けものんクエスト 孤峰(こほう)の騎士   作:今日坂

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セルリアンの気配を追って、ビーストはジャングルへたどり着きます。そして同じ頃、キュルル達もジャングルへとやってきました。


タイトル一覧

◉でかい口(ビッグマウス)

◉キュルル一行の軌跡

◉乱入!

◉パークガイド

◉希望の歌


ジャングル編
◉でかい口(ビッグマウス)


ビーストは、伸び放題の草を踏みつけながら鬱蒼と生い茂るジャングルの中を進んでいた。時折あたりを見回したり鼻をひくつかせながら進んでゆくと、向こうからフレンズの匂いとセルリアンの気配がした。あれが追いかけていたものかまでは分からなかったが、彼女は駆け足でそこへと向かった。

 

木々がひらけた所に、ジャングルのフレンズ達の遊び場となっている広場があった。綺麗に掃除されていて、落ち葉ひとつ落ちていない。暖かな日差しが降り注ぎ、キラキラした泉が湧き出ていて、あたりには心地よい風が吹いている。

 

その泉のそばで、1人のフレンズが真っ青な顔をしながら横たわっていた。

その子は薄い緑色の髪をポニーテールでまとめていて、2房の前髪は口を開けたワニを横から見たような形状をしている。上は暗い緑色の大きく胸元の空いた鰐皮のライダージャケット、その袖にはトゲが生えている。下は紺色のダメージジーンズ、そしてジャケットと同じ色のブーツを履いていて、お尻から鱗で覆われた太くて長い尻尾が生えている。

 

イリエワニ「うう…、頭が重い…。明日は大切な日だってのに、急にどうしたっていうんだ…。」

そうしているうちに、その子は気絶するように眠ってしまった。

 

すると彼女の髪が黒く変色し、ざわざわと蠢き始め、どんどん膨れ上がっていった。それはまるで大きなワニの頭のような形になると、大口を開けながら彼女を一気に呑み込もうと迫ってきた。

 

ガッチイィィン!

しかしすんでのところでビーストがイリエワニを抱き抱え、なんとか大顎から助け出した。しかし鋭い牙がビーストの右腕を掠めた。そのあまりの衝撃に右腕は痺れてしまい、うまく動かせなくなった。

彼女はイリエワニを茂みに隠したが、間髪入れずワニ口セルリアンが飛びかかってきた。

 

バキャン!

なんとか身をかわしつつ左の爪を牙に見舞ったが、弾かれてしまった上にこちらの腕まで痺れてしまった。

 

ガチン!ボキィ!グワシャ!

ワニ口は、木も泉も地面もお構いなしに次々と噛み砕いてゆく。ビーストは転がったり飛び回ったりしながら、必死にその攻撃をかわした。

 

ドンッ!

すると背中に大きな岩が当たった。知らないうちに、まんまと追い詰められてしまったのだ。すかさずワニ口が、大きな牙をギラつかせ、大口を開けながら飛びかかってきた。

 

とっさにビーストは振り向くと、まだ痺れの残る両腕を一気に大岩へと突き刺し、思い切り力をこめた。すると頭に紋章が輝き、体が白い輝きで覆われた。

 

ビースト「ガアァァァッ‼︎」

そして咆哮と共に目一杯体をのけぞらせると、それを持ち上げてワニ口目掛けて力任せに投げつけた。

 

大口に巨大な岩を投げ込まれ、一瞬動きが止まったが…、

バキャァァン!

ワニ口は大顎に力を込め、瞬時に岩を噛み砕いた。

 

しかしビーストは、その一瞬の隙を逃さなかった。すかさずワニ口の下顎目掛けて弾丸のような勢いで飛びかかり、両手に渾身の力を込めて爪を突き刺した。そしてそのまま下に振り下ろし、相手を真っ二つに切り裂いた。

 

ワニ口「ギョロロロロー!!!」

すると絶叫と共にワニ口セルリアンは砕け散った。

 

ビーストの腕はまだピリピリしている。それをさすっていると、小さな声がした。

?「ちっくしょ〜!だがな、あの青いボウヤに、ボクはタネをまいた!止められるものなら止めてみるんだなぁ!」

 

ビーストはあたりを見回したが、声の主の姿は見つける事はできなかった。まだワニ口のかけらも消え去っておらず、セルリアンの気配を探るのも難しい。

ビースト『青いボウヤ…、はあの見慣れない子の事か?でもタネってなんだ…?』

 

ビーストが首を傾げていると、茂みの中から声がした。

イリエワニ「う…、う〜ん…。」

 

どうやらワニの子が目を覚ましたらしい。しかも周りから、3人のフレンズの気配が近づいてきた。

もう少しここを探索したかったが、こうなっては仕方がない。ビーストは高々と跳躍すると、樹上へと消えていった。

 

後に残ったのは、もはや先程までの面影のかけらもない、破壊され尽くした広場だった。

 

 

◉キュルル一行の軌跡

 

サバンナを出たキュルル達は、モノレールで竹林とアズアエンを訪れた。ここもおうちではなかったが、フレンズと交流したり悩みを解決したりした後、絵をプレゼントした。

 

そして次のエリアに向かう途中で大きな地震が発生し、レールが崩落してしまったため、モノレールを降りて歩いてパークを回る事となった。

 

そこからソンブレロを被った黄色い体のメキシカンラッキーのガイドでミナミメイリカエンを訪れ、アードウルフとアリツカゲラのおうち探しに付き合った。

 

そして翌日、ガイドを引き継いだジャングルラッキーの案内で、ジャングルを訪れた。この子は深緑色の体にベルトを巻いていて、体の両脇に2本の木製のナイフを刺している。

ジャングルラッキー「ココカラ先ガジャングルエンダ。」

 

サーバル「わぁー、でっかい森!」

 

カラカル「いろんな音も聞こえてくるわね。」

 

ジャングルラッキー「ココハふれんず以外ニモ沢山ノ生キ物ガ暮ラシテイル。トテモ広クテ迷イヤスイカラ、シッカリ俺ノ後ニツイテコイ。」

 

キュルル「ここにヒトがいるって聞いたんだけど、知らない?」

 

ジャングルラッキー「アア、ソレナラじゃんぐるノ奥ノ研究所デ暮ラシテイルゾ。」

 

カラカル「ホントにいたのね…。」

 

サーバル「よかったねキュルルちゃん!私もなんだか、そのヒトに会うのが楽しみで仕方ないんだよ!」

 

キュルル「うん!おうちについて、何か聞けるかもしれないね!」

 

これからヒトに会える…、それに、ビーストもいるかもしれない!そう考えると、キュルルの胸が高鳴った。そして3人は、ジャングルラッキーの後について、うっそうと生い茂るジャングルに足を踏み入れた。

 

 

◉乱入!

 

ビーストは高い木の上で腕をさすっていたが、ようやく痺れが引いて、元のように動かせるようになった。すると、風がフレンズの匂いを運んできた。その中に嗅ぎ慣れない匂いを感じ取ったビーストは、木から木へと飛び移りながらその場所へと向かった。

 

そこではゴリラ、ヒョウ、クロヒョウ、メガネカイマン、イリエワニといったジャングルのフレンズ達と、サーバル、カラカル、ジャングルラッキー、そしてキュルルが紙相撲で遊んでいた。

 

そこへビーストがやってきた。するとみんなの中心からセルリアンの気配がした。不意に彼女は木から飛び降りると、その気配のする紙相撲に向かって急降下した。頭に紋章が輝き、腕が輝きに包まれた。そしてそれに思いっきり爪を叩き込んだ。

 

ズドォォォン!

ヒョウ姉妹&ワニ2人「「「「どわー⁉︎」」」」

 

その一撃で、紙相撲は地面ごと吹き飛んだ。そしてあまりの衝撃に、周りにいたフレンズまで吹き飛ばされた。だが襲撃に一瞬早く気づいたサーバルは後方に跳び、カラカルはキュルルを抱えてなんとか難を逃れた。

 

とっさにガードを固めて耐え凌いだゴリラは、もうもうと砂煙が立ち込める中で佇んでいる人影を見つめていた。やがてそれが晴れ、オレンジ色で体の大きなフレンズが姿を表した。

ゴリラ「フレンズ離れしたこの力…、もしかして、あの子が広場を壊したのか?」

 

ビーストは鼻をひくつかせながら周りをうかがった後、かすかなセルリアンの気配目掛けて突進した。しかしカラカルの脇を抜けキュルルの目前まで迫ったところで、なにかを思い出しそうになった。ビーストは急停止し、その子の顔をじっと見つめた。

ビースト『この子は…?ああ、なんだかとても懐かしくて安らぐような…。』

 

その子は、突然現れたビーストにびっくりしてへたり込んでいた。見た目や雰囲気からは、何も脅威は感じられない。

しかしその子が抱えているスケッチブックから、わずかではあるがセルリアンの禍々しい気配がする。

一刻も早く破壊しなければ!そう考えたビーストが、右の爪を振りかぶろうとしたその時…、

 

カラカル「その子から離れろぉ!!!」

 

キュルルの危機を目の当たりにしたカラカルが、ものすごい剣幕でビーストに飛びかかってきた。全身から赤い輝きが吹き出し、体のいたるところがまるで炎のように揺らめいている。

 

そのあまりの殺気に、ビーストの体がビリビリと震え、全身の毛がゾワリと逆立った。その威圧感は、先程のワニ口セルリアンの比ではない。

ビースト『これはっ…!半端な気持ちじゃ、こっちがやられる!』

 

ビーストはカラカルに向き直ると、全神経を相手に集中させた。そして両腕に持てる力の全てを注ぎ込み、迎撃の態勢を整えた。

 

カラカル「エリアルループクロ…」

サーバル「ダメ━━━ッ‼︎」

 

べしゃん!

カラカルが右手を振りかぶり、2人の爪がぶつかり合うかに思われたその瞬間、サーバルがカラカルの腰に飛びつき、そのまま地面に叩き伏せた。

 

堪らずカラカルは大声を出した。

カラカル「何すんのよサーバル‼︎」

 

そしてサーバルも怒鳴り返した。

サーバル「フレンズ同士ケンカはダメだよ‼︎まずはお話ししてみようよ!」

 

ビーストはそんな2人の様子を、呆然と見つめていた。

ビースト『助かった…。なんなんだよあのもの凄い気は…。』

 

しかし今度は、複数の殺気がビーストに注がれていた。先程吹き飛ばしたフレンズ達が起き上がり、険しい目つきで彼女を見ている。そんな張り詰めた空気の中、ジャングルの奥から何かが飛んできた。

 

それは赤い紙で折られた紙飛行機だった。そしてビーストの目の前でパンッ!と大きな音をたてて破裂した。するとそこから大量の煙が吹き出してきた。

 

ビーストは驚いて、思わずヒッと息を吸いこんだ。その途端、鼻の奥が焼けるような感覚と共に、目がものすごく痒くなった。

ビースト「ぶわっくしょ!ゲホッ、ブホッ‼︎」

 

そして大きなくしゃみと一緒に大量の涙と鼻水が流れ出し、呼吸が苦しくなった。これは堪らない。ビーストは慌ててその場から立ち去った。

 

キュルル「ゴホゴホッ。」

煙に巻き込まれたキュルルが咳き込んでいると、ジャングルの向こうから何かの音が近づいてきた。

 

ドルルルル…、ブォン!

すると茂みの中から、一台のオフロードカーが飛び出してきた。

そして運転席から誰かの声がした。

?「乗って!早く!」

 

サーバル「え?誰なの…。」

 

ゴリラ「あれは大丈夫だ、乗ろう!」

 

カラカル「キュルル、しっかり!」

 

カラカルはキュルルを抱えて、サーバルと一緒に車に乗り込んだ。

そしてゴリラ達は屋根に飛び乗った。

ゴリラ「みんな乗ったよ!」

 

?「よし、出発するよ!」

 

キュルル「ゴホッ…、待って、ビーストが…」

 

キュルルは絞り出すような声で訴えたが、車は勢いよく走り出した。

 

そして上空からあたりを警戒していた誰かがこう呟いた。

??「『逃げるは価値』、力だけが全てではないのです。」

 

その子は茶色い鳥のフレンズだった。そして音もなくオフロードカーを追いかけていった。

 

 

一方、森の中へと逃げ込んだビーストは、大きな木の下でうずくまっていた。涙と鼻水は落ち着いたが、まだ目がしょぼしょぼする。

ビースト『ぶぇ…、鼻が効かない…、なんだったんだあの煙…。』

 

顔をくしくしこすっていると、疲れがどっと押し寄せてきた。そういえば、ろくに休みもせずにサバンナからここまで走ってきたのだった。

ビースト『これじゃ捜索もできないな…。仕方ない、一休みしよう…。』

 

そして瞼を閉じると、すぐに寝入ってしまった。

 

 

◉パークガイド

 

キュルルはサーバルとカラカルに挟まれて、後部座席に座りながらじっと後ろを見つめていた。すると運転席から声がした。

?「みんな大丈夫?」

 

そして屋根の上からゴリラ達の「どうにか。」という返事が返ってきた。

 

それからサーバルがこう言った。

サーバル「助けてくれてありがとう、私はサーバルキャットのサーバル!あなたは?」

 

?「サーバル…?」

 

その名前を聞いて、運転席の人は振り向いた。

その人は緑色のウェーブがかった髪をしていて、ぱっちりした瞳に端正な顔立ち、頭には薄い灰色のサファリハットをかぶっていて、そこに一枚の青い羽を刺していた。そして背もたれ越しに、赤い服の上に黒い上着をはおっているのが見える。

 

サーバルを見つめるその眼差しは、驚きと喜びと悲しみが混ざり合ったようなものだった。その人はしばらくそのまま固まっていたが、右腕につけた小さな機械から声がした。

 

???「カバン、前ヲミテ」

 

その言葉が終わると同時に、車が石を踏みつけてガクンと揺れた。

みんな「わあ!?」

 

その人は慌てて前を向いた。

かばん「ごめんごめん、しっかり運転するよ。

私はかばん。ここのパークガイドだよ。この近くで夕食の食材を探していたんだけど、ジャングルさんからの連絡を受けて飛んできたんだ。みんな無事でよかったよ。

そしてこの腕の小さいのは、ラッキービーストのラッキーさん。」

 

ラッキーさん「ヨロシクネ。」

 

サーバル「よろしくね、かばんさん、ラッキーさん。」

 

そしてカラカルとキュルルもお礼と自己紹介をした。そしてキュルルの言葉を聞いて、かばんさんはハンドルを握ったままこう答えた。

かばん「君はヒトなんだね。私もそうなんだ。」

 

キュルル「ええー!?」

 

サバンナでロバやセンザンコウが言っていたヒトが目の前にいた事に、キュルルはとても驚いた。

 

キュルル「ハックション!」

そして最後の大きなくしゃみがでた。

 

カラカル「しっかりしてキュルル。ねえ、さっきの煙、なんだったの?」

 

かばん「あれはセルリアンへの目眩しと、フレンズさんのケンカを止めるためのものなんだ。ここには元気でヤンチャな子がいっぱいいて、時々力比べをしてるんだよ。」

 

しかし白熱しすぎて怪我人がでそうになることもある。そんなフレンズ達のまとめ役であるゴリラから、なんとかできないかと相談を受けたかばんさんは、一つの方法として、紙飛行機を使った煙幕を思いついたのだった。

 

かばん「さっきのは緊急用の試作品で、あの煙には少量のトウガラシの粉を混ぜてあるんだ。少しの間涙と鼻水で苦しい思いをするけれど、それ以上の心配はない。でもだからって無闇にフレンズさんに使いたくないし、今回みたいな時は関係ない子達まで巻き込んじゃうから、早く他の方法を見つけようと考えてるんだけど思いつかなくて…。辛い思いをさせてすまなかったね。」

 

キュルル「僕は大丈夫です。大変そうだったのはビーストの方…」

 

すると屋根から声がした。

ゴリラ「いや、かばんさんが止めてくれなかったら、ジャングルのみんなも巻き込んだ大ゲンカになってたよ。ただでさえ大事件が起きた後だったんだから。」

 

メガネカイマン「かばんさん、実は…、あの広場がめちゃくちゃにされちゃったんです。」

 

 

「あらかじめ時間と場所とルールを決めて、力比べをしてみたらどうだろう。」というかばんさんの提案で、そこで運動会が開かれる事になり、ジャングルのみんなで小石や落ち葉を掃除したりして準備を進めていたのだ。

そしていよいよ明日が大会の日だったのだが…、

 

クロヒョウ「ほんま楽しみやな姉ちゃん…、え⁉︎」

ヒョウ「なんやこれぇ⁉︎」

 

会場の様子を見にきたヒョウ姉妹が見たものは、見るも無惨に破壊された広場と、そこに佇むイリエワニとメガネカイマンだった。

 

ヒョウ姉妹はワニ2人が広場を荒らしたのだろうと食ってかかったが、2人は濡れ衣だとこう言い返した。

メガネカイマン「違います!私は大きな音が聞こえたので、ついさっきここに来たんです!」

 

イリエワニ「私はここで寝てたんだ。で、目が覚めたらこうなってた。」

 

ヒョウ姉妹が訝しんでいると、どこからか小さな声がした。

?「ろくに手伝わなかったくせに、ごちゃごちゃうるさいんだよ!」

 

ヒョウ姉妹「「なんやと⁉︎」」

 

?「負けるのが怖いから、こんな事したんだよなぁ?」

 

ワニ2人「「なんだと⁉︎」」

 

そうして4人が睨み合っているところへゴリラがやって来た。そしてまずは話し合いをしようと提案したのだが、互いに騒ぐばかりでまとまらない。仲は良いがヤンチャな4人組だ、口論は徐々にヒートアップし、一触即発の雰囲気となった。

 

ゴリラ『これは力ずくで止めるしかないか…。はぁ…、かばんさんのようにはいかないなぁ…。』

と、ゴリラがため息をついているところへ、キュルル達が通りがかったのだ。

 

 

ゴリラ「それで、こうなった訳を話した後、いくつか競技の内容を教えたんだ。そしたらそれを聞いたキュルルさんが、スケッチブックの紙で相撲を作ってくれて争いが収まった。けど、突然現れたフレンズに壊されてしまったんだ。」

 

かばん「そっか…。残念だけど運動会は後回しにして、まずはみんなで広場を元通りにしよう。」

 

それを聞いたサーバルは、さっきの事を思い返した。

サーバル「それもあの子がやったのかな?」

 

カラカル「やっぱりただの乱暴者よ!」

 

キュルル「ビーストは絶対そんな子じゃないよ!」

 

未だにビーストの肩を持つキュルルに、カラカルは声を荒げた。

カラカル「アンタがいっちばん危なかったの‼︎」

 

イリエワニ「ビースト?あれが噂のビーストなのか?」

 

かばん「そう呼ばれてるね。あの子は言葉のやり取りができないし、常に野生解放状態みたいなものだから、本人にそのつもりがなくても周囲を傷つけてしまう事もある。けど安心して。噂みたいな悪い子じゃないから。」

 

ゴリラ「うーん、ホントにそうなのかな?」

 

カラカル「信用できないっ!」

 

カラカルは本気で怒っている。キュルルが危うく襲われかけたのだから当然だ。他のみんなも半信半疑だったが、一番危険に晒されていたはずのキュルルが、目を輝かせながら叫んだ。

 

キュルル「だよね!あんな強くてカッコいいフレンズ、どこにもいないよ!さっきの事も、きっとなにか訳があるんだよ!」

 

それを聞いたカラカルは、呆れ顔でキュルルの頭を小突いた。

カラカル「アンタねぇ…、いい加減少しは怖がりなさいよ!」

 

そしてサーバルは、感心した様子で言った。

サーバル「かばんさんは物知りだね、すっごーい!」

 

するとかばんさんは、はにかんだ笑みを浮かべた。

かばん「ハハ、ありがとう。昔ちょっと関わりがあってね。それにあちこちから噂も集めているんだ。」

 

 

◉希望の歌

 

かばんさんはゴリラ達をビーストから離れた場所に連れていった。そしてラッキーさんに業務を引き継いだジャングルラッキーとも、ここでお別れする事となった。

 

かばん「ここならあの子も来ないと思うよ。広場の事は、もう少し落ち着いてからにしよう。」

 

ゴリラ「助かったよ。ありがとうかばんさん。」

 

かばん「じゃあねジャングルさん。また何かあったら知らせてね。」

 

ジャングルラッキー「マカセロ。」

 

別れ際に、キュルルが新しい紙相撲と土俵、それと絵を彼女達に手渡した。

キュルル「はい、ジャングルのみんなを描いてみたんだ!」

 

ヒョウ「おおー!」 

 

クロヒョウ「これうちらか!」

 

イリエワニ「見事なものだな。」

 

メガネカイマン「素敵な力ですよね。」

 

ゴリラ「ありがとう。おうちが見つかったら、ぜひまた来てくれ。」

 

その後で、キュルルが起きた時の様子と旅の目的を聞いたかばんさんは、何か力になれるかもしれないと考え、3人を住まいである研究所へと誘った。

 

かばんさんの運転する車は、4人を乗せてゴトゴトと進んでゆく。

かばんさんがハンドル近くのスイッチを押すと、スピーカーから音楽が流れてきた。それに合わせて鼻歌を歌いながら運転していると、隣に座っているキュルルが話しかけてきた。

キュルル「その音、なんなんですか?」

 

かばん「うん?こういうのを聞いたのは初めて?」

 

キュルル「はい、とっても綺麗だなって思って…。」

 

かばん「これは歌っていうんだ。音だけじゃなく、それに合わせた言葉もあるんだよ。昔の記録を調べていたら見つけてね。いつ誰が、何のために作ったのかは分からないのだけど。」

 

それを聞いたサーバルが、後ろから身を乗り出してきた。

サーバル「なにそれなにそれ、聞いてみたーい!」

 

かばん「そう?それじゃあ…」

 

かばんさんは曲を巻き戻すと、歌い出しからせつせつと歌い始めた。それはなんだか悲しい、けれどもとても綺麗で気持ちが揺さぶられる歌だった。すると歌を聞いていたサーバルとカラカルも、途中から一緒に歌いだした。そんな3人を見て、キュルルは目を丸くしながらじっと歌に耳を傾けていた。

 

歌が終わっても、キュルルは感心しきりだった。

キュルル「歌ってすごいなあ…。けどどうして2人とも歌えるの?」

 

サーバル「うーん…、分かんないや!なんでだろう?」

 

カラカル「不思議なんだけど、自然と口から出てきたのよね。」

 

かばん「ゴリラさん達もそうだったんだ。もしかしたらフレンズみんなが歌えるのかもしれない。私は“希望の歌”って呼んでるんだ。」

 

キュルル「希望の、歌…。」

 

それを聞いたキュルルは、歌えなかった自分はやはりヒトで、フレンズとは少し違うのだなと考え、気持ちが沈んだ。

その様子に気付いたかばんさんは、微笑みを浮かべながらキュルルを見た。

かばん「心配しないで。みんなと同じじゃなくてもいいんだ。キュルルさんはまだ起きたばかりで不安もたくさんあるだろうけど、好きな場所や得意な事は、探していればきっと見つかるよ。」

 

「ジャングルでは話を聞いただけで紙で相撲を作ったっていうし、さっきはビーストの事を思いやってくれたよね。君は賢くて器用で、とても優しいんだね。」

 

キュルル「えっ!?そう、なのかな…。」

 

褒められて嬉しい反面、恥ずかしくもあった。キュルルは顔を赤らめつつうつむくと、スケッチブックをパラパラとめくりながら、さっきの事を思い返した。

キュルル『ビーストって、あんな格好の子だったんだ…。やっぱりこの絵は、あの子を描いたものなんだな。』

 

ビーストは噂通り、オレンジ色にところどころ白の混じった大きな体をしていた。そしてトラ柄模様のついたボリュームのあるロングヘアーを、黄色いチェック柄のリボンで2房にまとめていた。毛皮は白いワイシャツの上にコゲ茶色のベスト、首には黄色のネクタイを締めていて、下はリボンと同じ柄のミニスカートと、トラの縞模様の入った腿まであるガーターソックス、黒いリボンのついた白い靴を履いていて、お尻から縞模様の長い尻尾が生えていた。

 

改めてスケッチブックの最後のページに描かれているトラの子の絵を見てみると、特徴がそっくりだった。

キュルル『鋭い目つきだったけど、全然怖くなかった。僕を見て何か言いたそうだったけど…、おしゃべりできるようになったら教えてくれるかな。』

 

しかしその絵をよく見てみると、ある違和感に気づいた。

キュルル『あの子の頭の紋章とこの絵の模様はちょっと違うな…。それに手枷と黒い鉤爪がない。』

 

するとサーバルが、後ろの席からスケッチブックを覗き込んだ。

サーバル「あれ?キュルルちゃん、その絵ってビースト1人じゃなかった?」

 

確かにトラの子の周りに、サーバルやカラカル、そしてこれまで出会ったフレンズ達が描かれている。

キュルル「これはね、ビースト1人だと寂しそうだから、出会ったフレンズを書き足していってるんだ。」

 

サーバル「わぁ、やっぱりキュルルちゃんは優しいね。かばんさんの言った通りだよ!」

 

一方カラカルは、さっきからビーストばっかりで、全然自分を見てくれないキュルルにむくれていた。

カラカル「なによ!このビースト馬鹿っ‼︎」

 

そして腹立ちまぎれにこう叫ぶと、プイと顔を背けた。

その気持ちを察したかばんさんは、ハンドルを握りながら苦笑いをした。

かばん「はは…、仲良くね。」

 

しかし、肝心のキュルルはなぜカラカルがさっきから怒鳴っているのかよく分かっていないようで、目をパチクリさせている。そんなカラカルをまあまあとなだめながら、サーバルはかばんさんをじっと見つめていた。

サーバル『初めて会ったはずなんだけど…なんだろう、この気持ち。』

 




カラカルがビーストに向かってゆくところは、ヒムとラーハルトが真バーンの天地魔闘の構えに飛び込んでゆくシーン、サーバルがカラカルを止めるところは、ポップがマァムにしがみつき、バーンの攻撃から救ったシーンをイメージしています。

カラカルはむくれてばかりですが、無理もありません。ビーストは乱暴者だとパーク中で噂されています。さらに一方的にキュルルを巡る恋のライバルと見ているカラカルにとって、彼女は好ましい相手ではありません。

でもカラカルがこんな態度を取るのは、キュルルが好きだからです。それが読み手にも伝わるよう、気をつけながら書いています。

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