彼に舞い込んだ一件の依頼は新たなる戦いの幕開けでもあった。
リビドークロスとは?
凶悪ママ友集団とは?
未確認反社会人妻とは?
数多の変態と風評被害に仮面ライダーが挑む!
善と悪、そして欲望の風が吹く街──《
そんな街を、街に住む人々を蔓延る巨悪から守るヒーローがいる。
仮面で顔を隠し、バイクで颯爽と現れる戦士。街の住人達はこう呼んでいる──《仮面ライダー》と。
お天道様が顔を出し、街が活動を開始する朝方。
私立探偵である俺、《
一見なんの変哲もない団地だが、立てかけてある看板の多さがやけに引っかかる。
「痴漢注意」
「不審者見たら110番」
「変質者出没注意」
風都の中でもこの辺りだけは異様に変質者が多く出るらしい。
事前に仕入れた情報では、女の不審者が現れて若い男が襲われていると。
最初はウォッチャマンのただの願望交じりの軽い噂だと思ったが、あの情報屋の情報は確かだ。
「女の不審者ねぇ……」
団地には子供も多くいる。
街の未来を守るためなら、誰が相手だろうが関係ねぇ。
俺の信条はいつだって変わらない。街を泣かせる奴は許さない。
「あの、探偵さんですか?」
団地を見回していると、箒を持った気弱そうな男が話しかけてきた。
見た目はかなり若く、中学生ぐらいにしか見えない。
「ああ、鳴海探偵事務所の左翔太郎だ。アンタは?」
「僕はここの管理人のヨシダです。代理ですけど……」
管理人と名乗る根暗な男は目元まで伸びきった前髪を揺らし、頼りない態度で出迎えてきた。
ヨシダという名前は確かにウチの依頼人の名前だが、前に事務所に来た時はもっと年齢が上だったはずだ。
「前の管理人はどうした?」
「父は身体を壊して入院してしまったので、僕が代理をすることになりました」
「息子さんだったか。じゃあ今の依頼人はヨシダさんってことでいいんだな」
「はい。よろしくお願いします」
俺はそのまま事務所に通されて、今回の依頼の経緯を改めて聞くことになった。
ヨシダさんは高卒後の就職に失敗して引き籠るつもりだったところで、団地の管理人である父親が倒れてしまい代理を務めることになったとのことだ。
ってか高卒だったのか……。
「一応、初就職ですし父のためにも頑張りたいですので、お力を貸していただけると……」
「あ、ああ。任せておきな。どんな事件でも俺がハードボイルドに解決してやる」
「は、ハードボイルド……?」
クールに決める俺に反し、ヨシダさんは困惑していた。
ま、根暗なひよっ子には鉄の男の魅力は分かんねぇか。
「で、依頼内容が不審者の捜査と撃退ね」
「はい……この団地、おかしな人がウジャウジャいるみたいで」
おいおい、不審者って団地の住民かよ……。
「倒れた父が言っていたんです。夜は絶対気を付けろ、特に人妻には……と」
ヨシダさんからの証言に思わず唖然となった。
夜に出るのは分かるとして、人妻前提なのは何か意味でもあるのか?
「でも、今日から夜の見回りをしなくちゃいけなくて……左さん、着いてきてもらえますか?」
「そこまで目星がついてるなら警察に行った方がいいんじゃないか?」
「警察は何故か取り合ってくれなくて……自分でも馬鹿げた話だとは思うんですけど、怖くて」
この話、照井が聞いたら「俺に質問するな」で終わりそうだもんなぁ。
ま、これも依頼主からの頼みってことで。
「分かった。夜になったら戻って来るからそれまでは情報収集で動かさせてもらうぜ」
「はい。お願いします」
ヨシダさんと別れた俺は団地の周辺を一通り見回ってみたが、人妻の井戸端会議や子供の遊ぶ姿など、平和そのものだ。
この和やかな風景の中に不審者が潜んでいるなら許せたもんじゃない。
「コラッ! ダメじゃない!」
一旦ハードボイルダーから降りて休んでいると、公園の方から女性の叱る声が聞こえてきた。
様子を見に行くと、ジャングルジムの近くで子供を叱る女性の姿がある。
「ジャングルジムからジャンプしたら危ないでしょう!」
どうやら、子供がジャングルジムから飛び降りたのを見た女性が注意してるようだ。
これだけなら普通の光景だな。
「もう……キミみたいな可愛い子がケガしたらどうするの」
女性は少年の身体に傷が付いてないか看た後、ギュッと強く抱きしめた。
おいおい、流石にくっつきすぎなんじゃないのか?
「あの女、またあんなことしてる……」
いつの間にか、別の女性が俺の隣で一連のやり取りを見て毒づく。
「またってことは前にもあったのか?」
「ええ。あの女、もう団地中の男の子にああやって抱き着いているのよ。貴方は?」
「俺は左翔太郎。この団地の不審者を追ってる探偵だ」
「2号棟のカタギリよ。丁度良かった、あの女も一緒に捕まえてほしいわ」
カタギリと名乗った女性(彼女も人妻らしい)はウンザリした表情で件の女性について話し出した。
先程の女性は1号棟に住むワタナベというそうだ。何でも、自分の子供にすら手を出しそうになったくらいの重度のショタコンらしく、旦那が子供を連れて出て行ってしまったそうだ。
それ以来、児童養護員として見回りながら少年を家に連れ込んでいる、とのこと。
「そこまで分かってるなら警察に」
「証拠がないから取り合ってくれないのよ。あの女、警察相手にもすごい剣幕で逆ギレしたっていうし」
俺の言いたいことを遮り、情報提供を続けるカタギリ。
それにしても、あらゆる状況まで把握してるこの女は一体何者なんだ……?
「とにかく、夜になればあの女が本性表すでしょう。管理人さんも警備に出るし、探偵さんもお願いね」
「お、おい! ったく、言いたいことだけ言ったって感じだな」
他人に押し付け気味だったが、とにかくワタナベって人の情報は手に入った。
「……ま、今回はドーパント絡みじゃなさそうだし、コイツの出番はなさそうだな」
懐のポケットから黒いメモリを取り出し、俺は今回の事件が穏便に済まされることを願っていた。
それが絶対にありえないことだったとしても。
日が沈み、夜の闇を電灯が照らす。
昼とは別世界のように鎮まった団地を、俺とヨシダさんは見回っていた。
「怖いなぁ……嫌だなぁ……」
父親のためと言っていたヨシダさんだが、口を開けばネガティブな発言ばかりが呟かれる。
就活の前に根暗な性格をなんとかした方がよかったんじゃないか?
「……左さんは怖くないんですか? 変態が出て襲われるかもしれないのに」
「変態は勘弁してほしいけど、もっと恐ろしい目にはあってるからこれくらいは何ともないな」
恐怖。
一度、俺は恐怖に心が折れたことがあった。
けど、相棒が俺を信じてくれる限り二度と俺は折れないと誓った。
だからもう俺は恐怖には屈しない。
「僕も、左さんみたいに強ければ……」
「なれるさ。まずはその髪からなんとかした方がいいかもな」
「髪……」
「俺の師匠が言ってた。男の目元の冷たさと優しさを隠すのが帽子の役目ってな。けど、アンタの前髪は目元を遮ってるだけだ。そんなのバッサリ切って、帽子の似合う男になってみないか?」
「帽子の似合う男に……」
俺は今度は帽子のよく似合っていた師匠を思い浮かべる。
自分の愚かさのせいで死なせてしまった。あの時、帽子を託されてから今日まで、俺はちゃんと一人前をやれているだろうか。
「ダメだよぉ……」
感傷に耽っていると、女性の声が聞こえて来る。
この声、何処かで聞いたことがあるな……。俺とヨシダさんは声のした方へ向かった。
「あれは!」
そこにいたのは、ワタナベだった。
昼間とは違い、ほとんど紐だけのような露出狂とでも呼ぶべきボンデージ姿で、すぐ傍には首に紐付きの錠を付けられて捕まっている男の子がいる。
「夜中に出歩いちゃダメなんだよぉ! 悪い子は連れて帰るからねぇ!」
言っていることは正しいのだが、やっていることは大いに間違っている。
これではカタギリの言っていた通り、児童を連れ去るショタコン変態女だ。
「オイ、アンタ! 何してんだ!」
「うわぁ!?」
ワタナベは俺達に、いやヨシダさんに気付くと手首についた装置からアンカーを射出し、ヨシダさんの腕や首を捕えてしまった。
とても素人の動きじゃない。それに、あの目……変態だとしても正気を失っているようだ。
「わ、ワタナベさん!? 何を……!?」
「管理人さんも、こんなところを見ちゃダメなんだよぉ……? 管理人さんも連れて帰っちゃおうねぇ……そうすれば、皆私の子供だからねぇ!」
狂気に染まった笑顔で舌なめずりするワタナベ。
格好も合わさって扇情的だが、生憎俺にはそんな趣味はなくてな!
「俺の依頼人を離してもらおうか!」
俺はスタッグフォンにギジメモリを装填し、ヨシダさんと男の子を捕まえているワイヤーを切らせる。
いくら正気を失った変態とはいえ、
ワタナベは男の子を逃がした俺を鬼のような形相で睨みつけて来る。
「何で逃がしたんですか!? 貴方も私から子供を取り上げるんですかぁ!?」
激昂するワタナベさんはアンカーを俺に飛ばしてくる。
が、それもスタッグフォンに阻まれる。さて、柔肌を晒したレディに手を挙げるのは気が引けるが、相手は犯罪者。遠慮なく捕まえさせてもらう。
「もぉぉぉぉぉぉぉう! 邪魔しないでぇぇぇぇぇ!!」
〔kidnapper〕
「は……?」
これで事件も終わり。
そう確信したのも束の間、ワタナベさんの様子が更に一変した。
聞き覚えのある電子音が聞こえた後、露出の激しかった姿はまるで人間を超えた怪物とでも呼ぶべき風貌へと変わっていった。
間違いない。これは
「子供は母親に従いなさぁぁぁぁい!!」
あの普通じゃない衣装。どうやらアレに仕掛けがあるようだ。
キッドナッパードーパントとなったワタナベは身体からアンカーを複数射出し、スタッグフォンとヨシダさんを捕まえてしまった。
「……ったく、まだまだ風都からドーパントはいなくならねぇな」
まさかガイアメモリ以外からドーパントが生まれるなんて。相棒が聞いたらきっと興味津々だろうな。
俺は懐からドライバーとメモリを取り出し、腰にベルトを巻き付ける。
「いくぜ、相棒」
俺は相棒を呼び──深く溜息を吐いた。
あぁ、またやっちまった。
「癖は抜けねぇな」
相棒──《フィリップ》はもう消えた。
ユートピアドーパントとの戦いから半年ほど経つのに、ダブルだった頃の癖で変身前はつい呼んでしまう。
仕切り直しとも言わんばかりにメモリを放り投げ、構え直す。
〔Joker!〕
「俺、変身!」
ガイアメモリをロストドライバーに入れ、開かせる。すると俺の身体は黒いボディへと変わり、真っ赤な目が光を放つ。
「貴方はまさかぁ!?」
「左さん……!?」
俺は仮面ライダージョーカー。
師匠と相棒の意志を継ぎ、風都を守る仮面ライダー。
「さぁ、お前の罪を数えろ!」
ここから俺と管理人代理のヨシダの、そして変態人妻達による淫獄団地での戦いが始まることとなる。
多分続かない