異世界から帰ろうとしたら病んだ女の子達に執着された男の末路   作:コーカサスカブトムシ

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出立するまでの村パートがようやく終わりに差し掛かり、ようやく現代に帰還する主人公の旅が始まる……



負けイベかと思ったら普通にガメオベラする時が一番困る

 たけうちくんふっとばされた! サンディヴィスタンでも使ったんじゃねぇかってくらい殺人的な加速で突っ込んで来たイザベラ、その姿は考えたくない事に意識を集中させていたバルトボディの俺でも視認できなかった。ただそれでも日頃の修練は無意味ではなかったらしく、反射的に槍を振り翳して直撃を阻んでいた。

 だからと言って衝撃を殺せたのかと言えば……そんな事はまるでない。槍は大きく湾曲してこのままでは使い物にならないし、腕を伝って来た衝撃は腕の筋骨を粉砕されたのでは無いかという程の物だった。電車道を作りながら数十メートルは吹き飛ばされ、その一撃に唖然とする。

 い、いくら何でも無法が過ぎますよね……? ちらとイザベラの方を伺うとなんかしたり顔で頷いている、お前のそれはどういう感情なんだよ! ダンプカーか何かに轢かれたんかと思ったぞお前。しかし槍がこんなままではまるで使い物にならん、くの字に曲がった槍へ逆方向に力を加えて形だけは元通りにしておく。

 

「流石はバルトだね、全力だったのに防がれちゃうなんて」

(これを俺がちゃんと防げたと思ってんならリハクどころの節穴じゃねぇぞお前)

「槍が壊れちゃった時はどうなるかと思ったけど、大丈夫そうだね」

 

 いやこれ形整えただけでもうヘニャンヘニャンなんよ。一応本気でお互いを傷つけ合おうって場では無いからただの鉄棒でも問題はないが、この槍は磨き直したとしてもうまともに物が突けまい。

 イザベラはそれ以上に言葉を発する事はなく、再び一陣の風となって突撃してくる。その動きは洗練されているし速度も力量も遥かに俺を超えている。だがクライス先生の指導で太刀筋が確立された分、二度目も同じように振るってくるのであれば対処は容易い……訳ねぇだろうが!

 

「フン……ッ!!」

「や、ああっ!?」

 

 ここだ、と思ったタイミングでイザベラの剣を見切った、なんて訳でもないお願いパリィ。俺の脳天目掛けて振り下ろされる剣、その側面を石突を使って全力で跳ね飛ばす。これ直撃したら刃ないから斬れないとはいえ普通に死ぬんじゃないか? 剣をイザベラの手から弾け飛ばせれば御の字だったが、彼女の腕力も相まってその軌道を変えるのが精一杯。身体の左側面を掠めるように剣が振り下ろされ、ゴッッと音を立てながら地が割れた。こんなん当たったら死ぬやん。

 だが隙は隙だ。槍をグルンと一回転させてその穂先をイザベラへと突きつけ……ようとした瞬間に彼女は得物を抱えるようにしながらローリング。槍の射程外へと一気に抜け出すとトンッと跳ねて体勢を整えた。

 

「楽しいね」

(楽しくない)

「……行くよ」

(来ないで)

 

 イザベラは駆けない。距離を詰めるのに必要な歩数は一歩、水平に跳躍するように近寄ってくるのだ。スピードの速い物ほどぶつかった時の衝撃が大きい事は言うまでもないが、イザベラは単に速いだけではなく重々しい破壊力までもを備えている。はいクソー、二度とやらんわこんなクソゲー。

 銀の残光が襲い来る。右、斜め、下、左と流れるような動きで繰り出される剣戟はまるで舞のようにさえ見えるというのに、軽々しく放たれるそれらは巌のごとく重い。一手一手を全力で潰しに掛からなければ力負けしてそのまま潰されてしまう。

 だが当然そんな全力疾走を続けていれば息が切れるし、目元も霞んでくる。だが苦しみに喘ぐような防戦に徹し続ける内に一瞬、イザベラの体勢が悪くなった。彼女の身体能力は驚異的だ、仮に爆走するジェットコースターの上に仁王立ちさせたって彼女自身の体幹は大木のように揺らがないだろう。だがその足腰を支える地面の方は別だ。

 

「えっ?!」

「シッ!!」

 

 受け流すように力を逃しながら受けている俺と違い、イザベラは大地を踏み締めながら渾身の一撃を乱打してくる。そうする内に彼女が立っている地面は耕されたようになっていた。

 崩れたイザベラの胴に目掛けて蹴りを放つ。硬い鉄塊のような感触が爪先から伝わってくるが、どうにかそれを押し除けるように足を振り抜いた。勢いよく飛んでいったイザベラだが……あの到底人体から感じたとは思えない感触、まともにダメージが入ったとは思えない。

 イザベラがどうやったら満足してこの遊びを終わらせてくれるかはわからないが、彼女の口振りからして……俺に着いてくると自分が足手纏いになるのだと思わせるくらいに、イザベラを打ち負かさなければならないようだ。

 

「あはっ、流石だね……やっぱり凄いよバルトは」

「諦めはつくか」

「ううん、まだまだ行けるよ」

 

 イザベラは歓喜に打ち震えるような、恍惚とした顔で俺を見つめている。美少女がやるそういう顔ちょっとエッジランナーズだからやめて欲しい。それが俺に向けたものだと勘違いしそうになる。

 パンパンと服についた砂を払い落とすと直線的な攻撃はもう通じないと判断したのか、スピードに頼らずジリジリと距離を詰めだすイザベラ。身体能力も動体視力も上回ってるやつが後出しジャンケンしようとしてきたら絶対に勝てないからやめてくれる? 格下相手だと思って戦うんなら付け入る隙とかありそうなのに、こいつなんか俺の事やたらと過大評価してるせいでそういう気配がまるで無い。

 ならこっちから隙を見せて誘い込む、なんてのは論外だ。そんな目に見える形で隙っぽいの作ったら、本当に隙であることにされてぶちのめされる。ってなると、ウム……もう剣戟じゃ勝ち目が無いんだなァ。

 イザベラが槍の射程に入る。だが俺が仕掛けた瞬間には終わるだろう、だから待つしかない。槍のリーチの長さを活かせないなんてどういう了見だよ。そうして待って……イザベラの剣が届く距離にまで接近された。だがまだイザベラは手にした剣を振るおうとはしない。號奪戦の間合いですよ。

 

「…………」

「動かないね。バルトとおんなじ事を考えてるって思うと、なんか嬉しくなっちゃうなぁ」

 

 まるで世間話をするかのような気軽さでイザベラが声を掛けてくる。しかしその瞳は爛々と輝き、今にも獲物に飛び掛からんとする猛獣のようだった。無視したまえ。

 

「でも、バルトはどうするつもりなのかな。こんなに近いと私の剣の方が先に当たっちゃうと思うけど……こんな風に!」

 

 抜剣は見えない、が彼女がそれらしく身じろぎでもした瞬間に動く事は決めていた。携えていた剣がほぼノーモーションで抜き放たれる、どう飛び退いたとしても回避は不可能であろうそれを……

 

「っ、えぇっ?!」

 

 手足や肩、頭部に集約させていた魔力を一斉に放出し、ドヒャアと音を立てながら瞬間移動じみた速度で後退する。放出された魔力に当てられ、そしてあり得ない挙動での回避に面食らったイザベラは間の抜けた声を発した。魔力は現象を引き起こすだけでなく、純粋なエネルギーとしても活用出来る。ここ暫くの鍛錬は魔力を用いたQBを習熟する事に費やしており、実戦形式で用いるのは初めてだが上手くいったようだ。

 だが反動が凄まじい。全身に急激に横向きのGが掛かった事もそうだが、本来の人体では想定されていない挙動を取った事により節々が酷く軋んでいる。胃袋から、昼食が逆流する!

 

「そ、こ……だっ!」

「ま、まだだよっ!!」

 

 だがイザベラに負けたらそこはかとなく大変な事になりそうな気がする。着いて来られたら俺のメンタルが持たないしそうじゃないにしろ、この機を逃さず畳み掛けるしか無い。歯を食い縛りながらもう一度魔力QBでかっ飛びイザベラを急襲する。会心の手応えがあった突きは呆気なく払われたが、彼女の顔にも焦りが浮かんでいた。

 左右にブレながら、後退して突撃、鍔迫り合って押し切り、ありとあらゆる攻め方で猛攻を仕掛ける。こうなって気づいた事だが、イザベラは本人のスペックが圧倒的に高いが故に、攻められるという状況にあまりに不向きだったようだ。身体能力でカバーだけは出来るものの、徐々に動きに無駄が増えて来ている。

 

「やっぱり! やっぱり凄いよバルトは! こんなの初めて……まだ終わりにしたくない!」

「イ、ザベラアッ!」

 

 反面俺も全身ズタボロだ。明日は全身筋肉痛で済めば御の字だろう、魔法を行使している扱いになるのか知恵熱も頭を湯立たせてきた。だがほんの少しばかり、俺もこの状況が楽しくなってきたように思える。熱に浮かされているのか、それとも……

 

「う、ああっ……!?」

「だああっ!!」

 

 スピードを追えなくなってきたのか、イザベラが片膝をついた。俺もこれ以上やり続けたら身体がヅダる。これまでにないほどわかりやすい勝機、ここで槍を突きつけてやれば彼女も負けを認める筈だ。俺は決着をつける為に、イザベラはまだこの戦いを終わらせない為に得物を振った。そして剣と槍が衝突し……いや押し切らせろやっ!!

 

「ぐ、っうううううううう!!!」

(はよ……はよ終わって……)

 

 ギリギリと鉄が捩れ狂う音を立てながら、イザベラが横向きに構えた剣で槍を押し留める。体勢的にはこっちの方が有利な筈なのに、それどころか海老反りで踏ん張りも効いていないだろう彼女にどんどん押し返されそうになっている。この華奢な身体の何処からその筋力が出てるのか一回論理的に説明してくれよぉ!

 奥歯が噛み砕けそうな程に力が籠もったところで、何処か近くからピシリと嫌な音がする。それはイザベラも同様に感じ取ったようだが、聞こえた時には遅かったらしい。激戦の中で鉄製の槍と剣、その耐久力は限界を迎えていたようだった。

 

「え……」

「お、っっ、とぉおお!?」

 

 深い音を立てながら同時にへし折れる互いの得物。力の作用点を失い、俺はイザベラにタックルするような形で倒れ込んでしまう。イザベラも剣が壊れた衝撃で完全にバランスを崩したのか、同じように……

 

「ひぃ……ゃぁ、バル、ト……」

 

 潤んだ瞳、上気した顔が俺を見上げていた。見上げていた、というか近い。なんで近いのかって言えば、それは俺がイザベラの事を押し倒したような体勢になっているからで、こうして彼女の身体にダイブするような……

 

「……でも、これって」

「すまんすまんすまん待って待って退くから」

 

 大慌てで彼女の上から跳ねるように退き、その直後イザベラの腕がスカッと空を切る。その光景は何か、テレビの仰天映像だかで見たハエトリソウが獲物を捕らえる瞬間を連想させた。イザベラが何をするつもりだったのか、なんてカマトトぶるつもりはない。

 口惜しそうに目を細めたイザベラだったが、気を取り直して立ち上がるとひしゃげて壊れた二つの鉄塊に目を向けた。借り物だったろうに、俺が使ったのもあるとはいえ壊してしまうとは……彼女の顔色は先程とは打って変わってサーッと青くなっていった。ぶっちゃけ槍に関しては最初にひん曲がった時点で手遅れだった気がしなくもなかったが。

 

「……どうする、続けるのか」

「えっ?! あっ、やぁその……えっと、あの」

「……一緒に謝りに行ってやるから、な」

「う、うん……ありがとう、バルト」

 

 あくまでこれは互いを叩きのめし合う喧嘩じゃない。イザベラが出立する俺に対して自分を見せつける証明であり、俺は拒絶すべくそれに応じた。あの時と持っているものは違っても、突き詰めればチャンバラのごっこ遊びである事には変わらない。どうにも締まらない感じはするが、二度目の彼女とのタイマンはこれでおしまいとなった。死ぬほど疲れた。

 

 

 

 

 

 この戦い、もしあの時武器が壊れていなければどうなったかとクライス先生の家に行く最中話し合った。俺としては心身の限界が近い反面、イザベラはただ姿勢を悪くしていっただけで体力、元気共に一杯。最後に力勝負になった時点で負けていた、そう思っていたがイザベラにとってはそうではないらしい。

 

「途中からバルトがすっごく速くなったの、あんまり目で追い切れなかった」

(あんまり)

 

 勝敗、という話からは少しズレていくが、今回イザベラがこの勝負を仕掛けて来た理由は俺の旅について行きたいから、或いはそれを辞めさせたいからである。自分に負けるようなのであってしまえば、勘違いしているだけだが魔王なんて存在を倒すのは夢のまた夢。そして自分が荷物にならないだけの力があると俺に認めてもらえれば……そういった思惑だったようだが、しょんぼりとした顔の彼女はこう語った

 

「そうやって考えるとね、普段バルトってどっちかと言うと炎とか黄色いキラキラとか、魔法の方を頑張って練習してたなーって思って。そう考えたら……私とバルトの差って、縮まったようでまだまだ大きいんだなーって思っ、どうしたのその顔?」

 

 痘痕もえくぼと言うつもりか、俺が瀕死の様相を晒しているのは気にも止めずにそんな事を抜かしてくる。鈍感系って枕詞が付くなら俺の方じゃなくてイザベラの方だよな? バルト君全肯定マシーンとなってしまっている彼女をどうするのも面倒なので、その後は黙りこくってクライス先生の元へと向かった。

 

「ねぇバルト」

「……」

「私ね、バルトに会えて良かったと思ってるよ。もしバルトがいなかったら……自分らしさを捨てちゃってたと思うから」

「……そうか」

 

 日の暮れだした森の中を歩いて行く。明日になれば、もうイザベラと会う事は無いだろう。両親宛に手紙と稼ぎを送ったりはするだろうが、もうこの村へと戻ってくるつもりもないのだ。イザベラは俺の事を探すかもしれないが、このネットも何も無いヤーラカムで何処にいるともしれない個人を見つけだすなど不可能に近い。そう思うと……やっぱり少しだけ、いやかなり……めちゃくちゃ寂しい気はする。

 

「この村は」

「え?」

「俺の魂の場所じゃない。じゃないが……俺も、イザベラに会えて良かったと思ってる」

 

 この世界に転生した当初、人と深く関わり合いにならなければ別れる時に辛い想いをせずに済むと思っていた。だがイザベラの存在がそうはさせなかった。何かにつけて俺に絡んで来ようとくる、可愛い女の子だったからかはわからないが、中途半端にしか拒めなくて……この様だ。

 

「そっかぁ……そっ、かぁ……!」

 

 イザベラの声が震える。俺は振り向かないまま足を進めた、きっと彼女の顔を今見てしまったら、折れてしまうと思ったから。




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