「私たちも同行させてくれ!!」
弔いの宴の2日後、アークエンジェルの点検、整備、弾薬物資の補充を終え、明日にアフリカを発とうとするマリュー達の前に、キサカを連れて現れたカガリはそう言い放った
これを断るのは当然規律に厳しいナタルだ
「何をバカな…この艦は現在、アラスカのジョシュアに向かうという重大な任務の遂行途中なのだ。無関係な人物を乗せるわけにはいかん!」
「アラスカまで着いて行くわけじゃないさ。それに、この辺の情勢なら私たちの方が遥かに詳しいし、補給の問題の解決にも心当たりがある。航海を確実にするための助けになると思うぞ?」
「ダメなものはダメだ!!」
メリットを提示するも、ナタルは断固として譲らなかった。2人のそんな言い争いを見てどうすべきか判断に迷うマリューが振り向けば、ムウはお手上げと言わんばかりに手を横に首を振る
そしてもう1人はと言うと、声を荒らげているナタルの後ろまで近寄ると、よく通った声で言う
「その辺にしときな、バジルールの姉ちゃん」
「ッ、ビアッジ少佐…」
「その2人を連れて行くことに関してだが、俺は賛成だぜ」
「なっ…!?」
驚愕するナタルを他所に、ゲイリーはカガリとキサカを見ながら言う
「そこの嬢ちゃんの言うように、俺たちはこの辺の情勢に疎い。ただでさえ補給も満足に出来てねえ状況なのに、情報まで不足してちゃあザフトに良いようにしてやられるぜ?アラスカまでのルートにはザフトの制海圏もある。嬢ちゃんの言う補給のツテ…当てにしていいんだよな?」
「ッ……ああ、私が絶対にさせてやる」
「カガリ…!」
「良いだろうキサカ!このままじゃ私たち、ただの恩知らずだぞ!」
「しかし…」
それでも言い淀むキサカを他所に、カガリはマリュー、ムウ、ナタルの3人に頼み込む
「お願いだ!!私に出来ることなら何だってする!だから連れて行ってくれ!」
「…………」
そんなカガリの必死の姿を見てどう思ったのか。マリューは軽くため息を吐いてから決断する
「…分かりました。私の責任で、貴方たちのこの艦への同行を許可します」
「本当か!?」
「艦長!よろしいのですか!?」
「もちろん良くないわ…でも、そんな事を言ったらキリがない事を私たちは何度もやってるでしょう?だったら使えるものは全部使ってでもアラスカにアークエンジェルとストライクを届けるのが使命だと私は思うわ」
「う……」
痛いところを突かれてナタルは唸る。自分が他でもない
そんな中、ムウがマリューの肩に手を置く
「固いこと言うなよ艦長殿。何かあれば俺たちだって責任を取る。自分ばっか重荷を背負う必要はないぜ?」
「…そう…ありがとう。でも、
「うええ!?」
咄嗟に手を除けたムウを見てブリッジに笑い声が響く
これだ。この空気が自分には耐えられない。自分達は軍人、規律を重んじる組織の人間なのだから、模範となるべき行動と態度を取るべきなのに…
(私と
副艦長は誰も見てない中、静かに目を伏せた
ところ変わってMSデッキ…
ヘリオポリス学生組とサボり目的の整備班の若い人間数人は、固唾を呑んでレイダーとバクゥの2機を交互に見つめていた。ラクスは静かに微笑みながら見ている
更に経つこと数分。レイダーから欠伸をしながらクロトが、バクゥから額に汗を滲ませながらフレイが出てくる
「もおおお!!ディン以上にビュンビュンビュンビュン飛び回ってぇー!鬱陶しいのよぉ!!」
『あー……』
その言葉で、何より2人の対比で観客全員が悟った。フレイはクロトに完膚なきまでに負けてしまったのだと
「あ〜、かったるかったぁ。早く部屋でゲームでもしよ」
「余裕ぶっこいでんじゃないわよっ!こっちがエールストライクに乗れてればアンタなんか!」
「犬ッコロで走り回ってる方が、1番良い的になると思うけどぉ?」
「キィィィィィィ!!」
舐め切った態度で煽るクロトに、もはやヒスってるというより完全に癇癪を起こした子供といった感じのフレイだが、そのやり取りを見ていたミリアリアは逆に安心していた
父親が死んでからのフレイは、ひたすら怒りを燃やし続けていた。コーディネイターへの憎しみも強く、キラはトール達と友達だったから避けていたのかもしれないが、コーディネイターは敵味方問わず…それこそアークエンジェルで保護してるラクスに対しては直接殴った位なのだ(直前にそのラクスに叩かれたのも原因だろうが)
しかし…
「お疲れ様でしたフレイ」
「ありがと…ビアッジ少佐程じゃないけどめちゃくちゃよアイツ。なんであれでナチュラルなのよあの2人…!」
「フレイも頑張れば出来ると思います…おそらく」
「不安げに言わないでよ!」
あの後に何があったのかは知らないが、2人は明らかに仲良くなっていた。それも、互いに気兼ねなく話し合える親友レベルまで、一気に
(妬いちゃうわね……)
自分はサイを通して、それもそれなりの時間をかけて今の関係を築いたというのに、2人の距離は自分達より、それこそ元婚約者であるサイ以上に縮まっていた。そのサイも営倉から出されたものの、どこかフレイを避けている様子だった
もはやフレイの大切な人間の中に自分達は入ってないのではないか?そんな事を考えて、寂しさを感じるミリアリア
それと更に、ミリアリア達には不安なことがあった
(クロトさん…)
視線の先には、我先にその場から退散しようとするクロト・ブエル…その首元に付けられた、大仰で無骨な
『爆弾!?』
『おうよ。クロトの奴は俺の雇い主であるムルタ・アズラエル殿の子飼いの兵士なんだが、実力はある分、忠誠心とかが欠片もなくてなぁ…モビルスーツに乗って脱走されても困るってんで、遠隔起爆できる首輪をコイツにつけてるってわけだ』
『そんな事が許されると思っているのですかビアッジ少佐!?こんな、子供を無理やり脅して戦わせるなど!』
『お前さんらにそれを言う資格はねえぜ。ストライクの坊主を脅して無理やり戦わせて、歌姫さんを人質にとったお前さんらにはなぁ』
『………!!』
『それにこいつぁアズラエル殿の私兵だ。彼がそうすべきと判断したことを俺らがどうこう言うのは筋違いであり、そもそもンな事をする権限が俺にはない…違うか?』
『しかし…しかし…!』
『それが嫌なら、せいぜいコイツに脱走されるようなことをしないこったな。行くぜ、クロト』
『相変わらず嫌味ったらしいねぇアリ『おい』……ゲイリーのオッサンはさあ』
1つはクロト・ブエル少尉の存在。最低限の礼儀はあるが、常にぶっきらぼうで態度も悪く、ビアッジ少佐からの指示でなければ常に部屋でゲームをしてるか寝ている問題児
しかし首輪につけられた…食事の時もシャワーの時も、寝ている時ですら外すことが出来ない爆弾があるからか、キラ以上に扱いが難しいらしく、あのバジルール中尉ですら強気に注意することが出来ていないほどだ
もう1つはサイ。懲罰が終了し営倉から出られはしたものの、フレイとキラに対してやけによそよそしいのだ。これにより学生組の雰囲気が多少悪くなっている
そして最後に…キラ
砂漠の虎を討ち取った後から、急激に元気を無くしている。活力がない、という方が適切かもしれない。同時に、フレイに対してもどこか避けている節がある。それどころか、フレイもどこかキラに煮え切らない態度をとっていて、キラとフレイとサイの3人がおかしな関係になっていると言ったところか
キラはフレイに特別な感情を抱いているとトールから聞いた事があるミリアリアは、痴情のもつれの類かと勘繰りつつも、その関係性の正体を明かせずにいた
(私の勘違いならいいんだけど…)
サボっていた部下達に怒声を飛ばすマードックを尻目に、ミリアリアは心の中で祈るのだった
キラは罪悪感を、フレイは疑心を、サイは嫉妬を
あまりにも複雑な感情の糸は雁字搦めにもつれ合う
そして、それを裏から愉快に眺めている男の企みに気づく者はまだ居ない…