この素晴らしい魔王に祝福を!   作:春野 曙

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この不甲斐ない冒険者にお祈りを!

 妖しく輝く斜陽が砂塵舞う戦場に差し込む逢魔が時。貪欲に勝利を求めんとする魔王軍と王都を守るため己を鼓舞する人間たちの睨み合いは早々に、どちらともなく乱戦の火蓋が切って落とされた。吼える戦士、飛び交う魔法、放たれるスキル。押し寄せるモンスターの群れに怯むことなく果敢に立ち向かう騎士たちの間を縫って、神から賜った力で死中に活を求める勇者候補たちの攻撃が炸裂する。風は焦げつき、大地は砕かれ、雄叫びと断末魔が混濁するこの世の地獄。足踏みは地鳴りとなって死への恐怖を麻痺させ、安寧という蜘蛛の糸に縋る亡者たちの蹴落とし合いを盛り立てる。切り結ぶ剣戟で血と火花が散り、爆ぜる魔法が熱と光で肉を食い破る。その場にいる一切合切がぶつけ合う怨嗟と足掻きが、沈黙と騒乱が、死者と生者の間に引かれた境界線を明確に照らし出していた。

 それを玉座の間にて遠見の魔道具で観ていたレインは、主君に惨状が見えないよう魔道具を隠すと恭しく膝を着き頭を下げた。

 

「アイリス様。王都西側、東側、両門前にて開戦しました。敵勢力は情報通り増えそれぞれで二千強ほど。王都の守護に名乗りを上げた英傑たちであれば勝利は確約されたものかと」

 

「そう……。レインは行かなくて良いのですか? 私も王族として――」

 

「お気持ちはわかりますが、それはなりませんアイリス様。王族が王城にて構えているということが魔王軍へ権威を示すと共に民の安心に繋がると、クレア様から言付かっております。私もクレア様より後のことを頼まれていますので」

 

「……そう、でしたね」

 

 怯えなど少しも見せず死地へと歩みを進めるクレアの背中を、ただ見送ることしか出来なかったアイリス。彼女は聡い少女だ。何故王族である自分が前線に出ないのかも、何故クレアは()()()()を頼んだのかも、何故〈テレポート〉の使えるレインが砲撃部隊や民の避難ではなくアイリスの傍に控えているのかも、全てわかっているのだろう。

 だからこそ、レインは気づいていないフリをする。それが例え残酷なことであったとしても、戦場へ赴いた彼ら彼女らの覚悟に泥を塗ってはならないのだから。

 

「ご安心くださいアイリス様。此度の戦で戦場を駆けるのはアイリス様もご存知の通り精鋭揃い。偶然にも仮面の商人から高品質のマナタイトを大量に仕入れることができましたし、数多の魔王軍幹部を葬ってきたカズマ様たちもいらっしゃいます。例え幾万の敵であれ、彼らなら必ずアイリス様に勝利を捧げてくれることでしょう」

 

「ええ、そうね……」

 

 アイリスは不安げに目を伏せる。散りゆく命を嘆いているのか、それとも彼らのことを心配しているのかは定かではないが、それをレインが咎めることは無い。諌めようにも寄り添おうにも、小さな彼女の背負う重みを推し量ることができないレインにはこれ以上掛ける言葉が見つからなかった。

 

(お兄ちゃん……)

 

 アイリスは膝の上できゅっと拳を握る。ただ、自分の信じた()のことを信じて。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

 太陽が地平線に迫ろうかという夕暮れ。暇そうにうーんと伸びをするソウゴの背中に、クレアは訳が分からないといった風に口を開いた。

 

「あの、本気ですか? 一人で正門前の敵を迎え討つ、など。カズマ殿たちも随分と軽い調子で了承していたが、せめてパーティーメンバーは呼び戻しておいた方が……」

 

「大丈夫だって。ていうか、クレアも東か西(あっち)の加勢に行ってくれていいんだよ? 俺も正門(こっち)が終わったら行くし」

 

「いえ、ダスティネス卿たちから絶大な信頼を置かれているトキワ殿の戦いぶりを後学のために拝見したいと言ったのは私ですので」

 

「そう? 参考になるかな……。まあ、俺も君とは話してみたかったしいいけどね」

 

「話、ですか? それどころではないと思うのだが……」

 

 城では厄介事ばかり起こしていたあの最弱職が稀代の大義賊相手にあれほどの活躍をしたのだから自称魔王はどれほどのものかと興味を示し、彼の仲間の四人から暖かい目で見送られても着いてきたのはクレア自身。今更引くつもりはないにせよ、ソウゴの意図が読めず困惑顔のクレアだが、依然として件の彼は待っているだけが退屈なのか呑気に大きな欠伸をしながら城を出る前に教えられた戦況を思い出していた。

 王都防衛のために招集された騎士、そして有志で参加する冒険者たちは総じて二千五百人ほどとなったらしい。世界の命運をかけた戦いにしては小規模に感じるが、ここは仮面ライダーたちと同じく物量だけでなく“個”も物を言う剣と魔法のファンタジー異世界。冒険者たちの中にいる武勇の知れたエースパーティーや勇者候補と呼ばれる強力な武具や能力を授かった者たち、それに負けず劣らずの武芸に秀でた近衛騎士が文字通り一騎当千の働きをするため数としては十分な戦力なのだとか。それでも無血とはいかないだろうが、土壇場とはいえ八千という大攻勢にも対抗が可能な戦力がこの王都には集められていた。らしい。

 もちろんこれは、敵の数が八千のままであったならの話である。

 

「ご存知だとは思いますが、敵勢力は原因不明のまま膨れ上がり、今や昨日依頼した時の倍ほどの数となっています。その約七割、数にして一万を超える敵兵が集中しているここ、王都正門前が今回の一番の修羅場と言っていいでしょう。両脇の戦力を充実させ確実に侵入を防ぐためとはいえ、それを一人でなど……」

 

「平気だよ。カズマから本気はダメだけど当分攻めてくる気が起きないくらい派手にやっていいって言質もとったし」

 

「カズマ殿もなかなか無茶を言う」

 

 平時であれば義勇軍の投入を視野に入れなければならないほどの大勢力となった魔王軍は、今回三方向から攻め入る作戦を取っていた。いつも通り正面突破を計っても大規模魔法の的になるだけ。恐らくはこちらの戦力を分散させ、王都内部に押し入り局地戦に持ち込む腹積もりだろう。そうなればいくら一騎当千の精鋭たちとは言え、王都民を巻き込むリスクを考え大規模な魔法や広範囲のスキルは使えなくなる。スキルを封じられどこに守るべき民間人が隠れているか分からない白兵戦で、一万を超える敵を二千五百の人間が押し返すことは物理的に不可能。それが三方向同時となれば、少ない戦力を分散させ一人当たりの負担が増えるこちらが圧倒的に不利と言える。それがわかっているから、最悪の場合に備えて転移魔法の使える者は城下の避難所に集められているのだろう。

 よって、側面に戦力を充実させ二チームを王都に通さないという考えは間違いではない。敵はどういう原理か増えていて更なる増員が無いと言い切れない以上、ギリギリの人員より用心するに越したことはない。しかし、肝心の正面を疎かにして突破されれば本末転倒。そんなことがわからない人間ではないとクレアは思いつつも、それでもソウゴの態度は全く変わらなかった。

 

「それに、世界の滅びには桁がいくつか足りないな」

 

「そんな事態になれば大惨事どころではないのですが……」

 

「あははっ。そうだね。確かにそうだったよ」

 

 などと下らない軽口を叩いていると、背後から人々の雄叫びと爆音、続いて地鳴りが響いてきた。振り返れば日の暮れた空が地上で瞬く光を反射し、王都の夕闇を鮮やかに彩っている。開幕早々爆裂魔法が放たれなかったところを見るに、義賊退治で顔が広くなったカズマが上手く指揮を執っていることだろう。調子に乗りさえしなければ大丈夫だろうと楽観的なソウゴとは対照的に、血や土の焼け焦げた臭いが混ざり始めた空気を嗅いだクレアは僅かに顔をしかめた。

 

「……やはり、アイリス様には城に居ていただいて正解だった」

 

「そういえばこの国の王族って強いんだったね。どうして戦わないの?」

 

「最前線では国王と第一王子が戦っています。アイリス様にもしもの事があれば王家の血が途絶えてしまいますし、王族が王城にいることで民の安心にも繋がりますので」

 

「そっか。それで?」

 

「それで、とは?」

 

「本当の理由だよ。違うでしょ?」

 

「何故そう思われました?」

 

「んー、なんかそんな気がしたから」

 

「……」

 

「それで、理由は?」

 

 見透かしたような眼が、クレアの瞳の奥の奥まで視ようと覗き込んでくる。いや、きっともう既に視えているのだろう。全て分かっているとでも言いたげな笑みを向けてくるソウゴに、クレアは諦めたように息を吐いた。

 

「……アイリス様に戦争はまだ早い。いずれはジャティス様と同じように王族として剣を取るのが定めとはいえ、今はまだ民や兵の死を背負うには幼すぎる。願うことならアイリス様には血の臭いなど覚えてほしくないものです」

 

「へぇ。大事にしてるんだね、アイリスのこと」

 

「貴殿は王というものに一過言あるとダスティネス卿から伺っています。甘いと思われるでしょうが、我々はこの選択を間違っているとは思いません」

 

「いいや、そんな事ないよ。でもそっか、ふふふっ。なんか、君たちのことわかってきた気がする。たぶん好きになれると思う」

 

「そうですか。このまま嫌われっぱなしかと思っていたので少々意外です」

 

「そう? 一番好感度低くても()()の生みの親よりかは嫌いじゃなかったよ」

 

「フォローになっていませんよ」

 

 ソウゴにつられてクレアが視線を戻すと、こちらも魔王軍の進軍が開始されたようだった。一キロも離れていない森から街道を行軍してくるモンスターたちの足踏みで、沸き立つように砂塵が舞い上がる。立ち上る土煙をここで止められなければ、陸の津波が優に王都を飲み込んでしまうのは想像に難くない。状況の悲惨さを目の当たりにしたクレアは、無意識に腰に下げている剣に手を添えていた。それを制すためだろうか、手出し無用と言いたげに向かってくる魔王軍へ一歩踏み出したソウゴはじっと注意深くその波を観察する。そして眉間に皺を寄せると、やや不機嫌そうに息を吐いた。

 

「……やっぱり、嫌な感じだ」

 

「嫌な……?」

 

「死んですぐ蘇生させられたのもいれば、作った器に消えかけてた死者の魂を無理矢理ねじ込んでるのもいる。土地に染み付いた怒りを埋め込んで動かしてるのか。流れる魔力だって人やモンスターのものじゃないし、むしろ……」

 

 アクアに近く、そして程遠い魔力。紅魔の里でワープの目標にしたあれとはやや似ているが非なるもので、かつ人間に化身したクリスからは全く感じられない種類の特殊な波長。その妙に邪な気配のする魔力が糸のようになって進軍する歪な気配を持つモンスターたちに繋がっており、彼らに命令と魔力を注入し動くことを強制している。向かってくる彼らの目に光は無く、アンデット系のモンスターほどの生気もない。およそ生き物と呼ぶにはお粗末な人形だ。繋げられた魔力の糸を辿れば本体が分かるかと後方へと注意を向けると、やはりと言うべきか三里ほど離れた場所にその神と人間の魔力が混ざり合った発生点を観測できた。

 

「王都の周りは人間もモンスターもたくさん死んでるだろうし、数を増やすのは簡単だったろうね。道中も同じ手で自軍を増やしてたわけだ」

 

「まさか、ネクロマンサー!? 死体もないのにこれ程の数を蘇らせる術者など聞いたことが……!」

 

「どっちかって言うと街でよく見かけるプリーストっぽい感じがするんだけど……。まあ、なんにしろ神の力とライドウォッチか。厄介な組み合わせだ」

 

 これまで魔王軍幹部は、オーマジオウの力や爆裂魔法などの巨大な爆発によってその命を落としている。となれば、『正体は分からないが大規模な攻撃手段を相手が持っている』という点を警戒して遠距離からこちらを攻撃しつつ情報収集をするという選択には頷けるものがある。そしてそれを実行させる人材の選定もだ。これも自軍にいくら被害が出ても人形として再利用でき、王都を落として人間の死体が大量に手に入れば人間軍の隙を突くいい傀儡にできるという考えだろう。死人の骸を使い、死人の怒りを燃料に、死んでも替えのきく亡者たちの壁の後ろから安全に事を進める。それはきっと、立ち回りとしては賢いもののはずだ。実に効果的で己を過信していない堅実な作戦だとソウゴも思う。

 

(……でも、気に入らないな)

 

 クレアには前に立つソウゴの表情は見えない。しかし、彼の纏う空気がガラリと変わったのはわかった。近づき難く恐れ多い雰囲気。これはそう、初めて死を感じた時にも似ているし、初めて王に謁見した際に感じた怯えにも似ている。それをクレアに思い出させるソウゴは、決して振り返ることなくもう一歩前に出た。

 

「終わるまでそこを動かないでね」

 

 ソウゴの胸の内にふつふつと静かに湧く怒りが彼の腰に黄金のベルトを出現させる。ただ現れただけで放たれる黒い覇気と黄金の雷が敵味方を区別せず威圧し、その圧迫感は歴戦のクレアでさえも気圧され一歩引いてしまうほどだった。ピリピリと肌が裂けるような殺気に当てられ息を飲むクレアの眼前に展開されるのは、未来と過去を歩む時計。短針が過去を、長針が未来を指し示す時、中心に刻まれた黒色が赤く煮えたぎり、読めない文字を浮かび上がらせた。

 

「変身」

 

 

«祝福の刻»

 

 

«最高»         «最善»

 

«最大»   «最強王» 

 

 

«オーマジオウ»

 

 

 

 ソウゴの意思に呼応して、絡み合う因果の鎖が時の魔王に相応しい鎧を形作る。漆黒と黄金で誂えられたその姿は絶対なる王者の覇気を纏い、脆弱な精神では目の前で膝を着くことすら許されないであろう絶大な存在感を放つ。赫灼とする赤い瞳に怯みもしない死者たちの姿を映すオーマジオウは、憐れむような声色と共に右手を差し出した。

 

「すぐに眠らせてあげるからね」

 

 すると、オーマジオウの右手から黒い靄のようなものが滲み始める。それにカブトムシのような紋章が溶け込むと、靄は自分の形を思い出したのか並の戦士職では振るうことすら難しいだろう大剣へと姿を変えオーマジオウの手の中に収まった。鳴動する黄金の刀身を備えた両刃の大剣・パーフェクトゼクターにはどことなくカブトムシの意匠が見受けられ、構えるだけで壮観さが際立つ。その大剣の柄をあろう事かオーマジオウが斜めに折ると、それを合図に彼の影からそれぞれ黄、青、紫の三つの飛翔体が目にも止まらぬ速さで飛び出し刀身へと納まった。黄色い蜂、青い蜻蛉、紫の蠍だ。自然界では存在しえない非自然的な体を持つ、ゼクターと呼ばれる生体メカである。準備が整ったのか切っ先を前方に突き付けると、オーマジオウは冷淡に言葉を発する。

 

「君、聞こえてるよね?」

 

«KABUTO POWER»

 

「おじさんが言っていたんだ」

 

«THEBEE POWER»

 

「時計の針は止まるし、巻き戻すこともできる」

 

«DRAKE POWER»

 

「でも人生は違う。ってね」

 

«SASWORD POWER»

 

「あの頃は『後悔しないようにしなさい』って意味で受け取ったけど、針を動かせる今は違う捉え方をしてるんだ」

 

«ALL ZECTOR COMBINE»

 

 

「彼らの針は止まった。それは、お前が気軽に触れていいものじゃない」

 

 

 それぞれのゼクターから解放されるタキオン粒子が先端へと流れ、超高密度のエネルギーとして収縮されていく。眩い光と肌を焦がすような熱の塊。およそ敵であっても向けていいものでは無い死の宣告に、離れ背にいるクレアでさえ恐怖から冷や汗が流れ落ちる。そして躊躇いなくオーマジオウが引き金を引くと、溢れ出すエネルギーが全てを飲み込む竜巻となってその暴威を振るった。

 

«MAXIMUM HYPER CYCLONE»

 

 先ず地平線へと駆け抜けたのは光。それを追いかけるように音、熱、衝撃波が順番に触れるもの全てを平らげていく。簡素な説明でしか言い表すことの出来ない、暴力という言葉では表現しきれない光景。大地や木々でさえ平然と蒸発させていき、生き物など跡形もなく消滅させる様はまさに天災と呼ぶ他なかった。しかし、オーマジオウはまだ止まらない。

 

«ドライブ ノ 刻»

 

 オーマジオウの望みに応え、オーマジオウドライバーが«2014»の時を刻む。手繰り寄せるのは歴史の一ページ。矢印がたくさんある道路標識のような幻影を左手に掴み取ると、オーマジオウはそれを躊躇無くパーフェクトゼクターに叩きつけた。

 

「マキシマムタクサンカクサーン」

 

 そこからは地獄絵図……いや、もっと酷いものだった。

 オーマジオウの宣言の瞬間、一本だった竜巻は一目で数え切れないほどに増えクレアの視界全てを覆い尽くした。荒れ狂う竜巻たちが傍若無人にのたうち回り、文字通り根こそぎ喰らい尽くす。それに伴って引き起こされる爆風はクレアたちの背に聳える状態維持の魔法が何重にもかかった城壁を吹き飛ばし、爆音は王都を震撼させガラスというガラスを叩き割る。いったいどれ程の怒りがここまでの徹底的な蹂躙へと姿を変えるというのか。眼前に広がるこれは攻撃なんて生易しいものではない。この世の全てを滅ぼすだけの一方的な殲滅だった。

 嵐が過ぎ去り、静寂が訪れる。開けた視界は一面が地平線を望めるものに様変わりしていて、街道も、森も、山も、丘も、敵の影すらも、あったはずの景色の何もかもが無くなっていた。敵どころか動くものの気配すら感じない荒野。まるで初めから何も無かったかのような異様な光景を前に、処理の追いつかないクレアはただ呆然と立ち尽くしていた。

 

「……逃げれるんだ。なるほどね」

 

 相手の持つライドウォッチにアタリをつけたオーマジオウが飽きたおもちゃを手放すように大量破壊兵器を空中に放り投げると、それはまるで存在が幻だったかのように黒い靄に戻り霧散してしまう。しかし、彼はこれで戦争が終わったなんて微塵も思ってはいなかった。その証拠に新たな黒い靄が彼の影から這い出ると、彼の鎧を伝って全身にまとわりつく。そして両足にはロケットのような、両腕には逆立った髪の顔を模した、胴体には三種類の生き物を象ったような円の、両肩には円に斜めの線が入った紋章がそれぞれ刻まれると、それぞれの箇所が六つの銃身と五連ミサイルを搭載したガトリングモジュールとランチャーモジュール、艦隊のような十門の砲台が備えられたシミュレーションゲーマ、無骨な砲身が鈍く輝くブレストキャノン、背中の飛行ユニットから肩へと装着されたブラッディキャノンへとそれぞれ姿を変えた。

 ごちゃごちゃとまるで歩く火薬庫とでも言うべき武装に覆われたオーマジオウは重量を感じさせないくらい何でもないように振り返ると、近所へ散歩に向かうくらいの気軽さでクレアに言った。

 

「じゃ、カズマたちの様子でも見に行こっか」

 

「………………あっ、いえ、私は城に戻ります」

 

 これは学びにならないなと、クレアは思った。

 

 

   ⏱⏲«フォーゼ ノ 刻»「「ライダード級〈爆裂魔法(エクスプロージョン)〉」!!」(全てが灰燼に帰する音)⏱『……』⏲⏱

 

 

 とても静かだった。争う音もしなければ、勝どきをあげる者もいない。だが時たま遠くで人の話す声が聞こえ、じゃりじゃりと歩く音がするので室内ではなく屋外なことが分かった。

 

 

 

 ふと鼻をくすぐるのは、土を撫であげた風の匂い。澄んだ清流のような香りの中に混ざる血や肉の焦げた臭いが鼻につくが、それも少しすれば慣れて気にならなくなってしまう。しかし自分を包み込む澄んだ香りは健在で、心を穏やかにしてくれる。

 

 

 自分は今、横になっているのだろう。背中には硬い地面の感触が、それから頭が少し高い位置にあって、後頭部は柔らかい何かが枕のように包んでくれている。まるで美しい川のほとりで幼い頃から愛用している枕と共にうたた寝しているような、なんとも気持ちの落ち着く寝心地だった。

 

 少しずつ意識がハッキリしてきたカズマは、まだ寝ていたいという気持ちに後ろ髪を引かれながらも薄らと目を開ける。世界は明るくない。しかし夜空を賑やかす星は美しい。遮るものが何も無い満点の星空を眺めごちゃごちゃと混線した思考を整理していると、どうして自分がこういう状況に陥ったのか少しずつ思い出してくる。

 

(……俺、最初は指示を出していて、勝ちが見えてきて、それで――)

 

 だが寝起きのぼんやりとした頭では断片的にしか思い出せない。順番にあったことを順にゆっくり反芻していると、突然視界の上の方からよく見知った仲間の顔が綺麗な青髪を垂らし穏やかな笑みを携えて覗きこんできた。

 

「調子に乗って突撃した挙句コボルトの群れに返り討ちにあったカズマさん、おかえりなさい!」

 

「ぶっ叩くぞ駄女神!!!」

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

「ったく、こっちは生き返ったばっかだってのに……。ってあれ、もしかしてもう全部終わってる?」

 

 アクアの膝枕から起き上がり、周囲を見渡すカズマ。爆弾でも空から落ちてきたのかと思うほどのボコボコの大地に、生えたまま燃え尽きて炭になりつつけば崩れ去りそうな木々、そして何よりあれほどいたはずのモンスターの影が少しだって見えやしない。それでいて灰の舞う荒地と化した王都近郊では、共に戦った騎士や冒険者たちがなんとも言えない気まずそうな顔をしていた。状況だけ見ればあの大軍勢を相手に見事勝利を勝ち取ったはずなのに、どうしてこんなお通夜みたいな空気なのだろうか。そう疑問に思うカズマが首を捻りアクアに問おうとしていると、起き上がったことに気がついたダクネスがおぶさっためぐみんを担ぎ直してこちらに小走りでやってきた。

 

「無事に蘇生できたか、カズマ」

 

「おう。ソウゴは?」

 

「こちらを片付けた後、反対側へ飛んでいきましたよ。まったく、大人しく後ろで現場の指揮をしていれば我が爆裂魔法とソウゴによる合体秘技を拝めたというのに……」

 

「なんか爆破テロと同義の言葉が聞こえたんだが」

 

 聞かなかったことにしようと思ったカズマは、それでいてなるほどと納得した。このお通夜みたいな空気の原因にだ。きっと自分たちが必死になって、なんなら命を捨てる覚悟で戦っていたのに突然現れたソウゴが片手間にこの荒野を作り上げて去っていってしまったので消化不良のやるせない気持ちになっているのだろう。今頃最後の戦場も同じような空気になっているに違いない。わかるわかるとカズマが親近感をわかせていると、唐突にざわざわと周りが騒がしくなり始めた。

 

「ん? どうかしたのか?」

 

 どうやら王都の方角かららしい。ソウゴが帰ってきてざわついているのかとカズマが視線をやると、微かにだが人混みの隙間から見覚えのある長い金の髪が慌ただしく揺れているのが見えた。全体的に白っぽいシルエットで顔どころか性別すら見分けられないが、もしやと思ったカズマは〈千里眼〉のスキルを発動させる。するとやはりと言うべきか、そこにはレインを連れ安堵の表情でクレアと話すアイリスがいた。どうしてアイリスがこんなところに? という疑問は置いといて、またキョロキョロと辺りを見渡すアイリス。そしてカズマと目が合うとパッと顔を明るくさせ、二人を置いてこちらに駆け寄ってきた。

 

「お兄様! ご無事だったのですね!」

 

「おおアイリスか。まあ一回死んでるから無事かと言われるとあれだけど……」

 

「一回死んだ!? は、早くお体をお休め下さい! 立てますか? 部屋までお連れしましょうか?」

 

 心配そうにおろおろと慌てるアイリス。寝起きでイジってきたどこぞの女神と違って心から心配してくれている様子の彼女に心打たれたカズマは、仲間の三人娘が白い目を向けてくるくらいににへらと頬を緩める。しかし、そんな癒しの時間も束の間のことだった。

 

「サトウカズマ。貴様に少し、話がある」

 

 追いついてきたクレアが、神妙な顔でそう言った。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

 アクア達が約束通り城に滞在するため部屋へと案内されていく中で、クレアの誘いを断れる訳がないカズマは大人しく彼女の後ろについて人気の少ない真夜中の城の中を練り歩いていた。

 何となく予想はついている。きっとソウゴの攻撃の余波で引き起こされた二次被害に対することだろう。戦場から王城まで来る間にも、ひっぺがされた屋根に粉々に叩き割られた窓、無体にも引き剥がされた屋根にどこから飛んできたのか転がるレンガを目にしてきた。外ほどではないにしろ中々の惨状と言えるだろう。きっと修繕費なんかが請求されるのかもしれないが、ところがどっこいこちらには張本人であり唯一無料で元に戻すことが出来る時の王が控えている。あと数分もすれば更地も荒地も元通りにしてくれることだろう。弁償なんて恐れるに足りない。そんなことをカズマが考えていると、目的の場所に着いたのかクレアが扉の前で足を止めた。

 

「入れ」

 

 そこは応接間。今回の魔王軍との攻防前に集められた、あの部屋だった。これはいよいよ本気で修繕費の話だなと思いカズマが足を踏み入れると、意外にも扉を閉めたクレアの口から最初に出てきたのは感謝の言葉だった。

 

「此度の戦、助力に感謝する。おかげで王都を守り抜くことが出来た。七割は貴様ではなくトキワ殿の力だが」

 

「は、はぁ……」

 

「義賊の件の礼もまだだったな。貴様の正々堂々なんて言葉とは縁遠い姑息な戦略に最初は忌避感を持つ者もいたが、騎士団は義賊に手も足も出ないと囁かれていた陰口も今や聞こえない。王国を欺き私腹を肥やす貴族などどうなろうと知ったことではなかったが、我々の面目は保たれた。感謝する。まあもっとも捕まえられなかったがな」

 

「えっと……?」

 

「城に滞在している時はアイリス様の健全な成長を脅かす迷惑極まりない存在として一瞬でも早く城から叩き出してやりたかったが、認識は改めておこう。貴様は普段はだらしがなくふざけたやつだが、やる時はやる男だった。詰めは甘いが」

 

「そんなに俺の事褒めるの嫌か?」

 

「ああ。アイリス様の笑顔が増えたことは何ものにも変え難い勲章ものの功績だが、同じように悪影響も与える貴様を手放しで褒めることなどできん。その腐った性根を少しはマシにしてから出直せ」

 

「本当に素直だなお前」

 

 好かれてはいないと確信していたが、嫌われてもいないんだろうと思うカズマ。クレアがどう思っているかどうかわからないが、犬猿の仲というよりかは悪友とでも表現すべき関係なのかもしれない。しかしこの流れ、伊達に一週間以上クレアに叱られているわけではないカズマには何となく続きが予想できる。クレアが褒める時は決まって、そのあとに難しいお願いをする前振りだ。きっと恐ろしく莫大な修繕費を請求されるんだろうな、などと呑気に構えていると、クレアはカズマに対して驚くことに頭を下げた。

 

「しかし、だからこそすまない。貴殿らとの約束を果たせない私をどうか許してほしい」

 

「お、おいやめてくれよ! お前が頭下げるなんてらしくない……」

 

「いや、これは私の不甲斐なさの結果だ。民のためアイリス様が一介の冒険者に頭を下げたというのに、約束一つも守れない私がその相手に下げない理由がない」

 

 これにはカズマも面食らってしまう。クレアとは短いとも言えない付き合いだし、だいたいカズマが怒られる側だった。クレアがアイリス以外に頭を下げているところなんて見たことがなかったカズマが珍しく狼狽えていると、クレアは気まずそうに視線を這わせながら語り出した。

 

「今回、貴殿らの活躍は目覚しい。トキワ殿は言わずもがな、アクア殿の回復魔法に蘇生魔法、めぐみん殿の超火力爆裂魔法、ダスティネス卿の獅子奮迅の健闘、そして貴殿の高い指揮能力。最初に約束した通り、本来であれば私の権限で貴殿らの王城での滞在を無期限無制限で許可を出すつもりだった。ダスティネス卿もいらっしゃれば許可はすぐ出ると思っていたのだが……」

 

「……? だった? ダメになったのか?」

 

「ああ。その…………非常に言いづらいのだが、これは我々の想像を遥かに越えたトキワ殿の存在が起因する。王城に避難していた大臣や貴族たちが、彼の起こした災害級の爪痕を見て貴殿らの王都滞在に反対してきたのだ」

 

「いや、まあ、うん。気持ちはわかるよ。恐いよなあれ」

 

 その期間は天界でエリスと楽しくお喋りしていたので実際何が起きたかわからないが、森がクレーターだらけになり歴戦の勇士たちが気まずくなる程だ。なんとなく想像はつくし、それが自分に向けられたらと思ってしまうのは仕方ないこと。むしろソウゴの人柄を知っているとはいえ普通に受け入れているアクセルの住民の肝の座り方がおかしいのだろう。

 カズマがうんうんと理解を示すが、クレアは首を振ってそれを否定した。

 

「いいや、そこはさほど問題ではなかった。これまでに魔王軍幹部の首を四つ討ち取ったという実績があるし、身分自体デストロイヤー破壊時に王国が保証している。彼が人類に敵対するものではないと理解を得るのはそう難しいことじゃない」

 

「? じゃあ何が問題だったんだ?」

 

 カズマの問いかけに、クレアは渋る様に口を噤んでしまう。しかしすぐに諦めてしまったのか、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「……貴殿らが表向き、アイリス様の傍付きである私とレインの依頼で先の戦に参加し功績を立てたということになっている点だ」

 

「王女様が直々に指名するとややこしいから二人からの依頼ってことにしたんだろ?」

 

「ああ。だがトキワ殿の力は想定を軽々と超えていた。第一王子を次の王にと考える貴族たちの中には、アイリス様付きの私やレインのことをよく思わない者も少なくない。彼らには、我々が陛下からの覚えを良くするための虎の子を出してきたように映っただろう。……言われたよ。何故貴殿らを最前線に向かわせないのか、隠していたのは第一王子が没するのを待っているからではないか、とな。忠義を疑われるとは、腹立たしい事この上ない」

 

「えー……。でも俺たち駆け出しの街がホームの無名パーティーだぞ? そこまで考えるか?」

 

「そもそも魔王軍幹部を討伐しておきながら王都の誰も貴殿らを知らないのがおかしいのだ。それに、パーティーメンバーにはかつてアイリス様の剣術指南をしていたダスティネス卿までいらっしゃる。これを二大貴族の後ろ盾と第一王女の威光があると捉える者もいるだろう。そんな状況であれ程の力を持つ貴殿らを最前線に送らずシンフォニア家、もしくはアイリス様が保証人となって城に滞在させるとなれば彼らの中の疑惑が確信に変わってしまう。まさか貴殿らの信用を得るための根回しが裏目に出るとは……」

 

「あー……」

 

「それとカズマ殿が長期滞在したことも良くなかった。私かレインのどちらかが魔王軍に情報を流して大軍勢を誘い出し、貴殿らをここに駐留させ手柄を立てさせたなんて噂まで出回る始末。噂話をほとんどの貴族が鵜呑みにしているのも気になるが、未だ夜も明けていないのにこの情報の出回る速さは異常だ。恐らく本物の内通者が裏で手を回しているのだろう。こちらの調査も急を要する」

 

「その……なんかスマン」

 

「謝らなくていい。貴族のいざこざに巻き込んでしまったのは我々だ。だが、貴殿らが目立った功績を残しさえしなければよかったのにと思ってしまう自分もいる。せっかくの無傷の大勝だというのに、素直に喜べん捻くれ者ばかりで嫌になるな」

 

 自虐めいた言葉と共に眉間を押さえため息をつくクレアを見て、これは想像より相当面倒なやつなのだとカズマは理解した。

 色々な見方ができるのだろうが、少なくとも『偶然にも』アイリスが懐いた冒険者が『偶然にも』ダスティネス家のご令嬢とパーティーを組んでいて、『偶然にも』魔王軍幹部を討伐していて、それでいて『偶然にも』大規模な魔王軍の侵攻があったときに『偶然にも』ホームではない王都にパーティー全員が揃っていて『偶然にも』魔王軍の全滅という大手柄をあげ『偶然にも』クレアが戦に参加する条件としてお城暮らしを許可させようとしていた、なんて誰も思ってくれるわけがない。パズルのピースが間違ったところに嵌っていることに最後まで気付かず、海の絵が完成するはずが空の絵が出来上がってしまったような、そんな途方もない誤解の連鎖が今の状況を作っているのだ。

 貴族ってやっぱり面倒だなぁとカズマが思っていると、クレアはまた頭を下げて話を続けた。

 

「そこで、今回情けなくもコボルトに()られたらしいカズマ殿に頼みがある」

 

「人にものを頼む修飾語じゃないだろ」

 

「むしろ貴殿がコボルトに殺られてくれたのは不幸中の幸いだったと思ってほしい。おかげで最前線に縛り付けられずに済むのだからな」

 

「……というと?」

 

「明日の……いや、もう今日か。夜に開かれる戦勝パーティーまでは滞在してもらって問題ない。だがその翌朝には荷物を纏め、アクセルの街へ戻って頂きたい。そうすれば『コボルトに殺られる程度の実力で最前線は無理がある、カズマ殿のレベリングのため彼らはまた駆け出しの街へ戻ることにしたようだ』と言い訳がたつ」

 

「……ちなみに、嫌だって言ったら?」

 

「カズマ殿ならそう言うだろうと思った。だから貴殿にだけ包み隠さず全て話した。貴殿が渋ればアイリス様は必ず手元に置こうとするだろう。そうなればアイリス様に関する噂や疑惑の撤回は困難を極める」

 

 頼む。それだけ言ってクレアは頭を更に深く下げた。それを見てカズマも心動かされないわけがない。ふと脳裏に過ぎるのはアイリスのあの顔。だがそれを振り払うように頭をガシガシと掻いたカズマは、はあ、と息を吐いて肩を落とした。

 

「しょうがねぇなぁ……」

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

「というわけで、俺たちは明日にでも王都を離れなくちゃいけなくなった」

 

「王都のゴタゴタが解決したらダクネス宛に手紙をくれるって話なんだ。それまでは王都に近づくのは禁止だって」

 

「事情が事情だしね。仕方ないかぁ」

 

「悪いなクリス。結局、神器ってやつは見つからずじまいだし」

 

「そう言えば元々それが目的だったっけ。俺もすっかり忘れてたよ。よく覚えてたね」

 

「ああ、ちょっとエリス様に言われて思い出してな」

 

 ソウゴが一晩で綺麗に直した王都にて、テラス席に座り優雅にお茶を楽しむ三人。初めは三人でのマッチポンプをかなり嫌がっていたクリスだが、警備の配置がわかっていてソウゴのサポートまである義賊活動はかなり楽だったようで、しっかりと落胆の色を露にする。アクアの駄々のこね方に比べれば引き止められないだけ可愛いものだな、なんて考えながらほっとした気持ちで紅茶を飲んでいると、クリスはごそごそとショートパンツのポケットから一枚の紙切れを取り出しテーブルの真ん中に置いた。

 

「じゃあさ。最後に一件付き合って欲しいんだよね」

 

「最後って……今夜か?」

 

「そうそう。これまでもアタシの〈宝感知〉スキルに反応があっためぼしい貴族の家にお邪魔してたんだけど、一件だけとてつもないお宝の反応があった大本命はまだ手付かずなんだよ」

 

「なんでまた。好物は最後に残しとくタイプか?」

 

「違う違う。警備が生半可じゃなくて手が出せないでいたんだよ。金に物言わせて傭兵だのなんだの雇ってて、騎士団なんかには絶対守りにつかせないの。自分が素性のわかってる人間しか屋敷に入れないみたいで、何かあるのはわかるんだけどガードが硬すぎて一人じゃ絶対返り討ちに会うね」

 

「ほーん。まあ、騎士団も冒険者も義賊退治より戦勝パーティー優先だろうしな。貴族なら城でやるパーティーに出ないわけないから護衛もいる。となると、警備が薄くなることはあっても厚くなることは無いか……」

 

「そうそう。三人ならさくさくっと終わらせられるし、それだけ厳重なら狙うなら今夜しかないでしょ?」

 

「……ちょっと待て。今三人って言ったか?」

 

「うん。本職のアタシ、未来視できるソウゴくん、色々便利なスキルを持ってて悪知恵も回るカズマくん。団って言われる割には二人だけだから寂しかったんだよねー」

 

 たははー、と快活に笑うクリス。もう彼女の中でカズマが参加するのは決定事項になっているらしい。きっと昨夜死んだ時にしたエリス様との会話から何か言われているのだろう。つくづく小悪魔なメインヒロインだと、カズマは嘆息した。

 そんな二人のやりとりを見守っていたソウゴは、話が纏まったことでテーブルに置かれた紙をひょいと拾い上げる。場所くらいは把握しておかなくては現地集合すら一苦労だからだ。しかし、そこに書かれた簡略地図を見てキュッと眉に皺を寄せた。

 

「ねえクリス。ここって……」

 

「おっ、やっぱり知ってる? 君たちにとっては因縁の相手だもんね」

 

「因縁……?」

 

 はて、王都の貴族に因縁の相手などいただろうか。首を捻るカズマに、にっと片方の口角を上げてイタズラっぽい笑みを向けたクリスは、勿体ぶるような口調で告げた。

 

「そ。なんと言ってもアクセルの街を含むあの辺一帯を治める大領主、アルダープ氏の屋敷だからね」




我らが魔王様へ

平素より冒険者の皆様には当店をご利用頂き誠にありがとうございます。お陰様で売上は好調にございます。最近ではギルドよりメンタルケアの依頼も入るようになり、女性冒険者の利用数も徐々に伸びているおかげか男性向けの淫夢が苦手な子たちがやる気を出してくれております。紹介していただいたドリスでの二号店も売上を着実に伸ばしており、このまま行けば予定していました隣国エルロードでの三号店の出店も現実味を帯びてまいりました。それもこれも全て、我らが魔王に人との間を取り成して頂いたおかげ。感謝の言葉もございません。細かい収支報告は必要ないとのことでしたので、今後もコンサルタントに着いて頂いたバニル様指導の元、アクセルの一員として誠心誠意努めさせていただきます。


追伸:お仲間のサトウ様にもご贔屓にして頂いています。我らが魔王にもお時間ございましたら是非サービスを受けて頂きたいものです。
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