新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny 作:カンナム
「よく来たな、ドモン」
「ああ、父さん。実は父さんに頼みたいことがあってーー」
ドモンの事情を聴いたカッシュ博士は大きく目を見開いて頷いた。
「ーーそうか。シャイニングガンダムは、異世界にいるのか。そこにキョウジがいるのなら、是非もないな。
力を貸そう」
「ありがとう、父さん!!」
「よかったわね、ドモン!」
レインの言葉に「ああ」と頷くドモン。
「実は、亜空間回路の論文の提出の際に、異次元世界の壁についても触れていてな。二週間もあれば作れるはずだ。
お前とゴッドガンダム、シャイニングガンダムのつながりを利用して向こうに行くことはできる。
帰ってくる際は、シャッフルの紋章の繋がりを利用すれば可能のはずだ」
「ーーさすが、父さんだ!!
これで、デビルガンダムを倒し、兄さんとシュバルツを迎えに行ける!!」
「とりあえず、ドモン。
お前はレインとこれから一緒に過ごしなさい。しばらく会えなくなるかもしれんのだからな
そうだ。レインの好きな映画が今、ネオジャパンコロニーで開かれている。
二人で行ってきなさい」
「さすが、お父様!! ありがとうございます!!」
「ーーえ? 父さん、2週間もあるなら、俺は修行をーー」
ギロリッと言う擬音が聞こえてきそうなレインの目にドモンは黙った。
さて、みなさん。
前回の対決でキョウジとキラたちは地球連合艦隊を相手に完璧なまでの勝利を治めることに成功しました。
しかし、彼らのもとを襲撃する新たな敵の影が迫るのです。
それでは、ガンダムファイト!!
レディー、ゴー!!
無事に連合艦隊を壊滅させ、そのほとんどを捕虜にすることに成功したアスハ部隊は、その完全な勝利に湧いていた。
「やったな、キョウジ!!」
「まさかこの戦力差を完全に覆すとはっ!」
「なるほど。
確かに彼とフリーダムがいれば、夢物語と思っていたロゴスのこともやれるかもしれん」
バルドフェルド、アマギ、トダカがキョウジの作戦に感服して、褒めたたえている。
一方、海上のアークエンジェルはキラに報告を入れていた。
「やったわね! キラくん!」
「はいっ! マリューさんたちもお疲れさまです」
まだ正確ではないが、今のところ死者が出たという報告がない今回の戦いに、いつになくキラも明るい。
「とりあえず初戦は、私たちの勝ち、よね?」
「ええ。僕達はこれから、この部隊で希望の未来を勝ち取っていくんです」
マリューも不可能と思えた作戦を完遂した達成感と、犠牲者の無い戦いに、その勝利に酔いしれていた。
だからーー気付かなかったのだ。
それを邪魔するものが現れるなどーー。
「そんな簡単にぃ!
勝ち取れるわけ、ねぇだろぉおおおっ!!」
オーブの青い空に、甲高い雄たけびと共に白い鳥型の機体が赤と黄色の羽をもつ翼を広げて現れたのだ。
「こいつはっ!?」
キラは、その機体に見覚えがあったーー。
シャイニングガンダムの戦闘データで見た、悪魔の手先ーー。
その巨大な鳥型の機体の背中から、一体のーー古代ローマの闘士を思わせる赤銅と灰色のガンダムが飛び出してきた。
太陽の光を背に浴びながら、上空に跳躍し、叫ぶ。
「ハイパー銀色の脚ぃいいいいっ!
スペシャァアアアルッ!!!」
右足が青白い光をまといながら、フリーダムに急降下してくる。
キラは、とっさに左手に持つシールドで防いだ。
バキィィィイイイイッ
「くっ!」
すさまじい衝撃にキラが歯を食いしばる。
「おらぁあああっ!」
バキャァァァァァァッ
ファイターの気合と共に、威力が格段に増し、頑強なフリーダムのシールドが砕け散った。
砕かれたと知るやキラも超反応でバーニアを吹かし、音速を超えたスピードで弧を描くように回り込む。
「お前は、デビルガンダムの!?」
「ほう? 俺のことを知ってるのか! ああん、ガキがぁ!!」
声をあげながら、急降下したガンダムの足場になるように大型の鳥を模した機体が回り込み、その背に着地する。
パンクファッションのような衣装のファイティングスーツに身を包んだ赤く長い髪と目を持つその姿はーー間違いない。
「ドモン・カッシュがいないようだが、気に食わねえ機体がてめえらの仲間にいるようだな!
なあ、シャイニングガンダム!!」
シャイニングガンダムを睨みつけ、吠える男にキラが確信した。
「あなたは、ミケロ・チャリオットにネロスガンダム!! それじゃ、その大型の鳥を模したMAは、ガンダムヘブンズソードか!!
キョウジさんには、近づけさせない!!」
フリーダムがフルバーストモードの構えをとり、ネロスガンダムとヘブンズソードに狙いをつける。
瞬間だったーー
ドォンッ
銃声と共に、フリーダムの目の前をビームライフルが一筋過ぎていく。
「ーーフリーダムのレーダーでも気付かなかった? 何ていう距離から正確な射撃をしてくるんだ」
「小僧。お前の相手は私がしてやろう」
通信から聞こえた声は、ミケロよりも理性的で理知的な声。ビームが来た方角を見れば、海上に浮いた要塞のような巨大な土色の巨体に白色の角を背中から生やし、肩口からも大砲を四門設けたガンダムがいた。
その肩の上には、黒と赤を基調としたロングライフルを両手に持った長い帽子を模した頭部のガンダム。
「っ! あなたは!?」
「この世界で名乗っても、あまり意味はないかもしれないが。
わたしの名はジェントル・チャップマン。この機体はジョンブルガンダムとグランドガンダムだ。
自分で言うのもなんだが、前人未到のガンダムファイト三連覇を成し遂げたチャンピオンでもある」
青色の短髪をオールバックにし、口ひげを生やした姿は記録映像でみたジェントル・チャップマンと何ら変わりない。
「キラ准将!!」
「援護します!!」
フリーダムを模したムラサメが三機、キラの援軍に駆け付けた。
フリーダムから離れ、一気にオーブ本土にいる高台を目指すネロスガンダム。ファイターであるミケロは、自分の足場になっている大型の鳥の機体に指示を飛ばした。
「いくぞ、ヘブンズソード! シャイニングガンダムを狙えぇえええっ!」
シャイニングガンダムに急接近するヘブンズソード。
その上に乗るネロスガンダムを見据え、シャイニングガンダムに乗るキョウジが右手を掲げた。
「来るっ! ならば!!」
カシャンッ
ガンダムのマスクが左右に展開する。
掲げた右手が緑色に輝き、辺りを照らした。
「シャアアイニング、フィンガアアアアア!」
正拳突きのように正面へ真っ直ぐに突き出されだ掌から、シャイニングフィンガーのエネルギーを光線にして、放つ。
シュウウウウンンッ
ヘブンズソードは、それを紙一重で旋回して避ける。
「死ねえええええっ!」
鳥を模した金色の爪がシャイニングガンダムを捉えようとする瞬間、シャイニングガンダムの目が光った。
ブウンッ
次の瞬間、飛び違いざまにシャイニングガンダムが腰のビームサーベルを抜いている。
ズバァッ
ドボォオオオオンンッ
桃色の剣閃が2筋ーー空を疾り、ヘブンズソードの両翼が根元から斬り落とされ海中に落ちる。
咄嗟にネロスガンダムは墜落するヘブンズソードの背を蹴って跳躍し、オーブの本土へ着地した。
ファイターのミケロの目が大きく見開かれる。
「今の動きはっ! ドモン・カッシュ!?」
訝しがるミケロをそっちのけで、自分ーーいやシャイニングガンダムの手を見下してキョウジはつぶやいた。
「シャイニングガンダム、ありがとう!
だが……まずいな。あきらかに戦闘力が俺より上だ。
まともにやりあっては、勝てない……」
呟きながら、キョウジはちらりと海面に浮かぶ霧発生装置の残骸を見る。
「ハンッ、ドモン・カッシュの兄か!
テメエと前に会った時は屍みたいな顔だったが、こうして見るとそっくりじゃねえか!!
この俺に屈辱を与えてくれたあの男によぉおおっ!!」
ネロスガンダムが両拳を腰に置き、紅い気を爆発させて身にまとう。
「ーーッ!」
「ドモン・カッシュがいねえんじゃ仕方ねえ!!
テメエで憂さを晴らしてやるぜえええッ!!!」
前傾姿勢をとり、一気に距離を詰めてくるネロスガンダム。そのスピードは、短距離ながらもキラのフリーダムに匹敵している。
「とぉりゃとりゃとりゃとりゃとりゃとりゃぁあああっ!」
右足を上げ、鋭く迅い蹴りが上段中断下段に無数に放たれる。
それらを両腕を使ってさばきながら、バーニアを吹かし、バックダッシュを行うキョウジ。
海の方へ逃げるシャイニングガンダム。
「とろくせえ!! そんな動きで俺から逃げれるかよ!!!」
叫びながら、ミケロはネロスガンダムのバーニアを吹かし、追いかける。
島を離れ、海上に出た二機。
その海上には、キラとムラサメ三機が、ロングライフルを構えたジョンブルガンダムと要塞のようなグランドガンダムを相手にしている。
「みんな離れろぉおおお!!」
キョウジが叫びながら反転し、ネロスガンダムに向かう。
海上で互いに猛ダッシュで距離を詰める両者。
キョウジのシャイニングガンダムが、輝く右手を大きく振りかぶる。
「シャァアアイニングゥウウッ!!」
「当たるかあぁああああ!」
振りかぶった一撃をかわそうと身構えるネロスガンダム。
「---フィンガァアアア!!」
しかし振りかぶられた右手は、海面に向けて放たれるーー
「何ぃーーーッ!?」
ミケロの目の前で緑色の光が海域に広がり、ドーム状に爆発した。
「そうか!
海面に帯電していた磁場を利用して、シャイニングフィンガーを
アレなら避けられないわ!!
さすが、キョウジさん!!」
キョウジの指示で安全圏まで下がっていたアークエンジェルのブリッジ越しにマリューが思わずガッツポーズを取っていた。
しかし、相手は普通ではないーー。
「ぬぅううるいんだよぉおおお!!!」
右足に黒色の気を纏い、袈裟切りのように斜め上から足を振り下ろして、光を切り裂きながら、ネロスガンダムはシャイニングガンダムの懐に踏み込む。
「「「なっ!?」」」
これを見ていたキョウジ、マリュー、バルドフェルドが目を思い切り見開いた。
ドゴォゥッ
同時に脇に凄まじい蹴りを食らって横に体ごと吹き飛ばされるシャイニングガンダム。
海上を滑空するシャイニングガンダムの上をバーニアをフルスロットルにしてネロスガンダムが追いつき、右足で踵を振り下ろした。
「ーーーーくらえぃっ!!」
ドガァァァァァッ
ちょうどオーブの島の一角に来た当たりで背中から地面に叩きつけられるシャイニングガンダム。
立ち上る巨大な土煙。
その足元に悠然と着地するネロスガンダム。
「あの光の爆発を普通に切り裂いてくるなんて……っ」
アークエンジェル内で、思わずと言うようにつぶやくマリュー。
それを受けてか、立ち上がりながら、キョウジはつぶやいた。
「まったく、ガンダムファイターは非常識だってことは知っていたが、ほんと信じられないな……」
一応、同じ世界の出身であるし、自分の弟や半身もガンダムファイターではあるが、実際に見るのと戦うのではまるで違うな、とどこか他人事のように思うキョウジである。
「こざかしい作戦は終わりかぁ? ならおとなしく、くたばりな!!」
ミケロが間髪入れずに黒色の光を放ちながら、鋭く尖ったつま先での前蹴りをコクピットに向かって撃つ。
当たれば、致命傷の遊びの無い一撃ーー。ファイターでないキョウジに防ぐ術はないほどの鋭く致命的な一撃だった。
ガキィッ
しかし、その一撃はコクピットに届くことなく、つま先はシャイニングガンダムの胸の前で止まっている。
他ならぬシャイニングガンダムが、その場から微かに左に体をずらして脚の付け根に右腕を叩きつけ、止めていたのだ。
「ーーなにぃっ!?」
その素人ではあり得ない体捌きと反応速度に、ミケロが目を見開くと同時、シャイニングガンダムが、伸びきったネロスガンダムの脚の横をダッシュして懐に入り、左のフックを思い切りがら空きの横面にぶちこんだ。
「ガハァァッ!?」
悲鳴を上げながら、きりもみに回転しながらミケロは後方へはじけ飛ぶ。しかし、地面が顔に迫ると片手を突き、バク転の要領で着地する。
態勢を立て直し、シャイニングガンダムを睨みつけた。
「何でだ、なんでとどめを刺そうとすると、いつもっ!
ドモン・カッシュの動きになりやがるんだっ!?
くっそぉおおおお!」
気を爆発させ、一気に距離を詰め、前蹴りを放つ。今度は、先のような超反応ではなく、凡夫のようにガードを固めて丸まるだけだ。
「元のキョウジの動きに戻ったなぁああ!? 今だあああ!!!」
キョウジの動きが先のような鋭くも速い動きでないことを確認すると、距離を詰め、左右の蹴りを次々と放ちだす。
「くっ!」
「おらおらおらおらおらおらぁあああっ! しぃいねえええええ!」
右足の横蹴りを上中下に散らした後に、左足のつま先での前蹴りでコクピットを突き刺しに狙いに行く。
ガシィィッ
その左足はしかし、正確に右手一本でつかまれて止められている。
「なぁあああにぃいいいいいっ!?」
左足を無造作に上空に投げ捨てると、ネロスガンダムの体が縦に回転しながら宙に舞う。
その顔が丁度地面に向いたとき、シャイニングガンダムの横蹴りがまともに横面を捉えた。
バキィィィイイイイッ
再三にわたり、ネロスガンダムが遥か後方へ弾き飛ばされる。
「くほぁああああっ!!」
顔面から地面に叩き落されたミケロは言葉にならない悲鳴を上げた。
バルドフェルドはそれを確認しながら興奮に両の拳を握りしめた。
「キョウジの奴、本当に民間人なのかっ! めちゃくちゃ強いぞっ!?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……
ドモン、すごいな。こんな動きをするのかっ」
対するキョウジは、シャイニングガンダムのコクピットの中で、肩で息をし始めていた。
するとシャイニングガンダムの目が輝き、いきなりバーニアを吹かしてバックダッシュし始める。
思わずキョウジが悲鳴を上げる。
「うぉぁっ!? シャイニングガンダムっ!?」
キョウジの意思に反して、シャイニングガンダムは撤退の行動をとり始めた。
「逃がすかぁああああ!!」
当然、地面に叩き落され、怒り心頭に発したミケロは、鬼のような形相でシャイニングガンダムを追いかける。
ババババババァンッ
ミケロに対し、オートでバルカンを撃ち出すシャイニングガンダム。
「そんな動きで逃げれると思うなぁあああっ!
銀色のぉおおおおっ! 脚ぃいいいいい!!!」
バルカンを軽々と躱され、脇に回り込まれてのハイキックが顔面に迫る瞬間
にシャイニングガンダムのマスクが左右に展開された。
バシィィイイィッ
緑色に輝く光の右手がネロスガンダムの銀色の脚を止める。
「ぐぅっ……!」
「フンッ! 足腰が入ってねえぜぇえええっ!!!」
バキィィィイイイイッ
止められた足を力づくで振り下ろし、後方へ弾き飛ばす。
「ぐはっ!」
背中から叩きつけられ、キョウジが悲鳴を上げた。
瞬間ーーシャイニングガンダムの目が光った。
「ーーあん?」
ゆっくりと立ち上がるシャイニングガンダム
両の拳を腰に置き、足元のカバーを展開、次に腕、肩、マスク、角が展開されていき、強烈なエネルギーを放ちだす。
--シャイニングガンダム、スーパーモードである。
シャイニングガンダムは、そのエネルギーの全てを右手に集中し、圧倒的な輝きを放ち始める。
「デビルガンダムを吹き飛ばした、あの時のーーー!!」
その輝きに、バルドフェルドが気付き叫んだ。
対するネロスガンダムは、ミケロ・チャリオットは笑った。
「ヘンっ! 舐めんじゃねえぜ、ドモン・カッシュぅうううう!
どこからかは知らないが、遠隔でお前が操ってるようだなぁああああ!?
だぁあがっ!!!」
正拳突きの要領で突き出され、圧倒的な光量を放つシャイニングフィンガー。その光線は、当たればすべてを消し飛ばす。
「そんな見え見えの一撃が、当たるかぁあああああっ!!」
左の脇に回りこみ、光線を紙一重で避けるとネロスガンダムは、強烈な蹴りの雨あられを上中下段に叩きこむ。
ガガガガガガガガァンッ
執拗なまでの蹴り、蹴り蹴り蹴り蹴りに、ついにシャイニングガンダムが倒れたーーー。
「いかん、キョウジ!」
それまで傍観していたバルドフェルドのムラサメとその脇に控えていたM1部隊が自身のビームライフルを構えて3発放つ。
ピシュシュシュンッ
「引っ込んでろ、雑魚どもがぁあああ!!」
しかし、その緑色の光も銀色の脚と呼ばれるミケロの気を纏った回し蹴りで、文字通り一蹴される。
バシュゥウウウウウウッ
「ーー!? うわぁぁああああ!!」
扇状に放たれた衝撃波の直撃を食らい、背中から地面に倒れこむバルドフェルド達。
それを見据え、吐き捨てるかのようにミケロは言葉を放つ。
「どいつもこいつもっ! 今いいとこなんだよっ!!」
ネロスガンダムは、凶気の目を光らせながら、シャイニングガンダムに向き直り、見下ろす。
ミケロはニヤリと笑いながら、叫んだ。
「どんな気分だ、ドモン・カッシュ!?
どっかで見てんだろぉ?
お前の役立たずの兄貴が、この俺の足蹴にされるところをよぉぉっ!!」
ゆっくりと自分とシャイニングガンダムの状態を確認しながら立ち上がるキョウジ。
その彼をーーいや、シャイニングガンダムを見据えて、ネロスガンダムは嗤った。
「無様だなぁあ、シャイニングガンダム!
ああ、ようやく俺の溜飲が下がるぜぇ!!
忘れもしねえ、てめえとドモン・カッシュにやられた! あのネオイタリアでのことをなぁああ!!」
そのとき、シャイニングガンダムのレーダーに反応があった。
ピピピィンッ
「八時の方向に生体反応っ!? まさかっ!!!」
キョウジがそちらを振り向きながら、モニターを拡大させるとーー泣いている少年がいる。
間違いなく、自分が作り出したフォログラフではない。
本物の子どもだった。
「いかんっ!」
ネロスガンダムという強敵を前に形振り構わずキョウジは、背を向けて走り出す。
思わず、バルドフェルドが叫んだ。
「キョウジ! 迂闊だぞ!!」
ネロスガンダムはーーミケロは、無様に走っているシャイニングガンダムに穏やかな調子で語りかけた。
ただし、その表情は邪悪な殺意に歪んでいる。
「覚えてるか? シャイニングガンダム。
あの時もこんなだったよな?
俺が銀色の脚を使って、全てを吹き飛ばそうとしたとき、あの刑事が馬鹿みたいに現れて、消し飛ぶ寸前に、お前がかばったんだよなあああああ!?
今度はかばえるかなぁあああ!?」
最後の方は、狂気を剥き出しにして、ミケロは足を振り上げる。
「銀色の脚ぃいいいい!!!」
「キョウジぃいいい!!!」
無防備な背中に向けて放たれた漆黒の光線。
しかし、それはバルドフェルドの予想を外して、シャイニングガンダムの脇を通り過ぎーーオーブの地表に向かっていった。
「ーー何? まさか!!」
キョウジが必死になって、向かおうとしている地点にモニターを向けると子どもが一人で、天に向かって泣いている。
それを確認できた後、黒い光線が着弾した。
ズドォァッ
爆発音と共に、巨大な煙が立ち上る。呆然とするオーブ軍。
地球連合との戦いでは、誰一人犠牲を出すことなく終わったというのに、こんなところで、まさか民間人の子どもを巻き添えにするとはーー。
誰もが、その衝撃の事実に目を見張っていた。
その姿を耳障りな甲高い声で笑い続けるミケロという魔人。
「ふははははっ! ざまあねえなっ!
ヒャァーーーハッハッハッハ!!!」
しかし、彼の笑みは唐突に消えることになる。
巻き上がった煙の向こうにシャイニングガンダムが立っていたのだ。
輝く右手を盾のように展開して。
「あんっ?」
煙が晴れたとき、シャイニングガンダムの足元には泣いている少年がいた。
それを確認して、バルドフェルド達がホッと胸をなでおろしていた。
対照的にミケロは不快そうに吐き捨てる。
「ハンッ、間に合いやがったか」
モニターに現れたキョウジは目元が見えていない。静かにつぶやくようにぽつりと語った。
「当たったら、死んでたぞ……」
その言葉に愉快そうに笑いながら、ミケロは目を見開いて返す。
「そのつもりだぁ!」
「子どもだぞ……」
「だからなんだぁっ?」
ぽつりと呟くようなキョウジの言葉を笑い飛ばし、馬鹿にするかのように問いかけるミケロ。
ズドォァッ
一瞬後、シャイニングガンダムから気柱が立った。
「ーーーー何?」
ミケロが訝し気にシャイニングガンダムを見据えると、シャイニングガンダムの目が真っ赤に光っていた。
その鬼気ともいえる強烈な気当たりは、ミケロの中にある力と同じ質のものであった。
つまりーーーー忌むべき悪魔の力だ。
「こ、この気配はっ!!?」
忘れるわけがないーー。
自分に圧倒的なまでの力を与えた源なのだから。
目の前から発するこの気はーーーーーー。
「フッ……フッフッフッフッフ、フハハハハハハッ!」
キョウジの口から、聞く者を恐怖や不安に叩き込む凶気を孕んだ笑い声がこの場に満ちていく。
「きょ、キョウジ……?」
キョウジのその変化に、味方であるはずのバルドフェルド達でさえ、震えてきた。
目の前の青年が、得体のしれないあまりに恐ろしいーー何かに変わったような気がするのだ。
キョウジはその凶眼を吊り上がらせ、口元に邪悪な笑みを浮かべていた。
「変わらんな。ミケロ・チャリオット、度し難き愚か者よ」
「テメエ、まさかーー!?」
動揺するミケロに対し、邪悪にして恐ろしい異形の笑みをキョウジは浮かべている。
「フッフッフッフ
久しぶりだ。我が子、ヘブンズソードよ。
もっとも今の俺は、ただのキョウジ・カッシュという人間に過ぎぬがな」
笑いながら、自分の身を見下ろし、告げるキョウジに、その正体に気付いたミケロは戦慄しながら吠える。
「テメエ、本物かっ!?」
「それは貴様が一番よくわかっているだろう。
さあ、続きを始めよう。なあ、シャイニングガンダムよ?」
キョウジの言葉に、シャイニングガンダムの目が緑色に光った。
「フンっ!
ファイターでもないくせにえらそうに吠えやがって!
おらぁあああっ!」
正体を悟ったところで恐るるに足らず、今の自分に負ける要素はない。
前蹴りを放とうと右脚を浮かせるミケロ。
ガシィッ
しかしそれよりも速く、いつの間にかネロスガンダムの懐に踏み込みながら、シャイニングガンダムがその顔面をつかんでいる。
「なっ! にィッ……!?」
ネロスガンダムの体躯を右手一本で持ち上げる。
「ぐぉおああああっ」
頭を握りつぶされそうな握力で持ち上げられ、悲鳴を上げるミケロに、邪悪な笑みを浮かべてキョウジは言った。
「相変わらず口うるさい男だ」
ドゴォゥッ
パッと右手を放したと同時に左の蹴りが、ネロスガンダムの横面に炸裂し、脇へ吹き飛ばす。
「く、ぉっ……、なにぃっ……!
フォームもクソもねえっ!
ただの素人の蹴りにっ、なんでこれだけの威力がっ!」
たった一撃にタフなミケロが足をふらふらさせながら立ち上がる。
先ほどまでとは、質が明らかに違う一撃だった。
「こ、の、やろぉおおっ!」
向かおうとした次の瞬間に拳が迫っていたーーーー。
ドゴォゥッ
地面を割りながら殴り倒されるミケロは、ついに体が動かなくなった。
「ぐふぉっ、がぁっ」
何とかして体を起こそうとするも仰向けになったところで、さらに胸の部分ーーコクピットの部分を踏みつけられる。
「がぁぁっ」
バキキキキィッ
頑丈なMFの体が軋み、ミケロのあばら骨をへし折りながら、シャイニングガンダムの足は更にネロスガンダムの胸に食い込んでいく。
「ぐ、ぁ、ぁぁぁっ……!!」
目を見開きながら、悲鳴を上げるミケロを無機質なーーまるで虫けらを見るかのような無関心さと、凶気を孕んだ眼が見下してくる。
「デビル……ッ、ガンダムっ!」
「違う。いまの俺の名はキョウジだ。フッフッフッフッフ」
小首をかしげるような表情でそう告げたのち、無造作に足を踏み込む。
「なぁっ、ぐぅ、ぉっ、がぁぁぁっ」
一気に、進んだ衝撃に、ミケロは何も言えず、ただ喘ぐしかできない。
「怖いか?
恐ろしいか?
フッフッフッフ。
先のお前のやり方なら、踏みつぶされても文句は言えんなぁっ!?
フフフフフハハハハハハッハハハハハハハッ!!!!」
狂笑ーー正にその言葉がふさわしいキョウジの笑みにオーブ軍が戦慄している横で、バルドフェルドが少年の保護に成功した。
その彼にしても、険しい表情でキョウジを見据えている。
「人間嫌いのテメエが、どういうっ! 風の吹き回しだぁっ!
たかが、ガキ一匹にっ!?」
ミケロが苦し紛れと言っていい言葉を放つと、キョウジはニィッと口の端を歪めながら虫けらを見るかのような目で言い放つ。
「もう一度言っておこう。
俺は、デビルガンダムではない。
キョウジ・カッシュだと。そういうわけだ、ミケロ。
だからーー死ね!!」
今にも踏みつぶそうとしたその時、キラの声がしてきた。
「キョウジさんっ!」
「キラーー?」
キラがフリーダムガンダムに乗ってこちらに助けを求めている。
見れば、ジョンブルガンダムがムラサメの一機のコクピットにロングライフルを突き付けていた。
「そこまでにしてもらおうか」
チャップマンが静かにキョウジに向かって言い放つ。
「うう、申し訳ないキョウジ殿、キラ准将……っ」
「すみません、キョウジさん……っ」
コクピットに狙いを定められて抑えられているムラサメを見ながら、キラがそれを防げなかった自分の不甲斐なさを詫びる。
それを静かに見た後、キョウジは凶眼をチャップマンに向けた。
「ミケロから足をどけてもらおう。そんな奴でも一応は仲間なのでな」
ジョンブルガンダムの言葉にあっさりと足をどけるシャイニングガンダム。
「感謝するーー」
言いながら、こちらもあっさりと銃を下げるジョンブルガンダム。
そのジョンブルガンダムのパイロットにキョウジは語りかけた。
「ジェントル・チャップマン。貴様どうやら、生前の記憶があるようだな」
キョウジの言葉に、穏やかだが凄みと知性を併せ持つ笑みを浮かべて、チャップマンは笑った。
「お前の分身のおかげだ。奴が私に、いま一度の人生を与えてくれた。戦士としての、なーー。
もっとも奴自身は、我々が復活したことを感知していないようだが」
「我々、かーー。フンっ、ずいぶんと幼いやり方だな。所詮は赤ん坊か」
シャイニングガンダムが腕を組みながら、吐き捨てる。
「そう言ってやるな……。生まれ出でてまだひと月も経っていない赤ん坊だ。
あなたとは違うさ」
その様に、懐かしみと微かな強者への敬意をこめて、チャップマンは語った。
「チャップマン……っ!
テメエ、こんなやつとっ、なに仲良くしゃべってやがるっ……!」
「フン。
自分から戦いを挑んで、わざわざ「王」を目覚めさせた挙句、返り討ちにあった男が言うセリフか?」
「なんだとぉおっ!」
叫びながら抗議の声を上げるミケロにチャップマンはにべもない。
「退くぞ、ミケロ。これ以上、この場で戦えばこちらが不利だ。
かつての我らの王が目覚めたのだからな」
「人間なんぞに取り込まれた、DG細胞の残りカスだろうが!!」
「それを言うなら我々も同じだーー」
ひび割れた肋骨を再生させながら、吠えるミケロに、チャップマンが静かに諭す。
そんな二人に、キョウジが笑みを浮かべながら言った。
「どうでもいいが、お前たちこのまま逃げられると思っているのか?
お前たちは、ここで死んでおくべきだろーー?」
その強烈な殺気に、ネロスガンダムを助け起こそうとしていたジョンブルガンダムが向き直った。
「ミケロ、先に行け」
「ざけんなぁっ! なんで俺がテメエに指図をぉっ」
ミケロの言葉の途中でシャイニングガンダムが無造作に突っ込んでくる。
何のためらいも感慨もなく、シャイニングは右拳を握りしめ振り下ろす。
バキイッ
掴み止めるジョンブルガンダム。
その衝撃で地面が割れ、起こる。
「あんなとんでもない一撃をっ、片手で止めたっ……!」
キラがその力と力のぶつかり合いに目を見開いた。
「チャップマン、貴様ーー」
キョウジが凶相の目を細める。
「我が王よ。
私もまだ死ねん。
戦士として私もまた、この世界でやるべきことを見つけたのだ」
拳を弾き飛ばすジョンブルガンダム。
静かに着地するシャイニングガンダム。
瞬間、キョウジの凶眼が見開かれ、両の拳を腰において力をためる。
「シャイニングガンダム、やるぞ。力を貸せ、ゴッドガンダム!
うぉおおおおおおおああああっ!!」
黄金の光を放ちながら、シャイニングガンダムの胴体に、顔にーー光の線が無数に生じる。
それは、ヒビだった。
外面の殻が破れていくように中身が徐々に外へと出てくる。
「シャイニングガンダムが、変わっていく!?」
「うぉおおおおおおおぁぁあああああっ!!!」
キョウジの叫びと共に、胸のクリスタルの上の部分が割れ、形がカバーを象り、エネルギーマルチプライヤーと呼ばれる緑色の球体を一度覆い隠す。
その後、カバーは展開され、緑色の宝石が黄金の光を放ちながら、緑色のビームクロスを生み出す。
「うぉおおおおおおおああああッ!!!」
そのビームクロスをたすき掛けにするシャイニングガンダム。
肩の部分が展開され、足の部分も黄金の光を放ちながら展開する。
背中のバックパックのフィンが上に引き上げられ、黄金の光の環を一瞬象る。
展開されていた歌舞伎を思わせる顔面は、亀裂がひどくなりやがて黄金の光と共に割れ、中から仏像を思わせる丸みのあるガンダムの顔が出てきた。
「ゴ、ゴッドガンダム……っ!
シャイニングガンダムの胴体と顔が、ドモン・カッシュのゴッドガンダムになっただと?
どういうことだ、これは……!!」
ミケロの言う通り、それはゴッドガンダムの顔と胸の造りであった。
「自己進化か……。
しかしデビルガンダム細胞にしては、この気。
あまりに神々しすぎる……!!」
チャップマンの言葉に、キョウジは凶眼を向けて笑った。
「これが本来の俺の機体だ。
我が機体の名はアルティメットガンダム。
カッシュ家が生み出した、究極のガンダムだ!!」
圧倒的な光を放つ戦神は、究極の光を放ちながら、構える。
「ふん、なるほど。これが本来のあなた、ということか」
「笑わせるなよっ!
人類を抹殺しようとしたガンダムが、今更正義の味方気取りってのか!!」
チャップマンとミケロの言葉に、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべてキョウジは言う。
「さあな。だが、お前らは滅ぼす」
「グランドガンダムっ!」
圧倒的な力を放つ変身したシャイニングガンダムに、堅牢な要塞のグランドガンダムが立ちはだかる。
その頑強そうな体躯と大きさに、バルドフェルドが驚愕した。
「なんてデカいガンダムだ!
あれもガンダムなのかっ!
ガンダムって名前つければいいってもんじゃねえだろっ!」
そんなバルドフェルドの意見を無視して、チャップマンがグランドガンダムをけしかける。
「そいつの相手をしてもらおう」
言いながら、ネロスガンダムを支えたジョンブルガンダム達を乗せるヘブンズソードが消えた。
シュオンッ
瞬間、消えた空間を切り裂くように伸びる黄金に輝く右手。それが立ちはだかったグランドガンダムの胴に深々と何の抵抗もなく入っていたーー。
そのままシャイニングガンダムは巨体を片手で持ち上げる。
「ヒィイイイト、エェエエンドッ!」
キョウジの叫びと共にグランドガンダムの巨体が爆発し、跡形もなく消し飛んでいた。
パラパラッと火花を散らしながら、展開していた部分が再び元通りになり、圧倒的なエネルギーが消える。
「ふぅ……。すまないキラ。逃がしてしまったようだ」
瞬間、キョウジも元通りの穏やかな表情に戻ってキラに話しかけた。
「い、いえっ。キョウジさんが無事でよかったです」
キラは首を横に振りながら、キョウジの無事を喜ぶ。
「お互いな。
それにしても……ガンダムファイターはみんな味方ってわけじゃないらしいな。これからどうしたものか」
オーブの敵は、地球連合のロゴス、プラントのデビルガンダムだけではなく、ガンダムファイター達も立ちはだかることになる。
シャイニングガンダムが機体を進化させてくれたはいいが、待ち受ける前途は多難であることに、キョウジはため息をついた。
みなさん、お待ちかね~!
Dの駆るデビルガンダムとマスターガンダムの激闘は、まだまだ決着がつきそうにありません。
そんな中、アスランを部隊長にした新生ミネルバ隊とシュバルツは、ローエングリーンゲートと呼ばれる渓谷に挑むのです!
次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第28話にレディー、ゴー!!