桜は散らず、奇跡の少女と世界を渡る 作:タイラー二等兵
この作品も無印、2weiと章管理したほうがいいんだろうか。
エーデルフェルト邸。この日、わたしはその一室にいた。
「……うん。大丈夫そうね」
遠坂さんが、全裸になったわたしの身体をくまなく見てから言った。
「もう、服を着て結構ですわ」
ルヴィアさんに言われ、わたしはそそくさと服を着る。言っておくけど、そういった趣味嗜好でそんな格好をしてたわけじゃない。
「桜谷さん。視認、魔術的解析のどちらにおいても、あなたの身体に
「アヴェンジャーへの置換が始まる前で、本当に良かったですわ」
そうです。お二人は、大空洞で説明したアヴェンジャーのカードの副作用を心配して、この身体を調べてくれたんです。これはわたしにとっても願ったりでした。何しろアヴェンジャー……リリィちゃんを召喚してから、左目の瞳と髪の色も、すっかり元に戻ってしまったのだから。当然、リリィちゃんを召喚した時に、置換部分も共にリリィちゃんに戻っていったってことなんだろうけど、本当に元通りなのかはわからなかったから、これでようやく安心できました。
もっとも、置換が始まってた事を知らないお二人は、「幸いにも置換が始まってなかった」って勘違いしたみたいです。
……あと、
「……どうしたのですか? 急に落ち込んだみたいな表情になってますわよ?」
「……いえ、定職に就いていないので、金銭的な問題がありまして」
力無く答えると、ルヴィアさんはふむと考え込んで。
「でしたら、我が家で住み込みのメイドなどされてはいかがです?」
エーデルフェルト家のメイド!? しかも住み込みで!? おそらくわたしの監視的意味合いもあるんでしょうけど、それでもかなり美味しい話です!
「……反対」
そう言ったのは、今まで黙って見ていたリリィちゃんです。
「もうそろそろ実枝に任せてもいいという話だったのに、実枝が住み込みでこの家に来たら、結局わたし、この家から出られないってことじゃないですか」
……ああ、なるほど。ルヴィアさんの目的はわたしだけじゃなく、リリィちゃんにもあるってことですか。……はぁ、仕方がないですね。
「せっかくのお誘い、大変ありがたいんですが、もうしばらくはバイトの掛け持ちで頑張ってみようと思います」
「あら、そうですの。残念ですわね」
と答えるルヴィアさんが一瞬、「引っかからなかったか」とばかりの悔しそうな表情を浮かべたことは、わたしの胸の中にしまっておこう。
遠坂さんがメイドの仕事に戻り、わたしとリリィちゃんがルヴィアさんからお茶をご馳走になっていると、屋敷に呼び鈴が響き渡る。
しばらく経つと、執事のオーギュストさんが部屋までやって来た。
「お嬢様、お向かいの方々がお風呂をお借りしたいと……」
お向かい……という事は、イリヤちゃんの家だね。というか、なんでお風呂? ま、いいか。
「ルヴィアさん。わたしはそろそろお
「そうですか。では、ついでで申し訳ありませんが、見送らせてもらいますわ」
ルヴィアさんがそう言うと、リリィちゃんがハァとため息を吐く。
「面倒だけど、わたしも行きます。一応、実枝がわたしの保護者ということになってるんだから、知り合いの手前、顔を出さないのは不味いですよね?」
「リリィちゃんが、すごくまともなことを言ってる!?」
「……わたし自身そう思うけど、以前言った通り、呪いの影響が弱まってるのが原因じゃないんですか?」
などと言いながら、何故かわたしを恨めしそうに見つめてくる。わたし、何かしましたか?
わたし達が玄関……西洋建築の場合も普通に玄関って言うのかはわからないけど、わたし達がそこまで来た時、メイド姿の美遊ちゃんに連れられたイリヤちゃん達はその場で待っているとこ……えっ!?
「衛宮、士郎……さん?」
「え? あ、君は確か、桜谷実枝……だったな。なんだ、ルヴィアの知り合いだったのか」
「は、はい……」
な、なんで衛宮さんがイリヤちゃん達と一緒に!?
「えっ? 実枝さん、お兄ちゃんと知り合いだったの?」
「……イリヤちゃんのお兄さん?」
「あ、ああ。俺は親父の養子だけど、親父と母さんは籍を入れてないから、苗字……ファミリーネームは別なんだ」
そ、それで顔立ちが似てない上に、苗字も違っていたってわけですか。……えっ?
「な……」
わたしの横に立っていたリリィちゃんが駆け出して、突然衛宮さんへと縋りついた。イリヤちゃんとルヴィアさんは物凄く怖い顔をして、美遊ちゃんも驚いた顔をしている。
「 ──……」
リリィちゃんは聞き取れないくらい小さな声で、何かを呟いた。でも、彼女はわたし。何を言ったのかはわかってる。わたしが言いたくても言えない言葉、「先輩」……。
「……すみませんでした。わたしの知り合いに、似ていたもので」
「そ、そうか……って、こんなやり取り、これで三度目だな。……と言うか、君こそ俺の知り合いに似てるんだけど?」
ああ、そうだった。こちらのわたしと衛宮さんも知り合い同士、当然
「多分、他人の空似ではないですか? わたしの保護者は実枝ですから」
「……桜谷が?」
「あ、はい。遠くにいる親類の子で、リリィ・S・アヴェンジャー。この子の家の事情でわたしが預かることになったんです。ただ急だったもので、こちらの用意が済むまでエーデルフェルト家で預かってもらってます」
咄嗟に繕った話は、わたしにしては上出来だった。
「そ、それよりも皆さんは、どうしてルヴィアさんの所へ? 確か、お風呂をお借りしたいとか……」
「ああ、そうでした!」
わたしが話を逸らすと、イリヤちゃんの……歳の離れたお姉さん?っぽい人の片方が声を上げた。
「すみません。突然大勢で押しかけてしまって……」
「うわっ!? 遠坂!? なんだその格好!?」
「ぎゃーーーっ! 衛宮くん!? どうしてここにーーーっ!!」
イリヤちゃんのお姉さんっぽい人が話し始めたところで、衛宮さんと
そんな事は気にもとめずに、その人は説明を続けている。それによると、お風呂の給湯器が誰かに破壊されたかのように壊れていたらしい。なんか、物騒ですね。
── こちらのセラさんは、だいぶ世間慣れしてるみたいですね。
わっ!? ビックリした!
── え? 夢幻召喚中じゃないのに? もしかして念話ですか?
── ああ、説明してなかったですね。マスターとサーヴァントはパスと令呪の関係で、互いに念話で会話できるんです。
── そ、そうだったんですか。……それでリリィちゃんは、あの方達もご存知なんですか?
── 聴かれてない会話でもリリィ呼びなんですね。まあ、いいですけど。……今説明をしていたのがセラさん。もうひとりの、少し気の抜けた感じの方がリーゼリットさん。愛称はリズさんです。
──な、なるほど。……え? ホムンクルス? それってもしかして、イリヤちゃんも魔術師の家系という事ですか?
── その可能性はあるんじゃないですか? もしそうだとしても、こっちのイリヤちゃんはそれを知らずに育てられたみたいだけど。
── ……もし知ってるとしたら、クロエちゃんの方?
── そうかも。いくらアーチャーのカードの影響があるとはいえ、魔術について詳し過ぎますし、性格もクロエちゃんの方が、向こうのイリヤちゃんに似てますから。ちょっとはっちゃけ過ぎですけどね。
── もしかしてクロエちゃんって。
── それ以上の詮索はやめましょう。今までの会話は憶測に過ぎないですから。
── ……ですね。
そうひとまずの結論に達したところで、ルヴィアさんが。
「どうせだからアヴェ……リリィも一緒に入りなさい。ああ、
いつの間にかそんな話になっていた。いえ、確かに有難い申し出なんですが。
わたしはルヴィアさんをじっと見つめる。
「……」
ルヴィアさんは黙ったまま、視線だけをすいっと逸らした。……まあ、いいですけど。
因みに衛宮さんは、オーギュストさんと使用人用の浴室に行くことになった。なんだか衛宮さんを値踏みするような目で見てたけど、大丈夫でしょうか。
「わぁーっ、広い!」
イリヤちゃんが感嘆の声を上げる。確かに、とても広いですね。でも、わたしは入れなかったけど、エインズワースの大浴場も広かったので、イリヤちゃん程の驚きは感じなかった。
美遊ちゃんによると、住み込みで美遊ちゃんや遠坂さんがメイドをやってるので規模を大きくしたそうです。……ということは、美遊ちゃんと遠坂さんは使用人用のお風呂じゃないんですね。
どっぱああああん!
え!? 何事ですか!?
「イ、イリヤさん!? お風呂に飛び込むとは何事ですかっ!」
「セ、セラ、ごめんなさい! なんかテンション上がっちゃって」
? イリヤちゃんらしいけど、なんか慌ててるような……?
疑問に思いながらも浴槽に背を向けて、洗い場に腰を下ろすと。
ぱちゃ
「泳ぐのもマナー違反ですよ。イリヤさん」
「はーい」
え? イリヤちゃんと、ちょっと声が違う?
「ク、クロ……ッ」
ええっ!? 美遊ちゃんの声に振り返ると、確かにそこにはクロエちゃんの姿が。
「あー。クロエちゃんも入浴してたんですねー」
リリィちゃん? 気づいてましたよね? 喋り方がルビーに似て胡散臭いです。
よくよく見ると、浴槽の中央にある湯口が設置された大理石のオブジェの裏に、イリヤちゃんが隠れている。
「ミユ、リリィ、ミエさん! 誰でもいいからそいつ捕まえて、こっち持ってきてーっ!」
いえ、そんな事言われても、セラさんやリーゼリットさんにバレない様には、ちょっと難しいと思います。
「あら、イリヤさん。日に焼けましたか?」
「もー、セラってばお約束だなー」
湯船に浸かろうとするセラさんの一言に、クロエちゃんは平然と言ってのけた。なんて強メンタルなんだろう。
クロエちゃんはリーゼリットさんの後ろに回り込むと、背後から胸を揉みだした!? そんな事するクロエちゃんもどうかと思うけど、顔色ひとつ変えないリーゼリットさんもすごいと思う。
「リズお姉ちゃん、サイズいくつだっけ」
「92」
きゅ、きゅうじゅうに!? わたしもそれなりにある方ですけど、それを遥かに……あ。
「……何ですか、実枝。言いたいことがあるなら聞きますよ?」
思わず子どもの姿になった
「あ……」
とぷん
え? 突然クロエちゃんがお湯の中に消えて……。
どばああああん!!
大きな
「セラとリズは先に上がってて。わたしはもう少し入ってるから」
そう言って、ニコリと笑うイリヤちゃん。なんだか少し、怖いです。
── 実枝が怒った時の笑顔もあんなもんでしたよ。
── え? またまたぁ。
── ……無自覚ですか。
はぁ……とため息を吐くリリィちゃん。ほんと、大袈裟ですね。
「いい加減にしてよねっ! これ以上引っ掻き回されたらたまんないわ!」
「……不覚。まさかあの状況で全力砲とは……」
セラさんとリーゼリットさんが上がってからの会話ですが、……なんだろう。結構とんでもない攻撃してたはずなのに、なんだかただの姉妹ゲンカにしか見えないのは。
と、そこへルヴィアさんと遠坂さんが現れ……ルヴィアさんも大きいですね。あと、
「ちょうどいいわ。せっかく集まったんだし、棚上げにしてたことを話し合ういい機会ね」
遠坂さんがそう切り出した。というか、棚上げとはなんのことだろう。
「ねえ、クロ。そろそろ話してくんない?」
「ん? わたしの事?」
ああ、クロエちゃんを確保した時に、そういう話をしたってことですか。けれどクロエちゃんはやっぱりと言うか、それには答えようとしなかった。
「
「そう、それよ。クロの事ですっかり聞きそびれてたけど」
ドキリとする。[アーチャー]のカードの所在には、心当たりがある。けれどそれって、魔術師のお二人にとっては……。
「まず、桜谷さん。あなた、イリヤにカードの本当の使い方は教えてないわね?」
「は、はい。初めての
恐る恐る答えるわたし。
「そう。それを踏まえて、イリヤ。あなたこの間、カードを使って変身……夢幻召喚してたわね。あんなカードの使い方、わたし達は……協会でさえ把握してなかったわ。それこそ桜谷さんが使ってみせるまでは。それが何故……」
「あうー、そう言われても……。実はあれが初めてじゃなくて、セイバー戦の時も変身……
あ。バラしちゃった。わたしも口止めはしてなかったけど。
「上手く説明できないんだけど……、どうしようもなくなった時、どうにかしたいと思ったら、どうしたらいいかが思い浮かんで、気がついたらどうにかなってる……みたいな……」
……あれ? それってつまり、過程を飛ばして結果を得てるって事? その能力って……。
── やっぱりイリヤちゃんは、こちらでも……。
リリィちゃん?
「……今は?」
「え?」
「クロが出現して以降、そういった事はあった?」
「え……ないけど……」
イリヤちゃんの返答に、遠坂さんは少しだけ思考して。
「前にも話したけど、カードは一種の召喚器と考えられてるわ。高位な武装や礼装を媒介にして、一時的にその英霊の宝具の力を宿らせる。協会が解明できたのはそこまでよ。
なのに貴女は、自分の身体を媒体に英霊の能力を召喚した。……とはいえそれは桜谷さんも同様で、それがカードの本当の使い方だと教えてくれたわ。ただ貴女の場合は、
「そう……なんですか」
「とんでもないことをしたって自覚がないわね……」
ま、まあ、イリヤちゃんは知識は一般人だし、小学生だから仕方ないですよ。
「イリヤ。貴女はどうしたい?」
「え? わたし?」
遠坂さんに聞かれて、少し戸惑うイリヤちゃん。
「わたし達の目的は、全てのカードを協会に持ち帰る事。それさえ果たせるなら、他はどうでもいいってわけ。だからどう締め括るかは、イリヤの意思を尊重するわ」
「わたしの望み……」
そう呟いてから少しだけ考え込んで。
「そんな大したことじゃないけど、元の生活に戻りたい……かな」
……一瞬、静けさが支配する。それはきっと、子供が考えて子供が出した、そこまで深い意味の無い願い。だからイリヤちゃんには、その発言が内包するものの重大さには気づいてないんだと思う。
「……そうね。そうでしょうね。了解し ── 」
遠坂さんがそう言いかけたところで。
パアアアアアン!
「了解しないわ。勝手に結論、出さないでもらえるかしら」
タオルを湯口のオブジェに叩きつけて言うクロエちゃん。オブジェの叩きつけられた部分はヒビが入って陥没しているけど、今は些細なことだと思う。
「イリヤ。自分が言ってる意味、わかってる? 『元の生活』って何? 『元の生活』に、わたしはいた?」
そう。元の生活に、クロエちゃんはいない。もっと言えば、今、この場にいる人達……魔術礼装も含めて、イリヤちゃん以外は存在しなかった。
……わたしは魔術に関わってるけど、あくまで魔術使いで、どちらかと言えば普通の生活というものを望んでます。だからイリヤちゃんの言いたいことも理解してますが、それでも今の言い方では齟齬が生じてしまう。
「待ってクロ! まだ貴女をどうするか決まったわけじゃ……」
「嘘。リン達の望みは何? カードでしょう? カードは、ここにあるのよ」
クロエちゃんは自分の胸の中央に、軽く手を触れながら言う。やっぱり、そういうことでしたか。わたしも何度も夢幻召喚をしているから、おそらくそうじゃないかと予想は立ててましたけど。
「潮時、かな。茶番はお終い。どのみちわたしには先が無いみたいだし、それなら最初から仕切り直そうか」
『イリヤさん、構えて!』
「え!?」
「リリィちゃん!」
「……しょうがないですね」
イリヤちゃんはイマイチ理解してないみたいだけど、クロエちゃんが言ってることは……。
「つまり、わたしとあなたは敵同士よ」
そう言いながら投影したの、は!? 先輩が何度か使っていた、
クロエちゃんが躊躇いなく放ったそれは、イリヤちゃんが張った結界を粉砕し、リリィちゃんの影の帯を引きちぎりながら、それでも僅かに軌道が逸れて、浴場の天井と壁を破壊しながら
「逃げ、られた?」
「なんちゅー威力よ」
それはそうです。あの
── リリィちゃん?
── ……いえ。どちらかと言えば今回は、心情的にクロエちゃん寄りだったもので。
え? わたしと同じ存在なのに……。
── 念話に乗せてなくても、伝わってくる感情で何が言いたいのかはわかりますよ。
……わたしも、学校での生活が楽しかったんでしょうね。だから、イリヤちゃんに他意が無いのはわかってても、心の方はそうはいかなかったんだと思います。
そういう事ですか。こんな状況ですが、それでも
……それにしても、クロエちゃん。痛覚共有の呪いがあるのに、あの攻撃は結構本気だった。つまり死をも恐れてない、あるいはそれを無視してでもイリヤちゃんを殺そうとしてるってことだと思う。
「……ルヴィアさん、お願いがあります」
「
「わたしにも一枚、クラスカードを貸してください」
わたしはリリィちゃんのマスターです。ですが、わたし自身には戦う
だから、わたしも誰かを守るための力が欲しいんです。
「……わかりましたわ。取り敢えずお風呂を上がってから、詳しく話を聞きましょう」
……あ。わたし達、今、裸で……。わたしは顔を赤くしながら、そそくさと脱衣場へ向かうのでした。
実枝は
この作品、章管理したほうがいい? アンケート結果は次話から反映させます。
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するべき
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このままでいい
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それより続きを早く