問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ? 作:ベアッガイ
「その、黒ウサギも一つ十六夜とエミヤさんに御聞きしたいことがあります」
「却下。嘘。どうぞ」
「何かしら?」
「え?ああ、はい。御二方はどうして黒ウサギ達に協力してくれるのです?」
「んー……。答えてもいいけど、ただ答えるのはつまらんな。質問を変えるけど、黒ウサギはどうして俺が“世界の果て”を見てみたいのだと思う?」
「やっぱり……面白そうだからでしょうか?十六夜さんは自称快楽主義者ですし」
「半分正解。なら、俺はどうして面白いと感じたんだろうな?」
「元いた世界にはなかったからじゃないの?」
わりと真剣に考え込む黒ウサギ。
「ハイ、タイムアウト」
「制限付き!?だ、駄目ですよ!ゲームの時間制限は最初に提示されない限り違反です!」
「マジか?じゃぁ黒ウサギは爆死するのか?」
「なんで黒ウサギが爆死するんですか!?」
私達が湖に落下してから数時間。
徐々に陽が落ちて夕暮れになろうとしていた。
「結局、“世界の果て”が見たい正解は何なのよ?」
「そうだな……簡潔に言うと“ロマンがあるから”だな。俺の居た世界は先人様方がロマンというロマンを掘りつくして、俺の趣向に合うものが殆ど残って無かったんだよ。だからここじゃない世界なら、俺並に凄いものがあるかもしれないと思ったのさ。だからつまり“世界の果て”を見に行くのは、生きていくのに必要な感動を補給しに来たってところかな」
「な、なるほど。十六夜さんはロマンのあるものを見て感動したいのですね」
「ロマンチストだなんて、似合わないわね」
「感動に素直に生きるのは、快楽主義の基本だぜ?」
「そうですか……」
「って、それじゃあ、貴方が黒ウサギに協力するのは…」
「随分と陽が暮れてきたな。日が落ちると虹が見えないかもしれないし、急ぐぞ」
歩く速度を早めた十六夜を、慌てて追いかける。
「天動説のように、太陽が世界を廻っているんだな……」
「分かりますか?あの太陽はこの箱庭を廻り続ける正真正銘、神造の太陽です。噂では、箱庭の上層部では太陽の主権を賭けたゲームがあるそうですよ」
「そりゃ壮大だ。是非とも一度参加してみたいね」
「……私は遠慮したいわね」
ケラケラと心の底から笑っているような十六夜。
それからさらに半刻ほどで、ようやく私たちは滝に辿り着く。
「お……!」
その滝ーーー後で聞くとトリトニスの滝というらしいーーーは夕焼けの光を浴びて朱色に染まり、跳ね返る激しい水飛沫が数多の虹を作り出している。
楕円形のようにも見える滝の河口は遥か彼方にまで続いており、流水は“世界の果て”を通って無限の空に投げ出されていた。
「どうです?横幅の全長は約2800mもあるトリトニスの大滝でございます。こんな滝は十六夜とエミヤさんの故郷にもないのでは?」
「……そうね。少なくとも私は知らないわ。十六夜は?」
「……ああ。素直にすげぇな。ナイアガラのざっと二倍以上の横幅ってわけか。この“世界の果て”の下はどんな感じになってるんだ?やっぱり大亀が世界を支えているのか?」
そういえば、一部の天動説の下地では、世界は球体ではなく水平に広がり、大亀の背中に背負われていると言われていたわね。
ためしに断崖絶壁を覗き込むと、その先も夕焼けに染まった空が続いている。
「残念ながらNOですね。この世界を支えているのは“世界軸”と呼ばれる柱でございます。何本あるのか定かではありませんが、一本は箱庭を貫通しているあの巨大な主軸です。この箱庭の世界がこのように不完全な形で存在しているのは、何処かの誰かが“世界軸”を一本引き抜いて持ち帰った、という伝説もあるのですが……」
「はは、それすげぇな。ならその大馬鹿野郎に感謝しねぇとな」
「トリトニスの大滝、だったな。ココを上流に遡ればアトランティスでもあるのか?」
「アトランティス?」
「さて、どうでしょう。箱庭の世界は恒星と同じ表面積という広大さに加え、黒ウサギは箱庭の外の事はあまり存じ上げません。しかし……箱庭の上層にコミュニティの本拠を探せば、閲覧出来る資料の中にそういうものもあるかもですよ?」
「知りたければ、そこまで自分達を連れていきなさい、って事かしら?」
「いえいえ。ただ、ロマンを追求するのであれば、という黒ウサギの勧めでございますヨ?」
「それはどうも御親切様」
「やっぱり黒ウサギは文字通り、腹黒ウサギね」
「はっ、腹黒!?」
「ま、ともかく。こんなデタラメで面白い世界に呼び出してくれたんだ。その分の働きはしてやる。けど残りの二人の説得には協力しないからな。騙すも誑かすも構わないが、後腐れないように頼むぜ。同じチームでやっていくなら尚更な」
「そうね。後ろから背中を刺されるようなのは御免よ?」
「………はい」
「そういえば、十六夜さんの理由は聞きましたが、エミヤさんは何故私達に協力して下さるので?」
「そうね……笑わない?」
「ゲラゲラゲラゲラ」
「え!?そこで笑うんですか、十六夜さん!?」
「え、さっきのって笑えってフリだろ?」
「違うわよ!仮にそうだとしても、普通は話を聞いてから笑うものでしょう!?」
「ほら、俺ってば意外性ととんだ男の子じゃん?」
「知らないわよ!いや、知ってるけれども!」
あぁもう、なんて自由過ぎるのかしらこの問題児は。
それにしても、一回死んでも私は近くの誰かに振り回される運命なのは変わらないのだろうか。
悲しい。
「で、結局どうなんだ?」
「そ、そうです。大丈夫ですよ、笑うなんて失礼な事はいたしませんデスよ!」
「まったく……まぁ、簡単に言うとね?」
「「簡単に言うと?」」
「私が、正義の味方だから、かしら?」
私はやや、恥ずかしげにそう答えた。
ちなみに十六夜はやっぱり大爆笑していた。
腹が立ったので帰り際に川に突き落としてやった。
………巻き添いで黒ウサギも十六夜に捕まり一緒に落ちていたけれども、私は悪くないハズだ。