そんな日常の一コマを覗いてみませんか?
この作品はTwitterで募集した企画の一つです
秋も暮れ、紅葉した葉も落ちてつつあるそんなある日の事。
香霖堂の店主こと、森近霖之助は何時ものように朝日が顔を出すと共に起床して手拭いを持って外に出た。
裏手にある井戸から冷えた水をくみ上げて顔を洗っていると何かが羽ばたく音が聞こえてくるが、特に霖之助は反応する事も無くそのまま顔を洗う。
「おはようございます。
閑古鳥が鳴いているのに早起きなんですね」
「当たり前だろう。
なにも、店主の仕事は店番だけじゃない。
たとえ誰も来ないとしても門前の掃除や品物に埃が付いたままにならない様にするさ」
「本当になんでこんな場所に店を構えてるんですか...?」
霖之助は肩を竦めたきり何も返さずに、そのまま持ってきた手拭いで顔を拭く。
その行動に対して、突然現れた少女は何も言わずに冷菓子を手渡す。
「いつも言ってるけど。
君みたいなしっかりとした客人なら菓子折りとか持って来なくて良いんだけどね。
それに、それは今人里で人気になってる『あっきゅん羊羹』だろう?」
言外に"忙しい中で買ったモノだろうに何故手土産として持ってくるんだ?"という胡乱な目をする霖之助に対して、少女の方も"何故分からないんだこの男は"という目を向けるも霖之助には気が付いた様子はない。
話は少々変わるが、この少女は実はそれなりに凄い少女なのだ。
妖怪の山という河童や天狗などという"THE・妖怪"といった種族が根城としてる山で、哨戒天狗という外部から来る者に対して警告や排除をするという役職を任されている『白狼天狗』という種族で、更には『哨戒部隊長』というモノを天魔と呼ばれる天狗の長から任されていたりする。
つまり、このわんこな少女は実はエリートだったりするのだ。
名を犬走椛。
本来ならば、こんな魔法の森と呼ばれる化け物植物が生息する魔窟と特に何もない様な人里に続く平原の間に寂しく立ってるような『香霖堂』になんて無縁の存在である。
しかし、これにはちょっとしたわけが有ったりするのだが長くなりそうなので閑話休題。
「まあ良いさ。
どうせ食べていくんだろう?」
「美味しい玉露も付けてください」
「わかった。
君にはいつも世話になってるからね」
それっきり、二人の間には会話は無く。しかし、侘しい雰囲気はない。
コレが二人にとっては普段の事なのだ。
霖之助も椛もこれと言って話が弾むような性格をしている訳ではない。
むしろ、二人して静かな空間で静かに何かをしている方が落ち着くのだ。
そう、本来なら...
(なんでこの店主は気が付いてくれないのか...!
しかし、いくらなんでも私から迫るというのは白狼天狗としての威信に関わる!!
だとしてももう少し何かしらの機微を見せても良いのではないのか!?
くっ。
睫毛が綺麗だな...)
そう。このわんこは割と恋愛になるとポンコツになるのだ。
白狼天狗でもそこそこの位置に居る事や生来の生真面目さからか、どうにも距離の詰め方が分かっていない。
さらに言えば、御年----歳にして恋愛経験ゼロとか言う初心っぷり。
コレはご飯が進む。
一方、店主はというと...
(今日は有意義な日になりそうだ。
何より、犬走が来たという事は魔理沙や霊夢も来ないという事。
つまり、店が壊れない...
なぜだろう。
当たり前の事なのに、涙が浮かびそうだよ)
と、まんざらでもなさそうながらも割と不憫な事を真剣に考えていた。
このカップル。前途多難である。
なにせ、霖之助を落とそうとすれば博麗の巫女と爆窃断してくる魔女が二人して椛を〆に行くのである。曰く、モノを貰えなくなるだろう!と。霖之助は泣いていい。
また、椛を落とそうとすると椛の幼馴染こと射命丸文が葉団扇で鎌鼬の弾幕(殺意全開)を香霖堂に叩き込みに来るので、どっちにしても香霖堂の明日は無い。やっぱり霖之助は泣いていい。
しかし、霖之助は知らない。
椛が態々来る前に某魔女を紅魔館と呼ばれる悪魔の住む館にある図書館へと叩き込み、某巫女はとある次元の隙間に居る賢者の住居に修行をさせる為に叩き込んでることを。
しかも、某魔女については"身勝手をしている罰"という理由で某巫女については"幻想郷を守る巫女がそこらの妖怪に負けてどうする"という理由で。
椛は頑張った。
特に、某巫女をボコボコに出来るレベルになる為の修練は"もうコイツを天魔にすればよくね?"と天魔本人から溢されるレベルで頑張った。
そして、賢者も賢者でドン引きしてた。
このポンコツ狼はしっかりとした口実を作るという為に鬼と四六時中死合っていたのだ。
冗談抜きでヤベェ奴である。
閑話休題
小さなちゃぶ台。
そう"小さいちゃぶ台"である。
一人暮らしであるのなら、確かに十分だと言えるだろう。
しかし、2人で卓を囲むには少しだけ狭いのだ。
それこそ、膝を突き合わせて座るという風になるくらいには。
「・・・・・・(気まずい)」
「・・・・・・(何か話題がほしい)」
この有様である。
というか、この二人はどちらも受け身なのだ。
会話やらなにやらに対してこの二人は基本的に受け身なため、進んで何か話題を出すのはあまり得意ではないのだろう。
数ある異変の中には香霖堂店主がやらかした異変もあったが、それはそれだ。
(もし気になる人が居るのならば、ふしげんシリーズをやってね)
そんなこんなしている内食事が終わる。
二人並んで洗い場で食器を洗い、なんだかんだと用意してある椛用意された湯吞と霖之助自身の湯吞を持って居間に戻る。
「君が持ってきた『あっきゅん羊羹』だよ。
しかし、なんで彼女はこんな名前の羊羹を売りに出してるのやら」
「さあ。
何代も転生してるうちに頭のネジが外れたのでは?
このようなふざけた名前だというのに美味しいのだから、少々癪ではありますが」
椛の過激な発言に対して肩を竦めるだけにとどめた霖之助も思う所は有るのだろう。
そもそも、販売元の稗田家もまさかこんなふざけた名前の羊羹がヒットするとは思わなかったそうな。
「そんなことより。
この後はどうするんだい?」
「このままのんびりさせていただこうかと」
「はいはい。
君は何時も忙しそうだし、たまの休みくらいゆっくりすると良い」
鈍感だのなんだの言われている霖之助も、何時も仕事で飛び回ってる友人に対して"疲れてるのならば自宅で休んでればいいだろうに"と思いはしてもソレを口に出す程分別が無いわけではない。
色恋沙汰ではとことん駄目ではあるが、基本的には人好きな質なのだ。
とはいえこういった優しさが方々の恋する乙女たちを悩ませるのだが、ソレを当人は全く気が付いていないようだ。
---店主店番中---
霖「いらっしゃい。
今日は何の用件で?」
ア「ちょっと上海のお洋服に使う布が欲しいんだけど、あるかしら?」
霖「もちろん。
麻から絹までそろってるよ。
ただ、今は青い布地が無くてね。
もし入用なら次来る時までには用意しておくけど、どうするかな?」
ア「大丈夫よ。
赤と白の布を貰えるかしら。
もちろん。絹で」
霖「毎度」
椛「店主。
お茶を淹れたのですが一服しませんか?」
ア「・・・」
---終---
どこぞの人形遣いが放心していた気がしなくもないが、何事も無く一日の業務を終えた二人。
なぜここまで一緒なのに霖之助は疑問を抱かないかは横に全力投球しておく。
きっと現実に気が付きたくないのだろう。犬(狼)は肉食系だし。仕方ない仕方ない。
閑話休題。
犬走が休日の時は何時も朝から晩まで一緒にいる二人はもう通い妻と自覚がない夫みたいな様相をしているが、犬走もその様な構図に気が付いていないようだ。
なにより、一緒に入れれば幸せとか考えてるのがまるわかりである。
「店主。
河童から良い鮎を戴いたのですが、今日の夕餉はそれでいいでしょうか?」
「構わないよ。
何時も美味しい料理を作ってもらってるんだ。
君に任せた方が間違いないからね」
尻尾を嬉しそうにゆさゆさと揺らしながら台所に向かう犬走を見てどことなく微笑んでいる霖之助は、やはりまんざらではないのだろう。
これが香霖堂ではよく見られる日常の一コマだ。
もしも、この様なありふれてるようでありふれてない日常を望むのならば。
幻想郷に来ると良い。
幻想郷は総てを受け入れるのだ。
きっと、アナタも受け入れてくれるはずだ。