他の母港と比べてどこかおかしな『KAN-SEN』達と幼女の日常を綴った話。
骸骨指揮官とエンタープライズの続きを書きたいのですが、正直リアルが忙しくいつ投稿できるかは分りません。
もし奇跡的に投稿されたらこんな作品もあったな程度の気持ちで読んでいただけると幸いです。
今回投稿する作品はシリーズものではありませんが、同設定で他の話も考えています。
まぁ、その話を投稿出来るかは分かりませんが……
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10351573
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少女、否、幼女の目の前は炎の海に包まれていた。かつては多くの人で賑わっていたであろうその場所も、今や無惨な姿へと変貌してしまっている。
幼女は虚ろな瞳で周囲を見渡すが、周囲は死屍累々。屍山血河の様相を呈していて地獄絵図という言葉が相応しい状況。この街を支えていた多くの仕事人達。国と国の交流を深める為の要所であるが故の多くの観光人達。幼女を迫害し暴力を奮っていたこの街の住人達。それら全ては屍と成り果て、生きている人間は幼女のみ。
――ザッ、ザッ……
筈だったが、何者かの足音が確かに響く。その音は徐々に幼女へと近付き、やがて距離は零になり音がしなくなる。
自身の前に影が差した事でその存在に気付いた幼女は、生きているのか死んでいるのか判別に苦しむ表情でゆっくりとその影の主を見上げる。
其処にいたのは――
――A、Ahaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
異形だった。そうとしか形容すべき言葉がない程。描写しようがない程に、文字通りの異形だった。
その異形は雄叫び――というか音としか形容できないが――を上げながら歪で大きすぎる、恐らくは腕であろうナニかを振り上げてから幼女目掛けて振り下ろさんとしている。その腕であろうナニかが振り下ろされてしまえば幼女の命は容易く奪われてしまうであろうに、幼女は悲鳴を上げるでもなく虚ろな瞳でじっと異形を見ているだけだ。
自身の命があと数秒で消え去ろうとしているのに、幼女の表情は変わらない。
――OHOOOOOOOOOO!!
幼女に異形の腕が振り下ろされる刹那。
――地べたに這いずるしか能のない害虫が、『私の指揮官様』に手を下そうなどと身の程を弁えなさい。
どこからともなく女性の声が聞こえ、無数の戦闘機が上空を翔けて街を蹂躙している異形達の下へと向かって行く。その中の数機の戦闘機から放たれた機銃は、一寸の狂いもなく幼女の眼前の異形へと吸い込まれるかのように命中した。
突然の攻撃を受けた異形はその身を蜂の巣にされ、断末魔の声を上げる事さえ許されず血飛沫を巻き上げて絶命した。
異形の血が、臓物が自身に降りかかるが表情を変えないどころか微動だにしない幼女。彼女は本当に生きているのか疑ってしまいたくなる程変化を見せない。
無数の艦載機が残った異形達を駆逐している音をBGMに、幼女はただただ正面だけを見続ける。本当に正面を見ているのかは定かではなく、もしかすれば何も見ていないのかもしれない。
「この時、この瞬間を、一体どれ程恋い焦がれていた事かしら」
そんな彼女の背後から聞いた者の背筋をざわつかせるような、どこか妖しい色香を感じさせるかのような声が聞こえてくる。その声に、今まで反応らしき反応を示さなかった幼女の眉が微かに、意識しなければ分からない程微かにピクリと動き、後ろへと振り返る。
「ようやく、ようやく逢えたね指揮官様」
幼女の視線の先にいたのは一人の女性。数年前、突如として現れた『セイレーン』と呼ばれる謎の存在と同時期に現れた『KAN-SEN』と呼ばれる存在。その『KAN-SEN』の内の一人。
「もう何も心配する事はありませんわ指揮官様。指揮官様に害なす愚か者共は、この赤城が全て消し去って差し上げますわ」
『赤城』だった。彼女は見る者を虜にさせるかのような蠱惑的な、妖艶な笑みを浮かべながら幼女に手を差し伸ばす。
「だから、『私の指揮官様』。この狭い鳥籠から羽ばたきましょう」
差し伸ばされた手に、幼女は――――
「…………ん」
朝日の眩しさで眼が覚めた幼女――久遠時
かつて『赤城』の手を掴む事で地獄より救われた彼女は紆余曲折を経て指揮官と呼ばれる存在になり、とある一つの基地を任される――『赤城』が司令部の上層を脅してそうさせたのだが――事になった。
まだ十歳にも満たない幼女。幼いなりに整った目鼻立ちに、不気味に濁った紅い眼。華奢と言えば聞こえはいいが、同年代の子供と比べても異様に痩せ細った体躯。そしてその肌は病的なまでに白く、死人と見紛う程に白い。
奏矯は目を擦りながらベッドから身を起こそうとするが妙に身体、というか腕が重く上手く起き上がれない。頭が起ききっていない奏矯が軽く欠伸を漏らしてから自分の左右を見てみれば、
「……んぅ、指揮官様は……永遠に赤城のものですわ~…………すぅ」
「私の、全ては……指揮官様のもの、むにゃ……ですわ~…………ん」
かつて自分を救ってくれた『赤城』と、初めて行った『建造』で出逢った『大鳳』が寝ていた。二人は奏矯の腕と脚に自身の身体を絡みつかせて寝ている。その顔は実に幸せそうで起こすのを躊躇う程だ。
「……………………むみゅ」
寝起きのぼんやりとする頭で自分に絡みついている二人を見る奏矯。何故二人が此処にいるのかという疑問が浮かびかけるが、二人の身体の柔らかさと温もりに再び眠気が襲ってきた奏矯は、その誘惑に抗う事が出来ずにゆっくりと瞳を閉じる。
『赤城』に助けられる前では考えられない平穏で幸福な一時。奏矯の意識が落ちようとした時。
「指揮官、起きてるかしら? あなたの隼鷹が起こしに来たわよ」
『赤城』、『大鳳』に続く、この母港の主力空母である『隼鷹』の声が扉越しに聞こえてきた。
その声に落ちかけようとしていた意識は止まるが、もう一度眠りにつこうと思っていた奏矯は顔を上げず『赤城』の胸に自分の顔を埋めるように身体全体を押し付ける。その際に、『赤城』とは反対方向で絡みついていた『大鳳』を巻き込み、彼女は奏矯の背中に抱き着く形になった。
「ん…………」
自分の胸に顔を押し付けられた『赤城』は微かに声を漏らし、奏矯に絡めていた腕と脚を解いてから奏矯を抱き締めるように絡みつく。
「指揮官様~」
そして、実は起きているのではと思わせるタイミングで声を発する『大鳳』。彼女は奏矯を離さないと言わんばかりに抱き締める力を強める。
「んみぃ~……」
『赤城』の胸に顔を埋めている為に奏矯の表情は窺えないが、どことなく幸せそうな声を漏らす奏矯。
「? 指揮官、まだ寝てるの?」
いくら待っても奏矯からの返答がこない事を疑問に思った『隼鷹』は再度声をかけるが、最早睡魔に身を委ねている奏矯にはその声が聞こえていない。『隼鷹』は扉の外で首を傾げ、
「……仕方ないわね。開けるわよ、指揮官」
無雑作に自身の胸元に手を突っ込み、谷間から奏矯の私室の鍵を取り出す。因みにどうでもいい余談ではあるが、奏矯の私室は執務室の横にあり、その部屋の鍵は奏矯自身しか持っていない。合鍵など作っていない。作っていない筈なのだが……
――カチャ
「ん。開いたわね」
存在しない筈の合鍵を使って部屋を開ける『隼鷹』がそこにいた。更にどうでもいい事だが、奏矯は寝る前部屋の鍵を閉めていて『赤城』と『大鳳』は合鍵を持っていないから部屋にいる事がおかしいのではあるが……
「指揮官。朝よ、起きな…………」
部屋に入った『隼鷹』は電気を点けることもせずそのまま奏矯の眠るベッドに向かい、声をかけながら毛布を捲ったとこでピタリと動きと声を止めた。何故なら、奏矯を独占する上で最大の障壁である『赤城』と『大鳳』が奏矯を抱き締めていたからだ。
暫し固まる『隼鷹』。彼女は無表情で奏矯、というよりも彼女に抱き着いている二人を見て瞳を細める。そして袖にそっと指を伸ばしたところで。
「指揮官様のお部屋で何をしようとしているのかしら? 隼鷹」
寝ていた筈の『赤城』が眼を開け、奏矯を起こさないようゆっくりと上体を起こしながら無表情で『隼鷹』を見つめる。その声音は常のモノと変わらないが、彼女の発する気は尋常なものではない。
「…………隼鷹が何処で何をしようが、あなたには関係ない事よ」
常人であれば失神する者がいてもおかしくない威圧を放つ『赤城』と正面から向かい合っている『隼鷹』だが、彼女は一歩も臆する事なく平然と返す。どころか、彼女もまた剣呑な雰囲気を『赤城』に向ける。
互いに威圧し合い一触触発の空気が流れ始め。
「二人とも物騒な気配を出さないでくれないかしら? 指揮官様が起きてしまわれますわ」
『赤城』と同じく寝ていた『大鳳』がいつの間にか目を覚ましており、彼女も奏矯を起こさないようゆっくりと上体を起こす。そして笑顔を浮かべ――ただし、眼はまったく笑っていないが――奏矯の背中を愛おし気に抱き締めながら、
「それとも、指揮官様の安眠を妨げるのですか? もしそうだと言うのなら、この大鳳容赦しませんわよ?」
警告の言葉を発する。
何故か三つ巴の様相を呈しているが、この場には未だ寝ている奏矯とこの三人しかいないし、この母港では日常風景でもあったりする。
暫し互いに睨みあう三人だが、
「…………ちっ、仕方ないわね。小娘の言葉に同意するのは癪だけど、指揮官様の安眠を邪魔する訳にもいかないわね」
「………………ふん」
「……ふふふ」
程なくして矛を収める。奏矯を独占する上では相容れない三人ではあるが、それぞれの奏矯に対する想いが本物である事は認めている為に引くべき時は引くのだ。まぁ、空気が淀んでいるように感じるのはこの三人故致し方なしであるのだが。
「はい指揮官様。あ~んですわ」
「あ~」
あれから一時間程経った後。再び目を覚ました奏矯を交えて『赤城』達は奏矯の部屋で朝食を摂っていた。
四人掛けの円形の机に、奏矯を起点に右回りで『赤城』、『隼鷹』、『大鳳』の順で座って朝食を摂る四人。基本的には秘書官である『赤城』と二人で朝食を摂る奏矯だが、都合がつけば『大鳳』、『隼鷹』がそこに加わる事はこの母港にとっての日常である。
「指揮官様~。こっちのも食べてください。結構自信あるんですよ~?」
「あむあむ……んぁ~」
右隣の『赤城』から差し出された物を食べ終わる頃を見計らって差し出された『大鳳』の箸を受け入れる奏矯。彼女は二人から与えられた物を無表情ながら美味しそうに食べる。それを見て顔を綻ばす『赤城』と『大鳳』に、そんな二人を妬ましそうに睨む『隼鷹』。実に平和的な光景である。
「ところで指揮官。今日のこれからの予定はどうなってるの?」
ぼちぼちと朝食を食べ終わった頃。頬杖をつきながら『隼鷹』が奏矯に問い掛ける。
「んむ? あー、か……」
「分かりましたわ、指揮官様」
奏矯からの視線を受けた『赤城』は頷き、
「『隼鷹』。これからの予定だけど、一二○○に『害虫』が視察にやって来るわ」
無表情で『隼鷹』と『大鳳』に告げる。その言葉を聞いた二人も表情を消し、
「ふーん? まだ信用してないんだ?」
「始末しますか?」
「残念だけどそれは出来ないわ。忌々しい事だけど、奴等の主張も尤もだもの」
「まぁ、指揮官の年齢が年齢だからね」
「でも、指揮官様は指揮官様ですわ。大鳳にとっての『指揮官』様は指揮官様以外考えられませんもの」
「えぇ。赤城も今更指揮官様の変更なんて許すつもりはないわ。だから――」
これからの事を話し合う三人。奏矯は欠伸をしながら彼女達を見つめる。
やがて話し合いは終わり。
「では、指揮官様は大鳳が」
「隼鷹は他の子達に」
「任せたわよ。『害虫』の対処はこの赤城が」
それぞれの役目を確認し終えた三人は互いに頷き合い奏矯に視線を戻す。見られた奏矯は欠伸をしながら、眠そうに目を擦っている。
そんな彼女を微笑まし気に見る三人。
「指揮官様。まだ眠る時間ではありませんわ。勉強がありますわよ」
「ん~……やぁ」
『赤城』に優しく頭を撫でられる奏矯だが、勉強という言葉が嫌だったのか駄々っ子のように頭を振って――その動きは眠たさのせいで弱々しいが――抗議の声を上げる。
「嫌ではありませんわ。指揮官たる者、私達を指揮する知識がありませんと」
「むぅ~……」
「勉強を頑張りましたらご褒美として、明日一日私と加賀の尻尾を満足いくまでモフらせてあげますわ」
「うゅ……」
ご褒美という言葉に反応を示す奏矯。彼女は少しの間悩み、
「ぁ……か、…………み、も」
言葉にならぬ言葉を発する。それを聞いただけでは何が言いたいのか理解できる者はまずいないが、
「しょうがないですわね。それで指揮官様が頑張ってくれるのでしたら耳もですわ」
『赤城』は当然のように理解して返す。
奏矯の言葉にならぬ言葉を理解しているのは『赤城』に限らず、『大鳳』、『隼鷹』も当然理解しているし、この母港にいる他の『KAN-SEN』達も当然理解しているのだ。
「んっ」
『赤城』の言葉に嬉しそうに――表情はほとんど動いていないが――頷く奏矯。やる気が出たらしい奏矯に三人も嬉しそうに顔を綻ばす。
「では指揮官様。勉強を頑張ってくださいね。赤城も手早く予定を済ませてきますわ」
奏矯の答えを聞いた『赤城』はそう言葉を残して退出する。それに続いて『隼鷹』も、
「指揮官。隼鷹もそろそろ出るわ。勉強頑張ってね」
奏矯の頭を優しく撫でて退出する。
部屋に残されたのは奏矯と『大鳳』のみ。『大鳳』は奏矯の腕をそっと取り、
「さぁ、指揮官様。お勉強頑張りましょうか」
優しく微笑みかけるのだった。
そうして今日も、何事もなく時間が過ぎ去って夜になり。
「んみぃ~」
夕食も食べ終わり、後は寝るだけとなった奏矯。彼女はベッドの上で『大鳳』を抱き枕にし、幸せそうな声を上げながら彼女の胸に顔を押し付ける。抱き枕にされている『大鳳』はくすぐったそうに軽く身を捩じらせて、
「んもう。指揮官様は甘えん坊ですわね」
嬉しさを隠せない声音でそう溢す。
普段ならば『赤城』が常にこの部屋にいるのだが、彼女はどうしても外せない『用事』が残っているとの事で泣く泣く『大鳳』に奏矯の事を任せる事になった。『大鳳』にとってはありがたい事である。
『大鳳』は奏矯の小さすぎる身体を優しく抱き締め、
「指揮官様は何も心配する事はありませんわ。赤城さんも、私も、他の子達も、此処にいる全員は指揮官様の味方ですわ」
優しく語り掛ける。
その言葉にピクリと身を震わせる奏矯。
「誰も指揮官様を害しません。決して指揮官様を裏切りません。絶対に指揮官様を独りになんてさせません。もしもそのような輩がいれば、大鳳達が確実に――――しますわ」
奏矯の仕草や雰囲気。その時の目線の動きに声のトーン等から彼女の言葉なき言葉を理解する『大鳳』は、今の彼女が求めている答えを返す。そしてその答えは『大鳳』の、この母港にいる『KAN-SEN』達全ての想いでもある。かつて『赤城』が地獄から救い上げ、彼女達『KAN-SEN』が親代わりとなって育てている奏矯に対する。
恐る恐る顔を上げる奏矯。その表情は相変わらず変わっていないが、どことなく不安そうにも見える。その表情を見た『大鳳』は言葉だけでは足りないと悟り、強く強く奏矯を抱き締める。
「だから、指揮官様はありのままに生きて。貴女の命は、貴女だけのモノ。それを脅かす愚か者達は大鳳が、大鳳達が――」
「…………ぅ、あ……」
『大鳳』の言葉に、抱擁の温もりに彼女の想いが偽りでない事が理解でき、今まで――物心ついた頃から――動く事のなかった表情が微かに動いた。そして、奏矯の瞳から透明な雫が流れ出す。
「ぁぁ、ぁぁぁぁっ」
奏矯が表情を動かして涙を流す等、あの『赤城』でさえ見たことがないだろう。初めて見た奏矯の表情の変化に内心動揺する『大鳳』だが、その動揺は表に出さずただただ奏矯を抱き締めるのだった。
やがて泣き疲れたのだろう。いつしか奏矯は眠ってしまっていた。
眠ってしまった奏矯の頭を優しく撫でながら、眼尻に残った涙を拭う『大鳳』。
(指揮官様が初めて涙を、表情の変化を見せた。引き金は大鳳の言葉だったのかもしれないけど……)
『大鳳』は先程の奏矯の様子を思い返しながら、奏矯の過去に思考を巡らせる。
『大鳳』達『KAN-SEN』は彼女の過去の詳細を知らないが、それでも知っている事はある。奏矯が上手く言葉を喋れない
「指揮官様はもう寝たのかしら?」
『大鳳』の表情が消えたところで寝室の扉が開き、『用事』があるからこれなかった『赤城』が顔を出す。
「赤城さん……」
無表情で自身を見つめてくる『大鳳』。その『大鳳』に抱かれて眠っている奏矯の微かに残った涙を見て、『赤城』の表情も消える。『赤城』はそのまま天を仰ぎ、
「……そう。指揮官様は…………」
何かを察したのか。そう漏らしてその場に佇む。
それから『赤城』は黙して何も語らず、『大鳳』もまた言葉を発さない。奏矯の寝息だけが部屋に響くだけだ。暫し無言の時が流れるが、
「……赤城さん。指揮官様は、『奏矯』様は……」
「それ以上言ってはいけないわ大鳳。『
沈黙を破ろうとした『大鳳』の言葉を遮る『赤城』。その声音には有無を言わせぬものが宿っていて、『大鳳』は不承不承口を噤む。
勿論、『赤城』とて『大鳳』の気持ちは理解している。いや、彼女だけではない。この母港にいる全ての『KAN-SEN』が『大鳳』と同じ想いを持っている。だが、それでも言ってはいけないのだ。奏矯ではない『
『大鳳』は首を振って気持ちを切り替えようとする。『
「そう言えば赤城さん。『用事』はもうすみましたの?」
「……えぇ、えぇ。『用事』は滞りなくすませてきたわ。種も問題なく蒔けた事だし、これで何人も私達と指揮官様を引き離す事は不可能よ」
『大鳳』の話題変えに、『赤城』はクスリと笑みを溢してそう答える。『赤城』はゆっくりと奏矯と『大鳳』のいるベッドに近付き、
「もし愚かにも私達から指揮官様を引き離そうと動けば、その時は自らの首が飛ぶでしょうね」
それはそれは愉しそうに告げる『赤城』。その答えに『大鳳』も同様の笑みを浮かべる。
「隼鷹も『仕込み』は済んでいるのでしょう?」
「当然じゃない。隼鷹達から指揮官を奪うなんて愚かな事、許せる筈ないじゃない」
『赤城』の言葉に、この場にはいない筈の『隼鷹』の言葉が返答する。しかし、二人はそれを不思議に思う事もなく当然の事と言わんばかりに平然としている。
「じゃあ」
「えぇ、そうよ」
奏矯の頭を慈愛に満ちた顔で優しく撫でる『赤城』。
「これで全ての準備は整った。だから私の、私達の『奏矯』様。あなたはそのまま、何も心配する事なく人生を謳歌して下さい」
そう言って彼女は愛おし気に奏矯の額に口付けをする。
口付けされた奏矯は起きなかったが微かに身動ぎすると、
「ぁ、か……たぃ……ほ…………ん……よ、っと……」
その顔に年相応の愛らしい笑顔をほんの僅かに浮かべ、ぼそぼそと声を漏らす。
それに『赤城』と『大鳳』。いつの間にか寝室に入ってきていた『隼鷹』は笑顔を浮かべ、
『――――――』
『
その言葉は眠っている奏矯には届いていないだろうが、彼女は心から安心したかのように表情を緩めていて……
この物語は、生きながらにして地獄にいた幼女が歩んでいく物語。
『KAN-SEN』に救われた幼女が、彼女達に育てられながら人として生きていく物語。
その物語の、日常の、一ページである。