「テっちゃんは聡い子だね」
でもおばあちゃん、みんなとかくれんぼしてもみんなぼくをみつけてくれません。
「テっちゃんは優しいね」
でもおばあちゃん、ぼくはみんなとうまくあそべません。
だってみんなぼくをみつけることはできないから。
「じゃあね、テっちゃんが見つけてあげればいいんだよ」
「テっちゃんは誰より優しくて、気配りが上手だからきっといつかかけがえのない友達に出会えるよ。」
ほんとうに?ほんとうにぼくにもともだちができますか?
「おばあちゃんが保証する。テっちゃんはいつか一生かけても出会えないような素敵な友達と巡り合えるよ」
「いつかテっちゃんにそんな素敵な友達ができたら、おばあちゃんにも紹介してね」
はい。いつかすてきなお友達ができたらおばあちゃんのところにつれてきます。
だから、だからおばあちゃんそれまでまっててくださいね。
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それはとても懐かしい夢だった。
両親が共働きで家が空けることが多かったので僕の面倒は祖母がみてくれた。
祖父は僕が産まれる前に他界しており、仏壇には僕の目にそっくりな祖父の写真がかざられていた。
祖母は僕の目をみて「テっちゃんは将来素敵な男の子になるんだろうね」と嬉しそうに話した。その言葉からきっと祖母は祖父に大事にされてきたのだということが感じられた。
幼いころから影がうすく、友達ができにくかった僕の遊び相手はいつも決まって祖母だった。
お手玉、おはじき、そして絵本の読み聞かせ。
少々古い遊びではあるが、僕は祖母と過ごす優しく穏やかな時間が大好きだった。
何より祖母は元保育士という経験もあり、祖母の読み聞かせてくれる本はいつだって僕の一番の楽しみだったのだ。
その祖母のおかげで大きくなった今でも本は僕のかけがえのない友達のような存在だ。
勉強でもとびぬけた才能はない僕だけど祖母のおかげで国語だけはいつも点数がいい。
今の僕があるのは祖母のおかげだ。
そしてその僕はこの春、高校生になる。
青峰大輝。
彼と出会った時僕は祖母がいっていた「素敵な友達」に巡り合えたのだと思った。
僕とは似ても似つかない。才能に恵まれ人格も優れているのに決して驕らずあくまでも純粋に強さを追い求める。
彼は才能がないことを嘆き諦めかけていた僕を叱咤し、そして自らが犠牲になってまで僕の可能性を信じてくれた。
その彼の信頼にこたえたいと藁にもすがる思いで見つけた可能性が「ミスディレクション」
あの時僕は一生かけても出会えないかけがえのない親友に出会えたのだと思った。
だけどどうだろう。実際彼らの才能が開花するとあっという間に僕は「いらないもの」になってしまった。
それだけじゃない。
僕は僕自身のせいで僕の才能を信じてくれていた人の心を踏みにじってしまった。
あの時の荻原君の目を僕は忘れることはできないだろう。
あの日僕は二人の親友を失った。
家に帰って心配する両親をよそに、祖母は一言もバスケのことには触れなかった。
「テッちゃん、今日はどんなお話を読むの?」
祖母はいつものように優しい笑顔で僕を温かく迎え入れた。
「おばあちゃん・・・」
おばあちゃん。僕はあの時どうすればよかったんでしょう。
青峰君も荻原君も、僕の力では助けられなかった。
自分の可能性すら守れない僕に、いったいなにができるんでしょう。
どれだけ努力したって、僕は彼らに一生叶わないのに。
抑えていた気持ちが一気にあふれ、涙が止まらなくなった。
自分が情けなくて、恥ずかしくて悔しくて。
「がんばったんだもんねぇ・・・・」
そういって祖母は僕の頭をやさしく撫でた。
「テッちゃん。もし今あなたが本当にバスケをすることが嫌になったのなら部活にいかなくてもいい。あの学校に行くのが辛いなら学校なんかいかなくてもいい。
でも、お友達のせいでバスケを辞めるのはやめなさい。
自分の本当の好きなものを他人のせいでやめるなんてもったいない。
そうでなくてもバスケを辞めた原因をお友達のせいにするのはやめなさい。
今はどんなに辛くたって、これを乗り越えたらきっと将来そんなこともあったなって笑いあえる日がくる。
でも今テッちゃんがバスケを辞めた原因をお友達のせいにしてしまうとそんな日は一生こなくなってしまう。
将来自分がこれでよかったって笑えるように今は辛くても本当の気持ちをしっかり見極めて決断しなさい。」
祖母の言うことはいつも優しく厳しい。
バスケをすることは本当に辛い。今はボールも、体育館に響くシューズ音もバスケを思い出させるすべてが嫌いだ。
だけど心の底ではもう一度ボールに触れたいと願っている。
許されるのならもう一度彼らとバスケがしたい。
けど僕にそんな資格は残されていない。
せめて少しでも償いたくて荻原君に会いにいった。
だけど現実は残酷で彼はバスケを辞め、さらに学校も去ってしまっていた。
あぁ僕はもう彼に会う資格すらない。
目の前が真っ暗になりそうになった時、彼の先輩が荻原君の言葉を僕に伝えてくれた。
「黒子ならあの彼らの冷たくなってしまった心の氷をとかすことができる」と。
彼は最後まで僕のことを信じてくれた。
きっともう彼は僕を許してくれないかもしれない。それでも少しでも償いたい。
そのためには僕は今ここでバスケを辞めるわけにはいかない。
もう一度彼と笑顔でバスケをするために。
「すいません、黒子は僕です」
僕はここで彼らを超える。
きっと僕だけの力では彼らに遠く及ばない。
それでも、僕は僕のバスケが間違っていなかったことを証明するために。
もう一度彼らと笑顔でバスケをするために戦いに行くのだ。
「なりたいじゃねぇよ。なるぞ!!」
この学園で僕の一番の光とともに。
***
「テッちゃん。バスケ楽しい?」
誠凛が優勝した時、初めて祖母が僕に聞いた。
「はい。楽しいです」
「よかった、ずっとその言葉が聞きたかったのよ」
「おばあちゃん・・・」
影は光のためにある。
僕のバスケ人生は影で皆を支えるために僕の全てをささげた。
そしてその僕の影は祖母だ。祖母がずっと僕を支えてくれていた。
まだ僕がボールにふれるずっと前から。
おばあちゃん、今では皆が僕を見つけてくれます。
おばあちゃんがいったように沢山の光を見つけました。
皆才能に溢れていてとてもまぶしくそして素晴らしい人たちです。
あの時僕にはもうバスケをする資格なんてないと思っていました。
だけどそれでも続けてこれたのは皆が僕を支えてくれて、最後まで僕を信じてくれる仲間に出会えたからです。
「だから言ったでしょう、テッちゃんは素敵な友達に巡り合えるって」
「はい、本当に・・・」
「おーいテツ、なんだよ急に会いに来いって・・・」
「黒子が急に呼び出すなんてめずらしいな」
「いやわりとしょっちゅうだぞ」
「あいつ何気にわがままだもんなー」
おばあちゃん、紹介します。
僕の最高の仲間たちを