次男の優が変わったのは中学の時だった。
初めは思春期で変わったものだと思っていた。
学校で同級生を殴りつけたそうだ。
俺と幸とは違い喧嘩早い訳でも無かったはずだ。
中学3年生だ、エスカレーターの学校だから受験の心配はないが心労もあったのだろう。
すこし学校でも浮き気味と担任に言われていたのも覚えている。
だが、ようやく友人ができて打ち解け始めたとも。
学校につき指導教官に事件を説明された時、我が耳を疑った。
同級生を殴り倒しマウントを取って殴り続けていたらしい。
何かがあって喧嘩していた、ですら無かった。相手は無抵抗なのだから。
事情を聞くにつれ本当に息子がやったのかと思うようになる事件だった。
謝罪して、謹慎を言い渡され家に帰るまで優は何も言わなかった。
初めは自分のしたことに後悔をしてるのかとも思った。
事情を聞こうにも無理に聞き出すわけにもいかない。少なくとも落ち着くまでは話すこともしないだろうと。
家では妻が泣いていた。大方の事情は聞いたのだろう。
課題をする事を息子に言いつけ、部屋に戻した。
優に考える時間が必要だったように私たち家族にも話し合う時間が必要だった。
幸が帰宅して3人で今後について話し合った。
何が起こったのか優の口から聞く。そしてそれからもう一度あいつについて考える機会を設けようとなった。
翌朝、会社を休み久しぶりに家族全員で朝食を取った。
こんな形で集まることにはなりたく無かったが。
食事を終えて、幸が大学に行き、書斎で2人きりで話すことにした。
結局、一言も優は話さなかった。
翌日も、その次の日もその次の日も
一週間が経ち、二週間が経ちそれでも優は何も語らなかった。
初めは反抗期とはこう言うものだと思えていた。
殴り倒した生徒の家に妻が謝罪に行った日には妻を睨みつけさえした。
流石にその場で殴ってしまったのは我ながら手が早いと思う。
だが、特別指導期間として言い渡された停学期間を過ぎても優は反省文を出さなかった。
今にして思えばおかしな話だろう。
本当に反抗期で非行に走ろうとしているのなら、適当に済ませて仕舞えばいいのに、優はそれをしなかった。
頑なに何も語らず、反省文を書かない。
何かを隠しているのは簡単にわかった。
いくら尋ねても、脅しても、怒鳴っても。
黙して語らなかった。
そうして遂には部屋から出ることすら無くなった。
家族として、そうして親として辛いのは優に信頼されていなかった事だろう。
もし、信頼されているのなら3人のうち誰かが秘密を打ち明けられたのだから。
反省文だけを出さず、課題だけこなしていた訳だが、優が学校に行かなかったのはおおよそ、三ヶ月程度だった。
この国は義務教育過程で停学を行うことは認めていない。
留年、或いは高校を今から受験する、なんて事にはする訳にはいかない。
だが、問題を起こした児童の親の俺では、何を言っても無駄なことが目に見えていた。
だから、優の進学が認められた時は驚いたよ。
学校長とそれから同級生の風紀委員会の子のおかげだそうだ。
ありがたいことだよ。
進学しても優が引きこもったままだったことに変わりはなかった。
だが、彼らがきてくれた。
生徒会の子供達だ。
突然家に来た時は何事かと思ったがね。
あの子達は優が隠していた秘密を教えてくれた。
話を聞いて、証拠を見て、そうして最初に思ったことが、息子は間違っていなくて良かったなのだから、つくづく俺は自分勝手なのだろう。
あれだけ腹立たしかった引きこもりが誇らしくなってくる始末だ。
だが、俺は親として二流以下なのだろう。
真相を知って息子を引き出して、胸を張れと伝えることが出来なかった。
今まで散々怒鳴り散らしておいてどの面下げて優を褒めれると言うのだ。
だから、あの子達には特に会長の白銀くんには感謝している。
きっと、優をもう一度連れ出して歩き出させてくれたのは家族の誰でもなく、あの子にしか出来なかったのだろうから。
そうして、優は再び学校に通い出した。
生徒会役員という立場に置くことで、優をサポートしてくれている白銀くんには頭が上がらない。
少しずつ、家でも学校の話をするようになってきて、事件から一年が立ち遊びに出かけるようなことも増えた。
体育祭で応援団をやっている姿には度肝を抜かれた。最近の若いのは全くわからんが、リレーのアンカーでゴールした時、他の生徒達に囲まれて、笑顔を見せている姿を見て涙がでしまった。
もう大丈夫、とは言えない。また何かあるかもしれない。しかし優はもう過去を吹っ切ることが出来たのだろう。
あの生徒会に居れば優は大丈夫だろうと思えた。
だから任せることにした。
進路も学業も、自分で選べと。
したい事をやれと。
時には相談して欲しいとは思うが。
そう信じていたのだが……
クリスマスの日に出かけると聞いて、少しソワソワしながら見送った後。
真夜中に近い時間に血相を変えた電話をかけてきて何事かと思えば同級生のお嬢さん、その腕を折ってしまったという。
血の気が引くとはまさにこのことだろう。
命に別状がないとは言え、嫁入り前の娘に傷をつけるなどあってはならんだろうに。
だが、今回は頼ってくれた。そうしてきちんと訳も話してくれた。
だから、もうすこし、様子を見ようと思う。