問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ? 作:ベアッガイ
「で、どうしてそうなったんだ?黒ウサギのコミュニティは託児所でもやってんのか?」
「いえ、彼らの親も全て奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災ーーー魔王によって」
魔王?
元の世界にも魔王のごとき力を持っている者なら山ほどいたが。吸血鬼の真祖だとか。
「ま……マオウ!?」
さしもの十六夜も驚いていると思ったが、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせている。
「魔王!なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねぇか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?」
「え、ええまぁ。けど十六夜さんが思い描いている魔王とは差異があるかと……」
「そうなのか?けど魔王なんて名乗るんだから強大で凶悪で、全力で叩き潰しても誰からも咎められることのないような素敵に不敵にゲスい奴なんだろ?」
「ま、まぁ……倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属させることも可能ですし」
「へぇ?」
「……裏を返せば、そんな天災と称されるよう存在を倒すことができるようなのが、この箱庭には居るっていうことの証明よね、それ」
「えぇと、まぁ。その通りでございます。……魔王は“主催者権限”という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断ることが出来ません。私達は“主催者権限”を持つ魔王のゲームに強制参加させられ、コミュニティは………コミュニティとして活動していく為に必要な全てを奪われてしまいました」
地位も名誉も、仲間すらも奪われたのだ。
彼女の言葉はまさしく、言葉通りなのだろう。
「ねぇ、黒ウサギ。その“名”と“旗印”だけれど、新しく作ることは出来ないの?」
「そうだな。名前も旗印も無いのはそうとう不便な話みてーだし。そこんとこ、どうなんだ?」
「そ、それは」
ここで一旦黙り込んでしまう黒ウサギ。
この様子だと、可能だけれど出来ればそうしたくないって感じね。
「か、可能です。ですが改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私達は何よりも……仲間達が戻ってくる場所を守りたいのですから……!」
仲間達の居場所を守りたい、それが彼女達の願いなのだろう。
「茨の道だと言うのは分かっています。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し……何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さん達のような強大な力を持つプレイヤーを頼るほかありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか………!?」
「……ふぅん。魔王から誇りと仲間をねぇ」
深く頭を下げて懇願する黒ウサギに対し、十六夜の反応は淡白だ。
とても彼女の話を聞いた者の反応とは思えない。
ほら、黒ウサギったら、泣きそうな顔してるじゃない。
「いいな、それ」
「ーーー……は?」
「HA?じゃねぅよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」
「え……あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございましたか?」
「そんな流れだったみたいよ、少なくとも十六夜の中では」
「何だよその反応。それとも俺がいらねぇのか?失礼なこと言うと本気で余所行くぞ」
「だ、駄目です駄目です!絶対駄目です!十六夜さんは私達に絶対必要です!」
「素直でよろしい」
「あら、私は必要だとは言ってくれないのね、何だか悲しいわ」
「あ、いえっ!そんなことは!むしろ、よろしければエミヤさんにも、お力を貸していただけないかと……」
「そうだな。エミヤ、お前も黒ウサギのコミュニティに入ったらどうだ?っつうか、入れ」
「命令?まぁ、構わないわ。私は別に何処でも構わないし」
「ありがとうございます!御二方!」
黒ウサギがそれは嬉しそうにしている。
うん、やっぱり女の子は笑ってるのが一番ね。
「おい黒ウサギ。あのヘビ起こしてさっさとギフト貰ってこいよ。その後川の終焉にある滝と“世界の果て”を見に行くぞ」
「は、はい!」
「そういえば、そもそもその為に私は拉致されたんだったわね…」
黒ウサギは蛇神の上に乗り、顎の近くに移動する。
遠巻きに何かを話しているのを十六夜と二人で眺めている。
直後に青い光が周囲に満ちたかと思うと、光の源が黒ウサギの手の中へと移っていくと、ピョンピョンと飛び跳ねながらこちらにやってくる。
「きゃーきゃーきゃー♪見てください!こんな大きい水樹の苗を貰いました!コレがあればもう余所のコミュニティから水を買う必要もなくなります!みんな大助かりです!」
ウッキャー♪なんて叫びを上げながらその苗を抱いてクルクル跳び回る。
というか、今、水を他のコミュニティから買っていたと言ったか?
水すら買わないといけないほどの衰退ぶりだったのか?
「喜んでもらえて何よりなんだが、一つ聞いていいか?」
「どうぞどうぞ!今なら一つと言わず三つでも四つでもお答えしますよ〜♪」
「それは三段腹なことだな」
「誰が三段腹ですか!」
「箱庭のウサギは喜んだり怒ったり、忙しいわね」
「まぁ、どうでもいい質問だけど。そんなに欲しかったならどうしてオマエがこのヘビに挑まなかったんだ?俺が見たところ、オマエやエミヤの方がよっぽど強いように見えるが」
確かに。
黒ウサギなら、大抵のギフトゲームならクリア出来そうなものだが。
それとも黒ウサギですら、クリア出来ないようなゲームばかりなのか?
「ああ……その事ですか。それはウサギ達が“箱庭の貴族”と呼ばれるコトに由来します。ウサギ達は“主催者権限”と同じく“審判権限”と呼ばれる特権を所持できるのです。“審判権限”を持つものがゲームの審判を努めた場合、両者は絶対にギフトゲームのルールを破ることができなくなり……いえ、正しくはその場で違反者の敗北が決定します」
「へえ?それはいい話だな。つまりウサギと共謀すればギフトゲームで無敗になれる」
「だから違います。ルール違反=敗北なのです。ウサギの目と耳は箱庭の中枢と繋がっております。つまりウサギ達の意思とは無関係に敗北が決定して、チップを取り立てる事が出来るのですよ。それでも無理に判定を揺るがすと………」
「揺るがすと?」
「爆死します」
「爆死するのか」
「爆死するの?」
「それはもう盛大に。“審判権限”の所持はその代償として幾つかの“縛り”が御座います。
一つ、ギフトゲームの審判を努めた日より数えて十五日間はゲームに参加できない。
二つ、“主催者”側から認可を取らねば参加出来ない。
三つ、箱庭の外で行われているゲームには参加出来ない。
ーーーとまぁ、他にもありますが、蛇神様のゲームに挑めなかったのは主にこの三つですね。それに黒ウサギの審判稼業はコミュニティで唯一の稼ぎでしたから、必然的にコミュニティのゲームに参加する機会も少なかったのデスよ」
「なるほどね。実力があってもゲームで使えないカードじゃ仕方ないか」
肩をすくめて歩き出す十六夜に続く私と黒ウサギ。
ようやく、本来の目的である世界の果てを見に歩き出した。
ここまでに無駄に時間がかかり過ぎたように思うのは、きっと気のせいではないだろう。