新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny   作:カンナム

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第1話 運命の哀戦士

 

第一話

 

 空が白み始めたころ、少年は海沿いの慰霊碑を訪れた。

 

 豊かな自然に囲まれたこの海岸地区は、カモメの鳴き声と、さざ波の音ばかりが間遠く聞こえている。

 

 

 

「また、潮水に浸かってしまってるな。新しい花をもう一度植えなきゃ」

 

 

 

 少年は栗色の髪を潮風にあそばせながら、静かにつぶやいた。

 

 コズミック・イラ七十三年。

 

 血のバレンタインから三年を経ても、戦場で鬼神のごとき活躍を見せた少年の心傷は癒えていない。

 

 

 

 遺伝子操作により人工的に創り出された理想の兵士。

 

 スーパーコーディネイター、キラ・ヤマト。

 

 

 

 彼は、元来の温和な感性ゆえに十代の多感な時期を戦争にやつし、摩耗した。

 

 いまは自身の出身国であり、姉であるカガリ・ユラ・アスハが代表を務める世界唯一の中立国、オーブに身を寄せ、半ば隠居生活を送っているのだ。

 

 

 

 朝、昼、夕、三度欠かさず慰霊碑を訪れて黙祷し、そこに添えられている献花の面倒を見る。それ以外では、教会に引き取られた子どもたちの相手を買って出る日々である。

 

 この日は週末ミサのため、いつもより早く切り上げて帰路につく予定だった。

 

 人通りのない侘しい海岸線。

 

 朝日を浴びて輝く遥か彼方の水平線を見つめようとして、彼は眉を寄せた。

 

 

 

「何だろ? ……人!?」

 

 

 

 浜辺に、なにやら黒いものが見えたのだ。人が寄り添っている。動きがぎこちない。一人の人を、もう一人がかばっているようだ。

 

 ぐっとキラの顔つきが強ばった。瞬後、考える前に駆け出していた。

 

 

 

――――――

 

 

 

 何故、自分は生きているのだろう?

 

 

 

 あの時、確かに温かな光によって自分は解き放たれたはずだと言うのに。

 

 

 

 ここは、天国ではないらしい。

 

 

 

 潮の匂いと、白い砂浜が、現実のものだと教えてくれている。

 

 

 

 身につけているのは、ボロボロのファイティングスーツ。

 

 

 

 これは、神の慈悲か。

 

 悪魔の気紛れか。

 

 

 

 傍らを見れば、自身のオリジナルであり、同じ顔をした青年が穏やかに眠りについている。

 

 

 

「神よ。私達にまだ、何かをなせ、と言うのか?」

 

 

 

 問いかけたところで、答えなどない。

 

 

 

 そんなことは、誰よりも彼が知っている。

 

 

 

 穏やかに眠る片割れの青年を見据え、彼――シュバルツ・ブルーダーは立ち上がった。

 

 

 

「大丈夫ですか!? 怪我でもされたんですか!?」

 

 

 

 人がやってくるのは気配でわかった。だが、走り寄ってきた少年は、深刻に顔が引きつっている。

 

 栗色の髪をした、十七、八歳の少年だ。慌てているキラに反し、シュバルツは場の空気を変える、低く落ちついた声でゆっくりと答えた。

 

 

 

「大丈夫だ。少し気を失っていただけだ。命に別状はないよ。心配してくれて、ありがとう」

 

 

 

 キラの顔から強張りが消え、あどけない大きな瞳を瞬かせた。だが、気を失っていたと聞いて何事もないとは判断できない。

 

 

 

「僕と一緒に来てください、すぐに病院に案内します!」

 

 

 

「気持ちはありがたいが、私達は本当に大丈夫なんだ」

 

 

 

 シュバルツは眉根を寄せて困った顔をした。やんわりと誘いを断る一方で、頭の中ではこう考えている。

 

 

 

 自分や片割れの青年ーーキョウジ・カッシュには、DG細胞と言う、悪魔の呪いがかけられている。

 

 へたな病院で治療を受ければ、逆に周りの人々に感染させてしまうだけだ、と。

 

 

 

 しかしそんな事情を知るはずもないキラは強引だった。

 

 

 

「何を言ってるんですか!? お連れの方もまだ意識が戻ってないのに! さあ、早く!」

 

 

 

「ま、待ってくれ、少年! 君の気持ちはありがたいが、私達は……」

 

 

 

 ガシッと無理にでも連れて行こうとする、キラに流石のシュバルツも面食らってしまう。

 

 

 

 ナヨナヨとして温和な外見に似合わず、彼は力強い。

 

 

 

 思わず、感染している自身の二の腕を見据えて、シュバルツは驚愕した。

 

 

 

「バカな、これは!!?」

 

 

 

「どうしました?」

 

 

 

 キョトンとする少年をそっちのけで、シュバルツは自身の二の腕を凝視した。

 

 

 

 本来ならあるはずの六角形をした金属の塊がない。

 

 

 

 悪魔の呪いによって構成されたはずの肉体が、生身のそれになっている。

 

 

 

 思わずキョウジの腕も確認するが、彼の身も生身のものになっている。

 

 

 

「これは一体、どういうことだ」

 

 

 

 しかし、自分の中にも、そしてキョウジにも、未だあの悪魔の気配は残っている。

 

 

 

「あ、あの?」

 

 

 

 思考に耽っていると、先のお節介なお人好しの少年から声をかけられた。

 

 

 

 シュバルツは彼に向き直り、何処からともなく、自身のファイティングスーツと同じ色をした覆面を取り出し顔に被った。

 

 

 

「ありがとう、君の申し出を受ける。私の名はシュバルツ・ブルーダーだ。気を失っている彼の名はキョウジ・カッシュ。よければ、君の名を教えてもらえないだろうか?」

 

 

 

 紳士的な対応に、彼の人徳の高さと教養を見せつけられたかのような気がして、キラはどこか気恥ずかしくなりながらも答えた

 

 

 

「キラ、キラ・ヤマトです。シュバルツさん」

 

 

 

「そうか。ありがとう、キラ。早速で悪いんだが、病院に行く道中で色々質問させてもらっても良いかな?」

 

 

 

「はい、勿論です」

 

 

 

 そう快くキラが答えた後、彼は海岸の巨大な影に気付いた。

 

 

 

 それは白色を基調とした青、赤、黄色のトリコロールカラーの人型兵器。

 

 

 

 キラのよく知るモビルスーツに酷似していた。

 

 

 

「あれは、ガンダム!?」

 

 

 

 まるで、こちらを伺うかのような機体は、海面に腰まで浸かり、こちらに顔を向けていた。

 

 

 

「シャイニングガンダム……! なぜ、あの機体が」

 

 

 

 シュバルツの呟きを聞きながら、キラはシャイニングガンダムと呼ばれた機体を見つめ直した。

 

 

 

 その機体は雄々しく、悠然と朝日に照らされ、まるでこちらを見守るようにそこにいた。

 

 

 

 しばらく見ていると、シャイニングガンダムは緑色の光を胸の球状のクリスタルから放ちだし、全身を覆う程の光に身を包むと、今度は光の粒子を放ちながらその場から消えた。

 

 

 

「何なんだ、あの機体は」

 

 

 

 確かにそこにあった機体が、姿を消した。

 

 

 

 細かな光の粒子になって。

 

 

 

 目の当たりにしたキラでも、にわかには信じられない。

 

 

 

 だが、確かにあのガンダムは消えたのだ。

 

 

 

 忽然と、自分の目の前から。

 

 

 

 シュバルツは、静かに消えたガンダムを見据え、自身が背負う青年へと目をやる。

 

 

 

「この世界にもガンダムは在る、と言うことか」

 

 

 

 一人つぶやいたシュバルツは、この世界のことについて、キラに質問を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 こうして、スーパーコーディネーターでありながら優し過ぎる少年と、不幸な運命にありながらも大切な家族の為に命を賭した二人の青年は出会ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

それは、まるで神話のような物語。

 

 

 

コズミック・イラとはまるで違う、宇宙に住む人々が地球を支配する世界。

 

 

 

その世界で、神と悪魔は汚れきった地球を守る為に戦った。

 

 

 

悪魔は、人々こそが地球を汚す元凶であるとし、全人類を抹殺せんと動いていた。

 

 

 

そんな中、昨日まで争っていた戦士たちは己を省みず、互いに助け合い、神の名を冠する機体を駆る青年を筆頭に、地球を守る為に悪魔と戦ったのだ。

 

 

 

悪魔は気づいた。

 

 

 

人間には、あのような者達もいるのだ。

 

 

 

ガンダムというモビルファイターに乗り、彼等は倒されても倒されても立ち上がり、挑んできた。

 

 

 

悪魔と呼ばれたガンダムは、生まれ出た自我を成長させ彼等を見た。

 

 

 

そして、3度にわたり、自身を倒した男を。

 

 

 

ガンダム・ザ・ガンダム。

 

 

 

キング・オブ・ハート

 

 

 

彼は言った。

 

 

 

 

 

人類もまた、天然自然の中から産まれたもの。

 

 

 

言わば、地球の一部だと。

 

 

 

だが、人間には己の利益しか考えない者も存在する。

 

 

 

欲望の為に親友を裏切り、罪なき人に濡れ衣を被せた。

 

 

 

人間は滅ぼすべきか?

 

 

 

それとも、あのガンダムファイター達のような人種だけを残すべきか?

 

 

 

生き残るべき人間、滅ぼすべき人間。

 

 

 

見極めなければならない。

 

 

 

地球再生の為に。

 

 

 

そして、この身をもし、預けることになるならば。

 

 

 

その者は、ドモン・カッシュ。

 

 

 

貴様を置いて他にない。

 

 

 

貴様が、「我」が主となるか。

 

 

 

生体ユニットと成り下がるか。

 

 

 

今一度、勝負と行こう。

 

 

 

今度は、「我」もファイターとして挑もうぞ

 

 

 

ガンダム・ザ・ガンダム

 

 

 

 

 

ゴッドガンダムよ!

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「君が私の前に現れてくれたことは、幸か不幸か。この世界には必要なことだったようだ」

 

 

 

 悪魔が物思いに耽っていると、「こちらの世界」で初めて会った長い黒髪の男が話しかけてきた。

 

 

 

「どのような歴史を繰り返そうとも、人間の愚かさは変わらんよ。君の世界でも同じだったんじゃないかな?デビル?」

 

 

 

 

 彼の名は、ギルバート・デュランダル。

 

 

 

 プラント最高評議会議長である。

 

 

 

 この世界――C.Eコズミック・イラの世界には、二つの人種が存在する。

 

 

 

 ナチュラルとコーディネーターだ。

 

 

 

 コーディネーター、それは遺伝子を操作した予め強靭な肉体と優秀な頭脳を持つ者。と、定義されている。

 

 

 

 その対比として、ナチュラル…遺伝子を操作されていない人間ということになる。

 

 

 

 両者の対立の歴史はまだ浅い。

 

 

 

 しかし、対立感情は根深く、両者は争いを続けていた。

 

 

 

 先の大戦……血のバレンタインに始まり、ヤキン・ドゥーエ戦役と呼ばれる闘いの後も、未だコーディネーターとナチュラルの確執は続いていたのだった。

 

 

 

 宇宙に進出し、プラントと呼ばれる砂時計型のコロニーを作り上げたコーディネーターは、プラントこそを本国と主張し、義勇軍としても政治としても使われる、ザフトという団体を設立。

 

 

 

 地球連合軍との争いはヤキン・ドゥーエ戦役にて一応の停戦を得たのだが、未だに小競り合いが続いていた。

 

 

 

 そのような今までの状況を振り返り、デュランダルは嗤う。

 

 

 

「君が君の世界で、人類こそが地球汚染の元凶だと結論付けたのも頷ける。先の大戦で、あれほどの犠牲を払っても、未だ我々コーディネーターとナチュラルの争いは終わりを見せないのだから」

 

 

 

 

 悪魔は何も語らず、反応もしない。

 

 

 

 しかし、そのことにデュランダルは何も気にしていないようだった。

 

 

 

「人類は運命を知り、争いを止め、新たなステージに立たなければならないのだ。だからこそ、私は遺伝子によって人類を管理するデスティニープランを計画した」

 

 

 

 

 デュランダルは、「彼」と初めて出会った場所、ただの鉄くずとなっていたL3にある中立コロニー『ヘリオポリス』を思い返す。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 そこに、光と共に「彼」は現れた。

 

 

 

 デュランダルはシャトルに乗り、評議会の会議へと向かう道中のことだった。

 

 

 

 はじめは、巨大なモビルアーマーの残骸かと思ったが、「彼」はヘリオポリスを全身から緑色のコードを溢れさせて取り込んでいった。

 

 

 

 そして、見る見る内にヘリオポリスは吸収され、「彼」はその身体を復元させた。

 

 

 

 赤い配色の強い胸から上。

 

 

 

 胸の部分のみ青く、中央には緑色の球体が嵌められていた。

 

 

 

 一般的なモビルスーツより、二回り大きいその胴はまるで蛇のように細長く、下半身と思われる黒い下腹部には、頭部によく似た巨大な顔があった。

 

 

 

 その機体にデュランダルは思わず見惚れた。

 

 

 

 まるで悪魔に魅入られたかのように、彼はこの不気味な機体を回収したのだ。

 

 

 

「デビル。君ならば私の考えを理解してくれるかね?」

 

 

 

 なぜかは分からない。

 

 

 

 だが、この機体を回収しようとシャトルがアンカーアームを取り付けた際、デュランダルには「彼」の過去や経歴が頭に入ってきた。

 

 

 

 シャトルの操縦士、案内人などは絶叫をあげながら恐れ戦く中で、デュランダルは足りなかったパズルがようやく完成する感覚を手にしていた。

 

 

 

 本国へ持ち帰り解析しようとするも、既存のモビルスーツ技術を遥かに凌駕するテクノロジーであり、連合やオーブが作り上げたにしては余りにも技術が進み過ぎていた。

 

 

 

 まさにブラックボックスだ。

 

 

 

 デュランダルは「彼」の研究データ、解析結果を確認すると、その存在を秘匿とした。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 その邂逅から、デュランダルは「彼」が何を望み、どのようなモノを欲するかを理解し、この地へと案内した。

 

 

 

 「彼」は今、破棄されたはずの研究データの全てをデュランダルやザフトの面々にすら分からない技術で復元させていき、取り込んで行く。

 

 

 

 この地はかつて、バイオハザードによって死のコロニーと化した禁断の聖域。

 

 

 

 コーディネーターやクローンなど、遺伝子操作技術のメッカとされた、L4宙域に存在するプラント。

 

 

 

 名を『メンデル』という。

 

 

 

 デビルと呼ばれる機体は、メンデルの研究施設に鎮座し、コクピット内を培養カプセルに変化させ、肉体を生成して行く。

 

 

 

 機体を構築する細胞を基に、遺伝子操作の技術を併用し、自身の生体ユニットを。

 

 

 

「信じられません。まさか、破棄されたデータを復元させて施設を取り込み、自分の身体を変化させて使用するなど……この機体は、まるで生物ですよ」

 

 

 

 

 同行していた技術者達も驚愕し、顔色を失っていた。

 

 

 

「驚くことはないよ、君たちも是非みるといい。スーパー・コーディネーター、キラ・ヤマトさえ凌ぐ新たな人類の誕生だ」

 

 デュランダルの言葉に、科学者や同行したザフト兵達は違和感を感じていた。

 

 

 

 何故、議長はこのブラックボックスとも言える機体を理解しているのだろう……と。

 

 

 

 

 

 シューッと言う音が辺りに響き渡り、機体のハッチが開く。

 

 

 

 そこには、焔のように燃える髪と褐色の肌をした、鋭い目つきの青年が全裸で立っていた。

 

 

 

 周りが銃を構える。それを気にもせず、彼は自らの身体を確認するかのように掌を開いて閉じた。

 

 

 

「おはよう、デビル。気分はどうかな?」

 

 

 

 デュランダルは、まるで旧知の間柄であるかのように彼に向けて話しかけた。

 

 

 

「悪くはない。ご苦労だった、デュランダル」

 

 

 

「親友である君の頼みだ、礼など不要だよ。それにしても、その外見。それが君の望むパイロットか」

 

 

 

 まるで、部下を労うかのような言葉を向けた生まれたての青年に、デュランダルは間髪入れずに返す。

 

 

 

 デビルはその言葉に、邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

 

 その場にいる者には理解できるはずもない、青年の基になった顔。

 

 

 

 それはかつて、三度に渡り悪魔である自身を倒したファイター、ドモン・カッシュの顔であった。

 

 

 

 

 

「デビル…実はこれから、私達はあることを発表しようと考えている。新型の機体と艦の紹介だ。披露するのは一週間後の予定なんだが、発表の折には君にも立ち会ってほしい」

 

 

 

 

 ザフトの緑服を着ながら、デビルは嗤う。

 

 

 

「ほう? 玩具のひけらかしか? 連合やオーブは、また騒ぎ立てるだろうな」

 

 

 

「おそらくはね。しかし、今までとは違って、秘匿にするべきことなどないと、我々は考えているのだよ」

 

 

 

 穏やかに聖人のような笑みを浮かべるデュランダルと

 

 獰猛にして邪悪な笑みを浮かべるデビル。

 

 

 

 質としては正反対のような両者であるが、何故かウマが合うようであった。

 

 

 

 この日より、ギルバート・デュランダルの傍らには赤い髪の軍人が立つようになった。




 みなさんお待ちかね〜!

 キラとラクスと共に平穏な毎日を過ごすキョウジとシュバルツ。

 しかし、悪魔の息吹は、新たな争いを求めているのです。

 次回、機動武闘伝GガンダムSEED DESTINY『胎動』にレディぃぃゴー!
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