異世界から帰ろうとしたら病んだ女の子達に執着された男の末路 作:コーカサスカブトムシ
移動経路を説明する。目的地は別大陸のバエルニア、その中央部に位置する大陸最大の魔法学院『アリカルアレ』だ。路銀は充分に足りているが、到達して生活の基盤を整えるまでに無駄遣いは出来ない。道中で観光やら遊覧やらをしたくなる気持ちもあるが、直線で向かっていく事にしている。
現在地であるローゲル大陸は穀物の産出地でもある為、バエルニア行きの船も多い。同乗させてもらっている行商人の馬車はローゲル西部に位置する最大の港町『ドラムジェラ』まで向かうそうなので足に関しては問題ない。天候も崩れず、何事も無く進む事が出来ればざっと3日という距離と考えよう。
同乗の件について、金自体は払っているが積荷を狙う野盗や襲いかかって来る魔獣達からの護衛も兼ねる事でその費用をぐっと安くさせてもらっている。無論早々気を休める事は出来ないが、気配の探知自体は荷車を引いている魔獣、六本の足を持つ馬型の『スレイプニル』が長けている為そちらが何か感じ取ってから動けば良いらしい。
ドラムジェラに辿り着いた後、乗船出来る船を探しバエルニアへ。大陸間を移動する船は一日に何本も出る訳ではなく、乗り逃してしまうとそのまま一日のロスタイムが発生する。ここの確認はしっかりしておこうや。
そこからアリカルアレの存在するかの大陸の大都市『トリスタニア』まではまた同じように馬車を探すか、なんなら走って向かう事にしよう。魔法で今練習を重ねている魔力による飛翔、或いはまだ試してない「秘策」を使ってもいい。
こんなところか。悪いプランでは無いと思うぜ、何事も無く順調に進ませてもらう。
パカパカラッ、パカパカラッ、パカパカラッ
「ブルルルゥッ、ッフ」
「おーどうどう」
しかし、六本足の馬って見ていてちょっと不安になってくる何かがある。足音にしても一対足が多い分パカラッではなくパカパカラッだし、肩でも腿でもない胴からにょっきりと足が生えているのはギョッとするものだ。転ぶかもしれん。
俺がアノーラの村を出てから2日が経った。道中は何事もなく移動は順調、結果論とは言え俺が輸送護衛として料金を下げてもらったのが申し訳ない程暇だった。馬車の中でできる事なんてたかがしれてるしな。
「しかし、本当にタフな馬ですね」
「駄馬にスレイプニル以外を使うような奴がおったら笑われるぐらいさ。まぁパッと荷物運びたいって話なら別だけども」
スレイプニルと言うと前世では北欧の主神、オーディンの馬として名を残していた気がする。この世界の言語と前世の言語は当然一ミリも掠っていない。日本語でもないし英語でもない、何処の国の言葉でも無いのだが、時たま物品の名称が前世の物と同じだったりする。……この話色々ややこしくなるからやめとこうかね。俺はそれを言葉にして説明がしきれる程口が達者ではなさそうだ。
「〜〜〜♪」
スレイプニルの手綱を取る御者さんは聞き慣れない鼻唄を歌いながら悠々と路を進ませていく。俺も最初はそれに揺られて雰囲気を楽しんでいたのだが、馬車の乗り心地っていうのはこう……褒められるものじゃない。勿論貴族だかのやんごとなきお身分の方々が乗る場所はこうじゃないのかもしれないが、荷車の上をガッタガッタしながら運ばれていると段々と身体が、主にケツが痛くなってくるな。
ちらと馬車の外に目を向ける。生えている樹木が村の付近の物とは違う種類のように見える。とするとなんだかんだでもうそれなりの距離は移動しているのだろう。
ドラムジェラへの滞在期間は短ければ短い程に良い物だとして、港町となると……久しぶりに海の魚を時間見つけて食いたいなとも思う。川魚も美味い物ではあったが、やはり日本人としては海の幸が恋しくなるもんでな。
活気のある港町だと聞くし、宿泊するような事があれば美味い魚が食いたいな……などと思っていると、ふと思いついたというような口調で御者さんが語り掛けてきた。
「そういや聞き忘れてたがよ、お前さん。やっぱドラムジェラまで行ったら冒険者協会への申請もするのか?」
「バエルニア行きの船が到着から翌日以降にしか乗れないのなら、先に済ませておこうかと」
『冒険者協会』どう言う物か……なんてその響きからして昨今の異世界作品に二つ三つでも触れてれば察しが尽くだろうが、一番しっくり来る表現となるとモンハンのハンターズギルドみたいなもんだな。
そこに登録している者は『冒険者』と呼ばれ、冒険者は普通の人には危険で手を出すことの出来ない素材を持つ魔獣を狩ったり、危険な場所にしかない物品の採集。また人を襲ったりする危険な悪魔の討伐などを行う。協会は市民から集めた依頼を整理して冒険者に斡旋する、うーんわかりやすく中世ファンタジー。
功績によって受けられる難度の依頼が変わり、報酬は当然難度の高い物の方が多い。冒険者に登録したての者はランク1とされ、そこから依頼をこなしていく事で2、3と上がって行き、最上位のランクは9とされている。
そこは10じゃないのかよと思ったが、このヤーラカムは前世と同じく10進法を使ってはいるものの、一桁の数字の上では9という数字こそが最大の物であり、優れた物という認識があるようだ。なのでこうした地位の凄さを数で示す場合は9を用いて表される事が多い。
「大陸を隔てても、何処かで登録した協会の身分証があれば登録されたランクで仕事が出来ると聞いています」
「クライスの爺さんは8まで行ってたって言うなあ。だがあの爺さんがああも太鼓判を押すんだ、お前さんなら9にまで行っちまうんじゃねぇか?」
「実質は8が最高位とも聞きますが……そこまで行くという志くらいは」
全盛のクライス先生、そしてその一党はランク8にまで上り詰めていたという。本当に世界的な実力者がよく産まれた村にいてくれたなぁと感嘆する。自分が当事者である以上、ご都合主義は大歓迎だ。
「お、そうこうしてるうちに見えてきたぞ。ご苦労さん」
「いえこちらこそ、結局自分は何もしませんでしたから」
「あの爺さんがお墨付き出してるんだ。それを金貰いながら乗せるだけで雇えてるんだ、お互い様だよ。じゃあ頑張っていけよ」
異国情緒溢れる、とはこの事か。赤い煉瓦を積み上げられて造られた建物がずらりと並ぶその景色は壮観、こういうのはハウステンボスで見た事があるが……やはり本物は違う。あそこのクオリティがという話ではなく、本当に生きている異国の街並みは息を飲むような活力があった。
【港町 ドラムジェラ】
デーン。とは言えこの街には現状そこまで長居するつもりは無いんやけどなブヘヘ。各大陸へのアクセスは良いし、冒険者協会も支部が大きくて活発だと言うから活動の拠点にする候補にはしたいが……正直ここ、イザベラが全力でダッシュしてきたら一日くらいで来られそうな気がする。あの娘再会する気満々だったし、ここで活動していると話が広まるのは不味い。
荷物を背負って行商人の人達に最後の挨拶をする。仕事柄いつかまた縁があるかもしれないが、村にいた頃から世話になっていた相手でもある。これでアノーラの人々とは完全に別れきった事になるな。背負った荷物は必要なものだけで纏め切ったとはいえズッシリと重い。単なる重量というだけでなく、自分自身だけで生きていくというプレッシャーもその中には込められている気がした。
バエルニアに向かう手筈は思いの外スムーズに運んだ。とはいえ今日はもう出る事は出来ず明日の船を待つ事にはなるのだが、一日くらい誤差だよ誤差。金銭や黄穿のような貴重品だけは手に持ち、残りはもう出航を予定している船へ積ませてもらってひとまず……腹が減ったので何処か店にでも入ろう。
「働く人が多いからか飯屋もそこそこある……けど何処も多いな」
ドラムジェラに着いたのは少し遅いが昼飯時、飲食店は多いもののぞろぞろと人が入っていくのを見て少しばかり二の足を踏んでしまう。馬車に乗っていて疲れでもあるのか、喫茶店か何かで軽食取りながら休まろうという考えが頭に浮かんできた。
「お、あの店なんか良さそうだな。人もそこまで……いや人が入ってないのは店としてダメか?」
通りからは少し離れた場所にある喫茶店、赤煉瓦で造られている周囲とは違う、茶色く落ち着いた色合いの小さな建物。青々とした蔦が剪定もされているのだろう、丁度よい長さの物が絡みついていて隠れ家風喫茶店という感じがする……これまたオシャンティーな。
表に出ている看板にはなんとコーヒーが。このヤーラカムにもコーヒーあんのか、これは是非とも飲まんと。一緒にトーストでも頼むか、と喫茶店のドアを開く。カランコロンと鈴の鳴る音が落ち着きを感じさせる、こう言う音を耳にするのも実に14年ぶりだ。
「やあやあいらっしゃい、席は何処にでも座っていいよお」
鈴の音で客の来店に気づいたのか、店の奥から女性の声が聞こえてきた。間延びした、ぶっきらぼうな印象を抱かせる話し方に反して、スッと耳をよく通る高い声。女性がやっている店なんだろうか、或いは従業員か……と無意識に声の出所へと顔を向ける。するとそこには眩し過ぎて直視もし難いような別嬪さんの御尊顔が。
えっ何この顔の良さ、見てるだけでIQ溶けそうなんだけど、顔だけで国取れるだろこれ最早……彫像か何かって言われた方が納得するぐらい顔のパーツのバランスが整っている。なんてこった、完全なる黄金比かよ! ヤバイ、達する達する!
「ふむ……」
そんな馬鹿みたいな事はおくびにも出さず、とりあえずカウンター席に腰を下ろした。うーんイスの座り心地が滅茶苦茶良い、周りを見渡すと調度品が全体的に高級感を醸し出している。装飾や照明は煌びやかって感じではないが、淡い色合いで気品を感じさせるものだ。
看板に書かれていたメニューからして値段も馬鹿げた高さでは無いし、客がもっと入ってもよさそうなんだが……うん、この雰囲気絶対この街に合ってねーわ。少なくとも船乗りが入ろうとする店の感じじゃないわな。
「言わんとすることはワタシにもわか……んんん、おやおやおや?」
注文を取りに来たのだろう、さっきの女性がこちらに歩いてきていた。その声に釣られて顔を上げて彼女と目が合うと、何故だか言葉を詰まらせた後に心底理解出来ないといった声色でボンドルドになった。
彼女の知る誰かに俺の顔が似ていたりするのだろうか、少なくとも俺はこの店員さんと会った事は間違いなく無いと言える。こんな国宝みたいな顔の人これまで見た事ねーべ。しかしそうなると彼女は何を思って……
「なんだい君、その目の色は。黒い目とは、酷く奇妙じゃないかあ」
どういうことなの……(レ)
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