異世界から帰ろうとしたら病んだ女の子達に執着された男の末路 作:コーカサスカブトムシ
前話の後半部分納得が行かなかったのでそこそこな規模で改修しています。それに伴ってイザベラちゃんの内情もかなり変わってるので()よろしければそちらも見ていただけると幸いです。
常識というのは誰もが当たり前のように理解出来るものだが、その概念を全く理解していない人間に説明するのは途轍もなく大変なことだ。表現がし難い。瞼を閉じて開く方法をわざわざ教わる事が無いように、俺という現代の地球、ファンタジーのフの字も存在しない世界からやって来た人間にとって魔法という常識は理解するのに中々時間が掛かるものだ。
人は走れば息が切れる。これは誰だって納得が出来る事だろう、理論とか理由とかもなくそりゃそうだろとしか言い様の無い常識。人によって違いはあるが疲れる事なく走り続ける事の出来る人間は存在しない、それこそスタミナの概念が設定されてないゲームなんかでなければ。そうだとして重装備でアフリカを爆走するBOSSはちょっとおかしいな……
話がずれたがそういった具合で常識として、魔法を使えば魔力を使う。魔力を消費するってなに? って聞けば、魔力を消費するんだよとしか返って来ないのがこの世界の難しいところだった。言語化することの出来ない感覚、馴染みの無い常識。
この世界の人間達すら魔力が身体の何処に宿っているものでどういう存在なのか、それを詳しく理解してる訳ではないんだ。何をどうすればいいのかわからない状況からのスタートである。
魔力、魔法を使う為に消耗される概念でありその量は人により異なる。個人の魔力の総量は訓練や秘薬によって伸ばす事は出来るが、大体は才能の世界であり人によってマッチ程の火を起こす魔力しかなければ発電所クラスのエネルギーを産み出せる者もいる。流石にこの本に載ってる何週間も大雨を降らせたとかいう魔法使いはトップのそれだろうけど……カイオーガかよ。
ただ、魔法というのがこれだけぶっ飛んだ力であろうとも剣や槍、弓といった直接人が使う武器は実戦でも使用される。魔法に適性が無くとも身体能力だけで戦う人達もいる、そこに魔法使いだから~などの上下の格差は無く、戦力となる人々はおおよそ対等だ。発電所クラスの魔法使いと武器を持った人間が実力だけで並び得るのである。たまたま同じ姿形をしているだけで前世の地球の人間とは起源からして異なってるんだろうな、村の子ども達にしろあれは子供の遊びじゃねぇよ。
ともあれやはり魔法が使えるのは楽しいぞ。実際に自分自身でってなると、やはりゲームや漫画に出てくる魔法を再現してみたくなるのは必然と言えよう。奔流とかソウルの大剣とかでド派手に戦いたいな、使えるかどうかは別として。上質も99振りも現実であるこの世界には存在しない。魔法も使えるようにしながら、ちゃんと身体も鍛えていつでもばんぜんにしよう。
今日もクライス先生の指導の下、魔力を魔法として放つ練習をしている。魔法には向き不向きがあり、魔力の総量も含めてかなり才能が絡むところではあるが俺は才能有りということなので安心した。使える物はひとつでも多い方が良い。
雷の杭、雷の矢といったまだ再現性のありそうなものから使って悦に浸っていく。魔法も奇跡もあるんだよ、後々神秘だっておみまいしていくぞ。
この世界における魔法は想像力が発動の鍵になる。炎の魔法は炎がどういうものかをよく知っていればいるだけ強力なものが使える。どうやって起こすのか、温度は高いのか低いのか、どんな色をしているか、どれだけの大きさがあるのか。
頭の中にイメージする炎、それがより具体的であればあるだけ魔法はより効果的になるのだ。ただ先述したバエルニアではより強力な炎を知りたいが為だけに山へ放火した魔法使いまでいるらしい、全くもって恐ろしい話だ。どちらにせよ最初の火の方が凄いけどな!
そういった意味では、色んな自然現象を現代知識として理解している俺には間違いなくそれだけアドバンテージがある。この世界では未だ雷は神鳴、怒る神の叫びと捉えている人も多いくらいだ。自然現象の大半は神様がもたらした叡知とする考えは大きい。魔法使いはそうした自然現象を研究することで自分たちの力へと変えているが、やはりこの世界の宗教でいがみ合いになることもあるのだとか。
「そこまで。その魔法をよく理解している訳ではないが最初と比べて感じられる魔力の質が落ちておる、今はその辺りが打ち止めじゃ」
「はい、わかりました」
魔力が上手く流れないと魔法が暴発することもあるそうなので、魔法の訓練をその光景を見守ってもらっていたクライス先生に声を掛けられる。雷の矢をバシバシと射てるだけ射ち、あれがよかったこうするべきだなどとメモを取りながら額に浮かんだ汗を拭う。
そうしていると水の入った水筒を渡される、ありがたい事にキンッキンだ。異世界でも、いや異世界という環境だからこそ水が美味いのだろう。汲み上げられた天然の水は喉を通る度に熱と疲弊を吹き飛ばしてくれる。魔法は使い続けるとその特性上知恵熱とも言うべき症状を起こす、対策必至だ。
「っし、フー……クライス先生、どうでしょうか」
「神鳴を理解しているとは、さながら……一発辺りに消耗する魔力は確実に低減させられておるようじゃな。魔力の量もそうじゃが無駄がないお陰で回数がよく増えとる」
水をそのまま飲んでもいいのかなんてのは一時期心配だったが、これの前にはそんな懸念も吹っ飛んでしまうな。雷の矢は普通に汎用性高そうだし、何より無手から武器に近い運用が出来るのは奇策にもなる。自分自身で使う事で頭の中のイメージも固まってきた、後は走りながらとか姿勢を変えて使えるように練習もしておこう。
しかしクライス先生はほんと神的に良い人だな。わざわざ俺みたいな子どものやることに文句も言わず付き添ってくれているし水まで用意してくれる。何時かは俺もこういうおじいさんになりたいもんだ。
「……なぁバルトや」
「はい、なんでしょう」
ぐいぐいと水を飲んでいるとクライス先生が何やら深刻な表情で此方を見ている。これは水なんて飲んでいる場合じゃない、がそれにしたってこの馬鹿げた量の……放出されてる魔力はなんなんですか?
知恵熱とは別種の、冷えた汗が背をすうっと伝う。クライス先生の厳かな尊顔もあってプレッシャーが並大抵のものではない、アホな話少しカッケェなってドキドキしている。
「おぬしは変わっておるよな。こんな老い耄れのつまらん教えに真面目に付き合い、薬学にもある程度通じて魔法までもが使えるようになった」
「そう、ですね。本当に感謝して……」
「それで、おぬしは何を目的にこんなことをしておる?」
視線が底冷えしている、俺の心の内なんぞ簡単に透かしてしまいそうな蒼く鋭い目。これはただ単に不審がられてるだけとかそういう話じゃないのか。確かに俺はクライス先生に魔法を教えてもらえるように頼んで……でも理由は今まで聞かれなかったな。
そうこう考えていると先生は視線を村の広場の方に向け、俺にもそちらを向くように指で促す。そこには子ども達が互いを追い掛けるように走り回ったり、枝でぽこぽことチャンバラをして遊んでいる光景があった。
「見てみい、おぬしと歳の変わらぬ童達は皆ああして遊んでおる。それが正しいとも、おぬしが間違っとるとも言いはせん
その上で問おうバルト・グリコス。おぬしは何故に魔法を学び、修めんとする」
「そ、れは……」
俺が子ども達に混ざって遊ばない理由など、彼等と仲良くなりたくないからに決まっている。仲の良い人達との別れは辛いものだし、幼い頃からの友人となってしまえば尚更だ。
しかしそれは俺が現代に帰りたいという前世を持つ人間だからであって、不自然と言えば……だけど子どもの全てが天真爛漫って訳でも無いだろう。この質問には果たしてどういう意味が?
他人と関わりたくない、にしようと思ったけどそれだとクライスさんのとこだけ足しげく通ってるのも変な話だしな。
「偽らざる本心で答える事だ。でなくばおぬしに物を教える事もなかろう」
「私は……いや、俺は……」
……俺は同年代の子どもの中で、いやこの村の人達の中でならクライス先生を除いて一番頭が良いくらいの自信がある。前世の記憶があるのもそうだが、バルトボディは文武を両道にこなせる中々ハイスペックな代物だ。それで前世よりも地頭は良いように思うが、それでだって知らないことは知らないとしか言えない筈だ。
まさか、俺が前世のある人間だということを感づいているというのか!? それはだいぶヤバいんじゃないのか、この魔力は良からぬ企みがあったときとかそういう時の為の? くっ、直接的な事は言われてもいないからすっとぼけたっていいんだが、それだとクライス先生から魔法を教えてもらえなくなってしまう……ここはある程度ぼやかしてでも言うしかないか。
「……俺には、為さなければならないことがあるのです。その為に俺は産まれたと言っていいし、そうでなければならないという確信があります」
「……なるほど、ふむ」
異世界で暮らして、あれだけ愚痴は言ったがなにも嫌なことばかりって訳じゃない。でも、それでも『俺』の帰るべき場所はここじゃねぇんだよなぁ。進撃の巨人も完結まで見たいし、友達のRISEやる約束もしてたしなぁ……そして何よりACの新作が出るのだ。その為ならば、どのような異端の力であれ従えてみせる……
俺の意識がある以上、前世に戻る為に産まれたようなもんだしこの言葉に欺瞞は一切無い!これでどうだ?
「クライス先生であればわかっている事でしょうが、俺はいつかこの村を出ます。戻って来るのか来ないのか、そもそも来れないのか、それすらもわからない。ですが俺は自分自身の命題に従って生きる、その為には貴方の知識と用意できる準備、そして魔法が必要……それだけのことです」
「なるほどのぉ……ならば、それに相応しい覚悟がおぬしにはあると、そういうことじゃな?」
「無論、それに殉ずる覚悟です」
クライスさんが何を考えてるのかさっぱりわからねぇ! でも馬鹿正直に一から十まで言う訳にもいかないからなぁ、現代に帰る意思だけは本物なので肯定しておきますん。もし現代に帰れたなら実際バルトくんは失踪することになるしな、この村には帰って来ないんDA!
「おぬしのような者の事は、昔噂に聞いた事がある。そうか……まさかこの歳になって、実物と見えようとはなぁ……」
「っ!」
いや普通に知られとる、やんけ! この世界に転生した人って俺だけじゃなかったんか……俺だけってのも考えればおかしいが、そんな死んだ人がポンポン此方に来てたらもっと色々あるだろ情報とか。一体どんな基準で異世界転生なんてものをさせられているのか……
「そうじゃったかぁ……じゃが、それでもおぬしはまだ若い。一人だけで抱えきれん問題なんだ、頼れる事があれば……なんとなり聞け」
「ありがとうございます、クライス先生」
そういう事まで知ってるとかこの人、人生経験つよつよ過ぎない? 正直別世界からの人間とか与太話もいいところだと思うが、俺の行動からそんなことまでわかっちまうものなのか歴戦の魔法使いには……
そしてそこまで分かってて協力してくれるって言うのか。俺はその子どもでもないって言うのに、バルト・グリコスでも無いってわかったって言うのに。人としての器が大きすぎる……
だけどこれだけ凄い人が親身になって支援してくれるってなるとこれ程頼もしい事はない。そうなると遠慮無しに失礼かもしれないが、実戦とか狩猟した魔獣の素材を換金してもらったりも出来るだろうか。先立つ物は必要だし、歳を取っていてもあれだけの魔力だ。クライス先生を倒せる、越えられるくらいにはなりたいしならなければ障害を乗り越えられないだろう。
「今後ともよろしくお願いいたします、重ね重ねあなたに感謝を……」
「あぁかまわんさ、この老い耄れの……最後の大仕事じゃな」
よし! 今日も現代帰還に一歩前進したな! これからは背丈も伸びていくだろうし、本格的に調整したトレーニングをストイックにやっていくぞ。人生が長いとはいえ時間はあまり掛けたくない、どんなことがあろうとも俺は絶対に諦めないぞ!
「バルト、またクライスさんと何かやってる」
「よ、余所見してんじゃ……っ」
「なんで私とは遊んでくれないのに……なんで、なんで……」
色々インスピレーションは得られたものの中々書けない、繁忙期め。シンプルに村の中で起こせるイベントが少ないなって……