例によって一発ネタです。映画を観ていて少年兵とかこういった境遇の子供たちに魔法の素質があった場合どうなるんだろう?と考えていたら思いつきました。
世の中は不思議なことだらけである、と私、エル・グレイは思う。例えば、金に困った両親が私を人身売買組織に売り飛ばしたこと。それから、娼婦としてロリコン男女たちの相手をさせられ続けたこと。そして、フクロウが手紙を届けに来たこと。
「ようこそマダム。今宵はたっぷりお楽しみをご希望ですか?それとも、無垢なる少女をお望みですか?泣き叫び、怯える姿をご所望でなければよろしいのだけれど」
「な!?な、な!?」
魔法使いの方かしら?と伺いたくなるような、真っ黒なローブととんがり帽子姿で現れた熟年女性を前に、いつものように挨拶をする。それが失敗だったと理解したのは、彼女が児童売春を希望してここへやってきた客ではなかったと理解した後だ。
「一体なんなのですかここは!?」
「何って、非合法の売春宿でしょう?あら?ひょっとしてあなたはお客様ではなかったのかしら?」
マクゴナガル先生。後に私の恩師となる彼女との出会いは、控えめに言って最悪だった。
「いいですかエル・グレイ。あなたの痛ましい過去は理解していますが、だからこそ、くれぐれも今後はああいった態度や言葉遣いは控えるように」
「わかってますよマクゴナガル先生。私だってそこまでバカじゃありませんもの」
「ええ、ええ。あなたの聡明さは理解しています。だからこそ、ここまでなら許される範疇でしょう、とあなたがあえて境界線の手前まで踏み込んでいく姿が用意に想像できてしまって心配なのです」
「はは!心配性、失礼、生徒想いのいい先生ですねあなたは」
英国郊外にある違法売春宿を摘発したのは警察ではなく、魔法省と呼ばれる組織に所属する魔法使いたちだった。まるでおとぎ話のようだ。なんでも私、エル・グレイには魔法の才能が眠っていたらしい。
最初は新手の詐欺か、あるいはやばめのカルト宗教化何かかと疑ったが、魔法使いたちに保護され、売春宿の隠れ蓑ではない本物の孤児院へと移され、魔法省の職員だという保護監察官に引き渡され、更には聖マンゴ病院という魔法使いの病院で検査を受けた。
いくつか死に至る性病に感染していたようだが、魔法の薬で治ってしまったらしい。魔法使いってすごい。そして、私の過去のお客さんたちはご愁傷様。
そして現在、私はダイアゴン横丁という魔法使いたちが多く集う繁華街にて、入学前の買い物をしているというわけだ。ここまで魔法界とやらに連れ込まれてしまうと、否応なしに魔法というのが現実の産物であることが理解させられてしまう。
しかしまあ、本当に魔法使いというのは不思議な存在だ。杖にローブ、梟に魔導書。まるで絵本から抜け出してきたかのような怪しげな代物が、これでもかと目白押し。
絵本だなんてロリコンなお客様方の興奮を演出するための小道具でしかなかったわけなのだけれど、それでも読んでみた甲斐があったわ。そうでなかったら魔法使いって何?とそこから教えてもらわなければいけなかったもの。
ちなみに、私の分の代金は奨学金ということで件の魔法省とやらから出ているらしい。孤児の魔法使いが現れるというのはここ百年でも数えるほどしかなかった案件らしく、手続きをしてもらうのに手間取られてしまった。
晴れて私は奨学金という名の借金を背負ったわけだ。まあ、あのまま売春宿で仕事をさせられているよりはよほどましな境遇なので、文句はない。
マクゴナガル先生もいい人だし、私の保護監察官であり後見人として仮登録された魔法省のエリーという妙齢の女性職員も、悪人ではなさそうだ。マクゴナガル先生に奢ってもらったアイスクリームを食べながら、私は彼女の後を追う。
「大丈夫ですよ先生。せっかくまともな娑婆の暮らしを手に入れられたんですもの。好き好んであなた方を怒らせて、マグルの世界に送り返されるような真似はしません」
「そのような心配は不要です。たとえホグワーツを退学になるような事態になったとしても、あのような不潔で不埒な場所へなど二度と行かせませんとも!」
潔癖な高齢の女性にとって、年端も行かぬ女児や男児たちが売春を強要される場所というのは知識では知っていても実際にその目で見るのは大変な衝撃だったのだろう。いい人だなと思う。まともで、真面目で、ちょっと堅苦しいけれど、私の知る中ではぶっちぎりの善人だ。
そのうち成長したら殺処分のためにスナッフビデオにでも出演させられるのだろうな、と悲観していた私の人生はしかし、こうして魔法使いのお婆さん...その呼び方は失礼か。想定外のゴッドマザーとフクロウの出現により、想わぬ方向へと転がり始めたのであった。