見渡す限り無数に立ち並ぶ墓。セカンドインパクトの大量死以来、こうした墓地は珍しくなくなっている。重機で釣り上げられる墓石を前にして、スーツ姿の男と大学生らしい青年が並んで会話をしている。
「思い切ったものだね、母上のお墓を、碇……いや、今は六分儀君だったね」
「……もう時間がありませんから」
「日暮れて、
シンジと同じ連想に思い至り、教育科学省の官僚である子安ハルヒトは頷く。中国春秋時代の武人、
そう、伍子胥は墓を暴いたのだ。今、母の墓を暴きつつあるシンジのように。
伍子胥はその事を親友に咎められ、「日暮れて途遠し、故に倒行してこれを逆施するのみ」と答えた。─もう時間がない。正道に拘ってなど居られない。あるいは、正道が父や兄を救ったのか、彼らは正道に遵ったが故に殺されたのだ、とも言いたかっただろう。
聡いアスカのあの夜の指摘は、賢い隠匿の方法は、知覚の盲点、物理的障害、倫理的抵抗感の3つを利用することだと指摘していた。
このうち、これは最後のものに当たるが、しかし父ゲンドウはちゃんとこれを乗り越える方法をシンジに教えていたのだ。父はなんと言ったか。
「
遺体が無いのなら、そこに倫理的忌避感は生じない。ただの飾りなのだから、お前はそこをやがて暴き、裏死海文書を引き継ぐ事が出来る。父はちゃんとそう言っていたのだ。
そして、
やがて墓石の下から、よくあるビスケット缶が姿を表す。墓堀人に故人の思い出の品だとでも言えば、誰も中身を詮索しないで埋めてくれる。別に誰かを追加で雇う必要はない。何も不審な記録は残らない。
シンジは缶の中身を改める。横文字の古文書が数綴りに、黄ばんだ大学ノートがやはり数冊。大学ノートの中身は日本語の細かい文字で書かれている。ゲンドウの筆跡だ。シンジはパラパラと中身をめくった。そして、古文書にもさっと目を通す。
「こちらは、ヘブライ語と、アラム語と、ギリシャ語の原本か……これはすぐ燃やして下さい。どうせ僕には読めない。訳してる時間もない」
シンジは子安に告げる。
裏死海文書は、魔法の巻物ではない。書かれている文章が重要で、原書でも読めないのなら不要だ。
「分かった」
年の割に思い切りの良い処置と態度だ。これがあのオドオドしていた内向的な少年か。子安は感心する。
「帰りのヘリは第三新東京まで何時間かかります」
「三、四時間というところだろう」
「分かりました。僕はこのノートの中身を帰路、完全に覚える。ヘリを降りるときにこれもすぐに処分して」
「君の頭の中にコピーするのか。それは一面、危険だぞ」
「覚悟してます。もとより危険を冒さないで、新しい特務機関など作れない。それより旧ネルフの上部組織というゼーレへの工作はお願いします」
「わかった。遠からず君に彼らの方から接触があるだろう。それまでは隠忍自重してくれ」
「夜遊びとかはしないから大丈夫ですよ。一緒に住んでるアスカの目もありますし」
シンジはくすっと笑いながら言った。
◆
「北上さん、話があるんだけど」
「六分儀……」
ゼミが終わり、全員が帰り支度を始めている。アスカは生理が重くて、家で休んでいる。女の子は可哀想だ、何も悪いことなんてしてないのに……とシンジは素朴に思う。だから、今日はシンジが学校に一人だった。そんなシンジが、彼を忌み嫌う同級生の北上ミドリにあえて声を掛ける。
「こないだの君の家族の話を聞かせてくれないか」
「……今さら、罪の意識にでも目覚めたって訳?許しを請うて、許されるとでも思ってるの」
「僕が許しを乞う相手は世界でただ一人だけだ。他の人について許しを乞うつもりはないよ」
シンジは淡々と告げるが、当然北上はそれに反撥する。
「開き直るの!?なら話を聞く必要なんかないでしょっ!」
「でも……北上さんが話を聞いてもらいたがっていると思えたから」
北上はシンジの言葉に、反論を失う。
やがて、二人だけになった教室に夕陽が差し込み始めている。北上はシンジからかなり離れた席に腰掛け、そっぽを向いて話を始めた。
「アタシの両親は小さな町工場を経営していて、いつも家計は火の車だった。工場が不渡りを出しそうになると、父さんと母さんは親戚を借金回り、いよいよ深刻になると、部屋の片隅で寝ているアタシたち子供の姿を悲しそうにみながら、思い詰めた表情をするのがたまらなく怖かった。あたしは一家の長女で、あたしだけが両親の表情の意味がわかった。あたしは両親が一家心中を選んであたしたちを殺してしまうのがたまらなく怖かった」
北上の過去を回想する表情につかの間、肉親から殺されるかもしれないという恐怖の陰がよぎる。
「そこにサードが起こった。二人にとってみれば、世界が丸ごと、一家心中をそそのかしてるようなものじゃない。今まで苦しくて、しんどくて、それでも夜、あたしたち子供の寝顔を見て、最後の一線で躊躇って、歯を食いしばって生きてきたのに、あちらの世界では一家みんなでいつまでも幸せに暮らせるんだもんね。あたしの妹や弟たちもみんなLCLから戻ってこなかったよ、あちらの世界には飢えも苦しみもないんだからね。でも、あたしはそんなの絶対に嫌だ。苦しみのない世界に喜びが有るわけがない。他人がいない世界で、自分しかいない世界で、自分と他人が一緒の世界で、そんなの……一体何がしたいのよ」
北上がいつの間にか小さく嗚咽している。シンジはそれをじっと静かに見つめている。
「……二人は仲の良い夫婦と思われてたけど、別に愛なんてなかったと思う。ただ、世間の悪意と冷たさに拒絶され、もうお互い同士しか味方がいなかっただけだったんだ。世間がもっとあの二人に優しかったら、とっくに別れていたと思う。……あたしがあんたと惣流さんを見て苛々するのもきっとうちの両親に似ているからだね。あんたたちそっくりなんだよ。別にお互いが好きな訳じゃない……愛してるどうかと言えばむしろ憎んでいるんじゃない? 周りがみんな敵だから、側にいてそれでも傷つけ合って、そうする事でお互いの存在を感じられる。それが自虐的な快感になっているだけ。寂しいだけなんだよ」
「僕とアスカの事は分からない。けど……」
シンジは言葉を切って、そこで言葉を続けていいか僅かに悩む。北上は答えを望んでいる、そう表情から判断して言葉を続ける。
「北上さんのお父さんとお母さんは愛し合っていたと僕は思う」
「なっ、あんた、あんたなんかに何が分かる!まともに人を愛した事もないくせにっ」
「でも、分かるんだ」
北上の頬を二筋の涙が伝う。彼女はシンジの言葉に唐突に号泣していた。なぜかシンジの言葉が真実だと分かってしまった。あたしの父と母はちゃんと愛し合っていた。とても弱い人たちだったけど、そこに愛はあった。赤の他人で家族の仇と言ってさえいいシンジなのに、それを認めてもらえて嬉しかった。
「それに……僕も人を好きになった事はあるよ。これまでの人生で、たった一人だけだけど。その人の事が好きだけど、僕と結ばれない方が幸せだと思ってる。僕なんかいない方がいいと思ってる。でも、北上さんの両親のように、お互い同士しか味方がいない関係を続けていけるのなら、それを愛と呼べない訳がない。だって、世界が丸ごと敵でも、その人だけは味方になってくれるんじゃないか。僕もアスカの味方になってあげたい。いつもそう思ってる。恋人とか愛人とかそんなのになれなくても、アスカの味方になってあげたい。アスカを守ってあげたい」
シンジは大人の表情をしている。でも晴れ晴れとはしていない。無理に大人になった振りをしているような表情だ。
「それをここで今、あたしに言うなよっ、バカっ。何であの子に言ってあげないんだっ!」
「僕には、そんな資格はもうないから」
「資格とかそんな話じゃないでしょ!どんなに酷い事をしたって、取り返せない、償えない筈がないじゃないか。あたしはあんたを一生絶対に許さない。許さないけど、あんたが、償いを諦めるなら、その時こそ本当に許さないっ」
北上は涙声でシンジを詰る。詰りながら、シンジという人間に初めて触れている。シンジを大量殺人を引き起こした化け物、あるいは憎悪の対象としての抽象的な家族の仇というイメージではなく、生身の人間として初めて知りつつある。
「……北上さん、ありがとう」
シンジは薄く笑った。
「北上さん、そのうちリクルートに来るよ。北上さんは欲しい」
「はっ?あんた一体何を言って……」
「何でもない。いずれ分かるよ。一緒に働ける日を楽しみにしてる」
◆
その数週間後、シンジは路上で黒塗りの車に載せられて、いずこかの建物に招待を受けた。子安の言っていた、ゼーレからの接触だろう。素直に車に乗った。スモークガラスに覆われた車内。途中の経路が分からないように、目隠しをされて。アスカには図書館に行くと言ってあった。少なくとも数時間は心配されることがないのは救いだ。
そして、今、シンジは大きな建物のどこか窓のない室内で、両手を後ろに組み、緊張からか脂汗をたらしながら、前を向いている。
やがて、二つの男の影が、照明の殆どない室内に明かりと共に立ち上ってきた。遠隔からの立体映像の投射だろう。バイザーを掛けた、半分が機械体の中年男性と、ネズミのように奇っ怪な印象の痩せた初老の男だ。
バイザーの男が言った。
「初めて会うな。碇ゲンドウの息子、旧サードチルドレン、碇シンジか」
「……初めまして。今は六分儀と名乗っています」
シンジは頭を下げる。額から汗が滴り落ちる。
「キール・ローレンツだ」
バイザーの男は鷹揚に貫禄を以て頷く。
「どうやら君は碇ゲンドウが隠匿した裏死海文書を入手したようだな」
「……入手しましたが、もう燃やしました。世界には裏死海文書はもう存在しません。僕の頭の中にだけそれはある」
「何を考えている」
「取引を」
「死か、それとも死以外の何かか」
「それは条件を聞いて、あなた方が決めればいい」
そこで、ネズミのような男が初めて口を開く。
「はて、条件とは」
「多くは望みません。特務機関ネルフの再建、僕にそれを委ねて貰うこと。そして、」
シンジは深く息を吸い込む。まだ脂汗が引かない。しかし、これがもっとも重要な条件だ。
「惣流・アスカ・ラングレーの身柄を完全に僕に任せ、その庇護下に置くこと。彼女に対するあらゆる免訴。拘禁や拷問、凌辱、虐待の禁止」
「旧セカンドチルドレンか。しかし、なぜ私たちがそれに従う必要が? 裏死海文書の中身は君の頭の中にある。君への拷問による自白の強要、そして脅迫手段として、セカンドチルドレンに手を出す事も容易だ。今やそれが君の弱点と分かったからにはな」
「あなた方はそれでは僕からは何も聞き出せない。拷問の結果、何も得られず僕の死体とアスカの凌辱体を得て、裏死海文書の内容は地上から永遠に失われる。それであなた方の目的が達成出来るのならそうすればいい」
「君はまだ若い。ブラフも稚拙だ。何なら例えば君の指を一本ずつ折っていって、それから考えに変わりがないか訊ねてもいい。君は悶絶する痛みの中、大人を舐めすぎた事を後悔するだろう」
ネズミのような男が若者の向こう見ずさと無知を、その若さに嫉妬するかのように、挑発する。
「指ね……ならばこれでどうですか?」
シンジは後ろ手に組んでいた両手を前に持ってくる。左手を前に出して、ゼーレの二人に見せる。五本の指、全てが第三関節または第二関節で折られ、ぶらんと垂れ下がっている。
「な、何を……」
さすがにキールも、もう一人の男も絶句していた。
「皆さんの拷問の手間を省くために自分で……先に折っておきました。でもまだ残りは十五本ある。それで僕が屈服するか試してみればいい……。僕はアスカを裏切らない。もう裏切っていい回数はとっくに越えてしまった……」
激痛を堪えているのだろう。シンジの言葉が話しながら時折途切れ、顔が苦痛に歪む。拷問など、幾らでも耐えられる。アスカの味わった苦しみや痛みを上回るものなんて存在しないのだから。
◆
この呼び出しが分かって、控え室に入った時、シンジは深呼吸をしながら、左手を見つめた。指の一本、一本を添えた右手により、痛めつけ、破壊していく儀式が始まる。
最初に中指から。アスカが量産型エヴァに鳥葬のように凌辱された時の激痛と苦しみを想った。シンジの助けを最後まで願望しながら、叶えられず、天に伸ばした手が裂かれる幻影を。アスカ、痛くしてごめん。助けてあげられなくてごめん。君の苦しみには程遠いけど、僕はこれから中指を折る。
「ぐはぁっっッ、くぅう……!」
耐え難い強烈な痛みが脳裏を直撃し、吐き気さえ襲ってくる。エヴァに乗ったときでさえ有り得ない、これまでの人生で味わったことのない痛みと辛さだ。しかし、アスカは量産型エヴァに凌辱された時、もっと痛かったはずだ。もっと悲しかったはずだ。もっと苦しかったはずだ。
その次は薬指。アスカがいつも僕に与えてくれた優しさを想った。どうしてアスカは僕に
「うぅっっ!……ぐわっ……っハァ……ハァ」
痛みは二本目だというのに少しも馴れてくれない。むしろ、激痛と吐き気は倍増し、卒倒してしまいそうになる。息遣いも荒くなる一方だ。だが、それでいい。馴れてしまうような痛みでは罪を罰する事にはならない。痛みはシンジの精神を覚醒させる。研ぎ澄ます。ゼーレに立ち向かう勇気と怒りを与えてくれる。
小指に進む。アスカの怒っている顔を思い浮かべた。失望している顔も。励ましてくれる顔も。悲しそうな顔も。色んな顔を知っている。でも、僕の存在が彼女にネガティブな感情を引き起こす。僕の存在自体が罪だ。僕はアスカにとっての毒だ。僕は僕を罰しなければならない。だから、僕は小指を折る。
「っつぅ!くぅぅ……ハァ……ハァ……ううっ……まだだ、このぐらい、アスカの痛みと苦しみに比べれば……」
嘔吐感がさらに増し、止まらないが、戻さないように深く息をして動悸を落ち着かせる。ここで服を汚し醜態を晒せば、全てが黙阿弥だ。そもそも僕には何かを気持ち悪いと思う権利さえない。僕自身が一番気持ち悪い存在なのだから。アスカがちゃんとそう言っている。
人差し指だ。僕は自分がアスカを穢した病院でのマスターベーションを思い起こす。アスカ……ちゃんと身体ではなく、アスカ自身、アスカの心に向き合えなくてごめん。アスカのこと、ちゃんと好きだと言って、それで二人で向き合えば良かった。もちろん、それで拒絶されたかも知れない。だが、一方的な冒涜より遥かにマシだ。もう二度と自慰行為など出来なくなればいい。だから、僕は人差し指を折る。
「ぐぅっわぁぁ……くはあっ……つっ」
痛い、イタい、いたい、痛い……辛くて堪らない。アスカごめん、ごめん、ごめんなさい……許してくれなくてもしょうがないけど、でも許して欲しい……弱音がどうしても零れ落ちる。─許して貰えるなんて希望は捨てろ。お前にそんな資格はない。
そして、最後に親指だ。アスカの未来にはどんな男性が側にいるのだろう。それが自分で無いことだけは確かだ。弱い自分、情けない自分、すぐに逃げ出す自分、卑怯な自分、甘える自分、努力しない自分、怠惰な自分、アスカをダメにする自分、アスカを穢す自分、アスカを犯す自分、アスカをまともに抱けない自分。そんな自分はアスカの隣には相応しくない。だから、僕は親指を折る。
「っつぅ……ぐわっっ……ううっ。イタい……痛くてたまらないよ……つらいよ……」
最後に本音が堰を切ったように流れ出る。僕が君のそばに居れなくなるのが嫌だ……他の男が僕の代わりにそこに居るのが嫌だっ……でも……僕には文句を言う資格なんて……もう……
これで左手の五本の指は全て使い物にならなくなった。傷が癒えても元通りになるかも分からない。それはどうでもいいことだ。これが僕がゼーレと戦う唯一の武器だ。アスカを守る唯一の武器だ。こんな事を願う資格はもうないのだけれど、叶うのなら、アスカ。僕の闘いを見守って欲しい……
◆
「なぜ、お前はそこまでセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーに拘る」
キール・ローレンツは痛みに朦朧とし始めて来たシンジに静かに問う。シンジは歯を食いしばって意識を繋ぐ。
「アスカは……惣流・アスカ・ラングレーは、僕の女だっ……僕が必ず守る……誰にも指一本触れさせない。彼女自身がそれを望まない限りッ……」
そこまで強い口調で宣言した後、汗でぬらぬらと光る額を使い物になる右手で拭いながら、シンジはしかし、うずくまり倒れ込む。意識をそのまま失ってしまう。
「……激痛ゆえの気絶か」
「そのようです。すみません」
部屋の片隅で気配を消すように座っていた子安が立ち上がり一礼する。
「子安よ。碇ゲンドウの息子……面白い
「彼は非常に優秀な人間です。胆力も覚悟もある。ややメンタルは細いですが」
「そのぐらいで良い。碇ゲンドウは些かふてぶてし過ぎた。我々の手駒としては少々手に余った」
「彼は賭けに勝ったのですか」
「そうなる。勿論、学校を出て直ぐの若造に特務機関を一つ呉れてやる訳には行かない。国際上級公務員としての試験を受け、己の才幹も示してもらわねばならぬ。だが、七、八年後には新しく設立されるネルフはこのシンジという
本当の所を言えば、自白剤を使って自白させる手もあるし、相手が早く殺してくれと懇願して自白するような洗練された拷問術もある。シンジの取った手段は所詮は素人の、子供の振り回す蟷螂の斧のようなものだった。だが、シンジの意表を突く振る舞いに、キール・ローレンツが興に乗ったのは確かだ。
もともとキール・ローレンツは、知恵の実を食べたヒトと生命の実を食べたシトが地球上で覇を争い、たとえヒトが勝っても生命の実を得て知恵を喪い、シトに身を堕とすという神の計画を出し抜いて、知恵を保ったまま単体生物に進化する人類補完計画で神にささやかながらも一矢を報いようとした男だ。サードインパクトの発動でも不完全な発動を嫌い、完全なる人類の合一を願って、LCLの海から戻ってきた。本人自身が御しがたい悍馬のような性格の男だ。
それゆえ、男の反逆心が嫌いではない。もっと言えば反逆心のない男など価値がないとさえ思っている。だからあの野心をわざと陳列して前面に押し出す碇ゲンドウのような売り出し方の男も、時に鼻についたとしても嫌いではなく、猜疑心を怠ることなく飼っていたのだ。なるほど、このシンジという
「彼のもう一つの条件は?」
「叶えてやれない理由などない。別にどうでもいい女だ。年齢から言って、もうエヴァには乗れないのだからな。日本政府の扱いも稚拙に過ぎた」
「それで、六分儀シンジも安心するでしょう」
「だが、父のような裏切りは二度と許さん。子安、お前が猫に付ける鈴になれ」
裏切りの心を持った男は嫌いではない。が、実際に裏切られるのは、キールの趣味と身上に反する。
子安は黙礼して、シンジを救護する為の人員を参集させる為の手配を始める。