異世界から帰ろうとしたら病んだ女の子達に執着された男の末路 作:コーカサスカブトムシ
一年くらいたっていたのでは、お前は実にどうしようもないやつだなぁ
今更解説する異世界脱出方法おすすめ講座、とか誰か配信してくれねぇかなぁ〜。白い息を吐きながら指先に炎を灯して暖を取る異世界ヤーラカムでの冬。厳しい寒さは現代とは違った形で、より深刻にその恐ろしさを教え込んでくれる。
昔は冬と夏では冬の方が好きだった。まず日本の夏って奴はジメジメしてげっそりするような暑さから逃れられないし、汗で匂いはキツくなるわベタついて不愉快だわ碌な事はない。
服を薄着にするのも限界がある以上、暑さ対策なんて実質やれることはないのだ。自分が暑がりで寒さに強いのも一因ではあったが着込めば済む冬の方が好きであったあの頃。
そんな俺も今ではすっかり冬アンチと化した。クッソ寒いし食料も厳しくなるからさっさと終わって欲しいんじゃドブカスがぁ……村の子ども達も流石にこの環境の中外を遊び回るだけの熱量は無いのか大人しく家に引き篭もっている。
食料に関しては村が普段から節制を方針にしているだけはあり、保存食という名の備蓄が備えてあるので飢饉が襲ってくるとかではない。それでもただでさえ質素な飯がよりいっそう淡白になる、うっすいスープだなこれ白湯か? 刑務所の人間だってこれよりも格段に質の高い物を食ってるだろうに。
いざという時の為、はわかるが先の事ばかり考え過ぎててから回ってるというか。だけどもあの村長に飢饉は恐ろしいぞって言われたらそれだけでぼくちんには何も言えなくなってしまう、カーニバルファンタジー……
「照り焼きチキンとか、魚の煮付けとかが喰いたい……濃ゆい味の……」
だが当然俺はそんな中でも備えとしてトレーニングを欠かせない訳でな。心頭滅却すれば火も涼しいのだから、こんな雪くらいストーブのようなもの嘘ですこんなの耐えようがねぇよシャイニングのパパみたいな死に方するわ。
しかしねぇ……我々としては少しでも苦行に身を置いておかないと居心地良く感じて帰りにくくなる立場にあるのだから……よく鍛える! そんなこんなで適当に走り込んだ後はかいた汗が冷えてより一層体温を奪うので、熱の確保がてら火の魔法を扱う練習にする。
「寒いんだから鍋ってのも良いよなぁ、赤から鍋か……いやもつ鍋の方がいいな」
パチンパチンと指先に火を着ける、消す、着ける、消す。何のこと無しにやっているような事だが、これが案外この世界の常識からすれば異常だそうな。一般的にこのヤーラカム世界、魔法の発動は以前復習した通り、本人のイメージを魔力によって具現化させるという形式で発動する。これは魔法の強弱に関わらず、それを発動するまでの時間にも関わってくる事だ。
火の魔法を使うのならばまず頭の中で火をつけねばならぬということ、着火に至るまでの計算式を求められるという事だな。まず自分は火を出したい訳だがそもそも火はどうやって起こすものか? こんな文明の遅れた異世界だ。魔法を使えない人はガチンガチンと火打ち石を何度も打ち鳴らし、燃えやすいボロクズか何かに火種を移してフーフーするキャンプ場みたいな着火を余儀無くされる。
「水炊き……いやそこまで来ると麺類も、ラーメン、カップ麺でもあればなぁ」
異世界の人達にとって火を起こす、というイメージは正しくこれであり、魔法を使う際にもある程度の省略を個人でしていくとはいえ基本はこれになるのだ。早くとも数秒のタイムラグが産まれるものだとクライス先生も言っていた。
「メ、ラ、ゾー、マ……フィンガーフレアボムズ〜」
5本の指先に同時に着火、岸壁に向かって魔力を暴走させるように渦巻かせながら発射……爆発させる。これは……中々良いものだァ。厨二心を抑える事なくぶちまけてしまうが、やはりイカすなフレイザード。まぁただ単に形を真似てみただけだから威力はまるで及ばないし相乗効果みたいなのも無いんやけどなブヘヘ。
そう、現代人はそんなことをする必要はないのだ。火は最早とうの昔に飼い慣らし人々の暮らしと共にあったもの、火をつけると言えばコンロのつまみをクイっとやるかマッチをシュッとするか、チャッカマンの引き金を引いたって良い。どれにせよこの世界の火起こしより圧倒的に早く、そしてスピーディーに事は済む。
過去の大魔法使いが雨を何週間と降らし続けた事に対して以前の俺は底知れなさに慄いたものだが、少し発展的に魔法へと触れて見て、それもなんて事はないものだとわかった。雨が降る原理、それさえ理解してしまっていれば天候を変えることなど造作もないこと。雷雨に雹、吹雪でさえ例外なく今の俺は操れるということだ。
この世界で自然現象の成り立ちに気づくというのは難しいだろうな。研究を積み重ね、原理を解き明かした上で、御技として本人のみが扱えるよう秘匿することにより世間に大魔法使いと謳われる。だからこそ広まらない、進歩しない。発見し発明した魔法は自分だけの専売特許であり、そう易々と他人に使わせる事は無いだろう。
逆に広めるとするならば、それこそ歴史に名を刻むような事にもなるんだろうが……その程度のことなら現代じゃ小学生だって義務レベルで知ってんだよなあ、これこそが現代知識チートだ! と一瞬思って。
「……はぁ」
魔法を使って現代に帰る案、きつくね? そう思った。
憂さ晴らしが兼ねて火球をぼこすか滝に向かってお見舞いしていく。魔法が人間が自然に対して持つ理解力、それを引き金にして発動するってんなら異世界を跨ぐような魔法って何よ? 現象以外の魔法で、魔力をバフ……筋力の強化とかいい感じに汎用性を持たせる事とかは出来るそうだけどさ、早速帰還プランの一つ潰れそうじゃねーか。
独自性はある、ちゃんとあるけど……思ってたよりも随分とあれだぞこれ。魔法自体そういう作業においては人力の代替にはなれるけど、上位互換にはなれない感じじゃないか? ゴーレムとか魔物とか、そういう前世の法則に縛られてないようなものもあるにはあるから希望が無くも無いが……というか俺自身特別頭いい訳でもないからなぁ、魔法だって他の現代人ならもっと凄い事出来るのかもしれん。凡人は身の程を弁えろって若蛇龍王も言ってた。
萎えぽよ……いい感じに汗が乾きつつ体温も高いのでションボリしながら帰る事にする。春とかだとこっそり食えるもんをつまみ食いするんだが、冬ともなれば山菜もしんでるし冬眠する魔獣達が巣穴に持って行ってしまっている。冬は魔法の行使による知恵熱も外気の低さから起こりにくい、訓練にはもってこいの季節なんだが……こんなやる気下がるような事気づきたく無かったなぁ。
魔力的なものも不足してきたような感じがするし、今日はもう家に帰ろうと思った……んですがね。俺はその、DTのまま死んじまった訳なので、あんまり家にいたくねぇのだ。事情さえ抜きにすれば全然行ける女性、という母親とイケメンな父親がよ、冬っていう特にすることもない時期にはそりゃ楽しそうにするわけで……マジで肉親の情交に反応せざるを得ないメンタル持たされるのって辛みが深すぎない? 俺なんかこんな目に遭わなきゃいけないような罪とか犯してた?
「ゆっくりーのひー、まったりーのひー、すっきりーのひー……酒! 年齢的に飲めないッ!」
やけ酒とかしてみたいが異世界とは言え子どもの早すぎる飲酒は咎められてしまう。仕方ないから前本で見た石斧の作り方でも参考に武器づくりするべ、いい感じの足を探しに川へ行こうとしたその時。最近では日常のようになってしまった視線に気づき動きを止める。
「っと……今日もか」
近くに落ちている石ころを拾い大よその場所に、感覚的にあの辺りの草木に隠れてるだろうから……目星をつけて視線の主が隠れているであろう付近の木に礫を投げつける。多少齧っていたソフトボールの知識と既に前世を超えているであろう身体能力から繰り出された投石は中々の威力となり、木にぶつかった石は樹皮に弾かれる事もなく幹へとめり込んでいた。思ったより威力出てビックリしたわ、これノーコンで直撃させてたら洒落にならなかったのでは? 猛省します。
「ひゃうっ!?」
そうしてそれにたまげて出てくる少女が一人、幼馴染がイザベラちゃんである。当たり前の事だが俺が成長するのと同じようにイザベラも成長する、昔の可愛らしいぷくぷくとした女の子といった容姿から手足が伸び美しさが出てくる年齢になった。彼女の両親にはまこと失礼な事ながら、こう間近にするとなんだか娘のような感慨を抱く。
「こんな時期に、一人で何をしているんだ」
「うぅ……そ、その……」
「……いや一人で、は俺も同じか」
おずおずと姿を現したイザベラは罰の悪そうな顔のまま黙りこくっている。……あまり関わりを持ってしまいたくないとはいえ、このところの監視は目に余る。暫く前からの事にはなるが、いつもは周りの子ども達と遊んでいる事の多かったイザベラなのだがそれがはたと止まり、俺のことを注視するようになった。
ただ、それも俺に関心があるだけという印象でもない。顔は何か思い詰めたように翳りが差していたし、何よりあれだけわんぱくで遊ぶのが好きで笑顔の似合う娘だ。そのままにしておくのも忍びない、少しは話をしてやるのもいいだろう。
「今は寒いだろう。ほら、火だ。近づきすぎるのも良くないが温まっておけ」
「ん、んん……ありがと、バルト」
「それで、最近どうしたんだ。少し前は見にきても四日に一日だったのが今じゃ毎日だ」
「あ、はは……そうだね……うん、ほんとにごめん」
とりあえずお体が冷えてはいけないのでボンファイアしてイザベラを火に当たらせる。それから程よく芝の生えた柔らかい地べたに座り、やれどうこうとくだらない話を振っていった。直球で何があったかというのも聞き出しづらいし、それとなく話題を振ってみては曖昧な返事が返ってくる。なんだこれ、学校は楽しいか? って聞くお父さんみたいな気分だ。
「友達とも、ああなんだったか……棒で叩き合うのもしていたのに、いや俺としては女の子が「バルト」ぬ?」
「私ね、他の子達に言われちゃったんだ。おまえはおかしすぎるって、化け物みたいだって」
…………はぉん?
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あとここすきをしてもらえるとどういうネタが好みなのかとかわかるのでしてくれたらなぁ……と