新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny 作:カンナム
その困難をどう感じ、生きるのか?
私たちも常に考えていきたいものです。
ガンダムファイトの悲しい運命が生み出した憎しみの塊。彼と対峙するのは、鏡の前に映る虚像。
シュバルツ対ウルベの決着戦です。
それでは、ガンダムファイト!!
レディィィィッ! ゴォォォオオオッ!!
廃棄コロニーメンデルでのファイトを終えたドモンは、ラクス達と合流しデュランダルの開いた夕食会に参加していた。
オーケストラの生演奏をバックミュージックに、豪華に並べられたテーブルの上に置かれた食事。
着飾った出資者や実業家、政治家の者たちが集う顔ぶれは、壮観だった。
(うっ、うぅぅ、気が重い……!)
ラクス・クラインの付き人であるマーチン・ダコスタは、目のまえの料理を口に運びながらも心のなかでそう独りごちた。
これはギルバート・デュランダルがドモン・カッシュのために用意したガンダムファイトのささやかな祝勝会とのことだ。
いわば敵地のど真ん中である。
敵の親玉が招待したパーティ会場。
まるで見世物のように会場の上座に並べられた長いテーブルには、右からミーア、ラクス、ダコスタ、ドモン、Dの順に席に座らされている。
おまけにこの場にいる者はすべてギルバート・デュランダルによって集められた実業家ばかり。いわばデュランダル派の連中だ。
(ーーだというのに! なんでこの人たち、なんの顔色も変えずに食事してるんだ!)
ダコスタはさらに心のなかでごちりながら、堂々とナイフとフォークを使う、左の赤いはちまきの青年と、気品あふれる風に食事を楽しむ右のピンク色の髪の姫を横目で見る。
「ラクスさまが二人おられるとは、初めて知りましたよ」
「デュランダル議長とともにおられる方のほうがお姉さま、ということでよろしいですか」
「本当によく似ておられるのですね、おふたり。どちらがシーゲル・クラインの娘であり、プラントの歌姫と呼ばれたラクスさまなのでしょう。気になるわ」
着飾った中年の紳士や淑女たちが二人の少女に話しかけている。
二人のラクスはダコスタの右隣で、席を並べて食事をしていた。
「あ、あの……」
「もちろん、お姉さまのほうが本物ですわ。わたくしは普段、家のほうでゆっくりしていますので。お姉さまがお風邪を召したときなどは代役としてわたくしが出ることがありますけれど。プラントの歌姫は、自分の体調だけでコンサートを中止にするわけにはまいりませんから」
紳士たちの言葉に思わず口ごもるミーアの右横からラクスがスラスラと淀みなく答える。
「まあ、妹のラクス様も素晴らしい責任感をお持ちのようですね」
「お姉さまのお力になれることが、わたくしの喜びでもあるのです」
笑顔で答えるラクスの二隣左から、野性味ある赤マントと鉢巻の青年が声を上げた。
「せっかくの食事中だ。そういう話は食事の席以外でやってくれないか? 飯がまずくなる」
「あら。ごめんなさい、ドモンさん」
「ラクスに言ってるわけじゃない。久しぶりに会った姉妹の再会を邪魔する、無粋な連中に言ってるんだ」
ジロッと睨みつけるドモンの迫力に、周囲の人間は一気に距離を置く。
「うっ……」
「そ、それではっ、我々はこれで」
「お食事中のところ申し訳ございませんでした、ラクスさま」
クモの子を散らすかのように立ち去る着飾った人々。
彼らがある程度席から離れてから、ラクスはドモンの方に顔を向けてほほ笑む。
「ありがとうございます、ドモンさん」
「かまわんさ。それより二人きりで話したいことがあったんじゃないのか? お姉さんと」
「そうですわね。ですが、この会場では具体的な話はできそうにありませんので」
ドモンの言葉に頷きながら、ラクスは反対側のミーアにほほ笑みかける。
「ごめんなさいね、お姉さま」
「え? あたしーーいや、わたくしも大丈夫です」
取り繕うミーアにラクスは安心させるように一つほほ笑むと、ドモンに視線を戻す。その向こう側にいるDと呼ばれる赤い髪の青年にも。
「それより、ドモンさんはDさんとお話されないのですか?」
これにドモンは、自分の左隣にいる紅い髪の青年を見る。
「なにか、俺と話したいことあるか? D」
「……敗者である俺が、勝者であるお前に何を語るという?」
「それを言うなら勝者から敗者にかける言葉はない、だろう。まあいいか」
苦笑を浮かべて答えながら、ドモンはDのテーブルの前に置かれている料理の皿を見据えていった。
「ところで、さっきから食事をまったく取っていないようだが、プラントのガンダムファイターは飯を食ってはいけないという決まりでもあるのか?」
「そんなわけあるか。だが、我に食事の必要はない。我の正体を知るお前が、そんなことを訊くとは滑稽だぞ」
「もう、Dったら! ドモンさんはDのことを思って!」
ラクスの隣からミーアが声を上げる。それにドモンは一つほほ笑みながら、手で制する。
「ああ。気にしないでくれ。それにしても俺に勝とうってやつが、そんな腑抜けた考え方とはな」
「なに?」
赤い炎のような髪の青年が鋭すぎる瞳で自分の右隣に座るドモンを睨みつける。これにドモンは淡々とした表情で返した。
「いいかD。食事ってのはファイターいや人間にとって最も大切なものの一つだ。自分の身体を作り上げるために食事というのは存在する。そしてなにより、そんな理屈を超えた言葉がひとつある。それはな。『旨い飯は人間を幸せにできるんだ』。人間の幸せを理解せずに、人間を理解することなど出来はせん。それで俺に勝つつもりなら、百年経っても勝てんさ」
「ド、ドモンさんっ。まさかこんなところでファイトする気じゃないですよねっ!?」
あまりに歯に衣着せぬドモンの物言いにダコスタの顔色が真っ青になる。
「ん?」
「ここは敵地のど真ん中なんですよ! もうちょっと発言に注意をっ!! あ、あれ?」
右隣から必死で苦言を呈してくるダコスタにドモンは何も語らず、ニッと口の端だけを吊り上げて笑う。
ドモンの左に座るDが、なにも言わずに自身の目の前のテーブルに置かれているナイフとフォークを取り、料理を口に運び出したからだ。
その光景に思わずダコスタも言葉を途中で止める。
「どうだ、D。味の方は?」
「……よくわからん」
「それはあれだな。お前、本当に美味いものを食ったことがないな」
ダコスタは高級料理の数々を前にとんでもない発言をあっさりとするドモンに思わず目を白黒させた。
「こんな豪勢な料理の前にそんなこと言わないでくださいよ、ドモンさん!」
料理人に喧嘩を売っているような発言に、思わずダコスタが諫言し、ラクスがフォローをする。
「とても美味しいお料理だと思いますわ。一流の食材とシェフが創作した、正に一流の味ですわね」
「まあな。こんな豪華な料理も悪くはないが、Dのように初めて食事をするような奴なら、いろんな味がするような高級料理では素材がどんな味をしているのかまでは分からんさ。美味いと不味いの基準もできてないしな」
「じゃあ、ドモンさんは何が美味いっていうんですか?」
ダコスタの言葉を受け、おもむろにドモンはナイフとフォークを皿の上に行儀よく置くと、テーブルのうえに飾られているリンゴをひとつ手に取った。
右手に取ったリンゴをそのまま口に運び込むドモン。
「うん。やはり素材の味が一番うまい。D、お前も素材をまず食ってからにするんだな。そうすれば料理のありがたみがよくわかるぜ」
Dも同じようにリンゴを取ってかぶりつく。
「わかるかD。それが命の味だ。俺たちは何かから命を得ることで自分の命を繋いでいくことができる。そのリンゴの一口分の命が、俺の生命力を燃やしてくれるのさ」
「言わんとすることはわかるんだけど、そんな大げさな話かな?」
Dの食事風景を横目に見ながら語るドモンに、思わずダコスタがツッコミを入れていた。しかし、その隣にいるラクスは関心したような表情で告げる。
「いい言葉ですわね。今度、子どもたちにも言ってみますわ。ドモンさん」
「え? 子ども? ラクスに子どもがいるのか?」
ドモンがきょとんと目を丸くしながら、問いかけるとラクスは自身の胸の前で軽く手を叩いてほほ笑む。
「はいな。今度ドモンさんにも紹介いたしますわね」
「そうか。わ、若いのに大変だな……」
驚きと動揺を見せるドモンを小首を傾げながらラクスは見る。
それらを横にDは、一口かじったリンゴをじぃーっと見た後、そのまま何も言わずにガリガリガリと一気に平らげ、ナイフとフォークを取ってテーブルの食事に手をつけ始めた。
Dは、しばらく咀嚼した後、飲み込んでからドモンに語りかける。
「ドモン・カッシュ。どうやら我は全てにおいて何も知らんらしい」
「ああ。赤ん坊もいいところだ」
間髪入れずに遠慮なく答えるドモンにダコスタはハラハラしていた。いつガンダムファイトの続きが始まるのか分かったものじゃない。
しかし、Dは暴力的な見た目とは裏腹に思慮深く考えた後、告げる。
「いいだろう。貴様とのファイトで今度こそ勝つために、我は人間ってやつを今度こそ理解してみせる」
「……フ。楽しみにしてるぜ」
互いに正面を向いたまま顔を合わせることなく不敵な笑みを浮かべる両者にラクスが微笑みかけた。
「Dさんって真面目な方ですわね」
「真面目でなければファイターはやれんさ、ラクス」
「そうですわね。それにしても地球は今、どのような状況になっているのでしょう」
ドモンに微笑みを返した後ラクスは思案する顔になる。ミーアがそれに気付いて話しかけた。
「地球? が、どうされたのですか? えと……ラクス、でいいのかしら」
「そうですわね。どちらもラクスだと呼びづらいですわね」
声を潜めて、ラクスはミーアに問いかけた。
「こっそり本名、教えていただけませんか?」
「え? えと……ミーア、です」
「わかりました。では名前をお借りします」
いたずらっ子のような笑みを浮かべて小声で答え穏やかなほほ笑みを浮かべた後、ラクスは顔の位置を元に戻してーー
「もう! お姉様はわたくしをミーアと呼んでくださいまし!」
と、怒ったような拗ねたような顔をしてみせた後に寂しそうな顔をする。
「実は、地球にある別荘の子どもたちが気になってーー」
「こ、子どもーー!? それってーー!!?」
ラクスの突然の「子ども」発言にミーアが顔を真っ赤にした後、絶句した。それに何事もないように微笑みを返しながらラクスは答える。
「孤児院の子どもたちなのです。お姉さまにもぜひ紹介したいですわ」
「こ、孤児院っ? あ、ああ……よかった。ミーア、びっくりさせないでちょうだい」
自分でも何が良いのか分からないが、とりあえずミーアはホッとした。
「ふふ、お姉さまは気になる方はいらっしゃらないのですか?」
「き、気になる方っ!?」
終始圧倒されているミーアであるが、ラクスは止まらない。
「わたくしはーー将来の伴侶と決めた方が一人います」
「それって……キラ、さんのこと? アスランから聞いたわ。キラさんっていう方のことよね?」
「まぁ、アスランともお姉さまはお話したのですね! アスランたらずるいですわ! お姉さまとお話ししたこと、わたくし少しも聞いていませんもの」
「アスランも忙しそうだし、仕方ないですわ。ミーア」
二人の少女の会話を横で聞きながら、ドモンはあくまで顔を正面の広間に向けたまま微妙な表情になる。
「どっちがどっちの話をしてるのか、さっぱりわからんな」
「髪飾りと髪の色でどうにか分かる気がするんですが。これ、まったく同じ服装されたらわかりませんね」
「--困ったもんだ」
ダコスタもドモンと同じ表情になるも、ドモンの横のDを見比べながら更にため息を吐く。
「せっかくですから、いろいろなお話をしましょう。お姉さまの想い人についても」
「な、なにを言うの。ミーアったら」
ニコッと意味ありげに笑いながら、ドモン達の方を見るラクスにミーアが頬を真っ赤に染める。
それを怪訝に思うドモンであったが、気付けば隣のDが無言でテーブルの上の料理を次々と平らげてしまっていくのに気づく。
「全部食うことないだろ。やばい、俺の分もなくなっちまう!」
料理が次々と消えていく状況に戦慄したドモンは自身もナイフとフォークを掴む。
「ダコスタ! 食わないとお前の分も食われるぞ!」
「えっ?これ、そういうルールなんですか!?」
「食事は戦い、基本だぞ!」
「そんな基本ありませんよ!」
男たちは男たちでそれぞれ必死に食事をしながら語り合い、女たちは女たちで淑やかに会話をする。
それをモニターで見ながらデュランダルは余裕の笑みを浮かべる。
「フフッ、じつに楽しそうなパーティー会場だ」
そして後ろに控えるサトーに問いかけた。
「サトー、周辺に何か変化はあるかな?」
「今のところは何も。しかしよろしいのですか? ここまで堂々とラクス・クラインとドモン・カッシュを公の場に出すなど。クライン派に付け込まれるのでは?」
「問題ないさ。ドモンくんとDの関係も、周りはこぞって聞きたがるだろうがね。それにしても、同じ顔をした人間が2組、か。フフッ、これはミーアくんのいいまやかしになりそうだ」
サトーの疑問に返しながら、デュランダルは自分の思い通りに動いている現状に微笑む。
ラクスが現れたことは誤算だったが彼女は終始自分をラクスとは名乗らず、ミーアをラクスだと主張している。
(君が何を企んでいるのかは知らないが、今はそれに感謝しよう。せいぜい利用させてもらうよ、ラクス・クラインーー)
モニターの中でミーアと談笑するラクスを冷たく見つめながら、口の端を歪ませる。
「デュランダルさま!」
「ん? どうかしたのかな」
その時、自分の秘書をしている女性が私室に駆け込んできた。
サトーやD以外では、この私室に通れるのは彼女だけだ。
「失礼いたしますっ。いま地球のザフト軍ベルリン基地が壊滅しました!」
彼女の報告にデュランダルは、ほくそ笑みたいのを我慢して大きく目を見開き驚いて見せた。
「なんだと? 何処の部隊が!?」
「議長が予め入手していた地球軍の巨大モビルアーマーです。議長が仰られたとおりに、ユーラシア連邦独立解放戦線の臨時基地を見張っていたところ所属不明のMSが大量に現れ、それをあの巨大MAが指揮しているようです」
「うーむ、なんということだ! 民間人の被害は?」
「ベルリン周辺の民間人はすでに退避済みですが、そこに辿り着くまでに多くの都市を焼き払っています。犠牲者は数万に昇るかと」
「おのれロゴス! なんという非人道的なことを!!」
「ー-デュランダル様」
拳を握りしめ机に叩きつけるデュランダルに秘書は悲し気に眉をひそめた。
「ーーミネルバは? ベルリンで待機させているはずだが」
「現在、ベルリン基地の殿を務めているようです。現在、所属不明のガンダムと呼ばれる機体とオーブ軍のアークエンジェル隊が協力してくれているので、突破された防衛網を張り直すことに成功しています」
「ーーオーブのアークエンジェル? 有難いな。先方はこちらの意図に気付いてくれたか」
オーブがどの程度の力を持っているのか判断が尽きかねていたが、この間の連合との戦いでオーブの底力を知った。
あの国はまだ利用価値があると判断したデュランダルは、オーブ側の優秀なブレーンが送ってきたメールに添付したデストロイガンダムの設計図を暗号化させていた。
(ここで役に立ってもらわねば、せっかく情報を渡した意味がない)
デュランダルが内心でそう述べていると、予想外の手札が向こうから転がってきた。
「それと、なぜか……連合の特殊部隊に奪われたはずのカオスがーー」
「なにっ、アークエンジェル隊とカオスがともに行動しているというのか。では、オーブは連合ーーいや、ブルーコスモスと通じているのか!?」
「それはわかりません。ですが現在アークエンジェル隊はザフト軍を支援していると思われます」
秘書の言葉に思案げな顔を作りながら考えるデュランダルは、サトーに問いかけた。
「戦局が混乱に混乱を極めている。サトー、君はどう見るかね?」
「自分は、このような一つ目の機体は初めて見ますが。これらは本当に連合のものなのですか?」
サトーの言うように今、ベルリンの街を蹂躙しているMSは連合にもザフトにも属さない全く新しい機体だった。
「確かにこんな機体は初めて見る。だが、見たまえ。ユーラシアの独立連邦臨時基地から、この船が発進しているのを確認している。間違いなく連合の部隊だ」
写真とモニターに映る艦を交互に示し、部隊が連合のものであることをデュランダルは主張した。
「何にせよ、ベルリンの街はもはや壊滅。彼らが無事に帰って来てくれることを祈るしかーーんっ?」
言葉の途中でデュランダルは違和感に気付いた。
「おかしい。わたしが得た資料のMAは全長四十メートル前後のはず。だがこれはどう見ても百メートルはある。それに――」
デュランダルは独り言を呟きながら、一つの可能性を頭の中で考える。
そして、改めて一つ目のMSを見直した。
彼はこの時、この世界のMSではないことに気付いた。
「この一つ目のMS。まさか、未来世紀のデスアーミーにデスバーディーか!」
デュランダルは、周りの目を憚ることなく、目を更に見開いた。
「ならばロゴスは、いや、ロード・ジブリールは、DG細胞を持っている……。そういうことなのか」
「議長、巨大MAが変身を!」
「こ、これは…!!」
デュランダルの思考を遮ったのは、秘書からの言葉。
モニターの前で巨大なMAデストロイガンダムが、まるで有機物のように鉄の装甲を液体のように溶かしながら、変化していく。
全身を包み込む巨大な光の六角形が紫色に輝き、爆発。
煙の向こうから現れたのは、丸い肩とゴツイ四肢を持ったトリコロールのガンダムタイプだった。
「我々のデスナイトやデスポーンにそっくりじゃないか!」
「やってくれたな……ジブリール!」
サトーの言葉に忌々しげにデュランダルは机を叩いた。
「ゴッドガンダムとデビルガンダムのファイトを我々が放映したことを突いたか!」
秘書やサトーが困惑しているのも構わず、デュランダルは吐き棄てる。
「ベルリンの虐殺をすべてザフトに押し付けるつもりか、ジブリールめ!」
そこまで言われて、サトーや秘書にも何故デュランダルがここまで焦っているのかが理解できた。
デスナイトは、ロゴス率いる各部隊『クルセイダーズ』を殲滅している。
そして連合の理不尽さやプラントの正当性を主張する為にも、デスナイトの映像を世界に流した。
更に異世界から来たガンダム同士の一騎打ちをプラント管理の下で行わせることで、両機が自分達の管理下にあると世界に無言のメッセージとして流したのだ。
しかし、この巨大なMAは今、デスナイトや神と悪魔のガンダム達にそっくりな外見をしている。
このタイプの機体をザフトが占有していることを世界に示し続けたが為の、致命的なミスだ。
「サトー。わたしは急遽、対策を講じなければならない。しばらく席を外すよ」
「わかりました。ラクス・クラインとドモン・カッシュの方はいかがいたしましょう?」
「…今、彼らに手を出せば負けるのは我々だ。口惜しいが、ここは見逃すとしよう」
「しかし!」
「それに、何故かは分からないがミーア・キャンベルにラクス・クライン達は拘っているようだ。彼女に危険が及ぶような事になるかもしれない。向こうも迂闊な真似はしないだろう」
デュランダルの言葉にサトーはなるほどと頷いた。
「参りましょう、議長」
「ああ。予定よりも早くなるが、こちらも動かねばならんようだなーー」
デュランダルの瞳が闇の中、紫色に輝いた。
ーーーーーーベルリンにて
凄まじい轟音が響き渡り、白地に紺の機体を弾き飛ばす。
背中から叩きつけられながらも、正面を睨みつけると五体に分身した黒色のガンダムがブレードを展開し、容赦なく追い打ちを仕掛けてくる。
「おのれ、なめるなよ! シュバルツ・ブルーダァアアアア!」
歯を食いしばり、態勢を整えて左拳の正拳を返す。
「馬鹿め、どこを見ている!!」
しかし、放たれた拳は空を切り、返しにシュピーゲルブレードの十字切りに胸を斬り刻まれる。
同時に跳び後ろ回し蹴りをまともに喰らい、ウルベは首をねじ切らんばかりに後方へはじけ飛ぶ。
「ーーこれが、ヤツの実力だと言うのか!?」
斬撃の威力と蹴りの衝撃に再び仰け反りながらも、迫り来る五体のガンダムシュピーゲルを睨みつけ、ウルベは右拳を握り、前に踏み込むと同時に放つ。
「甘い! 甘いぞ!!」
今度は跳び膝蹴りをカウンターでアゴに喰らい、顔が跳ね上がる。
「ガハァッ」
膝が揺れるも、必死に耐えて右掌に気を溜め、後方に着地したシュピーゲルに光弾を放つ。
「お返しだ、喰らえ!!」
着地点を狙うのは、スピードに優る相手を捉える定石だ。
光弾が着弾し、爆発する。
天に昇る爆煙が舞い上がるのをウルベはニヤリと笑いながら見据えた。
瞬間、煙の向こうから鉄の刃ーークナイが数本ウルベに放たれる。
「こざかしい!!」
左手を手刀に構え、的確に急所を狙って放たれたクナイの腹を払い退ける。
だが、全てを払い退けると同時に凄まじい衝撃がアゴを跳ね上げた。
クナイと同時にガンダムシュピーゲルもこちらに踏み込んで来ていたのだ。
強烈な右の正拳突きをまともに喰らいアゴを庇いながら、ウルベのガンダムが三歩後ろに下がる。
それを見逃すシュバルツではない。縦横無尽に残像を残すスピードで動くと、一気に斬りかかる。
無数のガンダムシュピーゲルに全身をズタズタに切り裂かれ、のけ反るウルベに更にシュバルツがコマのように回転し始める。
「じ、次元が違い過ぎるーー!! これがーー!!」
「シュトゥルム・ウント・ドラァンクゥウウウウウ!!」
強烈な漆黒の竜巻と化したガンダムシュピーゲルは一瞬でウルベの懐に飛び込むと全身を切り裂きながら上空へ弾き飛ばした。
「ーーがはぁっ」
吹き飛ばされた頂点に、ガンダムシュピーゲルがブレードを展開させて先回りしている。
「こんな、ばかなぁあああああああ!!」
「ウルベよ、心静かに死ぬがいい。ーー成敗!!」
シュバルツは両腕の刃をクロスさせ、十字にウルベの機体を両断して見せた。
「ぐあああああああっ!!!」
空中で胴体を三分割にされ、爆発する。それを背中にシュピーゲルは音もなく、家屋の屋根に降り立った。
普通ならばこれで勝負あったのだが、爆発された機体はすぐに再生をはじめ、滅びた肉体と機体を修復していく。
「DG細胞による自己再生か。いいだろう、何度でも倒してやる」
シュバルツの表情に変化はない。静かに全身に気を纏わせていく。
一方自己再生で機体と肉体を修復させながらそれでも、この力の差は絶望的だとウルベは悟っていた。
「馬鹿な、これ程の腕ならば。あの時のドモンなどに遅れを取るはずがーー」
ウルベが呻きながら、どちらとも手合わせをした感覚で述べる。
「貴様、決勝戦で手加減していたのか!?」
「勝利こそが全ての貴様には分かるまい。勝負を越えた闘いがあることを」
そんなウルベの前に腕を組んでガンダムシュピーゲルは降り立つと静かに語る。
これにウルベは激昂した。
「綺麗事を! ガンダムファイトも所詮は国同士の代理戦争だ!! 勝てば持て囃され、負ければ詰られる!!」
「それがどうした? 武道家にとって、国同士の諍いなど何の意味がある。武道家はただ、拳を交え語り合うのみだ」
「笑わせるな、キョウジ!! 貴様には分かるまい!! 私は、天才だったのだ!! 武道家として財をなし、多くの弟子を持ち、妻と息子の前で優勝するはずだった!!」
憎しみに彩られた瞳は、シュピーゲルから後ろのヤマトガンダムに向けられる。
「それをこの男が邪魔をした!! 一瞬で私は倒された」
指差されたヤマトガンダムは微動だにせず、シュピーゲルも静かにウルベを見据える。
「実感はすぐにできたよ。目が覚めた時、私の門下生達は一瞬で私から離れ、妻の実家の道場を私は叩き出された。そして、妻や子とも別れた」
「ーーーー」
シュバルツは何も語らず、攻撃もせずにじっとウルベを見据える。
これにヤマトガンダムのシュウジも何も言わない。
「私には力があった。その力をより確実なものにする為に、武術を学んだ。一年で私は門下の誰よりも強くなった。私は自分よりも弱い師を見て憐れみながらも、娘を差し出してきたことに侮蔑を感じた」
ウルベの表情には何もない。ただ、薄暗い炎が瞳の中で燃え盛るだけだ。
「ーーだが、それなりに権力を持った家だった。軍で私がのし上がる為の後ろ盾に充分なほどにな」
ウルベは語る。自分の生き様を。何も持たなかった自分が、拳しかなかった自分がのし上がる為に利用できるものは全て利用した、と。
彼は憑かれたように地位を確立し、まだ足りないとばかりに上だけを目指していた。
ガンダムファイトに参加したのも、自分の地位を上げる為だった。
ウルベは、自分の力だけを信じていた。
彼にとって他者など、自分の周りに来て蜜を吸って行くだけの虫けらだった。
「マスターアジアよ、貴様には本当に感謝している。虫けらは甘い汁が吸えなくなれば周りからいなくなることを、身をもって知れたのだからな!!」
ウルベは嗤う。まるで自分自身をも嗤うかのように。
ウルベの心の中に、1人の少年の声が聞こえてきた。
( 違うよ、父さん! 父さんは間違ってないよ!! 僕、父さんが大好きだよ!! 母さんだって父さんがーー!! だから、行かないでよ!!)
「何がガンダムファイターだ? 何が国を代表する英雄だ?勝てば持て囃すが、負ければ侮蔑の言葉を吐いて捨て掌を返すだけではないか。そうだろ、裏切者と呼ばれたシュウジ・クロスよ」
ウルベの言葉に、マスターアジアは何も語らない。ただ見据えるだけだった。
「共に生きていた妻にすら捨てられ、息子にすら同情された屈辱が、ガンダム・ザ・ガンダムの称号を得た貴様らに分かるか?
ーー綺麗事を吐くだけで、私の前をうろついていた虫けらに憐れみなどかけられてーー! あげくに裏切られた私の怒りが、憎しみが、貴様らに分かるか!?」
怒りに満ち溢れ、憎しみに駆られた男をシュバルツは見据える。
「馬鹿者が。なぜ、分からん? 貴様の行いが、貴様自身が人を遠ざけているのだ。
ウルベよ、自分の為だけに力を振るう者は他者に何も与えることはない。お前の拳には憎しみしかない。そんな拳で、お前は誰を何を守る?」
「ーーやめろ、シュバルツ」
「シュウジーー!」
「そのたわけには、何も語る必要はない。憐れみなど無用だ」
シュウジの言葉にシュバルツの憐れみに、ウルベが醜悪な顔を晒す。
既にDG細胞によって肌は紫色に染まり、眼球の白目は真っ赤に染まっていた。
人の姿を辞めた悪魔の姿ーー。
「ふふふ、ラウンド2だな。キョウジ・カッシュ!!」
「ーーウルベよ、貴様も犠牲者だったのだな。ガンダムファイトの」
シュバルツは静かに語ると、明鏡止水の構えを取る。
「鏡転同血!!」
瞬間白銀の光がシュピーゲルから放たれ、一瞬後には6枚の羽を持ったトリコロールのガンダムがいた。
「ーーゴッドガンダム、だと!?」
「ウルベよ、出し惜しみはせん。全力で貴様を倒そう。それがーーーー」
シュバルツはそれ以上は告げずに、拳を握るとゴッドガンダムの胸のカバーを開き、太陽が如き赤い玉を見せると背中の羽を広げ、日輪を作る。
「忌々しいゴッドガンダムめ、その輝きを見るだけで不愉快だ!! 私が消してやる!!」
「ーーゆくぞ、ゴッドガンダムよ。力を貸してくれ」
両者は同時に相手に向かって駆け出した。
瞬間だった、シュバルツのゴッドガンダムが黄金の輝きを放ち、灼熱の劫火を全身にまとったのだ。
「ーーなんだぁあああああ!?」
その輝きと炎にウルベが一瞬ひるむ。
「我が心、明鏡止水。されどこの掌は烈火の如くーー!!」
胸カバーが開き、深紅のルビーを思わせるエネルギーマルチプライヤーに赤い文字で「神」の一文字が刻まれた後、シュバルツはフィンガーカバーを展開した右手を大きく振りかぶった。
「爆ぁああああく熱!! ゴォオオオッドフィンガァアアアア!!」
「おのれ、シュバルツ!! おのれ、ゴッドガンダムゥウウウウウウ!!!!」
炎を放つ右掌を放つ黄金のゴッドガンダム。対するウルベは青い光を放つ右掌をぶつけた。
あっさりとウルベの右掌を消し飛ばし、シュバルツの右手がウルベの顔面を捉えた。
「ヒィイイイト! エンドォオオオオオ!!」
「おのれおのれおのれおのれおのれおのれぇええええええ、虫けらどもめぇええええ!!!」
紅い爆発と共に、ウルベの声は消滅した。
あまりにも一方的な勝負に、ミネルバとアークエンジェルのクルー達は言葉も出なかった。
それだけ、強い。
だが勝利したシュバルツは喜ぶわけでもなく、静かに瞑目した。
「ーー母さん」
ゴッドは静かに黄金の輝きを収め、ノーマルモードに戻った。
残されたのはデスアーミーの大群が未だ迫りくる中、シュバルツは僅かの間だけ母に黙祷をささげるのだった。
みなさん、お待ちかね〜!!
ウルベとデスルークを倒したシュバルツ達。
彼らを前にウォンは退却を選択します。
この戦いが世界に与える影響は、いかに?
次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第50話に!
レディー、ゴー!!