けものんクエスト 孤峰(こほう)の騎士   作:今日坂

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元気に帰ってきたアムールトラでしたが、みんなが自分を見てどう思うのか、パークに居場所なんてあるのかとビクビクしています。


おかえりなさい編
◉それから、これから


アムールトラ「みんなが私の事を心配してくれてる…、でも、もしまた怖がられたり、誰かを傷つけたらって考えると、どうしても姿を現す事ができなくて…。それで今日まで隠れてたんだ。」

 

カラカル「思い込みなんて、間違っててもなかなか変えられないものよ。あたしだって、アンタが怖いやつだってずっと勘違いしてたんだから。…ごめん。」

 

キュルル「その絵のかけらはアムールトラが持っててよ。ずーっと前の君を、ずーっと前の僕が描いたものなんだから!」

 

アムールトラ「いいの?ありがとう!」

アムールトラはキュルルにお礼を言うと、それを大切に毛皮にしまった。

 

キュルル「あ、アムールトラ…!」

カラカル「いい笑顔ね!」

アムールトラ「え?」

 

彼女は知らずに笑顔になっていた。こうして今日は、アムールトラが目覚めてから初めて笑った日となった。

 

 

━━━ねえアムールトラ、気付いてる?

 

 

茂みからガサガサという音が近づいてきた。物音を聞きつけて、ゴリラ達がやってきたのだ。そしてアムールトラに気づくと口々にお礼を言った。

しかしその後で、ヒョウが首をかしげた。

ヒョウ「けど…、あの広場はなんやったん?」

 

彼女がワニ口セルリアンが広場を壊した事を伝えると、今度はみんなそれぞれ謝罪の言葉を口にした。

ゴリラ「疑って本当にすまなかった。じゃあ、せっかくだから広場を見ていってよ。サンドスターの力もあって、もうすっかり綺麗になってるし、ちょうどかばんさん達も来ているんだ。そのうち運動会を開くから、ぜひ参加してくれ。」

 

そう言ったゴリラはニコニコしていたが、後の4人は不敵な笑みを浮かべていた。そしてイリエワニが、アムールトラの肩に腕を回した。

イリエワニ「あんな不意打ちで勝ち逃げしたりはしないよな?」

 

メガネカイマンの眼鏡の奥の目がキランと光った。

メガネカイマン「忘れたとは言わせませんよ?」

 

ヒョウとクロヒョウが興奮した様子で彼女を見ている。

ヒョウ「楽しみやなぁ!」

クロヒョウ「今度は負けへんで!」

 

アムールトラ「あっ…、あれは…。」

アムールトラは事情を説明したが、一旦火がついた彼女達の闘志を押さえる事はできなかった。

 

 

ゴリラ達に連れられて、キュルル達は広場へと向かった。

ゴリラ「ところで、ジャングルの中で何やってたの?」

 

キュルル「あっ、忘れてた!」

 

そう言うとキュルルは、ショルダーバッグからオオミミギツネの招待状を取り出した。なんでもホテルの修理が終わったため、この前の戦いのお礼も込めて、パーク中のフレンズを集めてパーティをやるそうだ。

 

ゴリラ「わあ、ありがとう。ぜひ参加させてもらうよ。アムールトラさんも行くよね?」

 

アムールトラ「え…、私、も?」

思いがけない言葉に、アムールトラはたじろいた。

 

カラカル「当然よ、アンタが一番活躍したんだから!いっそアンタのパーティにしちゃってもいいくらい!」

 

キュルル「そうだよね!ラッキー、オオミミギツネさんの近くにいるラッキービーストに伝えて。アムールトラも参加するって!」

 

腕ラッキー「マカセテ。」

 

なんだか話がどんどん進んでゆく。彼女は戸惑いの表情を浮かべながらも、内心は喜んでいた。

 

 

━━━これは君が守った世界なんだよ。

 

 

広場には、かばんさん、サーバル、助手、そしてアムールトラのぬいぐるみを抱っこした博士がいた。そしてアムールトラに気付いた博士は、大きく目を見開いて全身を震わせた後…、

 

博士「アムールトラぁぁぁ〜!会いだがっだのでずぅぅ〜‼︎」

と叫んで、ぬいぐるみを取り落とし、大きな瞳に涙をいっぱい溜めながら物凄い勢いで飛びついてきた。不意を突かれた彼女は、どて〜ん!とその場に押し倒されてしまった。

そして博士は、彼女の首にすがりついて大きな声で泣き始めた。

 

アムールトラ『博士さんも泣き出した…。どこか痛いのかな?』

アムールトラはどうしたら良いのか分からず、オロオロしながらされるがままになっていた。

 

するとそこへ、かばんさん達がやってきた。

サーバル「よかった、無事だったんだね!」

 

かばん「改めてお礼を言いたいんだけど…、博士さん、ちょっと落ち着いて…。」

 

助手「まったく、『ブタの目にも涙』とはよく言ったものなのです。」

 

それを聞いた博士は、顔を真っ赤にしながら立ち上がった。

博士「なんですかそれは!私をおちょくるのもいい加減にするのです!」

 

しかし助手は、しれっと言い放った。

助手「『働かざる者悔いるべし』と言うのです。毎日毎日、口を開けばアムールトラののろけばかりで後は食っちゃ寝。これで優しくしろと言う方が無茶なのです、まったく。」

 

 

それからゴリラ達と別れたキュルル達は、修理が終わったジャパリバスに乗ってある場所へと向かった。

アムールトラはかばんさんの後ろに立ち、博士はその隣にぴったりとくっついて幸せそうな顔をしている。時々助手に茶々を入れられていたが、気にならないようだった。

 

かばんさんはハンドルを握りながら、アムールトラに彼女の生い立ちを話して聞かせた。それからアムールトラは、ビャッコと過ごした日々をかばんさん達にも話した。

アムールトラ「…と、これでおしまいです。思い返してみるとなんだか夢みたいで、自分でも信じられないんです。」

 

かばん「僕は信じるよ。それに、あやふやなままでもいいんだ。夢と現実、嘘と真、正義と悪…。一見はっきり分かれているように見えても、実は境界線が曖昧なものはたくさんある。これに好みや情などの心が絡んでくるともっと難しくて、なんとなくこっちかなくらいの気持ちで落ち着いている事も多いんだ。

それにもし全部夢だったとしても、アムールトラさんが無事に帰ってきてくれた…、それだけで十分だよ。」

 

助手「お前は目が覚めてから今まで、ずっと辛い思いをしてきたのです。これからは夢のような幸せな日々を送れば良いのです。」

 

博士「私は夢のように幸せなのです…♡ああ、夢なら覚めないでほしいのです〜!」

 

すると、アムールトラは博士の顔をじっと見つめた後、意を決してかばんさんに言った。

アムールトラ「それとあの…、寄って欲しい所があるんですけど…。」

 

かばん「ん、どこ?…ああ、そこならちょうど寄り道しようと思ってたんだ。アライさん達もいるはずだから。」

 

一方キュルルは、カラカルと一緒に後ろのトレーラーに乗って、アライさんがどこからか見つけてきたという新しいスケッチブックに何かを描いていた。

 

 

━━━美しい大地に、そこを流れる川のせせらぎや木々の木漏れ日、そして幸せに暮らすみんな…、全部君が守ったものなんだ!

 

 

イエイヌ「フフフ、フフーフフーン♪」

イエイヌは希望の歌の鼻歌を歌いながら、おうちの中でお茶の準備をしていた。ビーストに吹き飛ばされた屋根は、すっかり元通りになっている。その庭では、アライさん、フェネック、オオセンザンコウ、オオアルマジロが集まって、見つけたお宝を見せ合っていた。

そしてアルマジロが汚れた紙風船を持ってきたので、それを洗ってきれいにしてあげようと、水を張った桶に突っ込んだアライさんだったが…。

 

アライさん「ボロボロになってしまったのだ〜⁉︎」

フェネック「アライさ〜ん、またやってしまったねぇ。」

センザンコウ「アルマーさん、泣かないでください。」

アルマジロ「ふええ〜ん。センちゃ〜ん、よくわかんないけど、なんだかむしょーに悲しいんだよ〜。」

 

オロオロしているアライさん。するとそれを見たフェネックが石鹸を片手に、にんまりと笑った。

フェネック「困ったねぇ、アライさんも洗っちゃおうか〜?毛皮を脱がせて、隅から隅までじぃっくりと…。」

 

そしてアライさんを見つめる3人の目がキラーンと光り、ジリジリと迫ってきた。

アライさん「やめるのだ!ごめんなさいなのだ〜!」

そう叫びながら、アライさんは逃げ出した。

 

こうして4人が追いかけっこをしていると、イエイヌがおうちのドアを開けてこう呼びかけた。

イエイヌ「みなさーん、お茶の用意ができました…ってあれれ?」

 

なぜかアライさんが叫びながら3人に追いかけられている。それを見ていると、なんだか体がムズムズしてきた。そしてイエイヌも、追いかけっこに加わった。

 

アライさん「ふえっ?なんでイエイヌまで追いかけてくるのだ〜⁉︎」

イエイヌ「よく分かりませんが、体が疼いて仕方がないんです〜‼︎」

アライさん「なんなのだ〜〜〜!」

 

そんなアライさん達がどったんばったん大騒ぎしているところへ、かばんさん達がやってきた。

かばん「やあ、賑やかだね。」

 

イエイヌ「あ、こんにちは皆さん…、あ、あなたは…!」

 

みんなの陰からアムールトラが現れた。そしておずおずとイエイヌの前に立つと、うつむきながらボソボソと話しだした。

アムールトラ「あの…、おうちを壊しちゃったり、叩いちゃったりしてごめんなさ…。」

 

するとイエイヌが駆け寄ってきて、彼女の手をギュッと握った。

イエイヌ「戻ってきたんですね、よかった!ずっとお礼が言いたかったんです、ありがとう!」

 

アムールトラ「???」

怒られるとばかり思っていた相手に笑顔でお礼を言われ、アムールトラは面食らった。それからアライさん達もやってきて、彼女にお礼を言った。

 

 

━━━君は元気に帰ってきてくれた…。だから僕らはこの言葉を贈るよ!

 

 

イエイヌ達にも招待状を渡した後、アライさんとフェネックも乗せたジャパリバスは、かつての海底火山にたどり着いた。そこでは一足先にパイレーツラッキーが待っていた。

かばん「お待たせ、パイレーツさん。」

 

ラッキービースト「マッテタヨ、カバン、ミンナ。」

 

そしてかばんさんは背負っていた鞄の中から次々とものを取り出すと、オーブが安置されている石板の前に並べ始めた。

 

かばん「お酒、希望の歌のテープとラジカセ、水晶と鏡、せーばると書かれた日記帳、ジャパリまんにジャパリコイン…。」

 

カラカル「なんなの、これ?」

 

助手「お土産なのです。研究所から出てきたり、フレンズから分けてもらったり、アライグマが見つけてきたりしたものです。四神とセーバルにとって必要なものなのかは分かりませんが、こちらの感謝の思いは伝わると思うのです。」

 

キュルル「それと、これも!」

 

そう言って、キュルルはさっきできあがったばかりの絵を置いた。そこにはたくさんのフレンズに囲まれて、アムールトラとビャッコが並んで笑っている姿が描かれていた。

 

キュルル「アムールトラから聞いた話を元に、ビャッコさんを描いてみたんだ。いつか四神とセーバルって子に会ってみたいな!」

 

カラカル「ビーストの次はそれ⁉︎ほんっとアンタは、遠くの子ばっかり追っかけるのね!」

 

かばん「これでよし…っと。ところで本で読んだんだけど、神様に挨拶する時は決まりがあるみたいなんだ。今やってみせるから、みんな僕の真似をして。」

そう言うとかばんさんは、2回お辞儀をした後2回パンパンッと手を叩くと、もう1回お辞儀をして締めくくった。しかし…、

 

パンパンパパパンッ!

アライさん「まず手を叩くのだ⁉︎音が出るのたのしーのだ!」

 

フェネック「アライさ〜ん、お辞儀が先だよ〜。」

結局みんな、思い思いのやり方で挨拶をした。

 

 

こうして挨拶を済ませ、一行はジャパリバスへと歩き出した。そんな中、アライさんとフェネックがとっとこ駆けてゆく。

アライさん「よ〜しフェネック、競争なのだ〜!」

 

フェネック「待ってよ〜、アライさ〜ん。」

 

そして前を歩いていたかばんさんが振り向いた。

かばん「それじゃあみんなで研究所に帰ろうか。アムールトラさんも来るよね?」

 

するとアムールトラの右腕にすがりついている博士が、グッと手に力を込め、彼女の顔をじっと見つめた。その目が「嫌だなんて言ったら承知しないのです!」と言っている。

もちろん答えは決まってる。彼女は笑顔で「はい!」と答えた。

 

助手「『知者は流浪し留まらず』…、力のあるものはふらっとどこかへ行ってしまいかねないので、多少嫌がられてもしっかり捕まえておかないといけないのです。ですよね、かばん?」

そう言うと、助手はかばんさんをジロリと見た。

 

かばんさんは苦笑した。

かばん「はは…、もうなんでも一人で背負い込もうとするのはやめるよ…。」

 

するとサーバルが、かばんさんの背中に抱きついた。

サーバル「がおー、食べちゃうぞー!」

 

ラッキーさん「サーバル、タベチャダメダヨ。」

 

サーバル「食べないよ♪ラッキーさんも含めて、私達はなんだってできる素敵なチームだよ!もう絶対離れない!」

 

かばん「サーバルちゃん…、ありがとう!僕も絶対、サーバルちゃんを離さないよ!」

そう言って、かばんさんはサーバルの右手に自分の右手を重ね、しっかりと握りしめた。帽子の赤と青の羽が揺れている。

 

ここでアムールトラの左隣を歩いていたキュルルが、彼女の顔を見上げた。

キュルル「ねえ!今度は僕も、アムールトラの隣にいたいんだけど…。」

 

するとカラカルが、キュルルを片腕でひょいと抱えた。

カラカル「アンタは後ろ!」

キュルル「そんなぁ!」

 

そして凄みのある目で一瞬彼女を睨んだ後、ズンズンと歩いていった。

 

アムールトラはおののきながらこう呟いた。

アムールトラ「私、なにか悪い事したのかなぁ…?」

 

それを見た博士がクスクスと笑っている。

博士「ふふっ、困ったやつなのです。ところで…どうなのです?今までずっと遠くから見ていたこの世界は楽しいですか?」

 

アムールトラ「いろんな事が起こりすぎて目が回りそうだよ。けど、ぜんぜん嫌じゃない。うまく言えないけど、楽しくて、嬉しくて…、しょうがないんだ!」

 

博士「良かったのです。これはお前が守ったもの…、そして、お前もこの世界のかけがえのない一人なのですよ、アムールトラ!」

 

アムールトラ「え…?」

 

そう言われて、アムールトラはハッとした。

アムールトラ『そうだ…、これまで手の届かなかったものが、今目の前にある。楽しい会話、笑顔のみんな、笑い声…、私は力は強かったけど、それだけじゃ得られなかったものばかりだ。』

 

アムールトラ「うん、ありがとう!」

すると彼女の胸と鼻がじ〜んと熱くなり、目から涙が溢れ出した。

 

アムールトラ「あれ、おかしいな。痛くも悲しくもないのに、なんで涙が出るんだろう?」

 

博士「それは嬉し涙なのです。涙は辛い時だけでなく、嬉しい時も出るのです。分からない事はなんでも聞くと良いのです。私は賢いのですよ!」

そう言って、博士はえっへん!と胸を張った。

 

その時、アムールトラの顔の横を爽やかな風が吹き抜けていった。彼女は思わず足を止めて振り返り、大きな山を見上げた。

 

博士「…?どうしたのです?」

 

アムールトラ「ううん、なんでもないよ。」

 

他の誰も気づかなかったが、アムールトラにはしっかりと聞こえていた。

アムールトラ『気のせいじゃない…、風の中に「元気でな!」ってビャッコさんの声がした。

思い返してみると、私は今まで過去に怯えながら、逃げるように今日を必死に駆けてきた。でもこれからは、可能性に満ちた明日を見ながら今日を歩んでゆこう。

先の事を考えると不安もある。けどそれは、きっと誰でも同じだ。それにもう、私は一人ぼっちじゃないんだ!』

 

心地よい風が背中を押している。アムールトラは心の中で『ありがとうございます!』と返事をすると、博士と寄り添いながら再びバスに向かって歩き始めた。

 

━━━おかえりなさい、アムールトラ!

 

 




こうしてアムールトラは受け入れられ、みんなと暮らせるようになりました。
今彼女は笑う事もできますし、話す事もできます。嬉し涙も覚えたし、ごめんなさいも言えるし、華奢な手で器用に物を扱う事だってできます。騙されやすいところも、博士がそばにいれば大丈夫でしょう。
まだまだ学ぶ事はたくさんありますが、みんなと一緒なら乗り越えられます。


さて、アニメではあんまりな扱いだったビーストに、きちんとした設定をつけて救ってあげたい、そんな思いから私の執筆活動は始まったのですが、こうして二作目も無事終える事ができました。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。

ちなみにタイトルには、こんな言葉遊びが含まれています。
狐→こ→虎、子→ビースト(アムールトラ)、キュルル
峰→ほう→鞄→かばんさん
騎士→ナイト→内藤→漫画版けもフレ2のリスペクト

そしてビーストの頭の中に響く声は、騎士を“ナイト”ではなく“きし”と発音しています。これはヒトと暮らしていた時のアムールトラにとって、ナイトという言葉は寂しい夜を連想させるのでちょっと嫌だったためです。

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