ピーターパンしてたら世界が変わってた 作:霧丹
エースとサボが再会したことによりサボは記憶を取り戻すことができ、喜びのまま語り合いたかったものの…2人は大勢の子どもたちの面倒を見ることに追われたためひとまず夜を待つことにしていた。
「エースの無事と…」「サボの記憶が戻ったことを祝して…」
「「カンパァァ~イ!!」」
そして子どもたちが寝静まり時間ができたことで島の海岸へと移動し、2人でひっそりと酒を片手に改めて喜びを噛み締めていた。ネバーランドは大人よりも圧倒的に子どもが多い島なためあまり酒類は置いていなかったが、再会できた事と記憶が戻ったお祝いということでピーターからもらっていた。
「なぁサボ、お前はこの島で育ったんだろ?ある程度は聞いたがお前の口からも聞かせてくれよ」
「この島のことか?それともピーターのことか?」
「おれがわからねぇのはなんでピーターがここまで子どもを集めてるのかって事だ…もちろん虐待された子どもを助けてるってのはわかってる。ただ貴族や金持ちの道楽にしては行き過ぎてるし、わからねぇことが多すぎる」
「まぁそれはこの島に来て誰もが思うことさ。ただ助けるだけじゃなくいろんなことを教えてもらい、更に抗えるだけの力まで与えてくれるんだからエースの疑問は当然だろうな」
エースは幼少期から山賊に預けられており、決して世間一般にあるような生活を送ってきたわけではない。しかしそんな生活だったからこそサボやもう1人の義弟と出会うことができたというのもまた事実であり、なお生活が幸せだったとは言えないまでも地獄だったというようなものでもなかった。
その後海へと繰り出し自分で海賊団を立ち上げ…破竹の勢いで海を突き進んで白ひげと出会い、紆余曲折の末に尊敬するオヤジを持つことができた。
決して長いとは言えないかもしれないがエースもこの海を旅することで様々な経験をし、金や権力というものの強大さや厄介さというものも知っているつもりだった。そんな中で仲間を殺されたことで仇を討つべく1人追いかけ…結果として助けられてこの島へとやってきた。
そこで見たものは子どもが楽しく遊んだり頭を悩ませて勉強したり、時には叱られたりしながらも愛情をしっかりと受け取り日々を生きている様子だった。子どもの頃から兵士とするべく訓練させている国があることを話に知っていたエースは少しばかりの疑いも持っていたが、それが間違いだったというのは見ればわかった。
ただ…そうするとわからない部分が出てくる。
子どもは金を生まない…そして子どもはいればいるほど金がかかる。食料だって着るものだって子どもが増えれば増えるほど必要になる。だから世界には子どもを売り飛ばす親もいるし労働させる親だっている。
ピーターが実は世界貴族の一員だったりどこかの国の国王だったというのならわからないでもないが、もしそうだとしてもそんなことを新参者の自分に言うはずもない。だからこそエースは信用できる義兄弟であるサボに、この際だからと疑問をぶつけることにした。
…
……
………
「まずピーターのことを教えてくれ」
「ピーターのことか…」
エースからピーターやネバーランドの事を聞かれたサボもまた、どう答えたものかと頭を悩ませていた。
自分の知っていることを素直に言うことは簡単だったが、いくら義兄弟のエースとはいえ伝えてもいい事とまずい事がある。特にピーターの能力については勘付いている者はいても直接本人から聞いた者はそう多くないと聞いている。
ピーターの悪魔の実の能力…紙を生み出したり紙にしたりする能力。
ここだけ聞けば何も特別な事のない比較的弱い能力だろう。もちろん能力については使い方次第であるというのは世界中の常識として広まっているし、サボも実際に見てそうだと思っている。能力によっては互換関係があったり相性があったりと戦うにしてもそう簡単に強弱が出るようなものではない。
しかしピーターはその能力を戦い以外のところで見出してしまった。
一体誰が紙を扱う能力で偽札を作ろうと考えつくというのか…そしてその能力と目的が完全に合致してしまっていたのがピーターにとっては更に良かった。そして世界にとっては非常に都合が悪かった。
船を買う時、食料を買う時、本などを買う時、資材を買う時…多少は本物の紙幣もあるのかもしれないが、ほぼこのすべてをピーターが生み出した札束で支払っている。正直なところサボも一体この世界にどれだけの偽札が出回っているのかなんてわかっていない。
しかもピーターは子どもたちが成長して島を出るときには何かあった時のためにと餞別として500万ベリーを『毎回全員』に渡している。これはサボももらったし革命軍にいるコアラももらっている。それを知ったときにはサボは頭を抱えた…もしかしたら偽札で買い物してお釣りに偽札を受け取っている可能性すらあるということだ。
普段は子どもたちに折り紙として与えたり遊ばせたりしているから誰も気付かないし思いつきもしないかもしれないが、世界最悪という異名はドラゴンではなくピーターにこそ相応しいのではないかと頭を過ったことがないかと言われれば嘘になる。
たまにピーターは自虐なのか何なのかわからないが「誘拐歴50年」と言うことがある。しかし誘拐しているのは虐げられている子だけであり、身寄りのない子どもたちの受け皿になってくれてもいるのでむしろ歓迎すべきことだろう。
世間的には『赤髪海賊団』が子どもを連れ去っているという誤解が広がっているのは知っているが、ネバーランドのことを公表して世界に対して赤髪海賊団の誤解を解くわけにもいかない。これについては誤解を受けている当人たちも理解してくれているためネバーランドとの間に問題は起こらないが、なぜか子どもを虐待したり酷使している連中ほど声高に「返せ!」と言ってくるらしい。
このあたりは赤髪海賊団にいるネバーランド出身の仲間から直接聞いているが、おそらく子どもを奪われた者たちは虐げている事実に見向きもせずに世間体だけ考えて『自分たちは子どもが大切で大物海賊団であろうと立ち向かっている』というポーズなのだろうとサボは考えていた。
赤髪海賊団が民間人に手を出したりしないという事も合わさって口だけなら大丈夫と思っているのだろうが、加害者のくせに被害者のように振る舞う者というのはどこの島にも一定数いたりする。これは貴族だからだとか一般人だからだとか関係なくあることなので、ある種人間なら誰もがああいう風になりえるということを、サボたちは自戒の意味を込めてネバーランドの教育の中に取り込むように進言したこともあった。
ちなみに赤髪海賊団の船長であるシャンクスは全て知っているので気にしていない…が、実は今も現在進行系で子どもを連れ去った家には赤紙が置かれていることを知った時にはさすがに口元が引きつっていたらしい。
なおサボが聞いた話ではシャボンディ諸島には仲間たちによって奴隷を救い出す者たちもおり、現地の協力者と一緒に助けたりもしているそうだ。普通ならば奴隷を連れ去った者の体格や風体などをもとに海兵や政府の諜報員が犯人を探すのだが、奴隷を取り戻す者たちはローテーションしているらしく…つまり実行犯は数人どころではなく、実は数千人規模で順番に行動しているため手がかりになるものが何もないという神隠しのような結果で捜索は終わるということだった。
ちなみにこういった行動はネバーランドの仲間たちの中で海軍にいる者もいるため対立が発生しかねないものだったが、海軍にいる仲間は奴隷として扱われている者の惨さを目の当たりにしていたためむしろ奴隷の解放に積極的に協力してくれていた。
もちろん奴隷たちを連れ去られて良く思わない者たちは存在したが、残された赤紙…つまり『文句があるなら赤髪海賊団に言え』という隠されたメッセージを読み取った何も知らない海兵や諜報員は何とか赤髪海賊団をどうにかできないかと考えているということだった。ちなみにピーターに聞いたところ「赤紙を置いてくるのは自分たちがどれだけの事をしたのか理解させるため」と言っていたが、残念なことにピーターの思惑は完全に外れてしまったと言っていいだろう。
ピーターは50年くらい前からこの活動を始めたと言っていた。つまり赤髪のシャンクスが生まれる前どころか海賊王が海賊王になる前から、この大海賊時代と呼ばれる時代よりも前から動いていたということだ。そしてサボが知っている範囲なんてここ10年程度のものであり、もしかしたら実は氷山の一角かもしれないのだ。
その話を利用すれば世界政府を揺るがすことも倒すことも可能かもしれない。
しかし世界政府を倒すことはできても、無関係の平和を享受している人たちも間違いなく巻き込まれる。もし万が一ピーターが死んで偽札が紙くずになってしまったら世界中が弱肉強食の物々交換の世界になる。悪魔の実の中で何かを生み出す能力者の場合、たとえその場を離れても意識を失っても生み出したものは残っていることが多いはずだが…残るにせよ消えるにせよモノがモノだけに結果を知りたくもない。
つまりピーターが死んだとしても偽札が残るかもしれないが、いろいろと覚悟が必要であまりにもリスクが大きすぎるためピーターにはとにかく長生きしてもらいたい。
サボたちが望んでいるのは世界の破滅ではないため、絶対にピーターを悪用されるわけにはいかないしその存在を知られるわけにもいかない。
それにサボが助けられたのはドラゴンたち革命軍のおかげだが、その後様々な知識や経験を積むことができて今があるのはピーターのおかげだと思っている。自分たちに平穏を与えてくれたピーターには危険な目には遭ってほしくないとも思っているが、これからも子どもたちを保護していくだろうからどこまでいっても危険と隣り合わせにはなるだろう。
「とりあえずおれに言えることは…ピーターはある意味この世界の要と言ってもいいくらいの存在だ」
「なんか思ってたよりデカい話になってきたな…そりゃこの島ともう1つの島で子どもを育ててるってんだからスゲェとは思うけど、世界の要ってのは言い過ぎじゃねぇのか?」
「はぁ!?この島ともう1つってどういうことだ!?」
「ピーターが自分で言ってたぞ?このネバーランドとネバーネバーランドってのがあるってよ」
「あのひとは……まさか知らないのかよ……」
「そりゃどういうことだよ?」
とにかく大事な存在だということだけ伝えたサボだったが、エースから返ってきた言葉の中に聞き逃がせない言葉が含まれているとは思わなかった。本当は言える範囲でピーターの成した事を説明しようと思っていたのに、ネバーランドが2つしかないなどとエースに説明しているとは思わなかったのだ。
よくよく考えればピーターは基本的にこのネバーランドを中心に活動しているし、ピーターはこの島の代表と呼べる存在だからこの島にいることが多い。
翻ってサボは革命軍として世界中を巡っており、各地でネバーランドの仲間に会うことも日常茶飯事と言ってもいいくらいだった。ピーターにとっては当たり前の事なのだろうが、しかしピーターに助けられ幸せをもらった子どもたちがピーターと同じ夢を見ないとどうして考えるのか…
もちろんそれぞれに冒険家や海軍や海賊などという道を選ぶ者たちだって多くいるし、自分やコアラのように革命軍という道を選んだ者だっている。ネバーランドではない別の島に根を下ろし穏やかに暮らす者だって多いし、結婚し子どもがいる者たちだっている。
しかしそんな中にピーターと同じ夢を見て目指そうとする者がいないと考えるほうがおかしい。
サボだって一度はその夢を見たことがある…ただ子どもだったからなのか直接的に根本を排除しようという考えのほうが勝ったから革命軍にいるというだけだ。そして全員にとって親とも呼べるピーターが掲げる理想を…夢を共に叶えたいと思う子どもがいないと思うほうがどうかしている。
「エース…一応言っておくがネバーランドは1つや2つじゃないぞ」
「ん?でもピーターがそう言ってたぞ」
「あのひとが忘れてるのか知らないのかわからないが、少なくとも4つの海には2つずつネバーランドがある。偉大なる航路のほうも前半後半合わせて…俺が知ってるだけでもこの島を除いてあと4つあるな。あくまでおれが知っているだけでだ」
「意味わかんねェよ…なんでピーターが知らないんだ?」
エースの疑問はもっともであり、そしてそれは誰よりもサボが知りたい疑問だった。
恐らく理由は「完成してから見せて驚かせたい」といったものだろうとはなんとなく予想できるが、島の存在を知っているサボはてっきりピーターも知っているものだと思っていた。別に悪意があって隠しているわけではないと信じているし、自分たちがピーターと胸を張って肩を並べたいという気持ちもあるのだろう。
さすがにピーターが『聞いていたのに忘れている』ということはないはずだ。子どもたちの名前をまったく覚えられないという悩みは年のせいとかじゃなく単純に多すぎて覚えられないだけとわかっているし、これはピーターがどうこうではなく誰も全員の名前を覚えるのは不可能だと思う。
サボだって関わりの深い人間ならともかく、それ以外となると覚えられる自信はないし間違って覚えている自信がある。かなり頑張れば2~300人くらい覚えられるかもしれないが、そんな人数など1年もかからず増えていく程度の少人数なのだからピーターの悩みは一生解決しないだろう。
「ピーターが知らない理由は…たぶんだけど完成して驚かせようとしてるか、連絡がつかないかどっちかだと思う」
「連絡がつかないって…電伝虫はあるんだろ?」
「よく考えてみろエース。おれたちの仲間は世界中に散らばってるんだ。そしてわりと頻繁に連絡を取り合ってる…つまり」
「電伝虫が常に使われてて繋がらないってことか…」
サボの答えにはエースも納得するしかなかった。このネバーランドには電伝虫が多数常設されているが、連絡員をしている仲間は1人1台の電伝虫を担当しているわけじゃない。
そして基本的に緊急と言えるような連絡はそれ専用の電伝虫を置いており、そうじゃないのなら話すことは世間話や雑談が多い。島を出てしまえば顔を見ることが少ないため…寂しい思いをしないようにと長話になることも多かった。
ピーターが知らない理由はわからないが、やはり何かあった時のためにも知らないということはなほうがいいはずだ。
そう考えたサボは明日にでもピーターに教えておくことにした。
どれだけサボが考えたところで既にネバーランドはピーター1人をどうにかすれば無くなるようなものではなくなっている。ならば今サボにできることは再会できた義兄弟と今を楽しむことであって悩むことではないはずだ。
「ところでさ、おれがいなくなってからの事とか、エースが海に出た時のことも教えてくれよ」
「もちろんだ。そういやルフィにもサボのこと教えてやらないとな」
「エースがしばらくここにいるなら、もしかしたらこの島で再会できるかもしれないな」
「サボは革命軍のほうはいいのか?」
「ああ、しばらくネバーランドで待機しろって言われたよ」
まだまだ語り足りない2人は酒の肴にと思い出話に花を咲かせるのだった。