喋る猫って良いよね。
僕はいじめを受けている。
教室に入り自分の席の位置までやって来る。
僕の椅子が無い。
あるのは机だけ。
その机にも、赤や青色のペンで排出物のイラストや罵声の数々が描かれている。ご丁寧に油性。
いつものことだ。
周りの生徒は見て見ぬフリをしている。面倒ごとには関わりたくないですよって。
僕は表情を変えることなく、教室の隅に目をやった。
そこには僕の椅子に座る目つきの悪い男子生徒と、その周りで窓に寄りかかってる数人の生徒がいた。
彼らは僕に嫌がらせをする犯人たちで間違いない。
僕は彼らに何かしたのか?いや何もしてない。それどころか、クラスでは空気でいた。
それが良くなかったのかもしれない、彼らは僕を攻撃してもクラスの誰も気に留めないことを知っていた。
体のいいサンドバッグだ。
僕は椅子を取り返しに彼らの正面に立つ。
彼らは皆一様ににやにやと嘲笑うような笑みを浮かべて僕を見る。
その視線、嫌いだ。
「それ僕の」
僕は短く言った。
いつもこの瞬間は胃がきゅっと締め付けられる。腹に力が入ってないから声も震えていた。その情けない声は彼らを喜ばせるんだ。
椅子に座る生徒が否定の意志を見せつけるように足を組んだ。
「人に頼み事すると時はどうすんだよ」
彼が大きな声で言った。
心を握られるような威圧的な声。
その声を聞けば僕の身体は、一切の抵抗なく淀みなく、膝を折り頭を垂れて四つん這いになる。
「返してください」
顔を上げずとも聞こえてくる笑い声で彼らがどんな醜悪な表情を浮かべているのかが容易に想像つく。
僕は表情を変えずに床を見ている。
感情があると邪魔にしかならない。理不尽を叫んで、壊れる。
「そーかそーか でも俺には座る椅子がねーからなぁ~」
僕は体勢を変えない。
「お、丁度良いところに座り心地良さそうな椅子があんじゃん」
そう言って、僕の椅子に座っていた彼は、今度は僕の背中に座った。
「ありがとねー下僕くん」
僕は何も答えない。俯いたまま。椅子になる。
やがて朝のホームルームの鐘が鳴るまで、僕は彼の椅子になり続ける。
僕はいじめられている。
自分の力じゃ抗えない。
でも神頼みしたところで意味がない。
僕は消えたくてしょうがない。
その日の放課後は、学校を出るのがすっかり遅くなった。
陽は既に沈んでいて、濃青色の空が広がっている。
部活もやってない僕だけど、隠されたノートを見つけ出すのに苦労した結果こんな遅い時間にまでなってしまった。
まあいつも寄り道して時間つぶして帰るからあんまり関係はないんだけど。
僕は家路をとろとろ辿る。
夜風が顔を撫でていって気持ちいい。静かで落ち着く。暗い道も好きだ。
この見慣れた道も、静かで人手が無くて街灯がぽつんと照らすだけであとは暗い。
何故だか無性に安心する。
ポケットに手を入れて、地面を見ながら歩く。
ふと。
顔を上げた視線の先、道の真ん中に猫がいるのに気付いた。
僕の行く手を阻むように道に堂々座りこんで、こっちを見つめている。
黒い毛並みの黄色い瞳の夜が良く似合う野良猫。
僕は刺激しないように、そそくさと猫の横を通り過ぎようとした。
しかし、止められた。
「おい 小僧」
何かが話しかけてきて僕の足を止めた。
といっても周りに人はいない。僕はきょろきょろと辺りを見渡す。
家の壁と標識と看板と道と猫と・・・
「おい 小僧」
猫と・・・。
猫。
いや、まさか。
「見てるだけじゃなくて返事の一つでもしたらどうだ 小僧」
「・・・猫が、、喋ってる?」
「にゃんか文句あるのか」
僕は目を見開いた。
猫が喋っていた。
厳密には口を開けているわけじゃないけど。
というより、僕の頭がおかしくなってしまっただけかもしれないけど。
喋ってた。
「安心しろ 正常だ」
「やっぱり喋ってる・・・」
僕は驚きで言葉を失う。
そんな僕を気にせずに猫は喋る。
「小僧、お前には望みがあるみたいだにゃ」
猫が黄色い目で真っ直ぐ問いかけてくる。
その大きな瞳に見つめられていると頭の中を全て見透かされているような気分になる。
猫が言った。
望み。
確かにある。
いつも心の隅っこに置いてあって、でも強く思ってる。
消えたいって。
でも、いきなり猫に問いかけられて動揺してしまった。
僕は言葉を詰まらせた。
「お前は消えたいって思っている、そうだにゃ?」
「・・・っ!」
「俺には何でもお見通しにゃ」
猫は自信満々な声で言う。
もしかしたらほんとに頭の中を見られているのかもしれない。
あと、”にゃ”って語尾が可愛い。
「それでだ」
猫が言う。
「俺がその願い叶えてやるにゃ」
「叶える・・・?」
「俺がお前を消してやるにゃ」
僕はその言葉に息を呑んだ。
だって、そうだ。いきなり願いをかなえてやるって、そんな、意味が分からない。
「本当にできるの?」
「ああできる」
「どうやって」
「食ってやる」
「猫なのに?」
人間よりもずっと小さい猫だ。
食べるなんて無理だ。僕はネズミより大きい。
「そこでにゃんだが、俺をいろいろ助けてほしいのにゃ」
「いろいろって・・・」
そこで僕は言葉を切った。
切らざるを得なかった。
遠くの方、僕が歩いてきた道の先の方から物凄く大きな音がした。
ずどーんっと重たいものが倒れる音。
空気に衝撃が轟いて、身体に響くくらい大きい。
僕は咄嗟に顔を向けた。
驚いた。
電柱が道に倒れていた。
それはもう地面を遮るように派手に倒れていた。
余りに非現実的な光景に思考が止まりかけるけど、それで驚きは終わらない。
その犯人もいた。
なんと家の屋根に届くくらいに巨大なカエルが、転がった電柱の前に立っていた。
分からない。分からない。あんなカエル見たことない。
カエルは、その何を考えているのか分からない真っ黒の真ん丸な瞳で僕たちを見下ろすと、
「げこーーーーーー」
大きく鳴いた。
「まずい逃げるぞ」
猫が言う。
意味がまるで分からない。困惑して立ち止まっている。
猫は僕の頭に飛び乗ってきた。
ちょっと身体がふらつく。それで少し正気に戻る。
猫は頭に乗ったまま急かすように尻尾で僕の頬をぺちぺち叩いた。
「ぼけっとするにゃ お前の家に向かって走るのにゃ」
「え、家? 走る? なんで?」
「カエルから逃げるためにゃ!!!」
ずんずん
地響きが近づいてきている。見ればカエルが飛び跳ねて、僕らの方向に向かってきていた。
着地する度に地面がめり込んでいる。ずーんずーんと重たい音がする。
あんなのに下敷きにされたらひとたまりもない。
僕は顔を引きつらせて、カエルから逃げるように走り始めた。
「何で追ってくるの!あれ!」
「あれは神の使いにゃ カエル、つまり俺を”帰らせる”ってことにゃ」
「くだらないこと言ってる場合じゃないって!!」
カエルは図体が異常にデカイ。ゆえに一階の跳躍も飛距離が伸びて、どんどんと距離が縮まってきている。
「あんなのどうすればいいんだよ!!」
「家にゃ! お前の家に行くにゃ! 使いは家には入れないのにゃ!」
「ぜっんぜん意味が分かんない!」
”神の使い”って何だ。巨大カエルは何だ。そもそも猫が喋るって何だ。
どごんっ
「ひっ!?」
僕のすぐ後ろの地面が、抉れた。
カエルが僕に向かって伸ばした舌が地面を削っていったのだ。
しゅるしゅると舌が口に戻っていった。
舌に捕まるのも時間の問題だ。
僕は一生懸命走った。
できるだけ撒けるように幾度も曲がり角を曲がって、ようやく家が見えてくる。
玄関がこんなに神々しく見えたのは生まれて初めてだ。
「上から来るにゃ」
「は!?」
見上げればカエルが飛び跳ねていて、その腹が僕らの真上にあった。
カエルの丸い影が僕らをすっぽり覆っている。
潰される!
僕は慌てて玄関の扉を開けて中に入る。
遅れて重たい音が玄関越しに響いた。
僕はと言えば、緊急事態なのに靴を脱ぐのにこだわって、でもすぐに脱げなくて、つんのめって、廊下に繋がる床に前からこけた。
「痛った」
猫は僕が地面に触れる前に、ひょいと飛び跳ねて安全だったみたいだ。
それよりも。
「カエルは!?」
「もうこないにゃ」
ガバリと顔を上げて尋ねた僕とは対照的に、猫は後ろ足でのんきに顔を掻きながら答えた。
猫の言葉を証明するように、空気は一切の静寂に包まれていた。
僕と猫は僕の部屋にいた。
ベッドの上に、猫が伸びていた
床の上に、僕が座っていた。
「ふかふかはいいにゃー」
猫が寝転んで言った。
「それで、さっきの神の使いってなに?」
「そのまんまにゃ 神に使われるものにゃ」
「何で狙われたの?」
「俺を神界に連れ戻したいんだにゃ」
「神界・・・」
「神のいる世界」
「・・・君は神様なの?」
「そんなもんにゃ」
言葉の意味は理解できる。けれど、納得するのはまた別のことだ。
正直飲み込めていない。
何とか理解しようとして、数学の難しい問題を解くときみたいな渋い顔をする。
「壊れた町並みなら大丈夫にゃ 後から神が下りてきてこっそり直していくのにゃ」
「それは良かった いやそうじゃくて・・・」
やがて猫は身体を舐めて、毛繕いをし始める。僕は黙っていた。
沈黙。
猫が毛繕いを終えた。
「あのカエルや他の使いは何体も街を回っていて、俺を捕まえようと狙っているのにゃ」
「へえ」
「でもあいつらは人間とそのかかわりが深いものには基本的に干渉出来ないのにゃ」
「え、僕襲われてたじゃん」
「襲われたのは俺にゃ」
「逃げなくて良かったんだ」
いや、怖いからどっちにしろ逃げるけど。
「それでお前の願いだけど、俺は叶えることが出来るにゃ」
唾をのむ。興味を傾ける。
「ただ今すぐってわけにはいかないのにゃ」
「”食ってやる”って言ってたよね」
「そうにゃ 今より力を得る必要があるのにゃ だからお前の信仰が必要なのにゃ」
「信仰?」
「簡単にゃ 大体25日くらいの間、依り代に向かって俺のことを思って祈ればいいにゃ そしたら俺は超でっかくなれるのにゃ」
「依り代って何?」
「何でもいいにゃ 丁度、近くの公園に良さげな丸石があったにゃ あれがいいにゃ」
「そんなもんでいいんだ」
「何でもいいって言ったにゃ」
神様はすごく神聖な存在で遠い存在なイメージがあるから、そんな雑で良いのかとちょっと笑ってしまった。
「あともう一つ、今日から俺はお前にどこでもくっついていくにゃ」
「なにそれ」
「さっきも言ったけど神の使いがウロウロしてるにゃ でもお前の側にいれば安心なのにゃ」
「さっきは襲われたよ?」
「信仰してくれれば、お前と深いつながりが出来るにゃ そうすれば俺は、少なくともお前と一緒に居れば襲われなくなるのにゃ」
「ああ、うん」
適当な返事をする。
正直分かってない。難しい。
とりあえず、近所の公園の石に向かってこれからは祈ればいいのか、、
そうすれば僕は、
消えられるのか。
変なの。
でもまあ、信じてみよう。
喋る猫が言うことだしね。
それから猫は僕と行動を共にした。
一緒に起きて、一緒にご飯を食べて、一緒に学校にいく。
ずっと頭に乗ってる。器用な猫だ。
他の人からは猫の姿は見えないらしい。
学校からの帰り道はそのまま公園に寄る。
”これにゃあああ”とやけに興奮した様子で丸石に向かって鳴いたので、それを依り代にした。
光ってるからお気に入りらしい。
僕はそれを公園の林の奥に置いて、密かに毎日祈りに行くようになった。
猫との日常が続いている。
いじめも続いている。
最近はあいつらに髪を燃やされた。
バズる動画を撮るんだと言って、僕の髪にライターの火を近づけて燃やしてきた。
熱かった。
またある時は、掃除用具のロッカーに閉じ込めてきた。
外から押さえつけて中から出られないようにすると共に、ロッカーの隙間からたくさんの生きたセミを中に入れてきた。
狭い空間の中でバタバタとセミが暴れ飛んで、僕の顔やロッカーに当たって、鳴きながら羽を散らしていた。
また休み時間にプロレスと称して、制服を脱がされて、下のものも脱がされ、皆の前で裸を晒した。
消えてしまいたかった。
そういう時に猫はといえば、決まって教室の窓辺の日当たりのいい縁で丸くなっていて、放課後になると伸びあがって頭に乗ってきた。
それでよく言った。
「人間は愚かだにゃ」
僕もそう思う。
日々を過ごして。
約束の25日目になった。
その日は休日だった。
だから静かな夜になったら家を出て公園に向かって祈って、そして猫に望みを叶えてもらおうと思っていた。
でもその日の夜、家を出る前に予想していなかったことが起きた。
神の使い、パンダだ。
巨大なパンダ。
それが家の玄関を殴って入ってきたのだ。
見慣れない男の人も伴って。
僕の顔は引きつる。
部屋に突然おっきな二足のパンダと見知らぬ男が入ってきたら誰でも驚くと思う。
「だ、誰ですか」
僕は部屋に突然入ってきた男に問いかけた。
男は全身に緑色の布を纏っていて、胸に届くほどの長い艶のある髪を垂らしていた。
「私は神だ」
神だという。
確かに佇まいから気品が溢れていた。
ただ、怖いことには変わりない。
神の使いは家に入れないんじゃなかったのか。
僕は問うように猫に視線を向けるが、猫は鋭い目つきで神とパンダを睨んでいた。
「あの、なぜここに?」
僕は口を上ずらせながら尋ねる。
「手荒な真似をしてすまないね 家には私の力で強引に入らせてもらったよ なに、すぐに終わる」
神は続ける。
「用件は簡単だ そこの化け猫をわたしに引き渡してほしい」
「え?」
「君がそこの化け猫を神のように信仰していたのは知っている」
「はい」
「いいかい それは神なんかじゃない 神を殺した化け猫だ」
神は語り始めた。
猫は元々神界で生きるケモノで、とある神に飼われていたらしい。
ただある時、主人の神に毒を盛って殺した。
そうして自分がその神の位置に着こうとした。
ただその悪行はばれる。
神々は猫を審判に掛けて裁こうとした。
しかし猫は寸での所で逃げ出して、地上に降りた。
らしかった。
「分かるね、それは畜生の類だ 信じるだけ無駄だ」
神は諭すように言う。
「尻尾を見たまえ 二つ生えている 罪を犯した結果、低俗な妖怪になったのだよ」
確かに二つ尻尾がゆらゆら揺れている。
そう言うもんかと思ってたけど、妖怪の証だったらしい。
でも、
「だからそれを信じるのをやめて、私に引き渡したまえ」
「嫌です」
どうでもいい。
はっきりと拒絶した。
猫は意外そうに僕の方に振り向いた。
少しは信じてほしい。今まで信仰してきたんだから。
神は今までの穏やかな表情と打って変わって、険しい表情で僕を睨んだ。
「なぜだ」
「この猫は僕の望みを叶えてくれるそうだからです」
「それなら私が代わりに叶えてやろう」
神が自信満々に言う。
だったらさ、
「僕をこの世界から消してもらえますか?」
「なっ何を言って!?」
神は眉間に眉を寄せて表情を曇らせた。
意外な願いだったのだろう。
「そんなことは、命を消す事などは、神とて許されていない」
「そうですか じゃあ猫に頼みます」
「だからそれは化け猫だと」
「化け猫は神じゃないので、きっと叶えてくれますよ」
僕は自然と笑みを浮かべてしまった。
煽ったみたいになった。
いや、ほんとにちょっと腹が立ったのかも。
神だったら救ってよ、僕を。
猫は気付けば僕の頭に乗っていた。
「はやく逃げるぞ 坊主」
「うん」
神は髪を逆立てて、全身から怒気を放っている。
怒ってる。
神なのに沸点低い。
「パンダァ! お行きなさいぃ!!」
「ぐばあああああああああああああああ」
パンダは腕を引いたかと思えば、思いっきり拳を振るってきた。
「しゃがめ」
猫に言われた通りしゃがむ。
僕のすぐ上をパンダのパンチが通って行って、窓を貫通して粉々に割った。
僕は立ち上がる。
すぐさま開いた窓から外へと飛び出した。
一階で良かった。
夜の通りを全速力で駆け抜けていく。
後ろを見れば、パンダが手足を地面につけて、走って、追っかけてきていた。
背中にはロデオのように、神も乗っている。
「~~~~~~~~~」
何かつぶやいていた。
神の言語だろうか。
少し経って、街の至る所から巨大な生物がたくさん現れる。
僕たちを追ってくる。
カエルやウサギやタヌキや亀や、、とにかくたくさん。
全て例外なくでかい。
僕は必死になって走って逃げた。
「公園だ 公園に行け」
頭上で猫が言う。
僕は言われた通り公園に向かう。
奇々怪々な魑魅魍魎。
化け物たちが押し寄せる。
やばい。やばいよ。
すっごく怖い。でもすっごく興奮していた。
だって意味わかんないから。
こんだけありえないようなことが現実に起こってるなんて、なんだか別の世界に来てしまったみたいで興奮する。
非現実な世界、祭りの気分。
こんだけ狂ってるなら、なんでも叶う気がしてくる。
僕の望みもきっと猫は叶える。
確証はないけど不思議と自信があった。
やがて、公園が見えてきた。
僕は林の中を駆け抜けて、いつもの丸石の前までやってきた。
背後からは動物たちが迫ってきている。
「猫!」
猫は僕の頭から飛び跳ねて丸石の上に着地した。
瞬間。
猫の身体は煙に包まれた。
瞬きする間に、猫の姿は変わった。
目を見開いた。
目の前には、大きな大きな山のような猫がいた。
「にゃおおおおおおおおおおおんん」
猫は顔を上げて、月夜に鳴き声を響かせた。
この時をずっと待ち望んでいたのだろう、喜びを表すようだった。
やがて猫は下を見下ろす。
僕の後ろ、大きな動物たちは、さらに自分より大きな猫を見てすっかり圧倒されていた。
怯んでいた。
その一瞬の内に、
バクッ!!
猫に食べられた。
僕が見上げる先で、猫はむしゃむしゃと咀嚼する。
口の端からカエルの脚やウサギの耳やパンダの手が飛び出していた。
結構グロテスクだ。
やがて、猫はそれらを全てごっくんと飲み込んでしまった。
「うにゃあ~」
満足そうな鳴き声付き。
「お、お、おい 貴様、何をしたのか分かってるのか!?」
神が動揺を隠せない様子で、僕に問いかけてくる。
「え、おっきくしました」
「そんな単純な事じゃない! この化け猫はお前の祈りによって、より強力な妖怪へと変化したのだ!」
「はい」
「この猫が!この現世に!どんな悪さをするか!測り知れないのだぞ!」
神は怒っていた。
神様らしくこの世界のことを案じているらしい。
御立派だ。
御立派だけど。
「どうでもいいですよ そんなの」
この世界のことなんて知ったこっちゃない。
いじめがある限り、僕の世界は絶望であって、それ以外なにもない。
真っ黒だ。
「じゃあ、僕は消えますので」
「おい、待て、早まるな! この猫を止めろ!!」
「猫 お願い」
にゃおん
猫が頭をぐっと下げて、僕の背後で大きく口を開いたのが分かった。
「さようなら」
僕は、猫に、食べられた。
よかったぁ。