めちゃくちゃ堂々とあの方とか言ってるが第三勢力なんて存在しない 作:幽
お久しぶりです、薄めです。
お前はいつか、俺を蔑むよ。
静かな声で、そう言った。
脹相の弟は、己の顔を見ることもなく、そう言った。
特級呪物の九相図の一つ目、脹相は夜遅く、リビングに置かれたテーブルにいた。
ちらりと時計を見れば、時間はとうに真夜中と言っても差し支えのない時間になっている。
(・・・・今日は、帰らないのだろうか?)
そんなことを考えていると、かすかに玄関の入り口が開く音がした。
脹相はそれに慌てて立ち上がる。そうして、居間に入ってきた存在に淡く微笑んだ。
「黒、おかえり。」
それに黒は顔をしかめた。
「・・・お前、まだ起きてたのか。」
「ああ、俺はそこまで睡眠は必要としていないからな。」
「そうだとしても、寝ておけ。何かあったときに困るだろ。」
「何か食べるか?」
「いいや、いらない。」
「風呂は?」
「それもいい。」
黒は脹相のそれにどこかけんもほろろにあしらってしまう。それに脹相は更に言葉をかける。
「だが、何か腹に入れた方いいだろう?これから寝るんだろう?」
「いいや、することがある。だから。」
「兄ちゃんに何かすることはないか?手伝うことは?」
「脹相!」
黒に言葉を重ねる脹相にとうとう彼は怒鳴った。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
黒は不審そうにそう言った。脹相がそこまでしつこく聞いてくることが珍しかった。そのためにそう問えば、脹相はどこか苦い顔をした。
「・・・・お前がこの頃忙しなくしているというのに。俺たちは何もしていない。」
「いいや、よくしてくれているだろう。事実、教団の運営についてはお前もよくしてくれている。真依の護衛もだ。俺としては、ここのことを気にしなくていいのは気楽で助かっている。」
黒の柔らかな声に、脹相はそれでも顔をしかめた。
そうして、真依が作った呪具のせいで顔立ちがはっきりとわからない黒を見た。
わかっているのだ。
黒の様子がおかしいと。
「お兄ちゃんが、この頃、私に冷たいの。」
「・・・・そうなのか?」
その日、脹相は、黒に言われて彼女の工房に籠っている真依に声をかけた。
黒としては現在、真依が通っている高校の卒業を優先して貰いたいようだが、それはそれとして頼み事の解決が進んでおらず、なかなかに悩ましいことになっていた。
「お兄ちゃん、高校だけは卒業しろって五月蠅いんだもん。私は止めても良いのになあ。」
「でも、高校のお友達と遊ぶの、楽しいんでしょう?」
「・・・・そうだけど。」
そんなことを弟に愚痴っているのを聞いた覚えがある。
部屋の中には、おびただしいほどの人間の体が転がっている。
「上手く出来ているように見えるが。」
「見えるだけよ。人体錬成が出来ても、器じゃないと意味ないの!そこにあるのは、人間の形をした肉よ。はあ、神経も、内臓も、筋肉も作りも完璧なのにどうしても上手く行かない!!」
真依は不機嫌そうに吐き捨てた。
とあるマンションの一室にて、おびただしいほどの肉体が転がっている様はなかなかの光景だ。
「片付けはどうする?」
「もったいないから呪力に分解するからいいわ。」
「そうか、ほら、昼食はどうする?何か食べるか?」
「パン食べたい。」
「チーズトーストと、あと、スープでも作るか。」
脹相は真依の世話を頼まれていた。そのために、教団の方に関しては弟たちに任せていた。真依は、台所で料理を作っている脹相を見つめた。
「ねえ、脹相はどう思う?」
「何がだ?」
「お兄ちゃん、この頃、全然私たちに構ってくれないじゃない。何か、知らない?」
それに脹相は少しだけ考える。
「・・・・高専に赴いてから、そういった気があるかもしれん。」
元々多忙で、この頃はあまり家に帰ってきていないのは事実だ。けれど、それにしてはこの頃は確かに家を空ける頻度が多くなっているようだった。
脹相は顔を思いっきりしかめた。
くもという組織が気に入らない。
弟をこき使っているのはもちろん、負担を自分たちが背負おうとしても拒否される。
「上から、俺が主に動くように言われてるんだ。」
そう言われればどうしようもない。
黒は組織から離れる気はないようではあるし、それを無理矢理なんとかするのが難しいことはわかっている。
(だからこそ、今日こそは話をしなくては。)
脹相がその日、珍しく黒が帰ってくるまで頑なに寝ることもなく待っていたのは偏にそのためだった。
明らかに、黒が自分たちに関わる頻度が少なくなっている。
黒は元々上からの命令で一人で動くことが殆どでも、頻繁に連絡はしていた。半呪霊の自分たちや、まだ子どもの真依の様子を聞くために頻繁に電話などをしてきていた。
けれど、高専の襲撃以降、明らかにその連絡の頻度が少なくなっている。何よりも、自分たちを避けているのだ。
帰ってくれば共に食事をし、軽い談笑はしていたというのに、この頃は書斎に籠り一人で何かをしているのだ。
可笑しいと、脹相自体もわかっていた。弟たちや、灰原からも様子がおかしいと話はあった。
そのため、今回は脹相が代表して話をしようと思ったのだ。
その話があってなかなかの少々の時間が経ってしまったが、ようやく黒を捕まえられたんだ。この機を逃すわけにはいかない。
「この頃、明らかに一人で何もかもをしすぎだ。俺たちにも振れる仕事はないのか?」
「心配しなくて良い。俺が無理をするほど仕事はしていない。この頃は、色々と準備をすることが多いだけだ。」
なんてことがないようにそういう黒は、そのまま書斎のほうに向かっていく。それに脹相は声を荒げるように言った。
「真依を避けているだろう?」
その言葉に、黒の歩みが明らかに止まった。それに、脹相はたたみかけるように口を開いた。
「・・・・お前は、真依に頼んだことがあるから、それを邪魔しないためだと言ったが。それでも、あまりにも可笑しすぎる。すでに下の弟たちの器は完成している。そうして、常に、あの子のことを気にしていたお前が電話をすることも避けているんだぞ?だから。」
「だったらなんだ!?」
だんと、黒が近くにあった机を力のままに叩いた。それに脹相はびくりと体を震わせた。
末の弟がそんな風な振る舞いをしたことなんて、こんなわかりやすい暴力性を示した事なんてなかった。
それ故に、黒がどれほど動揺しているのか理解できた。
けれど、それも一瞬のことだ。
黒はぱっと振り返り、そうして淡く微笑んだ。
「ああ、そうだな。この頃は忙しくてな。少し、苛々してた。すまん。」
淡く笑う、笑って、いつも通り。
飄々と、淡々と、いつも通り弟は笑っている。顔立ちが曖昧であれど、表情だけははっきりとわかる。
いつも通り、笑っているのだと。
「黒。」
「真依が不安に思っているなら、また時間を取る。というか、今度、埋め合わせで出かけろと五月蠅いんだ。だから。」
「俺は、お前の兄だ。」
それに黒はずっとそらしていた視線をようやく向けた。その顔は、なんだか、傷ついているように見えた。少なくとも、脹相には見えた。
「今まで、お前には、世話になってばかりだ。俺たちに肉体を与え、こんな風に暮らせていけるのも。俺だけだったならば、人と生きていくこと自体、想像できなかっただろう。真依のことも、灰原に会えたことも、俺にとっていいことだった。今回も、俺が、諦めていた他の六人と会わせてくれた!俺は、本音を言えば、兄としては恥ずかしい、と思っている。」
「・・・・・脹相、お前はよく。」
「いいや!俺は、何も出来ていない!今だって、俺は、お前にそんな顔をさせている。」
脹相はぐっと背筋を伸ばして、弟の腕を握った。
「黒。俺は、お前の兄なんだ。」
「・・・・ずっと、そう言っているだろう?」
「お前は、何もわかってくれていない。黒、お前の背負っているものがなんなのかはわからない。だがな、お前の背負っている物を、俺も背負いたいと思っているんだ。」
じっと、脹相は目の前の青年を見つめた。
その青年が、本当は何をしているのか、脹相は知らない。ただ、散々に人間社会に溶け込むように振る舞い、学習を行ってきた男には、わかっているのだ。
その青年が、お世辞にも真っ当なことをしていないことぐらいは。
けれど、それがどうしたというのだろうか?
彼は己の弟なのだ。
目覚めてすぐに、目の前にいた青年。ああ、弟なのだと確証を得られたとき、それはどんな、得がたい感情であっただろうか?
いいや、それよりも、脹相の中には悲しみが生まれた。
自分は良い。
だって、ずっと彼には弟がいた。
けれど、その末はどうだろうか?
灰原も、真依もいた。
けれど、脹相にも、そうして黒の近くにいる皆がわかっていた。
その青年の中にある、重しのような、くもというものに組み伏した彼の苦しさを本当の意味で慰めることは、その孤独を癒やせているものがいないことぐらい。
自分たちは、ずっと無理解のままだ。
「お前が何をしているのか、結局俺にはわからない、知らない。だが、それでも、俺はお前の味方なんだ。」
揺るがずにそう言った。
共に、暮らした今までの日々。その中で、弟は、何かずっと脹相の知らない何かを背負って生きていたというのならば。それを背負ってやりたいと、今の彼の中にある何かを振り払ってやりたいと思うのは当然のはずだ。
脹相たちの知らなかった可愛い、末の子。
それが忌々しい、あの男の血縁であったとしてもどうでもいいのだ。
ならば、そんなことを気にならないぐらい自分たちが愛してやればいいと、そう。
「・・・・脹相。」
静かな声がした。それに脹相は改めて、青年の目をのぞき込んだ。
普段通りの、穏やかな瞳が自分を見ていた。
「お前は、いつか、俺を蔑むよ。」
掠れたような声が返ってきた。
板取祐礼は、心底後悔、というか、恥じていた。
精神的にごたついていたという自覚はあった。けれど、祐礼はそれに特に何かを感じていたわけではない。
その地獄は、祐礼自身が選び、そうして受入れたものだ。
真依の件でさえもそうだ。
術式を使って、真依の気を変えさせることはできた。けれど、祐礼はそれをしなかった。
何故って、祐礼の計画にとって、真依の能力が上がるのも、そうして、真希が甚爾のレベルに達するのも都合がよかったのだ。
ならば、どんな決断をするのかなんて、明白だ。
いたどりゆうとは、虎杖悠仁の地獄をことごとく否定するためにどんなことでもすると誓った。
ならば、何を悲しむことも、苦しむことも、赦されるのか?
だから、いい。
この苦しみも、妹が失った物も、姉が奪われた物も、何を嘆く資格がある?
吐き気がする、軋む音がする、けれど、大丈夫だ。
いつものことだ、よくあることだ。きっと、やるべきことをしていけば、いつかは薄れて、目をそらせるようになるから。
いつかに、初めて人を殺し、誰かを騙し、尊厳を踏み潰すことに慣れたときのように。
そんなものだ。
そんなものだから。祐礼は変わらず、淡く微笑んだ。
いつも通り、大丈夫だと言おうと思ったのに。
蔑むと、何故、そんなことを言ってしまったのだろうか。
祐礼は自分の言ったことが信じられずに、思わず口を覆った。
(・・・やばい。)
こんなことを言う時ではない。
少なくとも、脹相からの信頼はまだ必要なのだ。ここで自分たちの、それこそ呪石の存在を知っている脹相たちに離脱されれば殺すことも考えなくてはいけない。
不審を買った可能性を考えて、祐礼は動揺するそれらを押し殺して脹相に微笑んだ。
「脹相、なあ!」
「ありえるはずがない!」
慌てた祐礼のそれに、脹相は被せるように叫んだ。ぎちりと、掴まれた腕が痛むほどに強く掴まれた。
脹相はそのまま祐礼を力尽くで自分の方に引き寄せた。そうして、その背中に手を回した。
「そんなことを、あり得るはずがないだろう!?」
押し殺した声で、脹相はそう叫んだ。彼にとっては、それはある意味で当たり前の言葉だった。
「お前が、例え、どんなことをしたとしても!俺はお前の味方だ!弟たちだってそうだ!お前の、お前のためならばなんだって!」
どんなこと?
祐礼は、己の喉に何かが張り付くような感覚がした。いいや、喉の奥から嘲笑が漏れ出てくる気がした。
どんなことでも?
いいや、嘘だ。きっと、嘘だ。
自分が真依にしたそれは、脹相にとって何よりも侮蔑すべきことだ。
二人きり姉妹。あの地獄を、二人で生きた彼ら。
その絆を踏みにじった自分が、どうして赦される事なんてあるのだろうか?
そんなことはありはしない。
少なくとも、その男にとっては。
何か、その時、まるで反吐を吐くような、そんな衝動に駆られてしまった。
疲れ果て、苦しみ、何か、のたうち回るような感覚だった物だから。
祐礼は、脹相のことを振り払った。
「俺が、何をしてもか?」
「当たり前だ!」
「俺が、真依に何をしたのか、わかっているのか?」
祐礼は視線をそらし、全てを見つめることを拒絶するように床に目を向けた。
「真依が、双子の片割れのことをあまり話さなくなったのは知っているだろう?そうして、あの子の術式が明らかに出力が上がっていることも。あの子はな、そのために、そのために!」
「姉への愛を捨てたんだろう?」
「え?」
祐礼はそれにばっと顔を上げた。そこには、穏やかに微笑む脹相がいた。
「・・・・・お前は、弱点になるから縛りの内容を話さないように伝えたんだろうが。真依は、お前が自分に寄りつかなくなった理由を察していた。俺に、話をした。」
・・・今、どんな感情かって言われるとさ。なんか、鮮烈な初恋に決着がついたって感じなの。とても、ずっと、胸の奥で大事に抱えた、血の通った何かが、思い出に成り果ててしまった感じ。不快じゃなくて、でも、心を動かすほどに激しくもない。
全部が、過去になって、それを慮って、ないがしろにするわけでもなくて、ただ、記憶が、記録になったみたいに遠くて、穏やかになっただけ。
それを、お兄ちゃんは、不幸だと思ってるんでしょうね。忘れたわけでも、憎いわけでもなくて。
ただ、終わっただけなのに。
脹相は、その言葉の意味を全て理解しているわけではない。
弟たちへの愛が消える。それは、彼にとって何よりも恐ろしいことだ。けれど、真依の穏やかなそれに、脹相は理解したのだ。
少女は、選んでしまったのだ。
それが、何と何の天秤をかけての話なのかはわからないけれど。
けれど、姉への愛を捨てるという少女の覚悟がどんなものか、脹相は、その大きさを理解してしまったから。
一つだけ、誓ったのだ。
「黒!お前が、自分のなしたことをどれだけの罪だと思っているのか俺にはわからない。だが、それでもだ!いつか、償うときは、俺も償おう。墜ちる地獄があるのなら俺も共に落ちよう!」
「そんなことをするのは!」
「いいだろう?だってなあ。」
俺は、お前のお兄ちゃんなんだ。
何を言えばいいのだろうか?
わからない。
だって、そんな義理は目の前のそれにはない。ただ、自分の計画に組み込んだ、一人のコマ。与えた瞬きの幸福さえも、彼らを懐柔する一つのえさだ。
兄?
弟?
いいや、自分の兄弟なんていない。自分は、どこまでも他人で。
なのに、なのに、どうしてだろうか。
ぼたりと、涙が零れた。
へなへなと、その場に祐礼は、座り込んでしまった。
そうして、無抵抗なままに、脹相に抱きしめられる。
「ああ、大丈夫だ!お前の罪があるなら。それは、俺のものだ。だから、大丈夫だ!」
強く、強く、抱きしめたそれに祐礼はぼんやりと水面の中から見つめるような歪んだ電灯を見つめた。
脹相と血塗と、壊相の違いはなんだろうかとよく考えていた。
「なあ、黒?話聞いてるのか?」
「だ、ダメだよ。そっとしておいたほうが。」
例えば、見た目の話だ。
脹相の方が人としての形を保ち、そうして、血塗は明らかに呪霊寄りの見た目をしている。
それがダメという話ではない。ただ、何故、という疑問があった。
産まれるのが遅れるにつれて、羂索の影響を受けて呪霊に近いものになっているのか?
それとも、元々の肉体の相性の違い?
元々、呪具を使い人に化けていた壊相と血塗であるが、何かあったときのことを考えて見た目についてなんとか出来ないかと考えていたのだ。
そこで思いついたのが、真依に少なくとも、次男と三男の肉体を作らせることだった。
丁度、真希との繋がりを断ち切った彼女は、何か明らかに術式の出力が上がっていた。
特級呪物の器たり得るものになる肉体を。
けれど、それは難航した。
当たり前で、そんな簡単に特級の肉体、器たり得る物が出来るわけではない。
「だめえ、結局全部、ただの呪力で作った肉でしかない!」
「難しいか?」
「元々、私はどんなものか知っているものならってだけだから。さすがに存在だけは無理なのかな?」
「元になるもの、構造か?」
「そうそう。」
ぼやくようなそれに、羂索に探りを入れるかと一瞬考えて、さすがにリスク過ぎるかと考えた。
(特級の、入れ物。)
それに彼は己の弟を思い浮かべ、そうして、ふと自分の指先に目が行った。
虎杖悠仁と、一卵性である双子の自分。
「・・・・そうか。」
「どうしたの?」
「いや、材料になるものが丁度あったと思ってな。」
その言葉通り、祐礼の肉体は丁度良いサンプルになった。
おかげで、壊相と血塗も、人間社会に紛れていても遜色のない器を手に入れた。
そこで、祐礼は思ったのだ。
夜我の作った、パンダという呪骸というそれの作り方。
魂の情報が入った三つの核を使い創り出される、完全自動型の呪骸。
呪骸というそれの作り方については、黒鷲という存在として行動している折に情報は入手できた。
祐礼は思い出した。
あるじゃないか。魂の情報が入った、三つを一組とした、特級呪物が。
「でもさ、全然反応しないんだぜ?」
「でも、何か、考え事してる、かもしれないし。だ、だから、邪魔しちゃダメだよ・・・・」
「はあ、散相は怯えすぎなんだよ!もう少ししっかりしろよ!」
「で、でも、膿爛兄も、ぐいぐい行きすぎなんじゃ?」
祐礼は目の前で言い争う二人をちらりと見た。
そこにいるのは、およそ中学生ぐらいの二人の子どもだった。
二人は、まるで双子のようによく似ていた。
真っ黒の髪はおかっぱで、前髪も綺麗に切りそろえられている。それこそ、日本人形のような雰囲気を醸し出している。
それと同時に、顔立ちもよく似ているが、唯一違うのは目だろうか。
兄に当たる膿爛はつり目であり、散相は垂れ目をしており、性格を表しているようだった。二人とも、おそろいのセーラー服のような服を着ている。
(・・・・・顔自体は、有名人に似ていなければいいとはいったが。)
二人の顔は、何というか、真依と真希に似ている気がする。いや、禪院家顔、というのは変かも知れないが、わかりやすく言えばそうだろう。
祐礼の目論見は見事に当たった。
特級呪物たる九相図は、見事に自立した呪骸の核として機能している。
表立った人格以外も意識はあるようで、二人を介して意思表示をしている。
「大体、せっかくのおでかけなのに!脹相兄たちにしっかりできたって言わないといけないんだから!」
「でも、黒の言うこともちゃんと聞くようにって。」
膿爛は勝気で、散相は控え目な性格をしている。
二人のことを見つめていた祐礼は、座っていた公園のベンチから立ち上がった。
「あ、ようやく起きた!」
「の、膿爛兄、寝てなかったと思うよ?」
「・・・・ああ、悪かった。」
「もう、黒はしょうがないな。でも、俺はいいお兄ちゃんだから、そんな弟のことも赦してやるよ!」
「そうか、ありがとうな。じゃあ、もう少し散歩したら帰ろうか?」
その言葉に、二人は明らかにがっかりした顔をする。
それも仕方が無い話で、二人が外に出られることは今のところは滅多にないのだ。
呪骸である二人は、いつ、その在り方が崩壊するかわからないため様子を見ていたのだ。
今のところは特に何かあるわけではないため、ようやく真依の工房から出て、人間社会の常識を学んでいる最中なのだ。
今のところは、人気の無い真夜中に、人間社会のことを少しずつ実感させている。
(他に、電車の乗り方とか、あと、一旦はキッズ用のフィルタリングしたスマホか、タブレットを渡して。血塗に任せればある程度のことは学べるか。)
やっかいなことは、呪骸として産まれた彼らは、器を持っていた脹相たちと違い、何もかも、それこそ赤ん坊同然の知識しかなかったことだろう。
(脹相たちがいてよかった。赤ん坊同然の特級呪霊の世話を一からしてくれる存在は本当にありがたい。今から子育てなんてしてる暇もねえし。)
「・・・次は、昼間に出てこようか?」
「! 本当!?」
「昼間の外に出られるの?」
「ああ。少し、行きたいところもあるんだ。」
「生きたいところ?」
「ああ、気になる駄菓子屋があってな。」
「駄菓子や!知ってる!お菓子がたくさんあるとこだ!」
「そこで、買い物の練習もしようか?」
「ほんと?」
嬉しそうに笑う散相の頭を祐礼は撫でた。それに膿爛が羨ましそうに見ているのを見てまた、同じように頭を撫でた。
脹相がいれば、涙を流しながらスマホで動画を撮っているところだろう。
(まあ、膿爛と散相が何かするだけで泣くから置いてきたんだが。)
祐礼は、新しい、兄弟のことを見下ろした。
その、六人と再会出来たことに九相図の三兄弟は、それこそ涙を流しながら祐礼に感謝をした。
また、会えるなんて思っていなかった。
兄弟全員で、食卓を囲めるなんて夢のようだ。
そんなことを言うのだ。
それに祐礼は目を細めた。
(俺は、結局、こいつらだって戦闘に放り込むっていうのに。)
これから、忙しくなる。羂索の計画さえも、もうすぐで時期が来る。ならば、本格的にこの二人も使えるように色々と叩き込む必要があるのだ。
今でも、脹相の言葉が頭の中で踊っている。
背負ってくれると、共に償おうと、そういった優しい兄のことを思い出す。
けれど、それと同時に、祐礼は淡く笑った。
それでも、結局の話、祐礼の罪は祐礼だけの物ならば。
(嬉しかった、嬉しかったんだけどなあ。)
その救いを、祐礼は結局必要としていない。
祐礼が考えているくもなんかの設定について知りたいでしょうか?小説の中ではたぶん部分的にしか出てこないので、関係ないと言えば関係ないんですが。
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知りたい
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別にいい