異世界から帰ろうとしたら病んだ女の子達に執着された男の末路   作:コーカサスカブトムシ

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現在繁忙期の為更新頻度がだいぶ落ちますが、前年のようにはならないようになんとか……


奴は全てがケタ違い、奴は最強ケタ違い

 星と深淵は目指さないが冒険者協会にやって来たぞ俺よ。港湾部から少し離れた場所にある石造りの大きな建物。冒険者協会の建物はどの大陸、どの国、どの街でもそのデザインを統一する事で本拠地から離れて活動する冒険者にもわかりやすいようにしているらしい。

 実際煉瓦が主流となっているドラムジェラにおいても、この情報があったからどの建物だろうと迷う事は無かった。しかしこれまた心が踊るような……所謂ギルド、多くのゲームや小説に出てくるアレ。このご時世にそういう作品に触れていたなら知らない事はまず無いだろうという、異世界転生のテンプレートとも言える存在。あくまで現代に帰るという事が俺の目的で、その道中は手段でしかないが感無量という想いがある。

 とはいえ今からやるのはマジで書類の手続きとかばかりである。ヤーラカムにはステータスがオープン出来るとか、水晶に触れて力量を測定するとか、適正ごとに設定される職業とかそういうのは無いスタイルだ。いやそういうのがある作品を揶揄するつもりはないんだけどね、そういうのがある作品も好きだし。

 但し外れスキル、最低適正の落ちこぼれが無双、テメーはダメだ。ほう…思想が出ていますね…! ……俺は客観視が出来る男、なんか初対面のアレクサさんに不可解なまでに気に入られたし、俺自身もそういう系統っぽい気がしなくもないのは考えない事にしよう。イザベラのこと強い強い言いながら結局ギリギリでも勝ってるし。

 

「お、新人っぽいな」

「馬鹿言え渡りだろ、面構えが違う」

「馬鹿はお前だ。それにしては若過ぎんだろ」

「あの槍、もしかしてランク8の……」

「尋問官の襲撃から町民庇って一党ごと……って話じゃなかったか?」

 

 冒険者協会は冒険者達の集会所でもあり酒場でもある。まだ昼間だと言うのに建物に入るなり仄かに香ってくる酒と焼けた肉や魚の匂い。港町だからかシーフード系のメニューな多いな。あ、やっぱ腹減って来たかもしれん。ガバガバプランニングにも程があるが後で何か食べちゃおうかな。

 視線が一瞬集中し、また興味なさげに歓談に戻る人と……そのまま俺を見て内輪で話し始める人。ジョッキや皿が積み重なったテーブル、それを片付けるのは冒険者ではなく従業員さんだろうか。格好から外見、髪の色からして様々だなあ……ところで今クライス先生の話されてた?

 

「登録か?」

「はい、そんなところです」

 

 目線を右往左往させていると、使い込まれた鎧を身に纏った偉丈夫な男性が話しかけて来た。うお……オールバックの壮年って見た目がまたイカす、声自体は渋いが声色自体に角は無く柔らかげな印象。これは直接女性が群がったりはしないがあの人いいよね……ってされてるタイプのモテ男子だな間違いない。

 

「左側のカウンターは酒場のだ、仕事関連の受付をするカウンターは反対側のあっちにある。前に酒場の方に登録に行って散々笑われた若いのがいたもんでな……俺はランク7、『ゲルド』だ」

「これは丁寧に……ありがとうございます、自分はバルトと言います。実を言うと今日は登録のみで、明日にはバエルニアに渡ってしまうのですが……よろしくお願いします」

 

 気さくに話しかけてくれた男性、ゲルドさん。ううむ、後輩になるだろう俺の事を考えて教えてくれたのだろうが、このドラムジェラを本拠地にする予定は今のところ無いし、自分で言った通り明日にはバエルニアに渡る予定だ。そう思うと少しばかり申し訳ないな……

 

「そうだったか。悪いな、勝手に後輩が増えると思ったもんでな。いや、何処で仕事をするにしろ同業の後輩か。いつかここで仕事受ける時はよろしくな」

「ご厚意、感謝します」

 

 ううむ、唸る程人が良い。ランク7、最大の9がこの世界に数人としかいない実質8が最上位となっている冒険者のランクで言えば8でこそ無いものの、このゲルドさんは相当の玄人と考えられる。その上で先達として後続にも気を配れるとは……俺もこういう人間になりたかった。

 

「しかしバエルニアか。その杖……槍を見る限り見聞を深める為だろうが、あまりのめり込み過ぎるなよ」

「それは……師にも言われましたね」

 

 マジでバエルニアの風評の酷さなんなん? お前本当にあそこに行くのかみたいはリアクションばっかなんだけど、せめておかしいにしても魔法学院周りだけなんじゃないのか。大陸全土が基本的にそんな人ばっかりなんですか? まぁそれだけヤバいって認識のある場所なら、世界を渡るような魔法も存在するかもしれない。それを手に入れられるかは別として……

 ゲルドさんに教えられた通りに仕事の受付の方のカウンターへ向かう。先程まで感じていた酒場特有の雰囲気というか、酒精や脂の臭いがフッと掻き消える。仕切りも無いのに、魔法か道具の力なのだろうか。心なしか喧騒も別の建物かってくらいには抑えられている気がする。異世界には異世界の技術と工夫があるんだろうな。

 

「登録の方ですか? 冒険者協会へようこそ」

 

 控えめな緑色の服に身を包んだ女性、所謂受付嬢さんが迎えてくれたのでその言葉に乗じて登録をさせてもらう事にする。登録料になる2000エディー(とても今更ながらこの世界ではエディーという通貨を使う。大体円と同じ価値、都合良し)を支払ってから各種項目に記入していく。

 俺は村で、クライス先生の元で勉学に励んでいたから文字を書くのもバッチリイケるが、出稼ぎの若者の識字率というのは10%も無い。口頭で経歴を言って、受付の人に代筆をしてもらうという制度があるがそちらは追加で1000エディーが取られ……あれ識字率低いのにどうやって物読んでんだこの世界の人。あ、協会は代読とかでもお金取るのね。それで仕事やっていく内に倹約と知識つけるので文字覚えるのね、よく出来た制度だ。

 

「アノーラのバルト・グリコスさんですね。登録完了しました、こちらが冒険者である事を示すプレートとなります」

「ありがとうございます」

「それでは、私達冒険者協会は貴方の活躍をお祈りしています」

 

 お祈りはヤメロォ! 受け取ったプレートを確認、金属の板に刻み込まれたバルト・グリコスという名前。そして俺のランクを示す①、これさえあればバエルニアに渡ってちょっと金が必要な時にも働きに出られる。とりあえず暫くは使う事もないのでリュックサックに入れておいて……

 ちゃんとした肉、いや村の肉がちゃんとしてなかったって話じゃないが大概干し肉だったアレ。酒場にはでっぷりと分厚く香辛料の掛かったステーキが、メニューちらっと見た限り高いにゃ高いが……うん、流石にやめとこう。黄金よ、我が魂を律したまえ。この後移動時間の短縮としてやってみたい秘策の為に金を使うのでな、銭は大事と存じます。

 

 

 

 

 終生の弟子と思っていた麒麟児、自身の心残りを託した若者、バルト。あれこそが常人ならざる者、天に選ばれし使命を持った者。そう思っていたが……目の前に広がる光景を見ると、何かそれも勘違いだったのでは無いかと思う程に……酷い光景が繰り広げられていた。

 

「ギャアアオッ!!?」

「ォオオアアアアアアアア!!!」

「逃がさない、よっ」

 

 シャドーハードは仲間意識が強いあまりに、群れの狼達全てを自分自身であるとも考えているという。例え個としての自分が死んだとしても、兄弟であり自分である仲間が生き残るのならば何の問題もない。産まれた時も死ぬ時も自分達は同じ存在なのだ、と彼らの言葉を訳した獣人はそのように語ったのを覚えている。

 だからこそそのシャドーハードが仲間を見捨て、自分だけでもその蹂躙する暴威から逃げようとする事の異質さが見て取れる。酷く狼狽え、混迷しながらも散り散りになって……ともすれば、それも一匹でも助かればと彼らなりに考えた結果なのかもしれないが。

 指で地を掻き、拾い上げた小さな礫。振るわれた腕の軌跡はこの老眼で捉えられるものではない、否、全盛だった若き日にもその起こりさえ察知出来るかどうか……放たれた礫はまるで砲弾の如く、逃げ出した狼の頭部に命中すると朱い大輪の花を咲かせた。

 

「バルトはもっと綺麗に倒してた……バルトならもっと……」

 

 イザベラという少女に魔法の才覚は無いように思える。ただそれを補ってあまりある、絶対的な身体能力。技巧の冴えはバルトも劣らぬところだろうが理詰めの動きをする奴と違い、本能によるものと言うか……一瞬の逡巡もなく流水の如き身体捌きは努力や経験で培える域のものではないだろう。

 この娘を子ども達が化け物と呼び、輪の中から省いたという話を聞いた時にはなんとも惨たらしい事を、と嘆いたが……そうもなろうと言う他無い。容易く折れる棒切れを手にこの少女と向かい合うのは、檜の棒か何かで竜の王を殺して来いと無茶振りされるに等しい行為だ。

 

「んー、こうしたら手が汚れないか……な!」

「グバボボボガバッ……」

 

 シャドーハードの首根っこを掴み、それを高速で上下に揺さぶる。脳震盪を起こさせているのだろうか、はたまたもっと恐ろしい事が起きているのか、狼は湖にでも溺れたような叫び声を上げながら絶命した。

 イザベラはこのシャドーハードの討滅、それを素手で行っている。彼女はおそらくどのような武器であれ才覚任せに使いこなせるだろうが、逆に何も使えない場合にどうするのか。という建前でちらちらと姿を見せ始めた影狼達を狩らせている。自分が相手をするとしてもあまりに、手に及ばない。

 

「もっと早く、もっと強くっ……」

 

 だからこそ、これと相打った……イザベラが言う事には自分の負けだったというバルト。それが自分相手には見せていない力というのもあったかもしれないが、どうにも……この埒外を指南する事となった原因である青年に、少しばかり恨みがましい気持ちが湧いた。




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