとうございます。……けど気を使わないでください。あの人は殺しすぎた。…………理由はどうあれ、私と同じ
かぶりはそういうと、ベットの上で体育座りとなり、薫のことを思い出した。そして、インターンの時の失敗、会長のことを思い出した。
「……ホークス。私は……会長を救えなかった。結局、誰も助けられなかった。……………何が公安ヒーローだ。
会長の不在。それはヒーロー同士の連携、諸外国とのやり取り、それら全てが滞ってしまっている。仮に会長がいれば表と裏双方がもっと上手く立ち回り、被害はもっと少なかった。
[…………それは俺もだ。翼は焼けて、俺はもう戦えない。No.2ヒーローなんて呼ばれても、もうただの雑魚だ。]
文字を打つ手が震えている。
後悔と絶望、今ホークスの心にも深く占めている。ホークスだけじゃ無い、それぞれ理由は異なるがヒーローの全員が無力感に苛まれ、絶望している。奇しくもこのタイミングでヒーロー達が篩にかけられているのだ。
「………それでも、あなたはヒーローだ。私は違う。」
[…………確かに、君はヒーローでは無いかもしれない。」
ホークスはマスクを外し、ガラガラ声で語る。ホークスは正しくありたい。正しくあろうとしている人を支えたいと考えている。しかし、彼女はどうだ?ヒーローとして、
「公安は機能を停止し、君を縛るものはない。それでも……
そう言いながらもホークスにも迷いはあった。正しくありたい、正しくあろうとする人を支えたい。その本音と、かぶりを引き入れるのは相反するのかもしれない。秩序の為に利用する結果になるだけかもしれない。
ヒーローを辞めて五木アマメときう一般人を選んでも、今の公安には彼女を縛る力はない。仮に
しかし、ホークスが沖かぶりという
「これは命令じゃない。断って貰って構わない。公安が無い今、君を追える者はいない。それでも、共に戦って欲しい。」
「………耳郎さんや、才ねぇは、まだ折れてないんですよね。」
「2人ともヒーローとして戦うつもりらしい。」
目を瞑る。2人とも折れてない。
だったら、まだ、2人のように……
「分かりました……。こんな私でいいのなら」
そう言ったかぶりの頬の皮がペロリとめくれた。
◆
秩序が崩壊した街で少年、緑谷出久が1人で戦っていた。刑務所から抜け出したダツゴク達を捕まえつつ、
「………ふぅ」
彼は平和の象徴、オールマイトの"個性"、
(あれは?)
市場に出回ったサポートアイテムを用いて暴れてる人を発見した。異形型の彼らは感情任せに暴れている。
彼らを捕縛しようと出久は"個性"、黒鞭をビルへと伸ばして方向展開、
すでに別の黒い影が出現したのだ。それは素早く蹴り飛ばして気絶させた。
「緑谷くん!久しぶりだね。」
影、かぶりは出久の方へと振り返ると手を振った。それに軽く会釈して、出久はかぶりの横に着地した。
「あなたは……。確かホークスのサイドキック、BB。最近デビューしたばかりのNo.2の一番弟子で、ミルコのファンの……。そんなあなたが、どうしてここに……。それに久しぶりって……」
情報多いな、と、呟きながらかぶりは寂しそうに笑って、言葉を返した。
「……………うん、ホークスの指示で、私も色々飛び回ってダツゴクを
「は、はい、よろしくお願いします。」
そう頭を下げる出久にかぶりは変わらないなぁと思いながら言葉を続ける。
「この
そう言いながらかぶりは
「あ、ありがとうございます。」
出久は頭を下げ、かぶりは背を向けて跳ぼうと全身に力を入れた。そのおりに何か思いついた口を開いた。
「
そう言ってかぶりは
あの日、助けられなかったクラスメイト。中学の時からの友人だ。そんな人と似ていると思ってしまった。
(けど、そんなことありえない)
そう思い直し、出久は飛び立った。
一方、かぶりは近くのビルで脚を止めて出久が飛び立ったのを確認する。
「………ま、分かってたけど。分かってもらえないのは、やっぱ寂しいね。」
公安は実質機能を停止した。ホークスが弱体化した今、全力で隠れたかぶりを捕まえられる存在は居ないだろう。そのため、かぶりが正体を自ら明かしても、お咎めはほとんど無い。公安という楔は既にないのだ。
しかし、それでもヒーローを捨てきれていないし、まだ
ただでさえヒーローへの信頼が崩れたこの社会で、ヒーローの闇の塊のような自分がわざわざ名乗りを上げるのは
けど、それはそれとして、正体がバレないのは寂しいのだ。かぶりにとって緑谷出久という少年はそれなりに親しい相手だと思っている。中学からの友人で、こないだ出会った常闇や、高校からの親友である響香とはまた異なる相手だ。そんな彼が気がつかれなかったのは寂しい。
それに今まで響香や才子などは気がついてくれたため、どこかで親しい人ならバレるだろうと、心のどこかで思ってしまっていたのもあり、余計に辛くしている。
バラす訳にもいかない、それでもバレたい。そんな相反する感情が、無駄にヒントを出すという矛盾だらけの行動になってしまった。
「…………友達に気が付かれないのはきついなっと」
無線で生き残った公安職員に電話をして、死体の処理をお願いする。いつもならもう少し遊ぶのだが、今は時間が無い。出久との距離は着実に広がっている。
(……そろそろ平気かな)
出久を追ってかぶりは地面を蹴った。
かぶりがホークスに頼まれた仕事は出久のサポートだ。彼は
ならば、潜伏して
出久に隠れ出久を見張り、ピンチになったら不意打ちからの一撃で
◆
一方、出久は街を移動し続けていたが、どこか心あらずだった。
——
そう言ったヒーローが、もう居ないはずの少女と重なる。彼女は死んだ。助けられなかったのに、また出会えたような気がしてならない。
「もう、あんな事……」
自然と拳に力が入る。そんな様子の出久の頭に男性の声が響く。
『あの少女に何があるのか知らないが、落ち着け』
彼の"個性"、
「はい、分かっています。」
分かっている。
中学からの友達。幼馴染である勝己を除けば1番付き合いの長い友人はもう居ない。会えるわけがないんだ。少し似ている人がいたくらいで、今やるべきことを見失うわけにはいかない。
心の中で出久は自分自身に言い聞かせ続ける。しかし、それでも心が落ち着く事は無い。
「ッ!」
突如、脳裏に警笛が鳴る。
四代目の"個性"危機感知だ。
七代目の浮遊で上空から周囲を見渡す。
「あれは……」
街の中に異変を見つけた。
1人の男を相手に3人のヒーローが戦っている。男は恐竜のような見た目で複数のヒーローを蹂躙している。
(————っ!)
——ごめんね……。緑谷くん。
思い出すのは少女との別れ。
元々心にあった思いが一気に弾けた。
「やめろぉおお!」
黒鞭を街灯に結びつけ、それを引っ張り一気に加速する。そして、力任せに