異世界から帰ろうとしたら病んだ女の子達に執着された男の末路   作:コーカサスカブトムシ

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遅かったじゃないか……
ようやく仕事の忙しい時期が終わったので投稿していこうと思います


科学ノ進歩、発展ニ犠牲ハツキモノデース

 全部纏めて焼却し海へぼっとんしたリグルカイトだが、その内一匹の死体を重力魔法でピックアップして回収。今はすることが無いので暇つぶしがてらに解剖してみることにした。

 

「よくよく間近で見たら……エイでもないなこれ」

 

 ぼてっと台の上に置かれたリグルカイト。海の上を飛ぶように移動しているというシチュエーションとフォルムが相まってエイに近いように見えたが、黒焦げとはいえこうして間近で見るとなんだかあの……前世の図鑑とかで見た事あるアノマロカリスに近いように思える。

 酷い刺激臭がする為まともに食べられはしないと書いてあったが、『まともに』と前置きするという事は毒があったりするから完全に食べられない、という訳では無いのだろう。

 よく洗ってからもう一回焼いてみたら食べれるんじゃないかと思いながら解体。腹にナイフを突き入れ、つぅーっと裂くようにしていき内容物をチェック。胃袋……以上。

 

「???????????」

 

 何かの間違いかと思いひっくり返して背中側からも開いて見たり、胃袋を摘出して他に何か無いか探してみたが、このリグルカイトという生き物……身体を構成するパーツが主に歯と舌と胃袋と肉しか無い。

 なんだこの不条理な生き物、排泄器官すら……というか交尾器すら無いんですけど。理解不能理解不能、繁殖法さえ不明って読んだ時はいや普通に卵生か何かだろと思ったけど、まさかそういう器官すら無いとは思わないじゃん。

 ……やっぱり魔獣じゃなくて悪魔か何かなんだろこれ。生物として分類出来ないとか、成り立ちが違う物は動物っぽい見た目でも魔獣じゃなくて悪魔らしいし、彼らも認めたくは無いんだろうが……いや本当にどういう生き物なんだこれ。

 

「……パッチテストはしてみたし、ちょっとだけ齧、ゔぇ……」

 

 リグルカイトを三枚おろしっぽい感じにバラした後、湯掻いたり塩を揉み込んだりとそれなりの処置をしてから味見してみようとしたが、肉片が歯の先に当たっただけで背筋を芋虫が這い回るような悪寒がしたので即刻海に吐き捨てる。

 俺は基本的に食べ物を無駄にするという行為が嫌いだ。学校の給食とか残したりで捨てられるのが忍びなく滅茶苦茶食ってたし、米が一粒でも茶碗に残っているのも気になる。テレビとかYouTubeでも食べ物をぞんざいに扱うタイプの映像には眉を顰めたりする人間だが……これはダメだった。

 ダブスタになるかもしれないが……これは食べ物じゃない。エドなら貴重なタンパク質つって食べれるかもしれないが俺には無理だ

 異世界という不条理の洗礼。しかし現代の知見があっても理解出来ない事が罷り通る世界なら、俺如きが思い浮かぶ発想とは異なるアプローチで現代へ帰還する手掛かりも存在しうるという物。リグルカイトは命を以て俺に希望を持たせてくれたのだ。そう考えることにしよう。

 

「ヴォ……ヴェッ……」

「おい大丈夫か? 酔ったか?」

 

 

 

 

 

 

 イザベラとの戦いで使った、魔力を身体の一点から爆発的に放出する事で人体の働きを無視した推力を生み出すという発想。魔力を用いたクイックブーストが可能であるというのなら、杖を用意すれば今思い描いている発想もまた実現出来るのでは無いかって言うもんだ。

 

「高さは充分だな、アリカルアレの方角は間違ってない……地図が間違ってなけりゃだが」

 

 …移動時間の長さ…『乗り物の中で何も出来ない虚無』何とかしたいですよね。十数年過ごしたアノーラにサヨナラバイバイして漸くバエルニアに辿り着いた俺だったが、その旅路は正直……虚無だった。初日からリグルカイトの襲撃があったもんだから、こりゃあこの先も一筋縄ではいかんぞと気を張っていたが、それ以降は天候も良く何のアクシデントも起きなかった。

 船旅自体は順調と言えるもんだったが、異世界の船なんてもんは当然帆船。進行方向へと望む風が吹かなきゃまともに進めやしないし、そうして進めるスピードだって大したもんじゃないからスットロい。

 このアリカルアレに到着するまでにひと月近くを要したし、ただでさえ低い異世界のクオリティオブライフが最低値を叩くような日々だった。客船じゃないんだ、節約とはいえもう少しまともな船にでも乗れば良かったという後悔は教訓にしよう。節々がバッキバキだ。腰が痛ぇ、目が霞む、年月ってのは残酷だよなぁ……

 そこでそんな移動の問題を解決してくれるかもしれないのがこちら、ドラムジェラで購入した6本の杖だ。この杖を購入した時の本来の想定用途はファンネルに在らず。何度も説明しているように無手と触媒があるのとでは天地の差があるわけだが……この6本の杖をブースターとして背中に貼っ着け、黄穿を舵取りに、空中をカッ飛んで一気に移動。

 さながらヴァンガードオーバードブースト、これを用いてアリカルアレがある都市へ短時間で向かおうという算段だ。黄穿で荷物を含めた自身の重量を軽くし、高所からこのVOB……これが上手く行くのならこの先、大陸間移動さえ自力で敢行出来るかもしれない。

 

「よし……上手く行ってくれよ……」

 

 日も高く、視界は良好。突然の悪天候もあり得なくは無いが、目に見える範囲にそういった黒雲は無い。地図とコンパスで再三の方向確認。港町のすぐ近くにあった小山の上、切り立った崖の上へと立ち……距離を取ってから助走をつけて飛び立つ!

 

「お、おぉ……おおおおおおおおおおおおああああああああああ!!!!!!!」

 

 一瞬感じた浮遊感、そして圧倒的にして膨大な推力に身体を押され、俺はヤーラカムの空を飛んだ。舌とか噛まないように一応縄で轡しといて良かった、なんて悠長な考えが出来たのも本の一瞬。流石に時速4000kmなんてのは遠いが、それでもこれは、反動がヤバすぎる。

 

「っ……っ……! っっ……!」

 

 縄を噛みちぎってしまうのでは無いかと思うほどに食い縛る。前傾姿勢にする事で風の抵抗は出来るだけ抑えているが、前後からやってくる圧力は半端な物ではない。魔法薬を作る時に発生する光や成分から目を庇護するゴッツイ眼鏡も買っておいて正解だった。こんなん裸眼でやってたら眼球が一瞬でドライトマトになってしまう。

 一応試運転として船の周りを飛び回ってみるぐらいの事はしたが、やっぱりこのバルトの身体はイザベラとは別方向に天才だ。視界が色のついた風のようになるほどのスピードの中でも、俺がやろうとしていること……上手く空中でバランスを取って目的地へ向かうという事を可能にしてくれていた。

 飛び始めてから数十分もした頃には目的の場所であるアリカルアレ、その魔法学院が聳え立つ地……広大な湖をバックとする『ラゴアニエ』が目に飛び込んで来た。実験は成功だ! やはり私は間違っていなかった。杖から放出させている魔力を止め、後は黄穿でバランスを取りながら慣性で飛んでいく……あれこれちゃんと止まるか? 最悪杖から逆噴射で勢い殺せばいいんだろうが、ってかそもそも着地……頑張れ俺! なんとかなれーッ!!

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

 空に輝く星にも、いつかは手が届くと信じていた。あの夜に瞬く美しい煌めきを求めてこの学院の門を叩き、いつしか周囲は僕のことを学院開闢以来の秀逸、『創生の魔術師』と呼ぶようになった。

 だが元よりそんな称賛などを求めてこの学院へとやって来た訳ではない。そして何よりも……星界を目指す探求に進歩はなく、また志を同じくする知己も同胞もいない。願い請われるまま魔法を振るい、星を見るだけの時が過ぎていく。

 いまだに僕の手は、この大地から離れる事すらままならない。それが一体どうして、秀逸などと持て囃されるのか。他者を持て囃すより自身こそが上へ行くという心持ちは無いのか。やはり一人ではどうにも限界がある……頭打ちだ。

 

「クレイヴンさーん、入りますよ?」

「セリナか、構わないよ」

「失礼しま……あーっ、また朝ご飯食べてないじゃないですか! 駄目ですよもう、ちゃんと栄養補給ぐらいしないと!」

「構わないさ、光は浴びている。経口での栄養摂取よりも余程快適だ」

「どうせ今やれる事無いそうじゃないですか」

「僕は面倒が嫌いなんだよ」

 

 窓から外を、学院に面した湖を眺めていると僕の後輩……何かと掃除やらをしてくれて助かるが、少しばかり口煩いセリナが朝食を摂っていないことを咎めてきた。

 今の僕にとって食事なんてものは非効率極まるし時間の掛かる面倒だ。水分さえ取れていれば光合成で活動に必要なエネルギーは足りる。そう彼女に言うと「植物じゃないんですから!」などと激されるが、その植物に置換した身体なんだから構わないだろうに。

 

「植物だって水とか土だけで生きてる訳じゃないんですよ、肥料ぐらい取り込んでください」

「はぁ……放っておけばいいも……」

「どうしたんですかクレイヴンさん?」

 

 セリナの言葉をいなしているその時だった。耳膜を震わせる音……遠くから、そしてすぐ近くへと夥しい速度を伴って何かが飛来している。窓から身を乗り出してその何かを目に納めようとする。左目に着けている眼帯を外して静止する彼女を振り払う。決して見逃さぬよう目に魔力を込め、そうして……

 

「……人?」

 

 直後、湖が盛大に爆ぜた。




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