問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ? 作:ベアッガイ
それぞれ自分のギフトカードを眺めていると、白夜叉が声をかけてくる。
「我らの双女神の紋のように、本来ならコミュニティの名と旗も記されるのだが、おんしらは“ノーネーム”だからの。少々味気なくなってしまっておるが、文句は黒ウサギに言ってくれ」
「………それなら何で私のカードには絵が書いてあるのかしら?」
「………ほぇ?」
「なんじゃと…?」
そう、私のカードには白夜叉の双女神の紋とは少し違うが、とある絵が刻まれている。
「み、見せて下さい!」
「え、えぇ…」
慌てたような黒ウサギにカードをむしり取られる。
「ほ、ホントにコミュニティの紋が書いてあります……」
黒ウサギのウサ耳がヘニョリと折れる。
自分達のコミュニティの力になろうとしてくれ、自分達のコミュニティに入ると言ってくれた相手が実はすでに別のコミュニティに入っていたなど、それはショックだろう。
「おいおい、どういう事だよ、これは」
「そうね。エミヤさん。貴女いつの間に他のコミュニティに入ったの?」
「悪いけれど、黒ウサギ達のコミュニティ以外に入った覚えはないわよ」
「だか、おんしのカードには確かにコミュニティの紋が……ん?」
黒ウサギからカードを取り返し、改めて良く見る。
描かれているのは幾つもの剣の突き刺さった丘だろうか。
「黒ウサギ。コレはコミュニティの紋ではないぞ」
「ほぇ?」
「そうなの?」
「うむ、コレはおそらくおんしのギフト、“無限の剣製”の絵だろう。このギフトカードはギフトを収納する事でギフトの名前とその絵が記されるのだ。まぁ全てのギフトのモノが記されるわけでは無いが、そのギフトのシンボルが描かれたりするのだ」
そうなのか。
とりあえず、自分が知らないうちにどこかのコミュニティに所属していた、なんて事ではなくてホッとした。
「よ、良かったのデスよ………」
むしろ黒ウサギの方が、ホッとし過ぎて完全に脱力して座り込んでいる。
「でも、変わっているわね」
「何がかしら?」
「だってその“無限の剣製”ってギフト。名前からすると、剣を作るものなのでしょう?それなのにそのシンボルとしての絵が、剣の刺さった丘だなんて。変じゃないかしら」
「うん。変わってる」
「そうだな、変だな」
「皆揃って、変だ、変だと連呼しないでちょうだい。自分でも変わってるのは自覚してるのよ」
何故“無限の剣製”が剣の丘であるのか、こればっかりは、そう簡単に説明する事も出来ない。
説明するということは、そのまま私の全てを晒すことに繋がりかねなあ。
仲間である十六夜はともかく、仲間であっても口の軽そうというか、うっかり口にしてしまいそうな黒ウサギや、敵となり得る白夜叉には話すことは出来ない。
「それよりも。私の事を言うけれど、貴方だって十分変じゃない。“正体不明”だなんて、意味が分からないじゃない」
「さあな。よくわからんが、なんかレアだろ?」
「………いや、そんな馬鹿な」
先ほどの私からカードをむしり取った黒ウサギのように、十六夜からギフトカードを奪い取り凝視する白夜叉。
尋常ならざる雰囲気でもって十六夜のカードに記された文字を見つめている。
「“正体不明”だと……?馬鹿な、ありえん。全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすなどと」
「“ラプラスの紙片”…って、何?」
「“ラプラスの紙片”とは、簡単に言えば全知の一端でございます。本来であればギフトの鑑定は出来ずとも、これを見ればおおよそのギフトの正体が分かるハズなのですが……」
「何にせよ、鑑定は出来なかったって事だろ。俺的には、この方がありがたいさ」
白夜叉からギフトカードを取り返す十六夜。
カードを取り上げられても、更に怪訝な様子で十六夜を睨見続けている。
それほどに“正体不明”というのはありえない事なのだろう。
この“ラプラスの紙片”もギフトであると考えれば、十六夜のギフトとは他のギフトの無効化であろうか。
十六夜のギフトの正体の追求もほどほどに、私達は暖簾の下げられた店の前に移動し、礼を言う。
「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」
「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦する時は対等の条件で挑むのだもの」
「ああ、吐いた唾を飲み込むなんて、格好つかねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」
「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ。……ところで」
突然、白夜叉は真剣な目で問うてくる。
「今さらだが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況か、よく理解しておるのか?」
「ああ、名前とか旗の話か?それなら聞いたぜ」
「ならばそれを取り戻すためには、“魔王”と戦わねばならんことも?」
「聞いてるわよ」
「………では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに所属するのだな」
「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」
「生憎と、困っている人間をほっておく事が出来ない性格なのよ」
「“カッコいい”だとかで済む話ではないのだがな……全く、若さゆえのものなのか。無謀というか、勇敢というか。まぁ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰れば分かるだろう。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めはせんが………そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」
予言じみた言葉に、当の二人はムッとするが、かつて“魔王”であったという白夜叉の言葉は、軽視出来なかったのだろう、口を挟むようなことはしなかった。
「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。小僧はともかく、おんしら二人の力程度では魔王のゲームを生き残ることは出来ん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても哀しいものだ」
「あら。私に助言は無しなのかしら?」
「おんしには必要なかろう。自らの程度というものを弁えておるし、何よりおんしは強いであろう」
どうやら白夜叉の中では私の評価は思ったより高いらしい。
「ふぅん……つまり、エミヤは私達よりも強いって言いたいんだよね、白夜叉」
「うむ。こやつならば、並大抵のゲームでは死ぬ事もあるまい」
「随分と、評価してくれているみたいだけれど、その根拠はあるのかしら?」
「ふふ…聞いて驚くな。勘だ」
「だろうと思ったわよ、このバカ夜叉」
「ふふ、そう怒るな。おんしのギフトカードにあった『全て遠き理想郷』。かの騎士の王に所縁のあるギフトであろう?何故おんしが持っておるのかは聞かぬが、それを持つだけの力を持っていると判断したまでだ」
ギフトに関しての事だからか、小声で私にだけ聞こえるように言ったらしい白夜叉。
まぁ『全て遠き理想郷』はすぐに分かってしまうだろう事は分かっていた。
この箱庭でも有名なのだろう、彼女は。
「………まぁ、エミヤさんの事はさて置き。ご忠告ありがとう。肝に銘じておくわ。そして、今度は貴方の本気のゲームに挑みに行くわ。覚悟しておきなさい」
「望むところだ。私は三三四五外門に拠を構えておる。いつでも遊びに来い。………ただし、黒ウサギとそこの小娘をチップに賭けてもらうがの」
「嫌です!」
「黒ウサギは兎も角、何で私もなのよ!?」
「ちょっとお待ちくださいエミヤ。何故、黒ウサギは兎も角、なのですか!」
「二人とも、そうつれないことを言うなよぅ。私のコミュニティに来れば生涯を遊んで暮らせると保証するぞ?三食首輪付きの個室も用意するし」
「三食首輪付きってそれもう、完全にペット扱いじゃないですか!」
「私もペット扱いなんて冗談じゃないわよ。それに、私はそんな生活を黙って享受して良いような人間でもないのよ」
怒る黒ウサギに、楽しそうに笑う白夜叉。
うん、やっぱり昔の私みたいだ。
白夜叉とのゲームも終わり、私達は噴水広場から一刻ほど歩くと、“ノーネーム”の居住区に着いた。
門の上には、どうやら旗を掲げていた名残りのようなものが見える。
「こちらが私達のコミュニティでございます。しかし、本拠にしている館はこの入り口からも更に歩かねばならないので、御容赦ください。この近辺はまだ魔王との戦いの名残りがありますので………」
「戦いの名残り?噂の魔王って素敵ネーミングの奴との戦いだよな?」
「は、はい」
「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてちょうだい」
どうにも飛鳥の機嫌が悪い。
おそらくは先ほど白夜叉に虫扱いされたのが気に入らないのだろう。
黒ウサギは躊躇いながら門を開く。
門が開くのと同時に、乾き切った風が吹き抜ける。
視界には一面の廃墟が広がっていた。
「っ、これは……」
街並みに刻まれた傷跡に、息を呑む二人。
十六夜は木造の廃墟の囲いに歩み寄り、その残骸を手に取る。
傍目には軽く握っただけに見えたが、それはいとも容易く崩れ去った。
「……おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのはーーー今から何百年前の話だ?」
「僅か三年前でございます」
「三年……?」
「ハッ、そりゃ面白い冗談だ。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと?」
彼ら“ノーネーム”のコミュニティは、まるで数百年が経過したかのように崩れ去っていた。
美しく整備されていた白地の街路は砂に埋れ、木造の建造物は軒並み腐り落ちている。要所に用いられていた鉄筋は針金は錆に蝕まれ折れ曲がり、街路樹は石碑のように枯れ果て放置されていた。
とても三年前まで人が住み、賑わっていたとは考えられない光景だった。
これほどの被害、サーヴァントにだって不可能だろう。
「……断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はしない。この木造の壊れ方なんて、膨大な時間の末自然崩壊したようにしか見えない」
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「……生き物の気配が全くしない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
「……空想具現化のような力?いえ。アレは自然物にしか作用しなかったハズ………」
試しに解析の魔術をかけて、近くの廃墟を調べてみるが、ほとんど何も分からない。ホントにただの廃墟としかわからない。
「……魔王とのギフトゲームはそれほどに未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間もみんな心を折られ……コミュニティからも、箱庭からも去って行きました」
白夜叉がゲーム盤を持っていた理由はこういう事が理由だろう。
彼女達ほどの力を持った者達が全力を出してしまうと、周囲への被害などバカにならないからだろう。
そして、黒ウサギ達のコミュニティを襲った魔王は、あえてゲーム盤を使わずに、傷跡を残していったのだ。
黒ウサギは感情を殺した目で、廃墟の中を進んでいく。
ただ一人、十六夜だけは違った。
「魔王ーーーか。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねぇか……!」