タイトル一覧
◉やっと会えた!
◉そのままでいて、君だけは
◉やっと会えた!
イエイヌのおうちの近くにあった施設で充電を済ませ、キュルル達はトラクターでホテルに向かった。
あたりが薄暗くなり始めた頃、夕暮れに照らされて大部分が海に沈んだホテルが見えてきた。岸には桟橋があり、緑色のラッキービーストが乗った大きな船と手漕ぎのボートが何隻か止まっていて、そばには小さな看板が立っている。それには“こぎかた”というかばんさんの文字と、オールの使い方を示した絵が書かれていた。
キュルル達は看板を見た後、ボートに乗り込んだ。サーバルとカラカルが、ボートに固定されたオールを見ながら首を傾げている。
サーバル「これ、なんだろう?」
カラカル「でっかいスプーン?」
2人がそれで水面をパシャパシャと叩くと、ボートが少し動いた。それを見たキュルルは、「こうやって使うんじゃないかな。」と言って、両手でオールを握って漕ぎ出した。するとボートがゆっくりと進み出した。
サーバル「すっごーい!」
カラカル「これなら濡れずにすみそうね。」
イエイヌ「あわわわわ、揺らさないでくださーい!」
ホテルに近付いて行くと、いたるところに赤い矢印が置かれていた。それをたどってゆくと、“非常口”と書かれた入り口が見えてきた。そこから中に入ると、上の階から歌声と歓声が聞こえてきた。どうやらもうライブは始まっているらしい。
廊下を歩いてゆくと広いロビーに出た。そこには3人のフレンズがいて、キュルル達に気がつくと歩み寄ってきた。そしてその中の一人の、大きな耳をした灰色のフレンズが話しかけてきた。
オオミミギツネ「ようこそ当ホテルへ!私は支配人のオオミミギツネ、こちらは従業員のハブさんとブタさんです。ライブはすでに始まっておりますので、お急ぎください。存分に楽しんでくださいね!」
ブタ「ネコさんにイヌさんに…、こちらはかばんさんと同じヒトさんでしょうか?」
ハブ「ちょうど、もうお客も来ないし、俺たちもライブ会場へ行こうって話してたんだ。一緒に行かないか?」
キュルル「ごめんなさい、実は聞いて欲しい事があって…。」
キュルルはパークの危機が迫っている事を伝えた。しかし3人は、信じられないという顔をした。
ハブ「で、具体的に何が起こるんだ?」
キュルル「それはっ…。」
キュルルが言い淀んでいると、後ろから声がした。
?「パークがセルリアンで埋め尽くされます!」
振り返ると、そこにはかばんさんと博士と助手、そしてアライさんとフェネックが立っていた。
それを聞いたオオミミギツネは、困惑しながらかばんさんにこう尋ねた。
オオミミギツネ「かばんさん、それは本当ですか⁉︎」
かばん「うん。このところ地震が頻発しているのはその始まりです。一刻も早くここから逃げてください!」
それを聞いたブタとハブは大慌てした。
ブタ「ちょ、ちょっと待ってください!」
ハブ「俺たち…いや支配人がこの日のためにどれだけ頑張ってきたか…!」
すると、2人を手で制しつつ、オオミミギツネがうつむきながら低い声で話し始めた。
オオミミギツネ「…この建物はとても頑丈です。これまでの地震でも、ひび一つ入っていません。それに、お客様の中にはハンターさん達もいます。そこらの巣より、ここは安全なのではないでしょうか…?せめてあと1日…いえライブが終わるまで、見逃して頂けませんか⁉︎」
そして3人は懇願の眼差しをかばんさんに送った。
それを見て、かばんさんがたじろいだ。代わりに博士がこう言った。
博士「仕方ないですね、ライブが終わったら、すぐに逃げるのですよ。」
3人「「「あ…、ありがとうございます!」」」
3人がよかったよかったと涙ぐんでいるのを、かばんさん達はじっと見つめていた。
サーバル「かばんさぁぁん‼︎」
そこへサーバルが、叫びながら飛びついてきた。不意を突かれたかばんさんは、サーバルと一緒にどでーん!と床に倒れた。
ラッキーさん「サーバル、タベチャダメダヨ。」
サーバルはかばんさんにすがりつきながら、ポロポロと涙をこぼしている。
サーバル「食べないよぉっ!かばんさん!かば…ぁあーん‼︎」
そしてわんわんと泣きはじめた。
かばんさんは、右手でサーバルの頭をそっと撫でた。
かばん「ごめんね、心配かけて。すぐ連絡しようと思ってたんだけど、いろいろあってできなかったんだ。」
そして、サーバルを慰めながら立ち上がった。そこへカラカルとキュルルが駆け寄ってきた。
カラカル「かばんさん!ホント、無事でよかった…。」
キュルル「無事だったんですね!よかった…。あの、僕かばんさんに聞きたいことがあるんです。」
かばん「いいよ。立ち話もなんだし、急で申し訳ないけどオオミミギツネさん、空いているお部屋があったら使わせてもらえないかな。」
オオミミギツネ「分かりました。それでは、一番広いお部屋にご案内致します。」
ブタ「どうぞどうぞ、こちらですよ。」
ハブ「へへ、中に入ったらぶったまげるぞ!」
3人に連れられて、キュルル達はとても広い部屋に案内された。そこはいたるところに豪華な装飾が施され、寝室には巨大なベッドが2つ並べられていて、全員で泊まってもまだ空きができそうだ。広いテーブルには大きなお皿にジャパリまんが山のように乗せられていて、ジャパリソーダなどの飲み物とグラスも用意されている。
サーバル「わぁー、広くてでっかーい!」
サーバルはベッドに飛び乗ると、ポンポンとジャンプし始めた。かばんさんに会えた事で、すっかり元気を取り戻したようだ。
カラカル「ちょっと、落ち着きなさいサーバル!」
イエイヌは興味深そうにポットを見ている。匂いや温度から察するに、中にはお湯が入っているようだ。
アライさんは、大はしゃぎしながら目を輝かせている。
アライさん「おおー、お宝の山なのだ!」
フェネック「盗っちゃ駄目だよ、アライさーん。」
オオミミギツネ「喜んでいただけたようでなによりです。」
ブタ「ゆっくりしていってくださいね。」
ハブ「これから俺たちはライブ会場へ行く。よかったらお前達も来てくれよな。ライブが終わって余韻が抜ける…、まあ夜明けまでには全員避難させるから安心してくれ。」
そう言うと3人は部屋から出ていった。
それから一行は床やベッドの上など、各々好きな場所に腰掛けてくつろいだ。サーバルは、ニコニコしながらかばんさんの隣にちょこんと座っている。
キュルルはこれまでの事をかばんさん達に話した後、こう尋ねた。
キュルル「あのメッセージなんですが、かばんさんはなんて言ったんですか?雑音だらけで聞き取れなくて。」
かばん「あれは“ホテルに向かうなら気をつけて、パークの危機が迫ってる!”って言ったんだけど、上手く伝わらなかったみたいだね。ちょっとキュルルさんのラッキービーストを見せてもらえる?」
キュルルが左腕ごと差し出すと、ラッキーさんがチカチカ光った後、こう言った。
ラッキーさん「ナニカ強イ衝撃ヲ受ケテ、上手ク話セナクナッテルネ。ソノホカハ問題ナイヨ。」
キュルル「もしかして、セルリアンに殴られた時かな?」
かばん「キュルルさんもいっぱい頑張ったね。後で研究所に来るといい、直してあげるから。」
キュルル「ありがとうございます!よかった…。」
サーバル「かばんさん、パークの危機って、どうしたらいいの?」
するとかばんさんは、一瞬顔を曇らせた。
アライさん「ホントは…モガッ!」
アライさんが口を滑らせそうだったので、すかさずフェネックがジャパリまんで口を塞いだ。
かばん「…さっきはああ言ったけど、本当のところ、いつ何が起こるのかは分からないんだ。」
博士「自分の巣や好きなもののそばで、じっとしていれば良いのです。」
助手「『住まいは気から』という言葉もあるのです。オオミミギツネの言葉通り、ここにとどまるというのも、有力な選択肢なのです。」
カラカル「なーんだ、じゃあゆっくりしてればいいんじゃない。」
そう言うと、カラカルはベッドにねっ転がった。
サーバルとイエイヌも安心した様子だったが、キュルルは違和感を感じていた。話の内容はどこかチグハグで、無理にこちらを安心させているような感じがするし、かばんさん達の態度もなんだかよそよそしい。
しかし疲労がどーんと押し寄せてきて、考えがまとまらなくなってきた。
かばん「疲れてるみたいだね、ゆっくり休むといい。私達は、せっかくだからライブを堪能してくるよ。」
そう言ってかばんさん達はぞろぞろと部屋を出ていった。
イエイヌが、そちらとキュルル達をキョロキョロと見ている。
イエイヌ「…キュルルさん、どうしますか?」
キュルル「いろいろ気になる事はあるけど…、ダメだ、疲れすぎてもう考えられないよ…。」
そして、キュルル達はベッドで休む事にした。しかしサーバルは、かばんさんの出て行ったドアをじっと見つめながら立ち尽くしていた。
◉そのままでいて、君だけは
廊下に出ると、かばんさん達はライブ会場ではなく、出入り口に向かって歩き出した。そして博士がポツリと呟いた。
博士「…本当は、安全な所なんてどこにもないのです。」
助手「パークの終わりをいつどこで見届けるか…、それだけの違いなのです。」
かばん「うん…、意味ないって分かってても、どうしても失敗した時のことを考えちゃうよね。」
フェネック「私もさ〜、バレないようにしてたけど、さっきから震えが止まらないんだよ〜。」
みんながうつむきながら歩いていると、アライさんが後ろ歩きで列の前までやってきて、胸の前で両手をグーにしながらまっすぐな瞳で叫んだ。
アライさん「やる前から怖がってたらダメなのだ!やってみて、ダメだったら怖がるのだ!」
しかしそのまま数歩進んだところで、慣れない歩き方のせいで足を取られてすっ転んだ。
アライさん「のだっ⁉︎」
それを見て、フェネックが思わず吹き出した。
フェネック「相変わらずアライさんは面白いねぇ。」
博士「まったく…。まあなんだかんだ、お前の根性は信頼しているのです。」
助手「何事にも『当たってくだけだろ』…、たいしたたくましさなのです、まったく。」
かばん「ありがとう。アライさんのおかげで、怖いのがどこかへ飛んでいったよ。」
アライさん「なんで転んで褒められるのだ?けど、どんな時でもみんなを笑顔にするのがアライさんなのだ!」
かばんさん達は、互いに手を繋ぎながらホテルを出た。そして泊めてあったジャパリバスのトレーラーに、順番に乗り込んだ。ところが最後にかばんさんが乗り込もうとした時、背後から声がした。
?「待って!どこ行くの?」
かばんさんが驚いて振り向くと、そこには不安そうな顔をしたサーバルが立っていた。
かばん「黙って行くつもりだったんだけど…、私達は海底火山を止めてくる。」
サーバル「それって海の中だよね?へーきなの?」
かばん「心配しないで、すぐに戻ってくるよ。」
笑顔でそう言うと、かばんさんはサーバルに背を向けた。しかし耳が良いサーバルには、かばんさんの声が震えている事がすぐに分かった。
サーバル「ねえ、どうしてそんなに悲しそうなの?お願い、ホントの事を教えてよ!」
するとかばんさんの体がぴたりと止まり、カタカタと震え出した。
かばん「…言えないよ。」
サーバル「やっぱり危ないの⁉︎ならここにいてよ。私、かばんさんと離れたくない!」
かばん「無理だよ…、私達にしかできないんだ。」
サーバル「かばんさんはすっごいヒトでしょ、もっと考えればきっと他のやり方も…。」
かばんさんはうつむき、肩を震わせながら大声で怒鳴った。
かばん「もうやり尽くしたよ!何度も!何度も、何度もっ…。けど…、駄目だった。結局どの方法も、しっかりつかんだと思った途端指の間からこぼれ落ちていったんだ。」
その言葉は、次第に涙声となっていった。
かばん「そして残ったのがこれだけ…、これだって、上手くいくとは限らない…。」
それからふっと上を向いた。
かばん「…怒鳴ってごめん。大丈夫だから、サーバルはここで待ってて。」
その時サーバルの頭の中に、帽子を被った女の子の姿がフッと浮かび上がった。どこで会ったのか、名前も顔も分からない、けれどもとっても大切で大好きな子…。それを掴もうと、サーバルは体をわななかせながら手を伸ばした。
サーバル『なんだろう…、なにか思い出さなきゃいけないような…、とても大切ななにかを…。』
不意に、かばんさんが振り返った。その顔は涙でクシャクシャになっていて、口元だけが無理に笑っている。
かばん「そんな顔しないでよ…、君だけはどんな時でも笑っててくれないと…嫌だよ…。」
震える声でそう言うと、サーバルから目を背け、うつむきながらバスの入り口に右足をかけた。
それを見つめるサーバルの目は、涙でいっぱいになっていた。それが揺らめくとかばんさんの姿が歪んで、どんどん遠ざかってゆく。
サーバル「う、うわぁっ…!」
かばん『ごめんねサーバルちゃん…、ずうっと一緒にいたかったけど、僕達の旅はここまでだよ…。』
するとサーバルの胸の中で感情が弾け、叫び声となって外に飛び出した。
サーバル「かばんちゃぁぁぁん!!!」
そして勢いよくかばんさんに飛びついた。
突然のサーバルの言葉に、みんな驚いた。
かばん「えっ…⁉︎」
博士「かばん“ちゃん”…?」
助手「まさか、思い出したのですか⁉︎」
アライさん「なにが起きたのだ⁉︎」
フェネック「信じられない…。」
サーバルは嗚咽を漏らしながら、かばんさんにありったけの思いをぶつけた。
サーバル「分かんない…分かんない!なにが分かんないのかも全然分かんないよ!でも、これだけは分かるよ!このまま行かせちゃダメだって!離れたらもう会えないって!!
お願い!私も連れてって、かばんちゃん!!!」
これを聞いたかばんさんの目から、大粒の涙が溢れ出した。そしてずっと胸の奥にしまい込んでいた呼び名を吐き出すと、大声で泣きだした。
かばん「サーバル…ちゃん…!わああぁ…っ‼︎」
そうして2人は、目に涙を浮かべながらしっかりと抱き合った。また博士たちも、涙ぐみながらその様子を静かに見守った。
それからしばらくして…。ようやく2人が落ち着き始めた頃、博士がバスから降りてきてサーバルにこう声をかけた。
博士「サーバル、口を閉じるのです。私がよしと言うまでそのままでいるのですよ。」
サーバルは言われた通り口を閉じると、両手で塞いだ。すると博士は、サーバルの鼻をギュッとつまんだ。すぐに息が苦しくなってきて、サーバルの顔が赤くなり、体が震えだした。
サーバル「ブハァ、なにするの⁉︎」
堪えきれずサーバルが口を開けて大きく息を吸い込んだところへ、博士がおどろおどろしい口調で迫ってきた。
博士「いいですか?我々陸のけものが水の中で息をするためには、たくさんの空気が必要なのです。しかしバスに用意できたのは片道分…、つまり、たとえ海底火山を止められたとしても、帰ってくることはできないのです。
これに乗ったら、お前は今よりもずうっと苦しい思いを死ぬまで続けなければならないのです。本当にそれでもいいのですか?」
するとサーバルは即座にこう答えた。
サーバル「いいよ!私はかばんちゃんのそばがいい!」
博士「…そうくるだろうと思っていたのです。装備の都合上、行けるのは5人まで…、私の代わりに行ってくると良いのです。私はここで、できる限りのことをするですよ。」
こうして、博士の代わりにサーバルが海底火山鎮静化に参加することとなった。みんなはバスに積んであったアヅアエンの潜水用の装備を身につけると、運転席に乗り込んだ。
かばんさんがスイッチを押すと、窓が厚いバリアで覆われ、完全に密封された。そしてバスは、海底火山に向かって出発した。
博士はそれを黙って見送った。そしてバスがすっかり沈んで姿が見えなくなると、頭の羽を広げてふわりと舞い上がった。
博士『頼んだのですよ。…さてと、あいつはどこで震えているのですかね、まったく!』
いよいよ物語はクライマックスへと向かってゆきます。
かばんさんはパークのみんな…、とりわけサーバルのために死地へ赴こうとしたのですが、それが必ずしもサーバルの幸せとは限りません。
かばんさんとサーバルのやり取りは、メガンテを使うポップと、それを見つめるダイのシーンが基となっています。この話のようにサーバルの記憶が戻る事はありませんでしたが、かばんさんはとても大切なお友達である事がはっきりし、もう離れない!という決意が固まりました。それはかばんさんも同じです。
そして互いの呼び名も元に戻りました。