問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ? 作:ベアッガイ
「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」
「そうね、私も十六夜に出してもらおうかしら?」
「おいおい、何で俺がエミヤのクリーニング代を出さなきゃいけないんだよ」
「貴方が私を無理やりここに連れてきたせいだからよ!少しは反省しなさい!」
冗談めかした私たちの言葉も、黒ウサギには聞こえていないようだ。
今ごろ彼女の頭の中はパニックで一杯だろう。
と、思ったら今度は何やら大興奮を抑えきれない、といった様子の黒ウサギ。
何だか見ていて面白い。
「おい、どうした?ボーッとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」
「え、きゃあ!」
「やめなさい、このバカ」
脇の下から手を伸ばし、黒ウサギのその豊満な胸に手を伸ばそうとしていた十六夜に気づき慌てて離れる黒ウサギ。
スパァン!といい音がするほど、十六夜の頭を投影したハリセンで叩く。
「なっ、ばっ、このお馬鹿様!二百年守ってきた黒ウサギの貞操にキズをつけるおつもりですか!?」
「二百年守った貞操?うわ、超傷つけたい」
「二百年だと、そこまでの神秘ではなさそうね」
「お馬鹿様!というかエミヤさんは何を言っているのですか!」
しまった、つい、魔術師的な発想をしてしまっていた。
「まったく……ところで十六夜さん、その蛇神様はどうされます?というか生きてます?」
「命までは取ってねぇよ。戦うのは楽しかったけど、殺すのは別段面白くもないしな。“世界の果て”にある滝を拝んだら箱庭に戻るさ」
「あら…殺さないなんて随分甘いのね、十六夜は」
「あ?そういうお前は、あれか?殺すのか?」
「えぇ、可能なら殺すわよ。後顧の憂いは絶ちたいもの。……それに復讐にでも来られたら面倒じゃない?」
「それには、概ね同意する。ただ、俺としてはパワーアップしてのリベンジマッチは楽しみだがな」
「バトルマニアなのね貴方……」
「あー、それはともかく。何もなしというのもアレですし、ギフトだけでも戴いておきましょう。ゲームの内容はどうあれ、十六夜さんは勝者です。蛇神様も文句はないでしょうかは」
「あん?」
「神仏とギフトゲームを競い合う時は基本的に三つの中から選ぶんですよ。最もポピュラーなのが“力”と“知恵”と“勇気”ですね。力比べのゲームの際は相応の相手が用意されるものなんですが………十六夜さんはご本人を倒しましたから。きっと凄いのを戴けますよー。これで黒ウサギたちのコミュニティも今より力をつけることが出来ます♪」
嬉しいそうな黒ウサギとは対照的に、不機嫌そうになる十六夜。
「な、なんですか十六夜さん?怖い顔をされていますが、何か気に障りましたか?」
「……別にィ。オマエの言うことは正しいぜ。勝者が敗者から何かを得るのはギフトゲームとしては間違いなく真っ当なんだろうよ。だからそこに不服はねぇーーーけどな黒ウサギ」
一転、十六夜の表情から軽薄なものが消え、ひどく真剣なものになる。
「オマエ、何か決定的な事をずっと隠しているよな?」
「……なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」
「ーーーつまりはそれが以外。例えば、そう。貴女たちのコミュニティの事とか?」
私の言葉に黒ウサギは一瞬で青ざめる。
「な…何故、それを………」
「あら、図星みたいね。割と当てずっぽうだったのだけれど…」
「と言う割には、自信があったみたいだが?」
「まぁ、十六夜ほど明確な根拠があるわけじゃないわ。ただ、なんとなく、黒ウサギが随分と必死で私たちを自分たちのコミュニティに誘導しようとしている様に見えただけよ」
「なるほど。目の付け所は、俺と同じか」
「そうなの?なら、十六夜の推理を聞かせてもらえる?」
「そうだな…、半分以上は勘だが、黒ウサギのコミュニティは弱小チーム、もしくは故あって衰退している。だから俺達を呼んで、組織の強化を図ろうとした。そう考えれば、今の行動や、俺やオマエがコミュニティに入ることを拒否した時の怒り様も合点がいくーーーどうだ、黒ウサギ?」
「っ……!」
はたから見ては、分かりにくいが、黒ウサギは今、ハッキリと動揺している。
「んで、それを隠してたってことはだ。俺達にはどのコミュニティに入るのかを自由に選ぶ権利があると判断できるんだが、その辺どうよ?」
「………」
「沈黙は是也よ、黒ウサギ?
「この状況で黙りこんでも状況は悪化するだけ。俺達が他のコミュニティに入ってもいいのか?」
「や、だ、駄目です!いえ、待って下さい!」
「おう、待ってやるから、さっさと話せ」
十六夜は手頃な岩に腰掛け話を聞く姿勢になる。
私は別に彼女達に招待されたわけではないから、聞く必要はないのだが。
まぁ、ついでとばかりに十六夜の隣に座り、話を聞くことにする。
「ま、話す話さないは好きにしろよ。その場合、俺は他のコミュニティに行くがな。オマエも俺と一緒に来るか、エミヤ?」
「私としては、黒ウサギの話を聞いてから判断したいところなのだけど」
「………話せば、協力していただけますか?」
「ああ。面白ければな」
面白ければ、とはまたとんでもない基準だ。
ある意味問題児らしい。
とはいえ、十六夜の瞳は真剣そのものだ。
彼なりに真面目に判断しようとはしているのだろう。
「……分かりました。それではこの黒ウサギもお腹を括って、精々オモシロオカシク」
「真面目に簡潔に話してちょうだい」
「……真面目に簡潔に、我々のコミュニティの惨状を語らせていただきます」
惨状とは。
この時点で十六夜の推測がだいぶ真実味を帯びてきた。
「まず私達のコミュニティには名乗るべき“名”がありません。よって呼ばれる時は名前の無いその他大勢、“ノーネーム”という蔑称で称されます」
「へぇ……その他大勢扱いかよ。それで?」
「次に私達にほコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」
「ふぅん……それで終わり?」
「いえ、“名”と“旗印”に続いてトドメに、中核を成す仲間達は一人も残っておりません。もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加出来るだけのギフトを持っているのは一二二人中、黒ウサギとジン坊っちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」
「もう崖っぷちだな!」
「逆にここまでだと、素直に感心するわ」
「ホントですねー♪」
ガクリ、と崩れ落ちる黒ウサギ。
自分で話していて自分達のコミュニティが最早、組織として末期だということを痛感しているのだろう。
うぅむ、思ったよりも深刻みたいだ。