◉セルリアンだらけ
サンドスターという謎の物質の力によってヒトのような姿となった動物達…通称フレンズは、ジャパリパークという巨大な島のあちこちで楽しく暮らしていた。
そんなある日、突然フレンズから野生解放が失われた。そしてその日を境に、各地で大型セルリアンがよく目撃されるようになった。
ここはそんなパークのエリアのひとつサバンナ。
短い草に覆われたオレンジ色の広大な大地には、所々に大きな木が生えている。一見乾燥した過酷な土地にも見えるが、少し離れた所を見てみると、点在する泉の周辺には草木が青々と生い茂っていて、その向こうには森が広がっている。
このように場所によって多様な環境を見せるサバンナでは、沢山のフレンズ達が暮らしていたのだが、最近はめっきり少なくなっていた。
ここでは特にセルリアンの問題が深刻化していて、フレンズ達の生きる場所は日に日に脅かされていた。
かつてはフレンズ達で賑わっていた広場も、今聞こえるのは風の音と草木のざわめきだけだった。しかしそんな中、突然大きな悲鳴が響き渡った。
?「うわぁーーー!!!」
そちらを見ると、青色の子が見上げるほどの大きさのセルリアンに追いかけられている。そいつはデジカメに球形の関節が連なった三脚をくっつけたような姿をしていて、レンズの部分には巨大な一つ目がついている。
その子は必死に走っていたが、セルリアンの足の方が速い。徐々にその差は縮まっていった。
するとその子の前に細長い溝が現れた。その子はそれを飛び越えると、今度はジグザグに逃げ始めた。そしてセルリアンが溝を乗り越えて一歩踏み出した瞬間、ズズンッという音と共にその足が地面に埋まった。
するとその子は振り向き、声を上げた。
キュルル「よし、うまくいったよ!」
この子の名はキュルル。
青い羽のついた水色の帽子を被り、黒いインナーの上に青いベストジャケットを羽織り、下は裾を捲った淡いグレーの長ズボンに水色の靴を履いていて、水色のショルダーバッグを肩に下げている。
この子はただ闇雲に逃げていたのではなかった。事前に溝の向こうに用意してあった落とし穴に、うまくセルリアンを誘導したのだ。
そしてキュルルの声を合図に、セルリアンの背後から、朱色と金色の2人のフレンズが同時に飛びかかった。
2人は手に力を込め、けものプラズムを集中させた。するとその手が輝きに包まれた。
朱色の子「エリアルループクロー!」
金色の子「烈風のサバンナクロー!」
そして2人は、セルリアンの石めがけて全く同じタイミングで爪を閃かせた。
2人「サバンナX(クロス)ッ‼︎」
2人の輝きが交差し、X字の巨大な斬撃が石に叩き込まれた。その強烈な一撃により、石は粉々に砕け散った。
セルリアン「グアオォォォーッ‼︎」
そして大きな叫び声と共にセルリアンの体が弾け飛び、キラキラしたかけらがあたりに散らばった。
そしてキュルルが2人に駆け寄ってきた。
キュルル「やったあ!ありがとうカラカル、サーバル!」
しかし朱色の子…カラカルは、唇を震わせながら黙っていた。その子はつり目で外ハネのロングヘアー、前髪には2つの黒い模様があって、大きな耳の先にはふさふさとした毛が生えている。
服装は袖のない白いシャツと長い手袋、首には蝶ネクタイのついた襟巻き、下はスカートとニーソックス、そしてお尻からひょろんと長い尻尾が生えている。
それに気付いたキュルルは、不安そうにカラカルを見つめた。
キュルル「大丈夫?どこか怪我しちゃったの⁉︎」
するとカラカルは、泣きそうな顔をしながらキュルルに抱きついた。
カラカル「心配したんだから!セルリアン相手に無茶しないで!」
そして金色の子、サーバルもこう言った。
サーバル「びっくりしたよ!まさか急に1人で飛び出すなんて!」
この子は丸っこい目とボブカット、前髪にはMのような模様があり、これまた大きな耳をしている。服装はカラカルと同じようなものだが、白いシャツのほかはどれも金色地に斑点模様が付いていて、縞模様のあるふっくらした尻尾をしている。そして胸には、一枚の赤い羽が揺れていた。
キュルルはカラカルに抱きしめられながら、申し訳なさそうな顔をした。
キュルル「ごめんね、僕のせいで2人が危ない目にあって欲しくなかったんだ。」
何があったのかというと…。
先程3人が森を歩いていると、カラカルとサーバルの耳に、大きなセルリアンの足音が聞こえた。慌てて近くの茂みに身を隠すと、はたしてデジカメ型の大型セルリアンがやってきた。
3人が息を潜めていると、きゅるるるるっ、と小さな音がした。
キュルルの名前の由来となった腹の音だ。それを聞いてデジカメ型がピタリと動きを止めた瞬間、キュルルは茂みを飛び出して、溝へ向かって一直線に走り出したのだ。
どうにか気持ちが落ち着いたところで、カラカルはキュルルを離した。
カラカル「アンタは爪も牙もないんだから、戦いはあたし達に任せなさい。あーあ、野生解放が使えたら、あれくらいのセルリアン、1人で倒せるのになー。」
瞬間的にフレンズの力を上昇させる野生解放は、対セルリアンの切り札として、かつては多くのフレンズが使うことができた。しかしある日を境に、突然使うことができなくなってしまったn。
それを補うため、一部のフレンズは複数でセルリアンに立ち向かうようになった。しかし本当に息の合った攻撃というのはなかなか難しく、今サバンナで大型セルリアンと戦えるのは、この2人だけだった。
サーバル「野生解放ってどんな気持ちなんだろう、やってみたかったなー!」
カラカル「そういえば、アンタがフレンズになったのは、みんなが野生解放できなくなってからだったわね。」
サーバル「うん!でもいいの、こうして大親友のカラカルと一緒に、誰かを守る事ができるんだもん!どんなセルリアンだって、2人で戦えばやっつけちゃうよ!」
それを聞いて、カラカルは顔を赤らめながらうつむいた。
カラカル「…まあ、ヌシには敵わないけどね。」
1週間ほど前に突如現れた、大型セルリアンよりも一回り大きな巨大セルリアン…、通称“ヌシ”に、2人は歯が立たなかった。どれだけ爪を叩き込んでも、傷ひとつつけられなかったのだ。幸いすぐどこかへ消えてしまったが、フレンズ達に恐怖を植え付けるには十分だった。
それから他のちほーへ引っ越すフレンズが一気に増え、今ここで暮らしている子は、数えるほどしかいなくなっていた。
それを聞いたキュルルがこうつぶやいた。
キュルル「ビーストが来てくれたらなぁ…。」
だがその言葉を聞いた途端、カラカルがムッとなった。
カラカル「またそれ⁉︎アンタはもう毎日毎日…、あんな乱暴者のどこがいいのよ⁉︎」
キュルル「だって、どんなセルリアンでも一瞬で倒しちゃうとっても強いフレンズだ、ってパーク中で噂になってるんでしょ?その子が来てくれたら、きっとヌシだってイチコロだよ!そしたらカラカルもサーバルも、ここで安心して暮らせるじゃない。」
しかしカラカルはかぶりを振った。
カラカル「あたしもはじめは、その子に会ってみたいなぁって思ってた。けど、フレンズにも見境なく襲いかかるようなやつって聞いて怖くなったの。安心してキュルル、そいつがいなくても、あたしとサーバルは大丈夫だから。」
そう言って、カラカルはキュルルの頭をポンポンと叩いた。
サーバルはその様子を黙って見守っていたが、それはカラカルの強がりである事は分かっていた。すでに2人がどんなに頑張ってもどうしようもないくらい、ここサバンナではセルリアンの脅威が大きくなっていたのだ。
しかしサーバルは、明るい表情をキュルルに向けた。
サーバル「それじゃ、そろそろご飯にしようよ。」
キュルル「そうだね。ここは見晴らしがいいけどセルリアンに見つかりやすくもあるから…、やっぱりいつもの所で食べようよ。」
サーバル「さんせーい!あの2人も心配だしねっ!」
そう言うとサーバルは、先頭に立って歩き始めた。
キュルル「あ!そっちは…。」
キュルルは慌てて止めようとしたが遅かった。
ズボッ!
サーバル「うみゃーーー!!?」
叫び声と共に突然サーバルの姿が消えた。そそっかしい彼女は、キュルルの落とし穴にうっかりはまってしまったのだった。
カラカルとキュルルは大急ぎで穴へと駆け寄った。
カラカル「サーバル⁉︎」
キュルル「しっかり、すぐ引っ張り上げるから!」
◉アンタ誰?
3人は森の中に建っている、白い建物に向かって歩いていた。先頭を歩くキュルルの背中を見ながら、カラカルは彼と出会ってからの事を思い返していた。
カラカル『…いつの間にか、ずいぶんたくましくなったわね。この森で初めて会った時は、あんなに震えてたのに…。』
あれはヌシが現れた数日後の事だった。いつものようにサーバルと手分けして見回りをしていると、見慣れない子が森の中をビクビクしながらさまよっていたのだ。
カラカルは、茂みに隠れながらその様子をうかがった。
カラカル『セルリアン…には見えないわね。新しく生まれたフレンズかしら?』
試しに茂みをガサガサしてみると、その子は驚きのあまり飛び上がった後、恐る恐る振り返った。その隙に、カラカルはその子の前に回り込んで声をかけた。
カラカル「…アンタ、なんのフレンズなの?」
?「うわぁぁぁ!!!」
するとその子は驚いて、大きな悲鳴をあげて腰を抜かした。
パッと見その子の頭には、フレンズなら誰しも持っているはずの耳や角がない。一枚だけついている羽では、到底飛べるとは思えない。さらによく見てみると、顔の両脇に、丸い形の耳がちょこんと生えていた。そしてヒョロヒョロの小さな体には、爪も牙も尻尾もない。
カラカル「弱そう…。ねえ、なんでこんなトコにいるのか知らないけど、さっさとここから出たほうがいいわ。でないと…。」
これ以上怖がらせないようやんわりと話しかけたのだが、その子は全身をガタガタと震わせながら、ボロボロ涙を流している。口をパクパクさせているが、どうやらうまく言葉が出てこないようだ。
カラカル「ちょっと、聞いてるの⁉︎」
ここでカラカルは、その子が自分の後ろを見ている事に気づいた。そして背後から、ブオンッと風を切る音がした。
カラカル「!!!」
カラカルはとっさにその子の手を掴むと、一目散に駆け出した。
ズドォォォン!
するとついさっきまで2人がいた所に、巨大な腕が振り下ろされた。その一撃で地面がえぐれ、周りの木が吹き飛んだ。
カラカルはその子の手を掴んだまま、森の出口へ向かって必死に走り続けた。その子は喘ぎながらも、なんとか声を絞り出した。
?「何…あれ…?」
カラカル「知らないの?セルリアン!捕まったら食べられちゃうのよ‼︎」
?「食べ…⁉︎」
そしてようやく2人は森を抜けた。すると目の前に、大きな木がズシンッと落ちてきた。
カラカル「くっ…!」
振り返ると、球形の体を3本の太い腕で支えたような形をした大型セルリアンが、体の真ん中にある巨大な目をギロギロさせながら凄い勢いで迫ってきていた。
こうなったらもう戦うしかない…!カラカルはその子を庇うように立ちはだかると、キッとセルリアンを睨みつけた。一方怯えきっていたその子は、目を潤ませながら叫んだ。
?「たっ、食べないでーっ!」
すると上空から誰かの声がした。
サーバル「食べさせないよっ!」
キュルルが思わずハッと顔を上げると、金色のフレンズ…、サーバルが爪を構えながら空から急降下してきて、セルリアンの背中の石に強烈な一撃を加えた。
ピシッ!
それにより石にヒビが入ったが、セルリアンはグンっと腕を伸ばして体をのけぞらせ、サーバルを弾き飛ばした。
しかしそれを見たカラカルは、すかさずセルリアンの体の下へ潜り込むと、思い切り地面を蹴って、右の爪で渾身の一撃を叩き込んだ。
伸び上がっていた所を下から強く押し上げられたのだから堪らない。大きくバランスを崩したセルリアンは地面に転がって半回転し、背中の石をさらけ出した。
先程吹き飛ばされたサーバルは、一本の木に叩きつけられそうになっていたが、空中で何度も回転して体勢を整えると、その木の幹に着地した。そして幹を全力で蹴ると、セルリアンの石目掛けて一直線に向かっていった。
それを見て、カラカルもセルリアンに飛びかかった。
サーバル「いっくよーカラカル!」
カラカル「よーし、せーのっ!」
サーバル「烈風のサバンナクロー!」
カラカル「エリアルループクロー!」
掛け声と共に2人が同時に攻撃を繰り出すと、巨大なX字の斬撃がセルリアンの石を粉々に打ち砕いた。
セルリアン「ギョォォォォォッ!」
そして絶叫と共に、大型セルリアンは弾け飛んだ。
カラカル「ふうっ、手強かったわね。大丈夫、サーバル?」
サーバル「へーきへーき!遅れちゃってごめんね。…ところで、この子は誰?初めて見るよ。」
カラカル「森の中をウロウロしてたんだけど、何のフレンズか聞いても答えないのよ。」
見ると、その子は震えながらへたり込んでいた。2人はその子のところまでやってくると、自己紹介をした。
サーバル「はじめまして!私はサーバルキャットのサーバルだよ!君は何のフレンズなの?」
カラカル「カラカルよ。アンタ、セルリアンはやっつけたんだから、もう怖がらなくてもいいのよ?」
するとその子は立ち上がり、涙目ながらも興奮に身を震わせながら叫んだ。
?「2人とも、すっごくカッコよかったよ‼︎」
それから話を聞いてみると、その子は自分が誰なのかも、どこに住んでいたのかも分からないそうだった。
カラカル「動物だった時の記憶がない子は沢山いるけど、何のフレンズなのかも分かんないってのは珍しいわね。…にしても変わった格好ね。」
サーバル「頭になんにもないし、フードも被ってない…、もしかして君、ヒトなんじゃないかな。」
?「ヒト?」
カラカル「それって、アンタが昔一緒にいたっていうフレンズの事?」
サーバル「うん。その時の事はあんまり覚えていないんだけど、こんな格好だった気がするんだ。」
カラカル「ふーん。…この子はこう言ってるけど、どう?」
?「うん…、分かんないけど、そうかもしれない。」
カラカル「まあ、あんまり気にしなくても大丈夫よ。きっといつか分かるでしょうし。なにせこの子だって、分からない事いーっぱいあるのよ。」
サーバルは、過去の曖昧な記憶を持っていた。先程のヒトの事や胸に付けた赤い羽の事など、おぼろげなイメージはあるが、それ以上はどんなに頑張っても思い出せないのだという。
サーバル「そうそう。でも強くて速くて素敵な大親友と一緒にいられて、悩む事なんてないよ!」
カラカル「ちょっ…恥ずかしいからやめて!…けど、名前がないのは不便よね。」
?「僕、名前は…、」
きゅるるるるっ!
するとその子から変わった音がした。それを聞いたサーバルとカラカルがキョトンとした顔をしていると、その子は恥ずかしそうにお腹を押さえた。
サーバル「変わった鳴き声…、なら、キュルルちゃんでどうかな?」
カラカル「え…、ちょっと安直すぎない?」
?「僕は…、あの…。」
サーバル「よろしくね、キュルルちゃん!」
そう言って、サーバルはサッと右手を差し出した。
キュルル「よ、よろしくっ!」
そしてその子は戸惑いながらも、その手を両手でギュッと握り返した。
カラカル『受け入れたっ!アンタそれでいいの⁉︎』
きゅるるるる…。
するとまたキュルルから音がした。
サーバル「あはっ、やっぱりキュルルちゃんだ!」
キュルル「あう…、安心したらお腹が鳴っちゃって…。」
カラカル「お腹の音だったのね。じゃあご飯にしましょ。あたし達についてきて。」
そう言うとサーバルとカラカルは、キュルルを連れて歩き出した。
◉噂のあの子は怖〜いぞ!
3人は広々とした原っぱへとやってきた。そこには『パンのロバヤ』と書かれた看板が掲げられた薄暗緑色の移動販売車が止まっていて、周りには木製の椅子とテーブルが並べられている。
カラカル「ここでご飯が食べられるの。」
サーバル「こんにちはー!ロバー、いるー⁉︎」
すると車の陰から、長い耳をしたフレンズがひょっこり顔を出した。
ロバ「あ、どうもみなさん、お疲れ様ですー!」
この子はロバ。灰色の髪と女子学生服のような毛皮、頭には長い耳、ふさふさのポニーテールとブーツは黒、白いタイツをはいていて、お尻からは鞭のような尻尾が生えている。
彼女はここで、ジャパリまん、ジャパリコロネ、ジャパリチップス、ジャパリソーダなどさまざまな食料を提供していた。
かつては多くのフレンズの憩いの場であったのだが、今は閑散としている。
ロバ「どうぞ、いっぱい食べていって下さい。」
サーバル「いつもありがとう、ロバ。」
ロバ「いえいえ。おや、その子は誰ですか?」
カラカル「森の中を1人でウロウロしてたから連れてきたのよ。なんにも覚えていないらしくて、自分が何のフレンズかも分からないんだって。サーバルはヒトじゃないかって言ってるんだけど。」
ロバ「ふーむ…、私結構記憶力には自信があるのですが、こんな子を見るのは初めてですね。ですが、似たような格好をした方が、ジャングルで暮らしているって聞いた事があります。」
キュルル「ホントに⁉︎」
カラカル「相変わらず凄い情報通よね。」
ロバ「いえそんな。こうして沢山のフレンズさん達と接していると、自然と耳に入ってくるものですから。」
するとサーバルが、両手いっぱいに食べ物を抱えながらやってきた。
サーバル「難しい事は後にして、食べながら話そうよ!」
そして3人は席に着きご飯を食べた。キュルルはそれらを美味しそうに頬張っている。どうやら好き嫌いはないらしい。
その様子をロバは嬉しそうに眺めていたが、しだいに表情が曇っていった。
ロバ「あの…、私これから引っ越そうと思うんです。いつまたヌシが現れるかと思うと、怖くて眠れなくて…。」
サーバル「そっか…、今までありがとう、元気でね。」
ロバ「はい…。ああ、ビーストだけじゃなくセルリアンまで…、パークはどうなっちゃうんでしょう…。」
キュルル「ビースト?」
ロバ「あ、やはりご存知ないのですね。ちょうどみんなが野生解放できなくなって、セルリアンが多くなってきた頃に噂になり始めたフレンズです。フラッと現れて、どんなセルリアンでも一瞬で倒してしまう、ものすごく強い子らしいんです。」
それを聞いたキュルルは目を輝かせた。
キュルル「そうなの?凄い‼︎会ってみたいなぁ…、どんな子なの⁉︎」
ロバ「それが…、事が済んだらすぐ立ち去ってしまうし、お話しした子もいないので、よく分からないんです。どうやらオレンジ色で、大きな体をしているらしいのですが。」
キュルル「大きい体…、どれくらいだろう、おっきなセルリアンくらいかな?」
サーバル「あはっ、それならどんなセルリアンも怖くないね!」
カラカル「アンタ達ねぇ…、そんな目立つ子なら、見た目がよく分かんないなんてありえないでしょ!…それにある意味、セルリアンより危ないかもね。」
キュルル「え、どういう事?」
ロバ「ビーストはフレンズにも見境なく襲いかかる乱暴者だって噂もあるんです。もちろん噂ですから、いろいろと話が大きくなっている可能性もありますし、そもそも誰かの作り話で、本当はビーストなんていないのかもしれません。」
カラカル「これだけ長い間噂になってるんだから、いないって事はないでしょ。どれだけ強いかは分かんないけど、もしかしたら野生解放が使える特別な子なのかもしれないわ。」
キュルル「野生解放?特別?」
カラカル「野生解放ってのは、一時的にフレンズの力を引き上げる能力の事。前はたくさんのフレンズが使えたんだけど、ある日急に使えなくなったの。」
サーバル「特別っていうのは、その子にしかない力を持ってるって事だよ。キュルルちゃんにも、きっとすぐ見つかるよ!」
キュルル「僕だけの、力…。」
そう言われても、キュルルは半信半疑だった。自分は戦う事も跳ぶ事もできないし、ロバの様に記憶力が良いわけでもない。
するとカラカルが、片目をつむりながらこう言った。
カラカル「ビーストって聞いて、あんなに嬉しそうな顔したのはアンタが初めてよ。」
ロバ「ですね。この話を聞いた子は、大抵怖がるのですが。」
サーバル「きっとキュルルちゃんにとってビーストは、特別な子なんだね!」
そう言って3人が笑っているのを、キュルルはキョトンとしながら眺めていた。
食事が終わると、3人は旅立つロバを見送った。
ロバ「それではこれで。食料はこのまま置いてゆきますので、ご自由に食べて下さい。」
カラカル「悪いわね、ありがとう。じゃあ、気をつけてね。」
そしてみんなでさよならを言ってお別れをした。
ロバの姿が見えなくなった後、2人はキュルルにどこから来たのか聞いてみた。すると彼は、森の向こうの建物を指差しながら、「あそこ…。」と言った。
何かキュルルの手がかりが見つかるかもしれない。3人は森の奥にある、白くて大きな四角い建物へとやってきた。それは長い年月の間に外壁は煤けていて、窓もあちこちヒビが入ったり割れたりしている。また分厚い壁のいたるところに穴が空いていて、中の鉄筋がむき出しになっていた。
ギィィィィッ…
キュルルが大きな扉の細いドアノブを捻ると、軋んだ音と共に重たい扉が開いた。薄暗い部屋の中でまず目につくのは、頑丈そうな檻だった。掛けられたプレートには何か文字のような痕跡があるが、読み取ることはできない。その鉄格子の一部は、まるで内側からこじ開けられたかのようにグニャリと曲がっている。隣にはモニターや計器などが置かれているが、表示やランプなどは消えていて、何をするものだったのかは分からない。
もう一つは、ヒト1人が入れるくらいの大きさの黒くて丸いものだった。とても硬いものだが、何でできているのかは分からない。表面に大きな丸い穴が空いていて、破片が周りに散らばっている。中には四角いキラキラしたものがたくさん敷き詰められている。
なんでも、キュルルはこの中でずっと眠っていたらしい。そして怯えながら外に出て、カラカル達と出会ったのだという。
改めて声に出した事で心細くなったのだろう、しだいにキュルルの目から涙が溢れ始めた。
キュルル「…おうちに帰りたい。」
カラカル「おうち?そこから来たの?巣みたいなものかしら?」
サーバルがあたりを見回しながらこう言った。
サーバル「え?ここがキュルルちゃんのおうちじゃないの?」
キュルル「ううん…。僕のおうちは、もっと明るくて…、優しくて…、あったかかった…。」
それを聞いたサーバルとカラカルは、キュルルと一緒におうちを探してあげる事にした。しかし手がかりが何もない。
そこで球体の中をよく調べて見ると、キュルルの匂いのするものが見つかった。
それは水色のショルダーバッグだった。その中には水筒と沢山のペン、そしてスケッチブックが入っていた。キュルルによると、これは絵を描くものなのだそうだ。キュルルがページを1枚めくってみると、そこにはサーバル達が知っている場所の絵が描かれていた。
サーバル「それじゃあ、さっそくここにいってみよう!しゅっぱー…。」
カラカル「待ちなさいサーバル!」
サーバル「つっ⁉︎」
すぐさま駆け出そうとしたサーバルを、カラカルが引き止めた。
その視線の先には、サーバルの腰くらいの大きさの、羽のついたキノコのような形をしたセルリアンがいた。そいつは崩れた壁の隙間から、じっとこちらを見ている。
3人は身構えたが、なぜかセルリアンは建物の中に入ってこようとしない。そしてしばらくすると立ち去っていった。
キュルル「びっくりしたぁ…。」
サーバル「なんで入ってこなかったんだろう?私達に気づかなかったのかな?」
カラカル「あんだけじっと見ててそれはないわ。入りたくても入れないって感じだった。キュルルはここでずっと寝てたのに、よく襲われなかったわね。」
サーバル「もしかしてここ、セルリアンが入ってこれないんじゃないかな?」
カラカル「そんな夢みたいな事…、でも、ありうるかも…。」
そして3人は、用心しながら外へ出て歩き出した。しばらくして、変わった形をした石のある泉にたどり着いた。そこは確かに絵とそっくりな場所だったが、どうやらキュルルのおうちではないらしい。
それから一通りスケッチブックに描かれた絵を見てみたが、サーバル達が思い当たる場所はなかった。
サーバル「サバンナはとっても広くて私達が知らない場所もたっくさんあるから、明日また別の所に行ってみようよ。」
カラカル「そうね、一旦引き返しましょ。」
そしてあの建物の近くに差し掛かった時、一体の小さなセルリアンを見つけた。
カラカル「もう一度、あの建物で試してみましょ。うまくいかなくても、あれならすぐ倒せるわ。」
そしてそのセルリアンを建物まで誘導してみると、やはり入ってこなかった。どういう仕組みなのかは分からないが、どうやらここは安全な場所らしい。そこで3人はここを寝床とし、毎日少しずつサバンナ各地を回る事にした。
しかし絵に描かれた場所らしき所は見つからず、キュルルが何かを思い出すこともなかった。その間もセルリアンと戦ったりやり過ごしたりしたが、他のフレンズと出会う事はなかった。
こうして何日も一緒に過ごしているうちに、3人の意識は変わっていった。キュルルにとって、2人はとても頼りになるお友達(フレンズ)だった。特に何かと気にかけてくれるカラカルは、キュルルの中でとても大きな存在となっていった。
おうちが見つかったら、そこで3人仲良く平和に暮らしていけたらいいな、そんなふうに考えたりする事もあった。
そしてカラカルのキュルルに対する思いも変わっていった。キュルルは戦う事はできないが、2人が気が付かないような事を思いついたり見つけたりする。また思いやりがあって、いつも2人の助けになろうと努力していた。少々危なっかしいところもあるが、日に日にたくましくなってゆく彼に、いつしかカラカルは恋心を抱くようになった。
しかしそれとなくアプローチしてみても、キュルルの反応は今ひとつだった。おまけにしばしばビーストの事を口にする。
ヒトなら『他人の好意に鈍感なのも強いものに憧れるのも、子供だから仕方ない。』で片付ける所だが、成長の概念のないフレンズであるカラカルはヤキモキしていた。
一方サーバルは、そんな2人の様子をニコニコしながら見守っていた。
この小説は、終盤のクライマックスから書き始めました。書きたいところだけ書いて終わりだと思っていたのですが、書き足していたら一通りの流れができてきたので、それならと最初も書くことにしました。
書き始めた時はサバンナはもっと荒廃しているイメージだったので、パンのロバヤにロバはおらず、一人のラッキービーストがジャパリまんを配っているだけでした。
キュルルが眠っていた建物は、ゲームのセーブポイントのような役割を持たせました。