昼下がりの公園。香澄は、たえとともに無邪気に遊ぶ子供たちを眺めていた。
座っている場所は、二つある滑り台の間。円形で、ちょっとしたステージみたいになっているところに、2人でちょこんと座っている。
たえは、相変わらずアコギを背負っている。つい先程まで、商店街ライブで新たにできた舎弟達に向けて、ミニアコギライブをしていたのだった。
そんな後、香澄とたえは昼食を食べた。美味しい昼食を食べた後だからか、木々から漏れだした暖かな日差しが、余計に気持ちよく感じる。ウトウトと夢の世界へと旅立ってしまいそうになる中、たえの舎弟たちはうっきゃあうっきゃあとサッカーボールを転がしている。
「なるほど。歌詞をもっと詰めたいと……」
「うん。作りたい曲のメロディは、ある程度出来たでしょ? だから、私と前聞いたイメージだけじゃなくて、もっとちゃんと聞いてみたくって」
「イメージっすか……」
うーむと悩むたえ。腕を組み、ウンウンとうなりながら、言葉の一つ一つををひねり出そうとしている。
「……うむむ、難しいっす。なんだか、取り繕った言葉が出てきちゃいそうっす」
ぷしゅーと、たえの頭から蒸気が出ているような錯覚までした。考え過ぎの末に出る、知恵熱のようなものだろうか。難しい顔をしながら、「ルイテキ、ルイテキ……」とブツブツ呟いている始末だった。
香澄は、その様子を見てついつい吹き出してしまう。
「あー、何笑ってるっすか!」
心外だ! というふうに、たえは抗議の声を上げる。決して本気ではないその声と素振りに、香澄はますます面白くなっていった。
だが、その一方で抗議を逸らす言葉を考える。
「……あっ! それなら、一緒にメロディを聞いてみようよ。一緒に聴きながらなら、なにか思いつくかも!」
香澄は、自分のスマートホンにイヤホンを差した。ブツっというノイズが軽く走った後に、ノイズキャンセリングが勝手に起動する。
自分の右耳にイヤホンを差し、音を確認した後に、左耳の方をたえに向ける。
たえは、左耳にイヤホンを差し、流れる音楽を聴いた。タイトルは、"ルイテキ革命(仮)"。輝くギターソロは、まさにサンダーボルトと言うのが相応しく、熱血で、電撃で、ビリビリしちゃうような音だった。ピュアでハイで、バカでクレバーで、熱くてクールで、最高でロックな音だった。
「……やっぱり、皆で作る音は違うっすね」
たえは、"ルイテキ革命(仮)"のメロディラインが入ったものを聞いて、そんなことを言う。確かに、ギターソロだけに比べれば音はかなりはいっているが、そういうことではない。
みんなで奏でる音、
「こうやって、1つの曲をみんなで作るだなんてまだ夢みたいっす」
優しい顔。夢を見ている横顔。"ルイテキ革命(仮)"を真剣に聴いている顔。音が、歌詞が、全てが弾んじゃうような、ふわふわとした時間。たまらなく愛おしくなるような、音楽達。それら一つ一つを優しく大切にしたいと、たえは思っている。抱きしめたいとすら、思っている。
「あの屋上に向かう階段で、かすみんセンパイと会ったのが、もう昔のことみたいっすね」
ぶらぶらと放り出している脚で、リズムを取っている。トントンと足先から生まれるビートが、バスドラムのように8拍を刻む。
たえの口から、歌詞のように言葉が紡がれる。
「あの時、あの屋上で、運命に出会ったっす。かすみんセンパイが歌う
子供たちの遊び声も、気がついたら小なくなっていた。遊び場を移しており、今は公園と住宅街とを結ぶ橋の方へと移動しているようだった。
ひとつ残され、忘れられたサッカーボールが、寂しそうに佇んでいた。
……たえの、バスドラムの鼓動が止む。ちょうど、"ルイテキ革命(仮)"のギターソロに差し掛かったところだった。
「あの時、確かに始まった気がしたっす。出会って、始まったから、自分は自分の夢に近付けた気がしたっす」
寂しく、1人で佇んでいたサッカーボールは、1人の少年によって回収された。忘れ物を指摘されたのか、慌てて取りに来た少年は、拾い上げたサッカーボールを大事そうに抱きしめる。
その様子を見て、香澄は思っていた。
ーーたえちゃんの、夢。未だ知らない、たえちゃんの夢。どんなものかは、いつの日か話してくれるのだろうか……。
どんな形で知ることになるかは分からないが、香澄には一つだけわかることがあった。
「……だから、何度泣いても頑張るぞって。泣いて泣いて泣いて、頑張って努力して、革命が起きるまで。夢が叶うまで、繋いでくれたこの手を離さないぞって言う曲にしたいっすね」
満面の笑みだった。嘘偽りない、純粋な笑顔だった。
ーーたえちゃんは、努力をすることにひたむきだ。香澄に今わかることは、それだった。
「……うん、うん。ありがとう、たえちゃん」
少しだけだけど、確かな共有ができたような気がした。出会うことができた最高の仲間を離さないような、世界の何処よりも眩しい場所、そんな革命が起きたような場所で、一緒に
「ルイテキ……ティアドロップって言うんだ。みんなで奏でるから、複数系で……」
英語にしたのは、何だかかっこいいからだった。バンドには、かっこよさは不可欠だから、そうなるのも当たり前だった。
試行錯誤しながら、作詞に使うワードをノートにメモをしていく。その様子を、たえは楽しそうに見つめていた。