SAOに来たんですが、キリトさんがいないようです 作:青い灰
1年越しってマジ?
忙しくなるって自分で言っておきながら……
あれから、2ヶ月ほどが過ぎた。
攻略で色々といざこざがあったりしたのだが、まぁそれはともかく。俺がアスナとよりを戻そうとして動きが早かったせいか、アスナが『攻略の鬼』とか呼ばれていないため、攻略は微妙にペースが落ちており、それをストレア加入もあり、何とか頑張って速めているのだが………
「……Zzz」
「えっ」
それはもう、驚いた。
アインクラッド第59層、主街区ダナクを歩いていた時だった。小川沿いの道に小さな人だかりが出来ているではないか。そこに向かってみれば、これだ。
「…えっ……えぇ……?」
二度見。それから思わず苦笑い。
芝生の上に寝転がり、すぅすぅと寝息を立てるKob副団長様、『閃光』のアスナがそこにいた。
確かに原作ではこの場所で寝転がっていたキリトとアスナの掛け合いがあり、流されたアスナがここで爆睡してしまうという話があった。
詰まるところ。
(お前が寝てるんかい!?)
というのが、俺の心境である。
まぁ確かに今日は呆れるほど心地よい天気で気温も丁度いい。周りの人目はあれだが、ここで眠るのは本当に気持ちが良さそうだった。現に、眠っているアスナは目覚める様子がない。
「……俺も寝ようかな」
その俺の呟きに、周りの者たちの視線が集中する。思わずいつもの調子が出てしまい、己の気の緩んだ発言を後悔する。
腐ってもアスナは血盟騎士団の副団長だ。アスナがギルドを放って俺たちと居られる時間は多くない。故に、ギルドや道端で偶然会った時は挨拶を交わすことすらない。そして(不本意なのだが)攻略組のソロプレイヤー代表になってしまった俺との繋がりは、世間には未だ噂程度にしか広まっていないらしい。
故に、多少しんどいが仕事とプライベートに公私を分けることになった訳だ。それが原因でまた仲違いしたこともあったが……
「……」
とはいえ、このイベントが来たということは、だ。ここは見守る他ない。断じて『俺も寝たい』という心境があるワケではないが、仕方ないので人ごみを掻き分けて進み出て、彼女の近くにどっかりと腰を下ろす。
「………見世物じゃないんだけどなぁ」
ともかく、メニューを開いてアイテムの整理をして時間を潰す。くすくすと笑い声が聞こえたり、熱い視線が注がれたりしている気がするが、次第に俺の行為の意味が分かったのか、彼等は少しずつ離れていったのだった。
そうして、エギルの店に売りつけに行くアイテムを整理し終わった頃だった。
「………んぅ……?」
声を漏らして、アスナが目を覚ます。
彼女は目を擦りながら、ぽやー、とした目をこちらに向けてくる。どうやらぐっすり眠れたらしい。
そして口を開けて大きな欠伸。1ターン後に眠ります。眠ってたまるか。
「じん……? おはよ……ふぁ」
「おはようさん。よく寝てたな」
「だってすっごいきもちよくて……へっ!?」
「分かるけど無防備が過ぎない? お父さん心配」
顔が真っ赤になるアスナ。
本当こういうところは感情に素直な表現がされるな、このゲーム………茅場はほんと何考えてんだか。
冗談はさておき、最近の事件を考えるとマジ危険だし本気で心配だよジンくんは。
「ご、ごめん……」
「引っぱたかれるかと思った」
「しないよ!?」
「好感度の上昇を感じる……」
原作はどうだったかなあ、等と思いながらしみじみと呟く。件のアスナはむー、と頬を膨らませていて少し不満そうだが。
「私、そんな荒々しい?」
「速さで殴るタイプなの俺と同じ脳筋……」
「ステ振りとタイプは関係なくない!?
鬼か何かだと思われてるの私!?」
「鬼かなあ」
「じゃあそれらしく引っぱたこうか!」
「ごめんゆるして」
怖い笑顔で腕を振りかぶるアスナに両手を合わせる。なんとか腕を止めてくれた彼女に胸を撫で下ろすと、彼女は大きく息を吐いて、くすくすと笑い出した。
「いいよ、守ってくれてたんでしょ?
許してあげる」
「よかった………っ」
そう安堵した時、胸の辺りに鈍い痛みが走る。
まるで心臓をわし掴みにされているかのような、強く締めつけられているような痛み。思わず、こみあがる感覚に、あるハズもない呼吸が詰まる。
「がっ……、げほっ……!」
「!? 大丈夫!!?」
「っ…ぐ、ぅ……いや、問題ない……から」
「……ううん、大丈夫じゃないよ。
少しホームに戻って休もう?」
「いやいや、ストレスか何かだろ。
ほら、前に笑う棺桶の話もあったしさ。
その時からちょっと、な」
「………………」
今更攻略組を抜けるなんてのは不味い。
胸の痛みで死ぬワケもないし、戦えないこともない。気合いと根性が足りていないのだ。きっとそうだ。
虚勢だとしても。それでも、やらなきゃいけない。
「……うん、落ち着いた。問題ねぇよ、ほんと」
「……………ジンさ、リアルで病気とかあるの?」
「お前ここじゃリアルの話は」
「教えて」
「ないよ。なかったハズだ」
そもそも俺の身体じゃないし。
前世の記憶もサッパリだから、あまり考えたくない。そもそも俺はこの世界の人間じゃない。部外者的な、そんな立ち位置だ。しかしここに立ってしまっていて今更膝を折るなんて赦されない。
そんなおかしな責任感で、今も立ち続けている。
本当は、自分が自分じゃないようで。
怖くて恐くて、仕方がないのに。
誰でもない自分が、生きていていいだなんて。
みんなが、それを証明してくれるのが嬉しくて。
「……本当に?」
「あぁ、リアルじゃみんな病院で
生命維持装置に繋がれてるだろうし、
そんなに心配することでもないだろうよ」
「……」
「まだ死ねない。このゲームをクリアして、
俺たちは寿命を迎えて死ぬんだ。
それがいい。そうじゃなきゃいけない」
「…………うん。そうだね」
「日々を頑張ろう。
今まで通りに、これからも」
「うん」
空は今日も、こんなにも青い。
たとえ、この空が誰かの夢だとしても。
今、俺たちが見上げる空は、本物なのだから。
そして、せめて。
本物だと、信じていたいから。
「さ、腹減ったしメシでも行くか。
折角だし奢ろう」
「いいわよ、私が出す。
見てて貰ったお礼もしたいし」
「んじゃー、それでチャラな」
こうして、オレはほとんど『あの事件』を忘れたままアスナと共に転移門に向けて歩き出した。
酷く、酷く。
辛い胸の苦しみを、隠しながら。