異世界から帰ろうとしたら病んだ女の子達に執着された男の末路   作:コーカサスカブトムシ

8 / 18
投稿期間が死ぬほど開いていてながらもランキングに乗れたりしたので嬉しくて続きです。しかし真面目(?)なパートだからかまるでネタが盛り込めない、その程度の人間よ……


勘違い物ってこういう味かぁ……

 俺、武内 一弘は20と14の年月を生きた実質アラサーのおっさんである。俺の今生の親であるアストラとリンデは共に30近くであり、本当にくだらないような話だが俺よりも歳下だということになる。いや自分でもそういう考えが出てくる辺り最低だとは思うんだが、やはり俺はこの二人を肉親だとは思えずにいた。 

 或いは防衛反応なのかもしれない。この二人を俺が親だと認めてしまったら、俺は武内 一弘ではなくバルト・グリコスになってしまう。グリコスの人間として生きる事になる。それは違う、俺は俺だ、武内 一弘だ。だから無意識にこの二人は親ではないと、良いところホームステイ先のホストファミリーだと思うようにしていたのかもしれない。

 日本には親よりも先に死ぬ事を不得とする考えがあった。このバルト・グリコスの身体に宿る俺が如何なる手段を用いるにしても、前世である現代に帰るという瞬間にバルトという存在は死に近い末路を辿るだろう。そっくりそのまま転移して永久に行方不明になるにしても、俺の魂や精神だけが抜けて前世に戻るにしろ……このアストラ達夫妻からは一人息子の命が失われる事は変わらない。

 

「父さん、母さん、これを受け取って欲しい。魔獣狩りで貯めてたんだ……勿論、俺を育ててくれた分にはまるで足りるとは思ってないけど、外からでも収入があったら仕送りするよ」

 

 この村の中でできる事はもう頭打ちだ。書庫にある本も大概読み潰してしまったし、クライス先生とも時たま近況を報告するぐらいでもう挨拶は済ませた。行商をやっている人の荷車に乗せてもらえるよう話もつけているし、この村から離れる時が来ていた。恐らくは……もう戻って来ないだろう。

 この村の、畑仕事で両親が行っている農作業だのを引き継がずに外界へと飛び出していくのだ。こんな人の子として最低な俺を、そうだと知らないままに育てた……育ててくれた恩にだけはせめて報いたい。クライス先生や猟師の村民達の指導のもと狩猟した魔獣による金銭は、自分が独り立ちするにあたって貯めていた物でもあるが、この二人へと返したい物でもある。

 自分で買うような物もなく、三年間程の狩りの成果が詰まっているので金額としてはそこそこになっている。少し遠出して近くにはいない、普通の猟師では狩れないような魔獣は売却額もそれなりになった。この二人には出来れば少しでも良い暮らしをしてほしいし、今からでも二人目の子どもが出来るなら……俺の事は忘れてそちらに……

 

「バルト」

「……なんだい父さん。いや確かに子どもからお金を渡されるっていうのは心苦しいかもしれないけど、俺も二人に報いず外に行くのは」

「クライスさんから聞いたよ」

「っ……」

 

 自分を見つめる悲痛な二人の顔にぎゅうっと心臓を鷲掴みにされたような心地がした。一瞬何バラしてくれたんだクライス先生と思いもしたが、普通に考えれば当たり前の事だ。関係のない部外者に吹聴したというならいざ知らず、この二人はバルトの肉親だ。その中身が本来自分達の子どもではなく何処かの誰かだなど……悍ましい話だろう。少なくとも俺は……ごめんだ。

 

「あ、あぁ……知って、たんだ……」

「あぁ、まぁそれも少し前だけどな。でもそう考えると確かにバルトは……はは、俺達よりも賢くて利口な子どもだった」

「どうして、教えてくれなかったの……」

 

 ぶつぶつと気持ちの悪い汗が全身に湧き立ち、頭に血が昇って掻きむしりたくなる。不誠実にも俺は自分が前世のある人間だと打ち明けようとは思っていなかった。空気が地獄になるだろうし二人にとっても……いや、これは全部自分の保身に過ぎないな。

 二人に、嫌われる覚悟が無かった。息子を返せと糾弾される覚悟が無かった……だから俺は真実を黙ってこの村を出て、育てられた分を金で解決しようとした。だが、こうなってしまったのならそうもいかない。外道、卑劣と罵られたとして文句は……

 

「産まれた時からそんな事を秘めてたなんて、知らなかった」

「バルト、貴方が……大変な使命を持って産まれてきたなんて……」

「ああそう……えっなんて?」

 

 思わず気の抜けた声が出る。なんか想定もしてないし聞き慣れない言葉が出てきたんですが。シメイ、しめい……使命? いや確かにACやりに帰るのは俺の使命みたいなもんだけどそういう意味合いじゃないだろうし、そんな深刻な顔されるもんじゃないだろ。

 

「バルトが自分で決めた事なのか、それとも何かに決めさせられた事なのかはわからない。それでも、お前がやるつもりなら……魔王なんて存在に挑むつもりなら、俺達は覚悟しながら見送るよ」

「このお金だって、必要になるでしょ。私達の事はいいから、貴方は貴方が思う事をしなさい。だって貴方は……勇者なんでしょ」

「えっ」

 

 な……なんですかぁこれはァ。い、いきなり自分に変な設定が生えてきたですゥ。RPGの主人公だ……なんか勇者とかいう事になってますゥ。はひーっ。いやマジで何の話されてんのどういう話なのこれ!? これクライス先生から聞いた話なんだよね!? なんでそれがこんなに拗れて……

 いや確かに自分に踏み込んできてもらわないようにちょっとキャラ作りとかしてたところはあるけども、そんな勘違い引き起こすようなこと……いやカッコつけて為さなければならないことがあるとか言ってたわクライス先生に! 身から出た鯖じゃねぇか、恥なのか? 結局俺が恥なのか?

 

「い、いや俺は……」

「それに、息子に金銭で気を遣われる程男として情けない事はないからな、なぁリンデ」

「そうよバルト、自分の親にくらいしっかり甘えなさい」

「ちゃんと自分で使う分は分けてあるからせめてこれは受け取ってお願いだから!」

 

 俺は……弱い、のでそうじゃないんだと思いつつもそういう事にさせてもらった。結局俺には真実を打ち明けるだけの度胸が無かった、みんなの為に率先して嫌われにいくとかそういうムーヴが出来るほどメンタル強く無かった。ただお金だけは無理矢理置いていく形で貰ってもらう、流石にこれ以上の恥は晒せない。

 こんな締まりの無い出立があっていいのか、思っていたのよりも違う方向性で疲れた……茶化せる時に茶化すのとこういう本気の話する時に茶化すのでは別なんじゃい……

 

 

 

 

 世話になった人への挨拶を済ませ、荷造りを終えた俺は何故だかイザベラに呼び出されて村の外れにある野原にやって来た。このところ彼女からの接触はなく、ただ自分で鍛錬している間に彼女もクライス先生のもとへ何やら教えを乞いに行っていたらしい。ただでさえ化けも……うん、化け物じみた強さのイザベラが技量まで手にしたら、もうどうなることか想像もしたくない。というかそれを指導する事になってたらしいクライス先生は大丈夫だったのか。

 

「あっ、来たね。こうやって話すのも久しぶりだね、バルト」

「ついさっき呼びつけただろう」

「あれは会話って言わないでしょ! でもちゃんと来てくれて……良かった」

 

 目を合わせるのも恥ずかしくなってしまうような、美しい女性に成長したものだなぁと思う。前世の人間とこのヤーラカムの人間は同じ生物とは言えないだろう。俺と同じ年齢、14歳ではあるがその顔立ちは僅かにあどけなさを残すばかりで、もう立派な女性であるように見える。

 ピジョンブラッドのルビーのような緋の瞳、嬉しそうに細められたその目は美しく、愛らしくも何かただならぬ想いを秘めているように感じた。鈍感系じゃないんだ、それが好意を含んでいるものなのはわかる。だがそれでも……俺としてはそれには応えられない。

 

「ねぇバルト、やっぱり私は気づいたんだ。クライスさんのところできちんとした身体の動かし方を教わって……村のみんなの言う通りだったよ」

「イザベラ……」

「私は普通じゃなかった、みんなと同じじゃなかった。でもね、今の私にとっては……別に大したことじゃないんだ。バルトが教えてくれたみたいに、それが私なんだろうから……そして、隣にいてくれる人がいればそれでいいから」

 

 イザベラは想いに浸るように目を瞑ってそう語り掛けてくる。俺は……そこまで彼女と関わったつもりではない。それでもやはり十年近くの月日を同じ村の中で過ごし、彼女は俺に対してコンタクトを取ってきた。無視もできなかったし……あの時の彼女を突き放す事もできなかった。だからきっと、彼女は俺の事が好きなんていう幻想を抱いているんだろう。

 

「きっと、あなたにそんなつもりは無かったんだろうね。だけど……今私の中は、バルトにもらったものでいっぱいになってる。初めて会った時の事から、落ちてくる本から助けてくれた時の事。一緒に川の魚も食べたりしたね……そして私自身の事を理解させてくれた、あの日の事」

 

 そしてこれボス戦始まるやつだな。直感的にそう感じ取った、彼女の足元にある剣と槍……いつかのように粗悪で何処にでもある木の棒ではなく、刃を落としてあるだけの本物のそれ。クライス先生から黄穿を託される以前に使っていた槍とそう変わらないものだろう、ともすればそのツテから借りたのだろうか。

 

「はっきり言うね。私は……バルトにこの村を出て欲しくない。村を出て色んな所に行って色んな人に会って、そうしたら……もう何処か手の届かない所に、消えていってしまいそうで……とても不安になるの」

「クライス先生から、聞いたのか」

「聞いたよ、聞いたけどそれとこれとは別。だから貴方に着いていきたいけど……それは嫌なんだもんね。私じゃあ貴方の足手纏いになっちゃうから」

 

 そう言うとイザベラは足元にあった剣と槍を器用に蹴り上げ、槍の方をするりと俺の方へと投げ渡してくる。今の動きめっちゃカッコいいな、じゃなくて! もしイザベラがあの時のように子どもらしく単調に武器を振るって来るのではなく、しっかりとした太刀筋というのを持ってチャンバラしに掛かってくるとしたら……イザベラに八つ裂きにされる。

 もしボコボコにされてあれコイツ大した事ないじゃんって思われたらどうなるんだろう。格好悪い事この上ないしそれで幻滅されるんならそれまでなんだが、なんかそれ以上に取り返しがつかない事が起きそうな、嫌な予感がしてくる。

 

「貴方のお陰で私は自分を知れた。そうして知った私は……とっても強いよ、バルト」

「……来るか」

「証明してみせるよ、私は貴方の隣にいられる筈だって」

 

 イザベラがざりっと右足で半円を描く。それと同時に俺もその一挙手一投足を見逃さぬよう目を凝らして集中し、その瞬間に備える。槍を握る手に力を込め、何処からどう来ても対応できる心構えをしたところで……色付きの風になったイザベラの一振りに大きく弾き飛ばされた。




お気に入りや高評価、特に感想がもらえると励みになります。またここすきもつけてもらえるとどういう描写が良いと思って貰えているのか参考になります
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。