その日、俺がいつも通りの仕事を終え家に帰ると、1人の…いや、1匹のネズミがいた。
「今日は依頼があるのさ」
もっとも、そのネズミは二足歩行をしていたし、服を着ていたし、何より言葉を話していたため本当にネズミかどうかは怪しかったが。
…というか、俺は以前にこのネズミと面識を持ったことがある。
「とりあえず上がってくれ。汚いけどな。話はそれからじっくりと聞こうじゃないか、根津」
「ありがとう」
面識と言っても何年も前のことなのでかなり記憶が薄れているが、それでもこんな珍妙な生物はなかなか忘れるものじゃない。…まあ、この世界に''個性''なんてものがある以上珍妙な生物なんて人類の全般に当てはまるのだが。
「…これは、汚いというより古いね。何年放ったらかしにしておいたんだい?」
根津は家に上がるなりそう言った。
ふと見れば穴ぼこだらけの壁紙や錆び付いた台所が目に映る。
「別に、住めれば良いだろう。放っておこうが変わらないさ」
「なんというか相変わらずだね。ところで、今日は弟の方はいないのかい?」
「あいつは別の仕事に行ってる。確か、幽霊が出るとか噂されてるマンションのはずだ」
「…怖がりな彼が?君が行った方が良かったんじゃない?」
根津と世間話をすること数分。根津が切り出してきた。
「さて、そろそろ本題を言おう。
…爆豪勝己が攫われた。敵はヴィラン連合さ」
「…それはまた、しがない土管工への依頼にしては重大な依頼だな」
「HAHAHA!しがない土管工とは酷いジョークなのさ。どちらかと言うと、君は
「こりゃ一本とられたな」
死なない。悪くない言葉だ。この言葉が何度も俺に
「君、攫われた姫を救うの得意だろ?今回の
「…はぁ、分かった。いくら出せるんだ?」
「これでどうかな」
根津が出てきたのは札束が5枚だった。ちなみに1つの束には諭吉が100人ギチギチに詰まっている。
「…そんなにやばいのか?」
「…オールフォーワンがいる」
「マジか…」
それは聞いていない。
「もちろん、今言ったから当然さ」
「…こんだけないと足りないのか?」
「悪い冗談はやめるのさ。これは
「…だといいんだが」
俺は札を数枚抜き出して握った。すると、チャリンチャリン、テレレレレレと、気の抜けた電子音が響き札は消滅した。
「今のでMAXかい?」
「ああ、99だ」
「じゃあ、頼んだよ。──」
──
俺は久方ぶりにある帽子を手に取った。何に合わせても悪目立ちするような主張の激しい赤色に染まったそれには、デカデカと「M」の文字が刻まれている。
それを深く被る。すると、頭の中に次々と
──イヤッフー!ハハァ!イッツミー、マーリオー!
個性「マリオ」
マリオっぽいことはだいたいできるぞ!
俺はかつて、この個性についてそんなふうにかなりアバウトな説明を受けた。
この個性の使い手は様々な世界で確認されている。ある時は2次元ドット絵の世界で、ある時は物理法則がケツに宿っている世界で、ある時は大乱闘が常時繰り広げられている世界で。
この世界の使い手が俺だったというだけの話なのだ。
大抵はクッパやピーチ姫もいるものなのだが…今回の
しかしまあ、ジェンダーレスの時代だ。こういうシナリオもありなのだろう。
白い手袋に赤いシャツ、サスペンダー付きの青いジーンズ。装備は全て整った。
ようやく俺も8面のボスを倒す日が来たのだ。
俺は勢いよく目的地へと飛び出した。
──イヤッフー!!!
この世界のマリオについて。
はてなブロックやレンガも、キノコもファイヤーフラワーもない世界のマリオ。
しかし、自分の身長の数倍の高さを軽々と越えるジャンプ力や一辺約1mの立方体のレンガの塊を砕き散らす拳や尻は健在。
また、3段ジャンプやしゃがみからのジャンプ、幅跳びジャンプ等も使える。
続かない。