新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny 作:カンナム
オーブ参謀のキョウジとプラント最高評議会議長デュランダルとの対決はひとまずの幕が下りました。
しかし、地球ではアークエンジェルを倒すためにミネルバ隊へ指示が下りたのです。
それでは!!
ガンダムファイト!!
レディイイイイイッ!! ゴォオオオオオオオッ!!
ーープラント
L4宙域から帰ってきたドモン・カッシュとDは、ギルバート・デュランダル議長から与えられていた『ラクス・クライン邸』でラクスとミーアの二人に出迎えられていた。
テーブルに展開される料理の数々にドモンは思わず目を見開く。
「す、すごい量だな……」
ドモンの言葉にラクスはにこやかに答えた。
「はい! いっぱい作りましたわ。たくさん食べてくくださいな♪」
「ありがとう。この朝飯、おろそかには食わん。ダコスタ、D! ラクスとミーアに感謝して食事としよう」
ラクスとミーアに微笑み、ドモンは真剣な表情で言った。
「そんな大げさな……。でも、ありがとうございます! ラクスさまにミーアさま」
「あ、いえ……っ。あたしは別に……ラクスさまが最初に作られたから」
ダコスタが隣のドモンに苦笑しながらも、二人の少女に頭を下げるとミーアは恐縮して答えた。
一方Dは、会話に参加するでもなく皿に盛られているサンドイッチをひとつ取る。
「それはミーアさんが作ったものなんですよ」
「ラ、ラクスさま……!」
「お味はいかがでしょうか? Dさん」
笑顔で問いかけるラクスにDは無表情のまま、ぶっきらぼうに言った。
「食えればなんでもいい」
すぱーんっ
小気味の良い音が鳴り響く。
「見、見えなかった……!」
とは同席していたダコスタの談だ。
ドモンの素早い左のつっこみがDの後頭部に決まっていた。
「お前には『感謝』という意味がわからんのか」
ギロリ、とDがドモンをにらむ。
そして
「レインを振り回していた貴様が、よく言う」
「ぐっ!?」
ドモンは目を大きく見開くと同時、その頬に冷たい汗が伝った。
「よ、四年前よりは成長したんだ……!」
辛うじてそう言葉を絞り出すドモンにDが即答した。
「成長したからと言って、ないことにはできんからな? 一応許してはいるようだが」
「お前、なんでそんなにレインの心情に詳しいんだ!」
「簡単だ。奴も我の生体ユニットだったからな」
「と、言うことは……」
ドモンは思案顔で目を上にやりながら、思う。
「要するに、レインや兄さんの心がお前の中にもあるということか?」
「ああ。あの二人から思考を読めば、お前の行動など手に取るようにわかる」
「…………すまんダコスタ。俺は口でこいつに勝てる気がしなくなった」
瞬間だった。
ドモンは何故かダコスタに謝りながら、顔を伏せた。
「負けを認めるのが早くないですか、ドモンさん!?」
「口では勝てない。だって兄さんとレインだろ? ……絶対勝てない……!」
言いながらも、向かいの席で見るからに落ち込んでいるミーアに何も感じないわけではない。
(とはいえ、ああやって落ち込んでいる彼女を見るとどうにかしてやらねばならんしなぁ……。どうしたものか…。
ーーああ、だがあのときの俺なら
「朝飯? そんなもの頼んでいない」
とか普通に言いそうだな。
その上レインと兄さんの心を持つってことは、かなり理屈っぽいんじゃないのか?
やはり口ではーー)
そのときラクスが穏やかな笑顔のまま、口を開いた。
「ではDさん。レインさんの気持ちで考えてみてくださいな」
「ーーレインの?」
「はい」
満面の笑みでラクスはうなずいた。
「ラクスさま、もういいですから……」
「ミーアさん。ここはわたくしに任せてください」
少し落ち込み気味に止めるミーアにラクスは気遣うように笑いながら続ける。
「たとえば、ドモンさんがアレンビーさんと修行していてーー」
「ーーっ!?(何故、そこでアレンビーの名が!?)」
ドモンは頬に冷や汗をかきながら戦慄しながら、ラクスの小芝居を見ていた。
「せっかくレインさんがご飯を用意していたというのに、一口ごはんを食べたら
「うーん、冷めてるな……。よし、アレンビー。飯でも食いにいくか!」
「うん、いいよ! ドモン!」
なんてことになったら、貴方の中のレインさんはどう思われますか? Dさん」
ラクスの言葉に、Dは深刻な表情になるとミーアを見据えた。
「ミーア」
「えっ?」
(D。貴方いま、あたしのことミーアって……)
「すまなかった」
素直に頭を下げるDはどこか、しょんぼりしているように見える。
この光景にドモンは、愕然としてラクスを見た。
その顔には滝のような汗が流れていた。
「ラ、ラクス……!
お、お前……どの辺まで知って……?」
ラクスはこれに、にこやかな笑顔で返した。
「殿方に恋をする女性の気持ち、わたくしにもよくわかりますわ。蔑ろにしてはいけませんよ、お二方」
震えるドモンとDは小声でやり取りする。
(おい、ドモン。なんだあれは! 我の本能が告げているぞ。あれには逆らってはならんと)
(ああ……。理屈じゃない。あの迫力はもはや理屈じゃない……)
「そうか……。この世界でも女は強いんだな…」
ドモンは遠い目をしながらそんな言葉を紡いだ。
「あんだけ強いのに、女性には弱いんだなあ。二人とも」
ダコスタは、きょとんとしながら人智を越えた強さの二人を観察する。
向かい側ではラクスが、にこやかにミーアに告げていた。
「ミーアさん」
「は、はい」
「まずは第一歩ですわね」
「ラ、ラクスさまっ……」
「がんばってくださいまし」
赤面するミーアにラクスは小さな両の拳を頬の横に持ってきて応援した。
「……ぁ……、…………はい……。ありがとうございます、ラクスさま」
「では、お昼からは買い物に出かけましょう」
にこやかに大胆に、ラクス・クラインはそう言った。
「まじですか!」
とはダコスタの談だ。これにラクスは小首を傾げて訊いてくる。
「ーーいけないのですか?」
「いやっ! さすがに……敵地のど真ん中で買い物ってのはどうなのかと……」
ダコスタの言葉にミーアが眉根を寄せる。
「敵地って…?」
「それでしたら問題ありませんわよね、Dさん?」
その言葉を遮るようにラクスが言葉を発した。
その言葉に気を取り直して食事を始めている同じ顔の2人の青年のうち、赤い髪の方が向き直った。
「あざとい女だ。よかろう、我から奴らに伝えておいてやる」
「奴らって……」
ダコスタは訳が分からんとばかりに眉を上げながら問いかけると、Dが何を当たり前の事をとばかりに答えた。
「デュランダルの奴に決まっているだろう」
「Dさんって、デュランダル議長と対等なんですかっ!?」
仰天するダコスタはテーブルを叩いて立ち上がる。
「奴は俺の小間使いだ」
これにえへんと胸をはって答えるDにミーアが彼の横に行くと指差して告げた。
「Dったら! 嘘ばかり吐いちゃダメでしょ! 議長がプラントでは一番えらいんだから!」
「それは貴様等コーディネーターとやらの話だ。我には関係ない」
ミーアの声にも意に介さず告げるDにラクスが笑いかける。
「Dさんは嘘を吐かない方ですものね」
「当然だ。嘘など弱き者が吐くものよ」
ラクスの言葉にDは更に胸を張った。
「頼りになりますわ」
「フッ、話の分かる女よ」
手を叩いて喜ぶラクスにDもにやりと笑う。これを遠目に見るのはドモンとダコスタだった。
「なぜか急に仲良くなったな……」
「猛獣使いのスキルでもあるんですかね? ラクスさま」
「ああ……。かもな……」
ふとドモンは自分の妻のことを思い出した。
「レインか……」
「え? どうしたんですか、ドモンさん? そんなこの世の終わりみたいな顔をして」
「いや。考えすぎだと信じたい」
深刻な表情になりながらつげるドモン。これにダコスタは今の現状を思い返す。
「はあ……。ーーっていうか敵地のど真ん中で買い物とか、大丈夫なんだろうか……」
「男はどっしりと構えるもんだぞ、ダコスタ」
「どうにでもなりやがれ……っ!」
深刻な顔をしているドモンとテーブルに突っ伏したダコスタはそのような会話をしながら食事を続けるのだった。
ーーーー
一方、プラントのギルバート・デュランダル議長室にて。
薄暗がりの部屋の中。
ギルバート・デュランダルは苛立っていた。デビルズサンクチュアリを仕掛けたのは、あくまでDG細胞の制御の仕方を探り、学ぶためだ。勝敗は二の次でよかった。
だが、ふたを開けてみればキョウジ・カッシュはジェネレーター用のコードを作るだけにとどまり、ほとんどDG細胞を使わなかったのだ。
(こちらの狙いを正確に把握したうえで、ことごとく上を行かれたと……! 初めてだよ……。この私にここまでの屈辱を与えた男は!
あえて同じ土俵で、私と同じやり方で、格が違うと言いたいか)
キラ・ヤマトならば自分の上を行ったとしても許せよう。彼は自分とは違うのだから。
ドモン・カッシュと戦ったときもそうだった。
あきらかに自分とは違う存在だ。
だがキョウジ・カッシュ。
彼は自分に似た存在。いわゆる同じ種類の人間だ。他人の心を理解し、誘導するための言葉を吐く。
認められなかった。違う存在が自分より上というのは、まだ許せる。
だが、同じ種類の人間が自分を操る。このギルバート・デュランダルより上だと示すのは、許せない。
このとき秘書、サラは戸惑っていた。あれほど怒ったデュランダルを見るのは初めてだったのだ。
考えてみれば、デュランダルが怒ったところなど彼女の記憶には皆無だった。議長はいつも正しい言葉を吐き、人の心を理解し、平和のために心を砕かれ、戦争を悲しんでおられた。
その議長が、たったひとりの人間を相手に憎悪の感情を向けるなんて。
サラは今、自分が見たものすら信じきれずにいた。
そのときだ。
この場にいたもうひとりが声をかけた。
「デュランダル議長。デビルガンダムさまがラクス・クラインを連れて買い物に出かけるそうです」
「それはミーア・キャンベルも一緒に、ということですか?」
「そうだ」
サトーの言葉にサラが内心歯ぎしりする。
(あの役たたずめ! なんのために自分がラクス・クラインとともにあるのか、わかっていない。彼女が本物だと言い出せば、あなたなどもういらない存在だというのに)
まあいい、と気を取り直しサラはデュランダルに進言した。
「議長。今こそ仕掛けるべきときかと」
これにデュランダルは目を丸くした後、本心の読めないいつもの柔らかい笑みを浮かべた。
「仕掛ける? キング・オブ・ハートがいるまえで仕掛けたところで勝ち目などあろうはずもない」
これにサラが背筋を伸ばして意見する。
「不意打ちはどうでしょう。あのDという男にドモン・カッシュを足止めさせ、護衛はあのダコスタという軍人一人。ラクス・クラインを暗殺することなど容易いと思いますが」
「勝算はあるのかね、サラ?」
「お任せいただければーー」
自信ありげなサラにデュランダルは一つ微笑むと、サトーに顔を向けた。
「わかった。よろしく頼む。サトー、すまないがサラのサポートを頼めないか?」
「デビルガンダム様に報告せずともよいのですか?」
当のサトーは表情を変えずにそれだけを端的に問いかける。
「Dはこういう騙し討ちを嫌うんだ。だが彼もわかってくれるさ」
「…………」
「それよりも私は地球のアークエンジェルを排除しようと思う」
デュランダル(政治家)の言葉をわずかに瞳を細めながら聞くサトー(軍人)。
その二人に割って入るのはサラだった。
「危険です。相手はあのキョウジ・カッシュでは?
しかも、ミネルバにはオーブからの客人であるシュバルツ・ブルーダーとアスラン・ザラが…」
「わかっているよ。彼らが戦力から抜けるのは非常に惜しい。だがーー大事のまえの小事だ。タリアに直接回線でメールを送っておこう。かまわないかね、サラ?」
かすかに唇をかみしめたあと、サラは平静を装ってこう答えた。
「わかりました」
「頼むよ。もしタリアから疑問の声が上がったら、直接私に繋いでくれ。説明する」
「なにもデュランダルさまがそこまでーー。プラント本国が決めたことです。ならば、ザフトのいち艦長が疑問を挟めることなどありません」
「立場的にはそうなのだがね。彼女は納得しない。頼むよ」
苦笑しながら告げるデュランダル。
「…………わかりました」
暗い目をしてサラはそう答えた。
その数分後、サラからタリア宛に直接メールが送られる。
ただし、タリアからのコードには一切の返答をせず。
デュランダルにその事を伝えもしなかった。
ーーオーブ専用シャトル内にて
キョウジとカガリは堂々とプラントの空港からシャトルに移った。
「おかえりなさいませ、カガリ様。キョウジ殿」
シャトルの責任者ーーキクチの迎えにカガリはホッとしたように微笑んだ。
「ああ。無事でよかった。すまなかったな、お前たち」
「カガリ様とキョウジ殿を信じておりましたから」
ねぎらいの言葉をかけるカガリにキクチ達三名は、首を横に振る。
そしてキョウジに向き直ると、一つの書類を取り出した。
「キョウジ殿、貴方から送られてきたデータを言われた通り書類にしておきました。もちろん記録媒体にも保存しております」
「ありがとうございます、キクチさん」
キョウジは穏やかで温かな笑みを浮かべると紙を受け取る。
「? キョウジ、あの場面で一体何を送っていたんだ?」
「復元させたデュランダル議長のパソコンのデータをコピー。そのあと、オーブのシャトルに亜空間回路でコピーデータを送ったんだ」
「な!? なんだってぇえええええ!!?」
こともなげに告げるキョウジにカガリが絶叫した。
「当たり前だろ? せっかく復元させたデータをそのままにするわけないじゃないか。セイラン家だけじゃない、オーブやブルーコスモス、ロゴスの財布も見れるかも知れないんだぜ?」
眉を上げて言いながら、続ける。
「もっとも、カガリが議長のお遊びに乗ってくれたからコピーしたデータを送ることができたんだけどね」
「…お前、議長の動きを覚えるために私に戦わせたんじゃなかったのか?」
「ゲームの勝敗なんてものは2の次だよ。確実に相手の喉笛を掻っ切る武器を手に入れたんだ、簡単に手放す気はない。わざわざデビルの力を解放してまで主導権を握らせてやったんだからな」
「ーー!? あれも、演技なのか……!!」
驚愕するカガリをキョウジは微笑まし気に見据える。
「カガリは本当に真っ直ぐだな」
「……褒められてるように聞こえない」
「そうか? 政治家としてはどうか知らないが。俺は、カガリのような人が好きだけどな」
裏表ない笑顔。
先ほどデュランダルたちにしていた笑みとはまるで違う。
温かみのある声。
カガリは、微かに赤くなった頬を隠すように言った。
「これから! 忙しくなるんだからな!! さぼるなよ、キョウジ!!」
「ーーはいはい」
「はいは一回だ!」
「は~い」
二人を乗せたシャトルは、オーブ本国に帰還していった。
ーーーー
昨夜のパーティを終えた後、東方不敗マスターアジアはいずこかへと去っていこうとしていた。
これを見送るのは、ミネルバとアークエンジェル隊の者たちだ。
「ーーフッ、いつの間にかワシもこの世界でこれだけの者とつながっておったか」
「師匠、どうかお元気で! またどこかの戦場でお会いできることを楽しみにしています」
「スティングよ、貴様らに預けておきたいものがある」
「は?」
言うとマスターアジアは自身の袖口から三つの球を取り出した。
空を思わせる青い球、森を思わせる緑の球、宝玉を思わせる桃の球。
それぞれをアウル、スティング、ステラに渡す。
「し、師匠ーー! これって!!」
「俺たちに…師匠のガンダムを!?」
「ほ、ホントにいいの? ステラ達、まだーー」
戸惑う三人にマスターアジアは言った。
「馬鹿者。貴様らが未熟千万なことくらい、このワシにはお見通しよ」
言われてうつむく弟子達に師は強く言った。
「だが、未熟ゆえに貴様らは強くもなれよう。この先、ウォン達の攻勢は勢いを増すばかりであろう。それだけではない、貴様らはこの世界に巣くう悪意とも戦わねばならん。ワシからの餞別だ、見事使いこなしてみせよ!」
「ーー師匠」
「ワシはただ甘いだけの師匠ではない。そのガンダム達は貴様らの思う通りに動いてはくれる。しかし場合によっては、この世界のMSと大差ない性能にまで落ち込む可能性もある」
あの超人的な動きはあくまでマスターアジアが操ったからこそ、だと彼は言った。
「そやつらを真に使いこなすことができなければ、この戦いを勝ち抜くことなど夢のまた夢と知れ!!」
「「「はい、師匠!!」」」
「ーー良い返事だ」
マスターは目元を和らげると、その優しい表情のままに三人の弟子の後ろに並び立つ面々を見据えた。
「ネオよ、アークエンジェルよ。そしてシュバルツにキラ・ヤマトよ。我が弟子たちを頼んだぞ」
その言葉に皆がコクリと頷いた。
こうして東方不敗マスターアジアは、ベルリンを旅立った。
一方、こちらはミネルバのMS格納庫での一幕だった。
整備員の一人が悲鳴を上げていた。その横には赤服の隊長アスランが頬を引きつらせながら悲鳴を聞いている。
「なんですか!? なんなんですか、この扱い方は!!?」
「す、すまん…、ヨウラン」
「すまんじゃないですよ! どうやれば、セイバーの関節部をここまで摩耗できるんですか!? シン達のMSも酷いけど、貴方のは出撃できないほどですよ!!」
「……いや、それぐらいの動きでなければ落とされていたんだ。セイバーは決して悪い機体ではないが、ジャスティスに比べるとなーー」
「核分裂炉積んでるような化け物MSと一緒にしないでくださいよ!! それにセイバーは射撃主体なんです、格闘機みたいな扱い方したら、そりゃ関節もガタガタになりますよ!!」
「直せない、か……?」
弱り声でそう聞くアスランにまるで睨みつけるかのようにヨウランは言った。
「無理ですよ!! ばらしてみないと分かんないけど、フレームそのものがイカれてるかもしれないんですから!! 下手すりゃ空中分解ものですよ、今のセイバーは!!」
「……参ったな。次の出撃はザクかゲイツにでも」
「ゲイツRしかないですよ、予備パイロットの面々のMSが三機ありましたから」
「ゲイツか。よし、さっそく俺用に調整させてもらえないか?」
「いくら調整しても、パイロットがこんな無茶するんじゃ一緒ですよ。量産機なんですから、ゲイツは」
「……次からは気を付けるよ」
アスランの言葉にヨウランは胡散臭げに彼を見ていた。
「レイやルナだって、量産機をカスタムしたザクで出撃してるのに摩耗は修理できる程度なんですよ? 隊長なんすからもっと何とかできないんすか?」
「あれだけの動きをしてザクのフレームに摩耗がない?」
「ギリギリで修理できる程度にはなってますよ」
目を大きく見開いてアスランはレイ機とルナマリア機のザクを見上げた。
「明鏡止水、なんて便利な能力なんだ」
「この際、隊長もシュバルツさんに教わったらいかがですか?」
嫌味を込めたヨウランの言葉に真剣な表情でああと返すアスラン。その時だった
「よう、ザフトの坊主!」
「マードック曹長!!」
現れたのは、コジロー・マードック曹長だ。
彼はアークエンジェルのクルーをしており、凄腕のMS整備屋でもある。
「どうしてミネルバのMS格納庫に!? 一応、他軍の格納庫なんですからーー!!」
「実は、お前さんところの艦長にうちの艦長が頼まれてな。セイバーっつったか? 直せないかどうか見てほしいってよ」
「タリア艦長が!?」
そういうとマードックは首からぶら下げていた許可証を見せる。
「正直、いつ敵になるか分からんザフト軍のMSを直すのは気が引けるんだが。坊主のためだしな」
「す、すみません。ほんとに」
「かまわねえよ、准将になった坊主の指示なんだろ? それぐらいは聞いてる」
フェイスかつオーブ少佐の地位を持つアスランが、マードック曹長の前には形無しだった。
突然、現れた他国の技術者にヨウランはあまり良い顔をしなかったが、それでも艦長の許可証があるのを確認した以上、きちんと説明した。
「ーーっという状況です」
「ひでぇな、こいつは。一から新品作った方がマシじゃないか?」
「そうなんですよ。どうやったら、ここまで次世代機をボロボロにできるのか…!!」
「まあ、そう言うな。坊主の腕にMSがついてこれないんだろってことは、その分を補ってやるのが俺達整備屋の見せ所じゃないか」
「……なんか、うちの班長に似てますね。あなた」
技術屋同士で気が合うのか、二人はすぐに打ち解けた。
(ナチュラルとコーディネーター、か。そんなものは、やはり些細なことなんだろうな)
アスランは静かに二人のやり取りを見ていた。
ーーーー
一方でタリア・グラディスは艦長室から不機嫌を絵に描いたような表情で出てきた。
「どうされたんですか、艦長?」
外で待機していた副長のアーサーが気を使って声をかけてくる。
「どうもこうもないわ。議長ーーというか、上は何を考えてるのかしらね」
言いながら、レポート用紙をアーサーに渡す。
「え? エンジェルダウン作戦?」
その記載内容を読んだアーサーの顔が驚愕に変わった。
「ロゴスの手先となったアークエンジェルを落とせ、ですって? 理由はカオスガンダムの所持とセイラン家とロゴスの金回りの癒着だそうだけれど」
「あ、アークエンジェルは、我々をーー!」
「そうよ、救ってくれたわね? わざわざ! こんな! 敵地のど真ん中にまで来て!!」
怒りをあらわにして、タリアは壁を殴りつけた。
「カオスガンダムの介入? そんな映像データを取る余裕がありながら、援軍の一つも寄越さなかった本国の指示に従って、危険を顧みずに助力してくれたアークエンジェルを撃て、ですって? ふざけるのも大概にしてほしいわね…!!」
更に拳を振りかぶるタリアにアーサーはうろたえながら問いかける。
「か、艦長! 説明の方はーー?」
「したけれど、返事がない!! おまけに通信も一切拒絶されている!! 軍人は上の言うことを聞け、命令に従う義務がある、の一点張り!!」
「そ、そんなーー!!」
「ほんとに、ふざけるんじゃないわよっ!!」
パシィッ
怒鳴りつけながら壁に拳を叩きつけようとした時、横から伸びてきた白い手袋を付けた逞しい掌に止められていた。
「荒れているな。どうした、艦長?」
「貴方はいつも、唐突に現れるのね。シュバルツ・ブルーダー殿」
表情を和らげながらタリアは諦めたように声を落とした。
シュバルツの後ろにマリューがいたのだ。
「…出発の挨拶をしたい、とマリューさんーーラミアス艦長が言ったので貴女に会わせに来たのだが、な」
「お取り込み中に、申し訳ありませんでした」
マリューが深刻な表情になりながら、頭を下げた。
「……マリューさん、ね? シュバルツ殿」
「な、何か?」
タリアの眉が引きつり、シュバルツが覆面の奥で表情を引きつらせている。
「いいえ。そんなことより、話を聞いていたのでしょ?」
タリアがシュバルツとマリューに向けて告げると、シュバルツは表情を真剣なものにマリューはしばらく黙った後に、微笑みを浮かべた。
「聞こえていません。少なくとも、私には」
マリューの言葉にタリアは眦を吊り上げて言った。
「なら、はっきり言うわ。貴女達を落とせ、という命令が本国から下った」
「グラディス艦長ーー!」
隣のアーサーがそれはまずいとばかりに止めるも、もう遅かった。
「仕方ないでしょうね。カオスガンダムが強奪された経緯を考えれば」
「仕方ない、ですってーー? 貴女達は、命がけで助けに来てくれたのよ!? その貴女達を撃つことが、仕方ないことなの!?」
タリアは冷静な艦長としての自分ではないことを自覚していた。
していたが、どうにもならない。
「私が息子に生きて連絡できたのも。シン達が仲良く笑っていられるのも。貴女達が来てくれたおかげだというのにーー!」
「グラディス艦長、ありがとうございます。けれど、軍に所属する以上は命令に服従するのもやむなし、です」
「ラミアス艦長ーー! 私が軍の命令に背かなければ、貴女達はここで拘束されるのよ? そんな理不尽なことがまかり通るのよ!?」
ならば、どうしろというのか?
この場は、マリュー達を見逃すのか?
それを行っても、自分ひとりの責任で何とかできる。一方的な命令には従えない、きちんと説明しろと言えばこの場はしのげる。
問題は次だ。
この場は逃がせても、いずれはアークエンジェルを追い詰め落とさなければならない。
場凌ぎにしかならない判断では、とタリアは唇をかみしめる。
「ねぇ、ラミアス艦長。どうすればいいかしら?」
「ーーえ?」
「この場だけなら、貴女方を逃がせる」
壁にもたれかかり、気だるげな声でタリアは言った。
「艦長!! それでは艦長に責任がーー!! せめて私の判断にしてください!! そうすれば、艦長が責任を負うことなど!!」
アーサーが思わず叫ぶと、彼女は苦笑して言った。
「副長一人の判断で勝手に逃がしたなら、独房入りも免れない。下手をすれば国家反逆もの。その点、私はフェイスで、しかも隊を預かる艦長だもの。私の方が危険はない」
「ですがーー!!」
「それに、この案は一時しのぎにしかならない。解決案がないのよ」
ため息をつくタリアにアーサーが苦しそうな表情でマリューを見た。
「申し訳ない。貴女方の誠意を我々が裏切るようなーー!」
「いいえ。これも政治が関わっていることなのでしょうね」
マリューも柔らかで寂しげな表情で答える。その時だった。
「ならばーーここは私に任せもらおう」
シュバルツ・ブルーダーが手を上げた。タリアが思わず食いつく。
「この状況を打破する方法があるの?」
「ああ、一つある。しかしその為には、アークエンジェル隊とミネルバ隊の協力が必要だ」
これにマリューが問いかけた。
「どうすれば、いいの?」
皆が注目する中、シュバルツはこともなげに言った。
「アークエンジェルを落とせばよい」
みなさん、お待ちかね~!!
エンジェルダウン作戦に対抗するため、シュバルツはミネルバとアークエンジェルに協力する策を与えます。
一方で、シュバルツの作戦を聞いたレイがプラントに報告を行うのです。
次回!
機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第56話に!!
レディー、ゴー!!