「……で、告白してきたアイツの態度が癇に障ったから、『シンジとセックスしまくってて、アンタの出番はないわよ』って言ってやったのよ。そしたら、翌朝、アレってわけよ。だから、憎まれてるのも嫌われてるのもアタシで、あんたはアタシの男だと思われたから、とばっちり受けただけなのよ。あんたはそんなに気にすること……」
アスカは狭い寝台の上で、シンジの頭を自分の胸に引き寄せ、少年の髪を撫でながら寝物語をしている。
シンジは頭を上げて、血色の悪い顔のまま言った。
「そんな……告白してきた相手に、セックスの話とか、怒って当たり前だよ……何考えてるんだよ、アスカは」
「ハァ? アタシが誰とナニをしようと勝手じゃない。アイツに何の関係もない」
「アスカのことを好きな人に優しくできないの? 僕がもしアスカにそんな事されたら、死にたくなると思う……」
(ちっ……自分のことでキャパ一杯の癖に、なんでそんな事を気にするかな)
自分自身が死にそうな顔をしているシンジの額に、アスカは額を合わせる。
「……アンタじゃなくて、あのイヤな男子に言ったのよ。嫌がらせの主犯なのよ? 自分をいじめた相手にまで感情移入しないでよ。それに、あの男はアンタのことをあからさまにバカにしてたのよ」
「僕はバカにされたっていいよ……酷いことをみんなにしてるんだし」
「アタシが嫌なのよ!」
アスカは思わず声を大きくする。シンジが腕の中で、自分が叱られたようにびくっとなって、目を瞑った。
(そうか、アタシがシンジをバカにされてイヤだったんだ。だからアイツのこと、あんな風に挑発して拒絶したんだ……)
自分でも気付かなかった感情を発見して、アスカは得心する。
(アタシが好きな……シンジをバカにするのは、シンジ自身にだって許したくない……)
「卑下はもうやめて。アンタに
そう言ってシンジの背中に回した腕の力を強める。
「それに優しくって何? アンタ、他の男とアタシが仲良くしていて、嬉しいの? どうせ本当にそうしたら、死にそうな顔になるくせに」
「だ、だから……そこまで……そんな風にして欲しいわけじゃないけど、振るなら振るで、言い方とかあるじゃないか!アスカには皆と仲良くしてほしいのに。周りの空気読んであわせるだけだろ……」
「はん、日本人の得意なやつね。でもアンタそれでちっとも幸せになれてないじゃん。アタシは愉しくもないのにヘラヘラ笑って、周りに合わせるのなんて絶対にイヤ」
アスカには日本人の同調圧力の強さがどうしても馴染めなかった。むろん、どこの社会にもそういう圧力は存在する。しかし、特に日本の学校は強すぎるのではないか。
「アタシの優しさは誰にでも与える積もりはないわよ。アタシだってもういっぱいいっぱいなんだから。あげたい相手にだけあげるの」
「……どうして、それが僕なの……」
「それはアンタが一生懸命、自分で考えなさいよ」
アスカからヒントは結構出しているつもりなのに、シンジは塞ぎ込んでいる事が多いから、見えてないし、聞こえていない。
「いくら考えても分からない。……アスカに色々してもらう度に、胸が痛い。僕は本当は、アスカとこんな事をする資格はないと思うから。本当は、アスカからこんなものを貰ってちゃいけないと思うから」
シンジはそして、アスカの白い首に顔をうずめて、遂に啜り泣き始める。
(アンタが貰わなかったら、アタシのその気持ちはどこに行けばいいのよ)
「そんなのアンタが決める事じゃない。アタシが決めることよ」
「分かってるよ……だから怖いんだ。僕にはどうしようもないから。多分、一生そばに居てくれても一生怖いと思う。だって明日、アスカがいなくなるかも知れないんだから」
シンジの孤独と不安は分かる。
だが、シンジにはどうしようもない、のではない。
シンジにしかどうしようもない、のだ。
シンジが、自分で自分を好きになり、アスカのことを信じられるようになるしかない。
アスカにはそこまで救ってやることは出来ない。
「……それじゃ、結局アタシとアンタは一緒になれないわね」
アスカはシンジから身体を離す。
「部屋に戻るわ」
「イヤだ、帰らないでよ……」
「8時には起こしにくるわよ。やっぱこのベッドは二人じゃ狭い」
「……」
寝台を下りたアスカはかがみ込んで、半身を起こしたシンジに目線の高さを合わせる。そして、いきなり彼の鼻を摘まんで、唇を重ねる。
「うっ……んんッ」
「……」
シンジは驚きに目を見開いたまま、アスカは長いまつげを震わせて、そっと目を閉じる。
セックスは毎晩のようにしてるのに、久しぶりのキスだった。
やがてゆっくり唇を離すと、それからアスカは立ち上がる。
「おやすみ」
タンクトップと下着、短パンを素早く身に付けると、玄関から出て行った。
自室に戻り、アスカはシンジの部屋にあったのと同じ寝台の上に横になる。シンジの匂いのしない寝台。シンジはアスカの部屋には来ないからだ。
アスカは大きく嘆息する。
「……もしかしたら、アイツと十年も二十年もこんな事を続けるのかしらね」
それから唇にそっと指を沿わせた。
「アイツ、少し唇が荒れてたな……」
食べ物が良くないのか、心労なのか。
明日、少し気にかけてやろう。
「おやすみ、バカシンジ」