俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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33話。保管完了。

 季節が冬から春に移り変わろうとしている頃の話である。

 

 1限目に授業があるという、大学生にとってはクソほどダルい時間割りをこなすために夜更かしで寝不足な頭を目覚ましで叩き起こし、寝ぼけながらコートを羽織りマフラーを巻き、女の子が何事か喋っていたけど無視してバッグを背負っていざ出発。

 

 ……して自転車の鍵を開けたところで外の暑さでハゲ上がりそうになった。

 

 神速で家の中へと舞い戻り、バッグを投げ捨てコートとマフラー脱いで床に叩きつける。

 

「ぁ暑っいわぁっ!!」

 

 さっそく額に滲み出していた汗を拭いながら俺は叫んだ。叫ばなければやっていられなかった。

 

 正直、地球温暖化とか「ふーん」って思ってました。今日実感しました。

 

「いや……だから「今日暑いよ」って言ったじゃん……今さっき……」

 

 目の前で立っていた女の子がまるでバカを見るような目で言ってくる。

 

「ヤバい地球ヤバい地球温暖化で地球がヤバい人類滅ぼさなきゃヤバいアクシズ落とさなきゃ」

 

「そうだね。わたしがもうちょっと大きな声で言うべきだったね。だからとりあえず落ち着こうね。核の冬が来ちゃうからね」

 

 俺の額に女の子がペタリと手の平を当ててくる。

 

 女の子の手はヒンヤリとしていて気持ちが良い。そのまま女の子に手を引かれ、部屋の中に戻ってリビングの床に腰を落ち着ける。

 

 となりにある卓袱台は未だコタツのままで、外の異常な猛暑を経験した俺からしたら見ているだけで暑苦しい。

 

「はい、水」

 

 女の子はその卓袱台の上にあったペットボトルの水を手に取ると渡してくる。

 

 受け取ってみれば中身が減っていて明らかに飲みかけである。当然、俺が飲んだわけではない。

 

「……これ、お前のだろ」

 

「そうだけど」

 

「なんか、回し飲みは嫌とか言ってなかったっけ、お前」

 

「え、いや……言ったことない、と思うよ?」

 

「間接キスがどうたらって言ってただろ。だいぶ前だけど、コーラとコーヒー交換した時だったか」

 

「……あぁ~。あれは貴方と間接キスになるから、恥ずかしいから、言ったの。今は、恥ずかしくない。本物のキスだって、毎日何回もしてる」

 

「……そうだね」

 

 こいつ無自覚で言ってんのかな。言われたこっちが恥ずかしいわ。

 

 これ以上言及しても俺が微妙な気持ちなりそうなだけなのでとりあえず渡された水を飲んで気を落ち着ける。

 

「落ち着いた?」

 

「少しな」

 

「それ、わたしの唾液入り」

 

「……お前ほんと性格悪いよな。さっきのも分かってて言ってただろ。まあ、別に気にしないから飲むけど」

 

「気にしろや」

 

「追加、口も悪い」

 

「そこは「いい度胸だ。壁に手を付けな」って言うべき」

 

「朝からプレイ内容が濃厚過ぎる」

 

「俗に言う壁ドン」

 

「流れから察するにお前が壁ドンしてるんですがそれは……」

 

 話が泥沼になりそうなので机の上にあるリモコンを引き寄せてテレビを点けることで無理矢理切り上げる。

 

 チャンネルを変えてみるがめぼしい番組は何も無い。まあこの時間帯に期待する時点で無謀だろう。

 

 画面右上に表示されている時計を見れば、大学の授業までには多少時間の余裕がある。……のだが、なんだかもう気力が萎えてしまった。

 

 元々、大学の1限目に出席する気力など空元気を振り絞るようなもので、こうして気を落ち着けてしまえば面倒臭がりな俺が顔を出す。

 

 というか、必修でもない科目に今日まで毎度毎度律儀に出席してきた自分を賞賛したい。頑張ってきた自分にはご褒美が必要だろう。なので今日はもう休もう。そうしよう。

 

 そんなこと考えていると、玄関から俺のコートやらカバンからを回収してきた女の子が問い掛けてくる。

 

「そういえば、貴方、学校は大丈夫なの?」

 

「子供の将来に不安を感じてるお母さんみたいな物言いはやめてくれますかね」

 

「意味合いが違う。朝から学校があるから、さっき出掛けたんでしょ」

 

「あぁ、今日はもう休む。面倒臭くなった」

 

「それでいいのか大学生」

 

「生憎、俺は真面目な大学生なので1日くらい休んでも大丈夫なのですよ」

 

「面倒臭いという理由で学校を休む時点で、真面目な大学生ではない。論破」

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

「不毛すぎる反論ショーダウンが始まりそうで戦慄を禁じ得ない」

 

 そう言っている割には女の子は特に強制しようとしてくるわけでもなく、俺の目の前をテクテクと通り過ぎてハンガーに俺のコートとマフラーを掛けている。

 

 見るからに「どうでもいいや」と言った態度だ。

 

「えらく淡白な感じだな」

 

 別にとやかく言われたいわけではないが。

 

「……心配して欲しいの?」

 

「別に」

 

「素直じゃない」

 

「ツンデレなんでね。お前曰く」

 

「……別に、心配するほどのことじゃないと思うから。大学とか、よく分からないけど、面倒臭がりの貴方が「大丈夫」って言うんだから大丈夫なんでしょ。それくらいは分かる」

 

 返す言葉が無くて鼻をかく。

 

 なんだっけ、俺ってこんなに口論に弱かったかな。まぁいいや。

 

 まぁ、取得単位数自体は、俺が後々楽をするために1年の時から科目を詰め込んできたおかげで充分に余裕がある。このまま行けば大した苦もなく卒業できるだろう。

 

 夏休み最終日まで宿題を残して焦る学生の心境のような、心に余裕のない生活など真っ平御免である。伊達に自他共に面倒臭がりを認めてはいない。

 

「学校休むなら、ちょうどいいし、一緒に春物の服買いに行きたい。デート!」

 

 そうして戻って来た女の子は俺の対面の卓袱台に座ると、身を机の上に乗り出して買い物デートの提案をしてきた。

 

「え……面倒臭い……」

 

「殺すぞ」

 

「寝たい」

 

「学校行かずに寝るとか流石に不真面目。起訴」

 

「クマとネコを姉に持つ……」

 

「それ木曽」

 

「寝たい」

 

「いい度胸だ。壁に手を付きな」

 

「壁に手を付けたら隣の部屋に貫通した」

 

「ここレオパレスじゃない」

 

「グランベロス帝国の将軍……」

 

「それパルパレオス。分かりづらい。そんなのどうでもいいから出掛ける準備しろ」

 

「……はい」

 




現行これで終わりです。
お付き合いありがとうございました。
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