大人のエヴァンゲリオン   作:しゅとるむ

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二十五話 ノエルを待ちながら

 

 十二月に入った。日々寒くなる。サードインパクト後の世界は地軸の傾きが戻り、常夏のおかしな世界は終わりを告げた。その再変化に伴う天災地変とその犠牲者の数も痛ましいほどだが、まずは世界は一つまともさを取り戻したのだ。ずっと夏休みでは居られない。ずっと中学生では居られない。だからアタシたちは傷つきながら、傷つけあいながら、今でも二人、大人になる事はどういう事なのかを探りながら、そばに寄り添って生きている。

 

 でも、世界の異常性の発露である使徒はまもなく帰って来る。世界の狂気あるいは癌が戻ってくる。使徒はアタシたち自身の似姿だ。もう一つのあり得たかも知れない人類のかたちだ。たった一身で自足し、他者を必要とせず、愛も孤独も生殖も病も知らない、もう一つの私たちだ。だから、私たちは鏡の向こうの私たちに競うように、先に正気を喪い、外道の策を弄して、先回りで狂うことで対抗しようとしている。

 

 アタシが司令室に入ると、シンジが机の上に広げていた書類から顔を上げて、

 

「アスカ……」

 

と呟いた。

 

「こら、公私混同。惣流作戦部長、でしょ?」

 

 アタシは笑いながら、前に、職場だよとシンジにたしなめられた事へのささやかな仕返しをしてやる。

 

「ごめん……そうりゅ……」

 

 近づいたアタシは、皆まで言わさず、シンジの口を手のひらでふさいで、言葉をストップさせる。仕事の席ならともかく、シンジに今更、惣流なんて言われると、むずがゆい。他人でもあるまいし。まあ、身体の関係がある事を除けば、所詮は他人なんだけどね。

 

「なんてね。いいの。もちろんアスカでいいよ。あのサクラだって公然と正妻気取りなのに、こちらがコソコソする必要なんかないんだものね」

「正妻?」

 

 怪訝な顔をして問い返すシンジの反応に、アタシは満足する。

 やっぱりシンジはサクラの渾名とか、何も知らないんだ。それだけでアタシは嬉しい。シンジに欠片も裏切りの気配がなく、正妻云々が本人さえ知らない戯言だと確認するだけでアタシの心は安堵し、満たされる。今までは戯言だとちゃんと分かっていたのに、確認する事には臆病で、逃げ回ってばかりいたのだ。

 

「何でもない。それより、これ。……シンちゃんへのプレゼント」

 

 シンジがアタシをアスカと呼ぶのなら、アタシも碇司令とかではなくて、自分のシンジへの呼称のレパートリーの中から、一番親愛の情に満ちた呼び方である「シンちゃん」を、にっこり笑いながら採用する。元々はミサトが使っていたものをずいぶん前から勝手に使わせてもらっている。シンジの女であるアタシにはその権利はあるはずだから。

 

 アタシが差し出した洋封筒を開いたシンジは、中から招待カードを取り出して、曖昧に微笑んだ。

 

「クリスマスディナーか……」

 

 雪化粧をしたクリスマスツリーにサンタとトナカイのイラストがあしらわれている典型的なクリスマスカード。そこにホテルのレストランの名前と時間を印刷しておいた。

 

「そ。忙しいとは思うけど、イブの夜だけは空けて欲しいの」

「分かった……アスカと出かけるの、久しぶり……だね」

「久しぶりというか、ほとんどデートみたいな事はしてなかったからね……もっとちゃんと告白とかして……デートもすれば良かったのかな?そうしたら、アタシたちの関係は今頃もっと違っていて……」

 

 そんなifに何の意味があるのか分からないが、三十路を超えたアタシはつい後ろを振り返ってしまうのだ。だって前方には何もないように思えるから。

 

「あんなにも時間はたっぷりあったのに、アタシたち、抱っこして、一緒に寝てばっかりで。それが『仲良し』なんだと思ってて……本当にバカだった。

しづやしづ しづのをだまき くり返し……よね」

 

「そんな、全てはもう終わってしまった、みたいな言い方するなよ、アスカ……」

 

 ─しづやしづ しづのをだまき くり返し

 

 静御前が、もはや叛逆者となった源義経を慕って詠んだ歌だ。時の支配者、頼朝を激怒させてまでも、己の義経への想いを歌ったのだ。有名な歌だから、シンジもちゃんと下の句まで分かったようだ。

 

 昔を今になすよしもがな……

 

 糸巻きを巻くように、過去をもう一度繰り返して、昔をやり直せたらいいのに……

 

「別に何も終わってないじゃないか、僕とアスカは……」

 

 シンジの声はいくらか不機嫌だった。取り返しの付かない、取り戻せないと、過去ばかりを振り返るのではなく、シンジもまだアタシとの未来に希望を持ってくれているのか。それは少しだけ嬉しい。でも、希望だけ残していても、将来の計画は何もないのだから、きっとその希望は空しいだけなのだ。

 

「……あと、残念ながらアタシとシンジの二人きりではないの」

 

─「かならず来てください」 招待状には少女らしい丸文字でそう書かれている。それをシンジは読み上げた。

 

「アイか……」

 

 シンジは少し寂しげに目を細める。きっとシンジはアイに対して、色々と後ろめたい。だからアタシはあえて明るい声で言う。

 

「そう、これはアイの発案なの。あの子にとっても、クリスマスは初めてだから、色々体験させてあげたらいいと思って」

「ありがとう、アスカにも負担をかけて」

「ううん。あの子のこのアイデアがなければ、アンタもアタシも、今年もきっとクリぼっちだったでしょ。……あの子と暮らすのはけっして負担なだけではないわよ」

「クリぼっちって……それ、そろそろ死語でしょ」

 

 そう、シンジは苦笑いする。

 

「あー、マリの影響かもねぇ。アイツ、趣味も言い回しも何故か昭和なのよ。アタシ、生まれてもいない、日本に居たこともない昭和なんて知らない筈なのに、何となく昭和っぽさが分かるようになってしまったんだから」

 

 やれやれとアタシはおどけながら嘆息する。本当はクリぼっちは平成の流行語だし、マリには悪いけど、彼女をダシにしてアタシはシンジとの間に親密な会話の空気を作り上げようとする。

 

「仲の良いマリさんがアスカのそばに居てくれると安心するよ。僕が居なくても大丈夫かな、って思わせてくれるし」

 

 しかし、シンジのその一言は余計だった。本当に本当に余計だった。アタシはすっと笑顔を引っ込めて、シンジに血の気の引いた顔を向ける。

 

「それは……大丈夫じゃないわよ」

「え?」

「シンジが居なくなったら、大丈夫じゃない」

「ご、ごめん……そんなに深い意味ではなくて。でも、そういう事だって起こり得るんだから」

 

 シンジはそれとなく執務室内を見回した。盗聴しているであろうゼーレの事を示唆しているのだろう。ゼーレは、用済みになればいつシンジを抹殺しても不思議ではない。人類補完計画再発動を目論む狂信的秘密結社なのだから。

 

「前にも言ったように、そうなったら後を追うから」

 

 それが事故であろうと、戦死であろうと、謀殺であろうと。アタシはシンジが死んだら後を追う。

 

 あの日から二十年後の約束の日までの時限付きの関係であることも忘れて、アタシは断言していた。

 

「そんな嫌なこと、考えさせないでよ……毎日毎日生きるのがつらいのに、シンジの顔を見たときぐらい幸せな気分でいさせてよ……頼むから」

「無神経だった。ごめん。でもそんな、後追いとか、バカな事は絶対にしないで欲しい」

「いやだ」

 

 この世で結ばれなかったのなら、あの世で結ばれるしかない。悲劇が待っているのなら、アタシ自身昔は鼻で笑っていた来世とやらに救いを求めるしかない。それが地獄であろうとなんであろうと。

 

「いやだ……シンジのいない世界はイヤなんだ……」

 

 アタシは司令官の執務机に手を付きながら、首を左右に振った。

 

 シンジは長い溜め息をついた。我が儘で子供みたいな愛人にほとほと手を焼いているのだろう。

 

「分かった。そんな事にならないよう、最大限に努力する。だからアスカも与えられた状況の中で、幸せになる努力は諦めないでよ……」 

 

 そういって、シンジの方からアタシの手に自分の手を重ねてきた。

 

「……」

 

 アタシは硬い表情で一応頷いた。幸せになる努力ですって?そう言うアンタはどうなのよ。口先では大人ぶって偉そうな事を言うが、ベッドではアタシに甘えまくってるガキが何を言ってるんだ。それに、アタシが幸せになる為に必要なのはアンタの選択あるいは言葉一つだけなんだ─そんな風に思うけど、一応シンジの言葉には誠意を感じたから……そして重ねられたシンジの手の温かさが嬉しかったから。だからアタシは頷いたのだ。

 

「……ところで、アイは元気にしてる?」

「ええ、元気にしてるわよ」

 

 シンジはわざとらしく話題を転換した。

 いつまでもアタシの手を握っているシンジの手を振り解く事も出来ず、アタシは曖昧に肯き、答えを返す。

 

「体調の事が気になるんだ。鈴原一尉に定期的にメディカルチェックしてもらってるけど、もし異変があったらすぐ連絡して欲しい」

「分かってる」

 

 綾波レイのように定期的に薬を飲んで、ネルフで身体維持のメンテナンスを行わないと生存できないような状況には、六分儀アイはなっていない。元気いっぱいの普通の人間に見える。彼女については、それだけが救いだ。

 

「アスカには苦労を掛けるよね」

「これ、歴代作戦部長の業務の一環なんじゃない?お給料値上げしてほしいわね」

 

とアタシは冗談めかした後、言ってみる。

 

「……ね、ミサトもアタシたちを預かって、同じような気持ちだったのかな。赤の他人を預かって……出来もしない親の真似事までしてみせて。負担もあるけど、何かをそこから学べるんじゃないかって」

「うん……」

 

 その様子を見ると、シンジにとってはミサトの話は未だに重いようだった。目の前で敵の銃弾からシンジを庇って……それでもシンジを叱咤して戦場に送り出し……そうして、死んだのだから。そういう状況だったと少なくともアタシは聞いている。

 

「きっと、それはミサトにとっても大切な試みだったのよね」

 

 人の親になること、親として子供を育てること。それが人間の人生の中で最も大きな使命だ。たとえそれが他人の子供で、自分が単なる擬似の親であっても、その試みは尊い。いや、本当の親でないからこそ、いっそう尊いのかもしれなかった。だから、ミサトは最期まで立派に人間として生きたのだ。最期にはシンジをアタシのもとへと送り出して。それが間に合わなかったとか、結局シンジが意気地なしのままだったとかは、もはやシンジの側の問題であって、ミサトの問題ではない。親に出来るのは、子供を「行ってらっしゃい」と家から送り出してやることまでだ。

 

 シンジは、口を箝して語らない。もしくはミサトについて語るべき言葉を持たない。でも、それも良いだろう。何かを語ってくれるかと水を向けてみたが、シンジにはまだその言葉がないようだ。ミサトとそんな別れ方をしているのに、平然として饒舌で居られるシンジが見たいわけでもなかった。といって、苦しんでいるシンジを見たいわけでもないから、アタシは話題を変える。

 シンジは自分の死を話題から避け、アタシは亡くなったミサトの話題を切り上げる。お互いにタブーや触れない方が良い話題ばかりが増えていく。それがアタシたちの関係なのだろうか。これからも、傷だらけの心を寄せ合って、二人で震えるように生きていくしかないのだろうか。そう思うと、また切なくなって来た。シンジに抱いてもらいたくなった。

 

「あのさ、急で悪いけど今晩……アタシから誘ってもいい?」

 

 その誘いはもちろん、艶めいた毎週の誘いかけで。

 

「……いいよ。七時台で良ければ。中抜けして、終わったら仕事に戻る」

「中抜けか……誘っておいてなんだけど、それで仕事になるのかしら」

 

 指呼に迫る使徒の来寇を見据えて、シンジも、その命を受けるアタシたちの仕事も忙しくなっている。仕事を途中で抜け出し、情事を終えて蜻蛉返りというのもままある事だ。アタシは中抜けではなく、逢瀬が終わったら帰宅して、アイの様子を見なければならないな……。

 

「なるよ。そんなに何回もしないから」

「あらら。それはザーンネン。またシンちゃんにしつこくおねだりされたかったのに……」

「またそうやってからかう」

 

 でも最近のシンジは少しだけ、またアタシを自分から抱けるようになっていた。まあ、四、五回に一回ぐらいという所で、そんなに「成績は良くない」状況だが。それでも、アタシはアイの存在が、シンジに色々な事に立ち向かう気力を与えているような気がしている。養父とはいえ、更にはアタシに養育の殆どを任せているとはいえ、父親や男としての自覚のようなものが芽生えているのではないか。

 

 つまりは、アタシの身体─つまりは女体だって、男のシンジにとっては立ち向かう対象なのだ。女の身体を抱くのは気持ちいいのだろうが、やっぱりそこには根源的な他者や異物への恐怖もあって、シンジにはそれが、アタシから拒絶されないかとか、ちゃんとアタシをリードできるのかとか、アタシを気持ち良くさせてあげられるのか、或いは、最後までちゃんと出来るのかどうか……そういった沢山の不安に立ち向かう一つの闘いになっている……アタシにはそんな風に思えるのだ。だから、シンジがアタシの身体をはじめ、色んなものと闘う気力を持ち始めているのなら、それはきっと良い兆候なのだ。

 

(大いに、存分に、アタシの身体を征服したらいい。アンタはやっぱり男なんだから)

 

 もちろん、シンジがアタシを抱こうとする時、おずおずとした態度は相変わらずだ。技術が下手な訳ではない。性愛の技術は中学の時より進歩しているが、シンジの抱き方は優しすぎるのだ。アタシを女として、また人間として尊重し、傷付けまいとするシンジの態度と行動は、アタシに誇りを与えてくれるが、それがあと一歩踏み込んで欲しいときに物足りなさを生じさせる事もある。

 

 ……シンジがアタシを征服しようとする事が、もしかしたらアタシのプライドを傷付けるかも知れないなんて心配、シンジがするのは生意気ってものなのよ。

 

 

「それで、わんこ君は約束してくれたんだ。クリスマスディナー」

「まあね」

「もしかしたら、姫がわんこ君とクリスマスを一緒に過ごすのって初めて?」

「あんまり意識してなかったけど、そうかも知れない」

 

 二人のうら若き女部長が、給湯室でお茶を煎れながら、だべっていた。

 仕事が暇な訳じゃない。その逆だ。会議などが何も無くても、稟議は毎日十件以上回ってくるし、結構重い判断を迫られることもある。メールは日に、百件以上で読み流すだけでも、時間を取られる。だから無理やりにでも、こうやって二人で落ち合う時間を作ることは重要だ。作戦部と技術部の情報交換にもなる。ま、今回のは純然たる雑談で、仕事の話じゃないけれど、同僚との信頼関係を構築するには、休憩時間のこういうやり取りも偶には必要だろう。

 

「世の中もクリスマスって、また騒げるようになったの最近だしね……」

「確かにねぇ。あたしも高校の時には生きるので、必死だったな。余裕のある家庭でもそうだったんだから……姫たちは余計にそうだったかな?」

 

 サードインパクトから数年は、世の中に浮ついた雰囲気はなく、日本どころか世界全体が敗戦ムードだった。当時、高校生だったアタシたちには日本政府の庇護があったから、いくつかの非人道的な取扱いの反面、充分な物資が与えられていた。しかしそうした庇護がなかった一般の人々にはサード後もある種の地獄のような状況が続いていたはずだ。当然、クリスマス気分などというものはなかった。

 

 丁度大学に入った頃からだろうか、復興が軌道に乗り始め、復興景気と相まって、昔のようなクリスマスを祝うムードがおずおずと戻ってきたのは。しかも昔のような、常夏のクリスマスではなく、雪が降るようなホワイトクリスマスのイメージは、セカンドインパクト以前を知らない若者にとっては新鮮な驚きを与えていた。

 

 しかし、そもそも十二月というタイミングがあまり良くない。アタシの誕生日は十二月四日だから、シンジに誕生日を祝うようにそれとなく仕向けた事もあった。でも、シンジはアタシとは中学からずっと寝ているが、他に恋愛経験一つとてないので、何をプレゼントしていいか分からず、挙げ句に唯一の女の知り合いであるアタシ自身に、あたかも別の女へのプレゼントを選ぶかのように装って相談する始末だった。

 

「あの、アスカ。女の子にプレゼントをしたいんだけど、相談に乗ってくれないかな。あ、アスカにじゃないよ。他の女の子だよ!」

 

 シンジに言わせれば女の子の気持ちが分からない。女の子の喜ぶものが分からない。だけど女の子の知り合いというか、友達というか、シンジがまともに話せる女の子はアタシしかいなくって。たとえアタシへのプレゼントでもアタシに相談するしかなくなってしまったのだ。それならそうと素直に言えばいいのに、無理してサプライズなど狙おうとするからややこしいことになる。

 

 その後、誤解混じりの大喧嘩を経て、プレゼント一つ用意するのが精一杯で、アタシもシンジもそのイベントを不器用にようやく乗り越えると、もう年末まで脱力してしまっていた。

 

 多分、シンジとクリスマスを一緒に過ごした事は実際にはあるはずだ。単なる「寝正月」ならぬ「寝クリスマス」として。当時もそうだが、クリスマスは恋人と一夜を過ごす日みたいな扱いだから、雑に部屋にシンジを呼んで雑に「寝て」終わりみたいな感じならあったかも知れない。いずれにしても、ディナーに行くとか、ホテルに行くとかは全く思いもよらず(そもそもあの別れ話をするまで、ラブホテルには行ったことがなかった)、そういう浮ついたイベント日の過ごし方があの頃のアタシとシンジには似つかわしくなかった。……アタシたちにとってのクリスマスは、これまでそれほど重要なイベントではなかったんだ。

 

「じゃあ、大切じゃない。姫と王子の初クリスマス。むふふ、一晩中、いっぱいわんこ君に甘えさせてもらったら良いんじゃない?」

「いやぁ……そもそもアイも一緒だからね。ディナーを食べ終わったら、帰宅してお終いになると思うわよ」

 

 アイを預かるようになってからも、アタシとシンジの毎週の逢瀬は続いていたが、未成年の被保護者を一晩中ほったらかしにして、男の身体を貪るほど、アタシもだらしがない女ではない積もりだ。だから遅くとも日付が変わる前には帰っていたし、こないだのような「朝チュン」などはもう望むべくもなかった。まぁ、それはしょうがないじゃない。アタシとシンジは夫婦ではないのだから……。

 

 アタシとシンジが夫婦だったら、毎週どころか毎晩一緒に寝られて、それだったら別に毎晩セックスしたりはむしろしないだろうけど、本当はそんな仲の方がアタシは良かった。一晩中抱き合いながら、その日はセックスなんて少しも考えない。だって、いつだって出来る事なら焦る事は何もない。その日その時の気分で決める。必ずセックスをするための週に一度の逢瀬なんかより、アタシはそんな毎晩が欲しかった。シンジと毎晩、夫婦として穏やかに夜を過ごし、朝を迎えたかった。

 

 だけど、サクラが批判したとおり、アタシは、シンジのことで頭をいっぱいにし過ぎだった。本当はもっと、自分が責任を引き請けたアイの事を考え、彼女が何を悩み、アタシたちに何を呉れようとしていたのかを、彼女こそが人間らしく生きようとしていたのだということをちゃんと真剣に考えるべきだったのだ。

 

 そう、アイはもちろん、人間だったのだ。

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