異世界から帰ろうとしたら病んだ女の子達に執着された男の末路 作:コーカサスカブトムシ
アーマードコア6の映像で気持ち悪い笑みを浮かべてメガンテしそうですね……
「ビッ……クリしたぁ……って、なんですか今の!? ワイバーンか何かでも墜落してきたの!?」
「いや、今のは……人だよ」
「人ぉ!? って何してるんですかクレイヴンさ、ああーっ!!」
本を片手に窓から飛び降りる。眼帯を外しているせいで少しばかり色々見え過ぎるが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。すぐにでもあれが、彼が何なのかを知る必要がある。間違いなく、僕にとってそれは何事よりも優先される事だ。
着地した瞬間にボグンと鈍く、ひしゃげるような音がする。足や節骨が痛んだようだがすぐに治るものだ。そんなことよりも注視すべき事、彗星の如く飛来した彼は……居た。
湖の辺で槍と一体になったような形の杖を持ち、砕けるようにして破損した何本かの杖を観察していた。材質も触媒も統一されずにバラバラ。ここから見える限りでは金色の槍杖を除き、それらは到底品質の良い物とは呼べない杖だ。
「しかし、いやだからこそ……あんな杖であれだけの御業を……」
あれだけの速度であれば地面に衝突したのではなく水面であっても重傷は、いや死傷を負うのは避けられない。にも関わらず彼は全くの健在で、それどころか衣服も水飛沫を浴びた程度。あの湖の一角が爆ぜる程の衝突を、水中にすら落ちず、粗製の杖で……
「っ、ええい、煩わしい……」
彼の元へ進もうとする身体を頭が引き留める、全く厄介な性分だ。
飛翔の原理に関しては想像、考察出来る。背中に固定した幾つもの杖から膨大な魔力を放出する事で推力としたのだろう。戦闘行為を生業とする……主に冒険者、そして魔力量に優れた魔法使いが大型の魔獣に対して使う事があると聞いた。だがその凄まじい反動は使用者の身体を著しく圧し、例えばこの学院の学徒のように貧弱な肉体では支える事も出来ずに宙を舞うに違いない。
しかし逆にそれを、放出されるエネルギーを利用して移動に使うのであれば……だが誰がそんな事を考える? 誰がそんな事を実行する? そもそも姿勢を制御出来るはずもない。下手くそな花火のようにのたうって地を舐めるのが精々だろう。
『普通』ならばそうだ。しかし百人の内百人が鼻で笑うような与太を、彼は平然とやってのけている。その精神性や判断は実に……アリカルアレ的だ。やれるからやったのだろう、やりたいからやったのだろう。その結果が死に直結しかねない物であるとしても彼は日和らず、外から来た者が元からそうであるというのは中々に稀有だ。
「良いね、とても良い、凄い良い」
あの飛翔が一体どこからこのアリカルアレを目指して来たのかは想像するしかないが、あの破滅的な飛行速度は如何なる俊馬……いや、王都の精鋭が駆る竜騎兵などとも比較にならない。だが少なくともあれだけの速度があれば、馬車で数日と掛かる距離も瞬で移動してしまえるのは間違いなく、例え大陸端の港からであれ数時間とは掛からないだろう。
先程僕はあの飛翔を彗星に例えたが、正しく流星のような彼に……その脳髄と心身にとても強く、関心を惹かれた。着水の瞬間、杖は一人でに前方へと滑るように動き、推力を相殺するように魔力を放出していた。あの動き、何かこの世の理に迫っているような……超越的な視座から来る力が働いているように思える。魔力を放出する反動を受けながらあれだけ滑らかで精密な動きを可能とするには……きっと理外の魔法を行使したに違いない。
「ん、なんだこのイケ……貴方は」
僕の視線に彼も気がついたのだろう。手元にあった杖の破片達は宙を舞うとそのまま一つの塊となって……傍にあった荷の側へと『飛んで』いく。もちろんそこに先ほどのような魔力放出はなく、磁力か何かのように。垂涎とする未知に激しく心を揺さぶられるようで、そして何よりも……近くまで来てわかった彼の瞳、人間の外見に関心を持った事も初めての事だった。
その黒く、暗雲と共に煌めく夜空の星のような輝きが、僕の脳幹へと焼き付けられた。
危うく水没王子しそうになった。気の抜けた息をうわぁはぁと吐き出し、湖のほとりを歩く。思いつきでやったにしても良くない行動だった。着水の時にAMBACよろしく杖を逆方向に向けてブーストしたので、湖面から弾けた水飛沫こそ派手だったものの身体にダメージは殆どない。
ただ着水も何かをひとつ間違えれば命を落としていただろう……シラフの、普段の俺ならば間違いなくこんな軽率に命を掛けるような真似はしない。湖の水をおっ被って頭が冷えた今だからこそ、自分の行動を顧みてそう思った。恐らくクソみたいな船旅で頭がおかしくなっていたと考えられる。急いだヒキャクは過労死するんだよ。
「馬鹿がよぉ……」
どうしてあれだけ油断も慢心もしないとか抜かしながらこんなに迂闊な事をするんですか? 結果だけ、本当に結果だけを見るならそんなに悪いもんじゃなかったし問題点や改善点も見つかった。ただそれは無事だったからそう言えているだけで、着地……着水をしくじっていれば死んでいた。
言動も挙動もフラフラしすぎだ、そんなんだからグズで無能なんだよお前は。このバルトの身体さえなければ自分なんて何者でもない無能だってことをしっかりと頭に入れておけぇ?
とりあえず空中で水没しないようにパージ、射出した荷物を回収しに行こう。その前に髪とか服とか乾かさんと……ずぶずぶに濡れた訳でもないし、服は農村から持ってきたような布地が貧弱なもんだから火をつけて風を起こせば乾くまでそう時間は掛からないだろう。
「しかし……買った杖は全部、いやラピスのは無事だが全部逝ってんな」
杖が壊れるっていう話はこれまでに聞いた事が無いが、このVOBの負荷には安い杖では耐えきれずに破損してしまったようだ。だがラピスラズリを触媒としていた杖だけは他の物よりも品質が高かったのか、石は砕け木は裂けた他の物と違いしっかりと形を保っている。こればかりはよく目利きしたと言えるかな。費用対効果としては……ううん、毎回毎回杖が壊れるのは困るが黄穿には一切不調無さそうだし、上等な杖を持つようにすれば行けそうだ。
杖が壊れてしまっては困るし、着地にミスればすりおろされてピンク色のムースになりそうではあるが……まぁ、アリじゃないか、貴様。急がないならもっとスピード落として、ブレーキ掛けようと思ったタイミングでしっかり止まれるように。別にぐるっと旋回して緩やかに着地しても良いんだからな、と反省タイムを終えようとしたところで足音と視線を感じて顔を上げる。
まぁあれだけ派手なダイナミックエントリー噛ませば誰かしら来る事は想像出来るが、それが俺にとって良いものであるかはわからない。邪魔になる杖の破片達を一塊に纏めて荷物のところにシュート。黄穿だけ握りしめて……
「ん、なんだこのイケ……貴方は」
なんか如何にも知的で魔法使いって感じのお兄さんがいた。この異世界ヤーラカムには美男美女しか存在しないんですかってレベルでまた桁違いに顔が良いな……って定期のごとく思ったが、そのあまりにアブノーマルな左目を見て少し言葉に詰まってしまう。
スターサファイアとか言っても詳しくない人はわからないだろうが、この人の左目は白目も黒目もない真っ青な眼球に、白い線で描かれた星が浮かんでいて酷く奇妙……悪く言えば不気味、そして良く言えばめちゃくちゃオサレな魔眼的な目だった。
なんか生体ってよりもガラスっぽいというか、いや正に宝石が眼孔にハマってるって感じで……いやめっちゃ滑らかに動いてる。異世界由来の遺物とかなん? それとも本人の自前の目なん? そんな疑問が頭の中でぐるぐるしている内にも、その男性は俺の事をじっと見つめていた。
「君は、とても良い……変わった目をしているね」
多分そっちの方が変わってると思うんですけど。そんなスゴイシツレイな言葉が飛び出しそうなところをグッと堪える。こっちは珍しいにしても黒いだけなのに対してその目で他人に珍しいとか言うのは最早ギャグ……いやこれまで見た事ないだけで異世界じゃこれぐらいは全然アリなのか? というかやっぱり声もいいな、ASMRとかあったらめちゃくちゃ跳ねそう。
「あぁ、いきなりすまないね。さっきここに飛んできたのは君だろう? 思わず飛び出して来てしまってね。僕はクレイヴン……クレイヴン・エリファレットだ」
「自分はたけ……バルト・グリコスです。ローゲルの、小さな村で存じないでしょうがアノーラから、そこの学院の門を叩きに来ました」
「へぇ、そうかい……それは、重畳だ」
なんかめっちゃ左眼がギラギラしてるんですけど、怖いんですけど。何が重畳なんですか? ああいやそれに関しては俺がVOBでぶっ飛んできたのをおもしれー男、した可能性があるか。アリカルアレの学徒は頭のネジが外れてるってみんなが言うし……ってそうだとしたらこのクレイヴンさんもそういう区分になるじゃねーか。大丈夫なのかこれ、モルモットとして目を付けられてるとかそういうのじゃないよねこれ。
「アリカルアレは来る者を拒みはしないし、去る者には興味が無い。全てを捨ててもなお目指すべき望みを探求する場所だ。星界を臨む同志として、これからよろしく頼むよ」
……やっぱりバルトボディって勝手に好感度稼ぐバグとか発生してらっしゃる?
バルト・グリコス
一番好きなスペルは神の怒り。けどそれよりも彼方への呼び掛けの方が好き
クレイヴン・エリファレット
天体観測好きが高じて魔法の研究をしてたらかみのこかみのこ〜されるようになった
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